1 - 東北大学大学院法学研究科・法学部

2012年度法情報学講義
第9回 電子商取引の法律問題①
(契約の成立、消費者保護、暗号)
2012年6月6日(水)
東北大学法学研究科 金谷吉成
<[email protected]>
2012年度法情報学講義
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2012年6月6日
はじめに
 インターネットのビジネス利用
– 市場規模の拡大
– 2000年代前半までに、市場は急速に拡大した
2006年
2007年
2008年
2009年
2010年
BtoB(企業間
電子商取引)
148兆円
162兆円
159兆円
131兆円
169兆円
BtoC(消費者
向け電子商取引)
4.4兆円
(28.6%減)
5.3兆円
6.1兆円
6.7兆円
7.8兆円
(16.3%増)
出典:経産省「平成22年度我が国情報経済社会における基盤整備」(電子商取引に関する市場調査)
http://www.meti.go.jp/policy/it_policy/statistics/outlook/ie_outlook.htm
 しかし、一方で、電子商取引とは何かを正面から
定義する法律は存在しない。
2012年6月6日
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2012年度法情報学講義
インターネットビジネスの課題
1. ビジネスにおいて、インターネットは具体的にどの
ように利用可能か?
– ウェブによる仮想店舗、売買契約、決済
2. 通信その他の安全性をどのように保証するか?
– 当事者の本人性、文書の真正性、通信経路の安全性、
決済手段や方法の安全性と確実性
– 公開鍵暗号の発明
3. こうした新しい形態の契約プロセスにどのような法
的効果を帰属させるか?
– ウェブページ上のボタンをクリックすることは契約の申
込みなのか承諾なのか
– 誤ってクリックした場合それは錯誤となるのか
– ウェブページ上の商品説明等は通信販売において交
付すべき書面に該当するかどうか
2012年6月6日
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2012年度法情報学講義
電子商取引に関係する法律
 契約の成立
 本人性の確認
– 民法、商法
– 電子消費者契約及び電子承
諾通知に関する民法の特例に
関する法律
– 経済産業省「電子商取引及び
情報財取引等に関する準則」
– 電子署名及び認証業務に関
する法律
– 民事訴訟法
– 商業登記法
 電子決済
– 割賦販売法
– 貸金業法
 消費者保護
–
–
–
–
–
消費者基本法
消費者契約法
特定商取引に関する法律
割賦販売法
特定電子メールの送信の適正
化等に関する法律
– 不当景品類及び不当表示防
止法
2012年6月6日
 国際電子商取引
– 法の適用に関する通則法
– 民事訴訟法
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2012年度法情報学講義
電子商取引の種類
取引主体による分類
– 企業間取引(Business to Business)
EDI(Electronic Data Interchange:電子データ交換)
と呼ばれる仕組みによって、大手の企業間では独
自の方式で実用化が進んでいる
– 企業消費者間取引(Business to Consumer)
電子商取引の中でももっとも重要な分野
– 消費者間取引(Consumer to Consumer)
ネットオークションなど
詐欺などのトラブルが起こりやすい
2012年6月6日
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2012年度法情報学講義
IT革命からITバブルの崩壊へ
 IT革命
– 生産性の著しい向上
– 「農業革命、産業革命に次ぐ第三の革命」
「第三次産業革命」
– 卸や小売などの仲介的な流通業や企業内部の中間管
理職を不要にするといわれた(いわゆる「中抜き」)
 ITバブルの崩壊
– 実際には「中抜き」は起こっていない
– ITがもたらしたものは、「中抜き」ではなく産業構造や
企業構造の「再編」
– 経済のIT化はいまも進行しており、ITは円熟期に入っ
たといえるのではないか
2012年6月6日
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2012年度法情報学講義
企業消費者間取引の簡単なモデル
消費者はブラウザで
販売店のページにアクセス
ネット上にサイトを開設する
独自ドメイン http://www.amazon.co.jp/
検索等をしながら、
気に入った商品をカートに入れる
商品に関する情報はデータベースに登録
データベースは絶えず最新のものに更新
必要事項を記入して
「注文する」ボタンをクリック
ページには、販売店のロゴや事業紹介
売れ筋商品の紹介が記載されており、
購入方法説明、プライバシー・ポリシー
へのリンクが張ってある
2012年6月6日
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注文が確定すると
販売店から注文確認メールが届き、
数日すると、注文した品が宅配便で
送られてくる。
2012年度法情報学講義
企業消費者間取引の法律関係
 取引内容は売買契約
– 民法、商法
– 特定商取引に関する法律(特定商取引法)の「通信販売」に
該当(2条2項)
– 消費者契約法の「消費者契約」に該当(2条3項)
– 民法の「隔地者間の契約」に該当(97条、526条、527条)
 電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関す
る法律(民法特例法)
– 決済にクレジットカードが用いられているので、消費者、販
売業者、クレジットカード会社の間には割賦販売法上の契
約関係
– 経済産業省「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」
(法的拘束力を当然に持つものではないが、解釈上参照さ
れるべきである)
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2012年度法情報学講義
契約の成立(申込みと承諾)①
「クリックオン契約」の契約成立時期は?
– ただし、契約の成立や内容については、原則と
して当事者の合意に委ねられる(私的自治の
原則)
– 通常は事業者の約款の規定による(消費者に
過度に不利な条項は無効となりうる)
2012年6月6日
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2012年度法情報学講義
契約の成立(申込みと承諾)②
 申込み
– 販売店がウェブサイトを開設しているのを申込みとみ
なす場合:
 消費者が「注文する」のボタンをクリックすることが申込みに
対する承諾となる
 その時点で、販売店には商品引渡義務が、消費者には代金
支払い義務が発生する
 しかし、販売店の在庫切れやクレジット会社の支払い承認が
得られないなどの事故があった場合、ただちに債務不履行に
よる損害賠償義務が発生することになり不合理
– 消費者が「注文する」のボタンをクリックすることを申込
みとみなす場合:
 ウェブサイトの開設は「申込みの誘引」とみなされる
2012年6月6日
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2012年度法情報学講義
契約の成立(申込みと承諾)③
 承諾
– 注文を受け付けた旨がウェブページに表示された時点
– 販売店から注文の確認の電子メールが発信された時点
– 注文の確認の電子メールが消費者によって受信された
時点
 多くの場合、「注文する」ボタンをクリックすると、自動的に在庫
確認、クレジット会社への照会が行われるので、ウェブページ
への表示をもって承諾の意思表示とみなすことも可能
 しかし、一般的には、電子メールで承諾の通知がなされており、
この通知によって契約が成立するとみるのが適切であろう
2012年6月6日
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2012年度法情報学講義
隔地者間取引における民法の原則と例外
 隔地者に対する意思表示の効力発生時期
– 到達主義(民法97条1項)
 隔地者間の契約成立時期の特則
– 発信主義(民法526条1項・527条)
– 承諾通知の到達に時間がかかることを考慮した規定
 取引の安全
– しかし、電子メール等による承諾の通知はきわめて短
時間で到着するため、この考慮の必要性は低い。そこ
で、民法特例法4条は、この通知が電子メール等によ
りなされる場合には、民法のこの規定を適用しないと
規定した(電子メール等による承諾通知については、
原則である到達主義をとった)
2012年6月6日
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2012年度法情報学講義
特定商取引法における承諾の規定
 特定商取引法
– 代金先払いを伴う契約の場合には、事業者は承諾等
を通知しなければならない(13条1項本文)
– この通知は、消費者が承諾している場合には、電子
メール等の方法ですることができる(13条2項)
– 上記の場合でも、代金の全部又は一部を受領した後
遅滞なく商品の送付等を行ったときは、承諾通知をし
なくてもよい(13条1項但し書)
– 代金先払いでない場合には、事業者に承諾通知義務
はないため、契約の成立時期が問題になる可能性が
あるが、このような場合は商品の発送をもって承諾に
代えると解されよう
2012年6月6日
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2012年度法情報学講義
錯誤
 クリックオン契約における錯誤
– クリックすることが申込みや承諾の意思表示となる
 錯誤が生じやすい
– 間違ってクリックしてしまった
– 個数を誤って入力、チケット等の日付の間違い、1泊2
日のつもりが2泊3日としてしまったなど
 民法95条の原則
– 法律行為の要素に錯誤があったときは、その意思表
示は無効
– ただし、表意者に重大な過失があったときには無効を
主張できない
 民法特例法3条による特例
– 一定の条件のもとにこの民法95条但し書を適用しない
 電子契約では誤操作が起こりやすいため
2012年6月6日
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2012年度法情報学講義
民法特例法3条による特例
 以下のいずれかの場合、消費者は、たとえ重過
失があったとしても無効を主張することができる
– 消費者に申込み又は承諾の意思表示を行う意思がな
かったとき
– 消費者が申込み又は承諾の意思表示と異なる内容の
意思表示を行う意思があったとき
 これは消費者を保護する目的による規定だが、
逆にこのままでは事業者にとって過度に不安定
なことにもなりうるため、さらに但し書が付加され
ている(特例のさらに例外)
2012年6月6日
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2012年度法情報学講義
民法特例法3条による特例の例外
 事業者が、消費者の申込み又は承諾の意思表
示に際して、以下の措置を講じた場合は、消費者
に重過失があれば、消費者は無効を主張できな
い
– 電磁的方法によりその映像面を介して、その消費者の
申込み若しくはその承諾の意思表示を行う意思の有
無について確認を求める措置を講じた場合
 消費者が「注文する」ボタンをクリックした後に表示される画面
で再度契約内容を表示し、「確定する」「取り消す」「やり直す」
などのボタンを設けて、消費者に確認するなど
– その消費者から当該事業者に対して当該措置を講ず
る必要がない旨の意思の表明があった場合
 消費者が会員制の電子店舗の会員となっている場合で、意
思表示について確認を求める措置を特に講じない旨を規約で
規定し、消費者が承諾しているなど
2012年6月6日
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2012年度法情報学講義
なりすまし
 なりすまされた本人と販売店との法律関係はどうなるか?
– 他人によって勝手に名前やID等を使用されて、オンラインショップと
契約をする
– 本人確認について事前の合意がない場合(単体取引)
 なりすましによる意思表示は原則として本人には帰属しない
 本人と販売店との間の売買契約は不成立
 しかし、表見代理(民法109条、110条、112条)によって、本人に効果が
生じる可能性もある
– 本人と誤認する外観
– 誤認について販売店が善意無過失
– 誤認について本人に何らかの帰責事由がある
– 本人確認について事前の合意がある場合(継続取引)
 継続的な契約関係で、IDやパスワードが発行されているような場合
 原則として本人に効果が帰属し、契約は成立
 販売店側のシステムに重大なセキュリティ問題がある場合などは、事
前合意の効果が制限されることもありうる
2012年6月6日
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2012年度法情報学講義
消費者が未成年者の場合
 電子消費者契約の消費者が未成年者である場
合について、特別な法律規定は存在しない
– 未成年者の法律行為は保護者の同意がない場合に
は取消し可能である(民法5条)
– ただし、未成年者が成年であると信じさせるため詐術
を用いたときは、取り消すことができない(民法21条)
 ここで新しい問題が生じる
– インターネットを利用する未成年者は増加
– ネット上では相手の顔が見えないため、事業者にとっ
ては、相手が未成年者でないことを確実に確認するこ
とができない
 ウェブ画面で消費者の年齢確認を行う措置を講じている場合
で、未成年者が故意に虚偽の年齢を通知したときは、未成年
者は取消権を喪失すると解される(民法21条)
2012年6月6日
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2012年度法情報学講義
電子商取引と消費者保護
 事業者と消費者との間の商取引では、消費者が
不利な立場に立つことも少なくない
– 誇大広告、虚偽説明
– 迷惑メール
– 契約内容が事業者の取引約款に規定されており、消
費者はそれを受け入れるかもしくは契約しないかのい
ずれかの選択しかできない(附合契約)
– 場合によっては消費者に過度に不利な内容になって
いることもある
 消費者保護の法制度
– 消費者基本法、消費者契約法、特定商取引法、割賦
販売法など
– 錯誤に関する民法特例法3条の規定も電子商取引に
おける消費者保護を図るものといえる
2012年6月6日
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2012年度法情報学講義
広告の規制
 電子商取引における広告
– ウェブ上に掲載する
– 電子メールや通常のダイレクトメールを発送する
– 広告への表示義務(特定商取引法11条)
 商品若しくは権利の販売価格又は役務の対価や送料
 商品若しくは権利の代金又は役務の対価の支払の時期及び方法
 商品の引渡時期若しくは権利の移転時期又は役務の提供時期
 商品若しくは指定権利の売買契約の申込みの撤回又は売買契約の
解除に関する事項(クーリングオフできないなどの特約を含む)
– 平成20年の特定商取引法改正で、通信販売にもクーリングオフが導入(15条の2)
 その他、経済産業省令で定める事項
– 誇大広告の禁止(特定商取引法12条)
 当該商品の性能又は当該権利若しくは当該役務の内容、当該商品
若しくは当該権利の売買契約の申込みの撤回又は売買契約の解除
に関する事項その他の経済産業省令で定める事項について、著しく
事実に相違する表示をし、又は実際のものよりも著しく優良であり、
若しくは有利であると人を誤認させるような表示をしてはならない。
 この他、不当景品類及び不当表示防止法4条など
2012年6月6日
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2012年度法情報学講義
電子メールによる広告
 オプトイン規制(平成20年改正)
– 事業者は、一定の条件による場合を除いて、消費者の
承諾を得ないで通信販売電子メール広告をしてはなら
ない(特定商取引法12条の3・1項)
– 消費者が通信販売電子メールの提供を受けることを
希望しない旨の意思表示をなした場合は、以後、通信
販売電子メール広告をしてはならない(2項)。また、広
告にその方法を表示しなければならない(4項)
– 通信販売電子メール広告受託事業者についても同様
(特定商取引法12条の4)
– cf. 特定電子メールの送信の適正化に関する法律
2012年6月6日
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2012年度法情報学講義
勧誘の規制
 事業者による契約の勧誘において消費者の誤認や困惑を惹き起こ
す行為があった場合には、消費者は申込みや承諾の意思表示を取
り消すことができる(消費者契約法4条)
– 事業者が重要事項について事実と異なることを告げ、消費者が当該の
告げられた内容が事実であると誤認した場合(1項1号)
– 事業者が物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるもの
に関し、将来におけるその価額、将来において当該消費者が受け取るべ
き金額その他の将来における変動が不確実な事項につき断定的判断を
提供し、消費者がこの提供された断定的判断の内容が確実であると誤
認した場合(1項2号)
– 事業者がある重要事項又はそれに関連する事項について消費者の利益
となる旨を告げ、かつ、当該の重要事項について消費者の不利益となる
事実を故意に告げなかったことにより、当該の消費者がその不利益とな
る事実が存在しないと誤認した場合(2項)
– 事業者に対し、消費者がその住居又は業務を行っている場所から退去
すべき旨の意思表示をしたにもかかわらず、事業者がそれらの場所から
退去せず、消費者が困惑した場合(3項1号)
– 事業者が勧誘をしている場所から消費者が退去する旨の意思表示をし
たにもかかわらず、その場所から消費者を退去させず、消費者が困惑し
た場合(3項2号)
2012年6月6日
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2012年度法情報学講義
約款の規制
 取引約款
– 事業者を免責する条項、損害賠償額についての特約を定める条
項などを規制
– 消費者契約法は、これらの条項で消費者に特に不利益と考えら
れる条項を無効としている
 事業者の債務不履行や不法行為により消費者に生じた損害を賠償
する責任の全部を免除する条項、事業者の故意若しくは重過失によ
り消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除する条項は無
効(8条)
 消費者が解約した場合の損害賠償額や違約金額に関する条項でそ
の額が一定の計算額を超える場合には、その条項のその部分は無
効(9条)
 その他、民法や商法などの任意規定の適用による場合に比して、消
費者に一方的に不利な条項は無効(10条)
– 紛争が生じた場合の裁判管轄に関する合意については、平成16
年の民訴法改正によって電磁的記録(電子メールやウェブサイト)
によるものも認められるようになった(民訴法11条3項)
– 約款をウェブ画面で提示する場合には、消費者が申込みのクリッ
クをする前に容易に確認できるように表示されている必要がある
2012年6月6日
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2012年度法情報学講義
取引の安全(暗号と電子認証)
 インターネットはオープンなネットワーク
– 消費者は、ネットショップで購入した商品と個数のほか
に、氏名、配送先、電話番号、電子メールアドレス、ク
レジットカード番号等を入力して「注文する」ボタンをク
リックする
– しかし、これらの情報がインターネットを流れ販売店に
届くまでに、データが盗聴されてしまう危険がある
– また、当事者は直接対面することがないため、販売店
は信用できるのかどうか、消費者は本人であるのかど
うかを確認することが困難
– 「なりすまし」や「しらばくれ」の危険
 暗号技術の発展によって、電子商取引の安全の
確保が可能となった
– 公開鍵暗号を使った情報の秘匿、電子署名など
2012年6月6日
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2012年度法情報学講義
暗号の歴史(1)
古くはシーザー暗号:文字を数文字シフト
– 「IBM」→「HAL」 1文字シフト
換字と転置の組み合わせ
– 換字は頻度分布解析で解読:E,TH,HE,THE
http://www.simonsingh.net/The_Black_Chamber/letterfrequencies.html
– 転置はもとの字が残る:「IBM」→「MIB」
換字
I
B
M
2012年6月6日
ƒ(x)
転置
H
I
M
A
B
I
L
M
B
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2012年度法情報学講義
暗号の歴史(2)
1970年後半まで(公開鍵暗号の出現まで)
– 鍵を秘密にする:秘密鍵暗号→共通鍵暗号
– 第1次、第2次世界大戦までの暗号
– 暗号の歴史≒戦争の歴史
1980年以降(公開鍵暗号出現以降)
– 暗号の利用範囲が多岐に(署名にも)
電子署名→電子商取引
– 共通鍵暗号と公開鍵暗号の長短所を使って併用
鍵の交換を公開鍵で、データ伝送は共通鍵暗号
2012年6月6日
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2012年度法情報学講義
暗号の基礎(まずは用語から)
平文
暗号文
暗号化:平文を暗号文にする y = ƒ(x)
復号化:暗号文を平文に戻す x = ƒ-1(y)
暗号解読:正当でない人(?)が復号する
暗号化鍵 ƒ() と 復号化鍵 ƒ-1()
両方を秘密にすると共通鍵暗号系
片方を公開すると公開鍵暗号系
2012年6月6日
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2012年度法情報学講義
暗号の種類
共通鍵暗号
– 暗号化鍵も復号化鍵も秘密(秘密鍵)
– 1980年前までは、暗号はこれだけ
公開鍵暗号
– 暗号化または復号化鍵を公開する暗号
もう1つの鍵は秘密
– 暗号化鍵を公開:秘匿
– 復号化鍵を公開:電子署名
2012年6月6日
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2012年度法情報学講義
共通鍵暗号
 DES (Data Encryption Standard)
– 1970年代後半からの標準
– パスワードの暗号化にも使われている
– 今では危ないが、強度は方式でカバー
 AES (Advanced Encryption Standard)
– 新しい標準
 一般に暗号化/復号化は速い
 共通鍵暗号の問題
– 発信者と受信者が離れている場合に、暗号鍵をどのよ
うに安全に渡すかという難問が生じる
– また、電子商取引に利用しようとする場合、販売店は
顧客毎に別々の暗号鍵を用意しなければならなくなる
2012年6月6日
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2012年度法情報学講義
公開鍵暗号
暗号解読の難易度を数学的に示す
一方向性関数(逆計算が難しい)を利用
RSA暗号(Rivest, Shamir, Adleman)
– 合成数の素因数分解の難しさが暗号の強度
処理速度は一般的に共通鍵暗号より遅い
秘匿化だけでなく署名(認証)にも使える
2012年6月6日
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2012年度法情報学講義
公開鍵暗号・デジタル署名の基礎
 数学的な難しさ
– 素因数分解:合成数を素因数分解する難しさ
83×97=8051(素数同士の掛け算は簡単)
8051=x×y(その逆の素因数分解は難しい)
実際には「元の素数」は150~300桁以上、「掛けた後の
数」は300~600桁以上
150桁の数字について1秒に1つの数字をチェックできた
として、10150秒=3×10140年必要(ちなみに、宇宙の年
齢137億年=1.37×1010年と比べても途方もない時間)
 一方向性関数
– y= ƒ(x)で、xを与えたときyは簡単に見つかるが、
yが与えられたときxを見つけるのは難しい
– ƒ()が暗号化で、ƒ-1()が復号化
2012年6月6日
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2012年度法情報学講義
暗号の応用
いろいろな応用や考え方に
– SSL (Secure Layer Socket)
– PGP (Pretty Good Privacy)
– Challenge and Response
暗号等の性質を使って
– 共通鍵暗号(処理速度)
– 公開鍵暗号(署名)
2012年6月6日
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2012年度法情報学講義
公開鍵暗号の原理(1)暗号通信
初期化
– Aは公開鍵と秘密鍵のペアを生成して、公開鍵
は公開鍵簿に登録
暗号化
– Bは公開鍵簿からAの公開鍵を入手し、その鍵
で暗号化してAに送る
復号化
– Aは自分だけの秘密鍵で復号化する
– これができるのはAだけ
2012年6月6日
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2012年度法情報学講義
公開鍵暗号の原理(2)電子署名
初期化
– Aは公開鍵と秘密鍵のペアを生成して、公開鍵
は公開鍵簿に登録
署名
– Aは自分の秘密鍵で暗号化してBに送る
復号化
– Bは公開鍵簿からAの公開鍵を見つけ、Aから
送られてきたものをAの公開鍵で復号化する
– このような伝送文を遅れるのはAだけ
2012年6月6日
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2012年度法情報学講義
電子署名の応用:改ざん検出
 ハッシュ関数
– 元のデータから一意的な値を生成する関数
 kanaya → 310daa3a65892e852ef652a8ec96ad46
 kamaya → 1cde63f110cd85744e069cc2c9ae4707
 kaneya → 2ba5c461d3cade1ecd0ed805c1a88b7f
– 異なったデータからは異なった値が生成される
 改ざん検出
– Aは、文書のハッシュ値を自分の秘密鍵で暗号化して
Bに送る
– Bは、受け取った文書のハッシュ値を作成し、Aの公開
鍵で復号化されたハッシュ値と比較する
– ハッシュ値が同一であれば、その文書がAからBに届く
間に改ざんされていないものといえる
2012年6月6日
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2012年度法情報学講義
公開鍵基盤(PKI: Public Key Infrastructure)
 電子署名により、従来の署名ないし押印に等しい機能を
実現できる
– しかし、Aの公開鍵で復号化できる文書は、Aの秘密鍵で暗号化
されたものであるとしても、Aの秘密鍵の所持人がAであることの
証明にはならない
– Aの秘密鍵の所持人がAであることを確認する作業を「認証」とい
い、その作業を行う機関を「認証局」(CA: Certification Agency)と
いう
– Aは自己の公開鍵と氏名や住所その他必要事項を認証局に登録
し、認証局はそれを確認して「公開鍵証明書」を発行する
– 公開鍵証明書は、それ自体が認証局の秘密鍵によって電子署名
されている。認証局の公開鍵は、さらに上位の認証局によって証
明され、証明の連鎖によって本人確認が完了する。
 公開鍵暗号を用いて電子文書等を安全に交換する技術
的な仕組みを、公開鍵基盤(PKI)という
2012年6月6日
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2012年度法情報学講義
電子署名及び認証業務に関する法律
 電子署名法(平成12年制定)
– 電子署名に法的効果を与える
– 電子署名とは、電磁的記録に記録することができる情報について
行われる以下の措置(2条1項)
 本人の作成に係るものであることを示す
 改変が行われていないかどうかを確認する
– 電磁的記録であって情報を表すもの(電子私文書)は、本人によ
る電子署名が行われているときは、真正に成立したものと推定す
る(3条)
 民訴228条4項の「本人又はその代理人の署名又は押印」がある私
文書と同様の法的効果を持つ
– 電子署名は、電子署名を行うために必要な符号及び物件を適正
に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるもの
でなければならない(3条括弧書き)
 このことの証明について、主務省令で定める基準に適合するものに
ついて行われるものを「特定認証業務」という(2条2項・3項)
 特定認証業務を行おうとする者は、主務大臣の認定を受けることが
できる(4条1項)
2012年6月6日
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2012年度法情報学講義
電子商取引における暗号の利用①
SSL(Secure Socket Layer)による通信路
の暗号化
– 暗号化の流れ
販売店は公開鍵と秘密鍵のペアを生成して、公開
鍵は認証局に登録
顧客は認証局から販売店の公開鍵を入手し、その
鍵でクレジットカード番号等を暗号化して販売店に
送る
販売店は自分だけの秘密鍵で復号化する
– SSLによって、顧客は、販売店の信頼性を確保
できるとともに、クレジットカード番号等の個人
情報を安全に販売店に伝えることができる
2012年6月6日
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2012年度法情報学講義
電子商取引における暗号の利用②
 SET(Secure Electronic Transaction)による信頼
性確保
– 販売店やカード会社にとっては、SSLだけでは不十分
 SSLは、顧客にとって販売店の信頼性を保証するものである
が、販売店にとっては、顧客が「なりすまし」でないことを保証
するものではない
 カード会社によっても、SSLでは顧客の署名がなく、顧客の信
用チェックも別の手続きが必要
– 顧客の信頼性についての保証を実現する仕組みとし
てSETが提案されている
 専用のソフトウェアによって、顧客にも公開鍵と秘密鍵を持た
せる仕組み
 しかし、現在のところ、普及には至っていない
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2012年度法情報学講義
電子商取引の法律問題②につづく
次回の内容
– 電子決済
– 電子マネー
– 国際電子商取引
この資料は、2012年度法情報学講義の
ページからダウンロードすることができます。
http://www.law.tohoku.ac.jp/~kanaya/infolaw2012/
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2012年度法情報学講義