2012年度法情報学講義 第11・12回 知的財産法 (著作権法,特許法,商標法,不正競争防止法等) 2012年6月20日(水)・6月27日(水) 東北大学法学研究科 金谷吉成 <[email protected]> 2012年度法情報学講義 1 2012年6月20日 情報財とは 知的財産や無体財産とも呼ばれる 客体は無体物である情報 – 著作物:「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、 学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号) – 発明:「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のも の」(特許法2条1項) – 商標:「文字、図形、記号若しくは立体的形状若しくはこれらの結 合又はこれらと色彩との結合」(商標法2条1項) 無体物であるがゆえに、その保有について競合性や排他 性を持たない – ある情報を保有していることは、当該情報を他人が保有すること によって損なわれるわけではないし、他人による保有も妨げない – 一方、情報は社会の文化を構成する要素であり、情報の一般的 な共有は文化の発展にとって有意義である – よって、法は情報財一般を保護対象とはせず、一定の制約を課し ていると考えることができる 2012年6月20日 2 2012年度法情報学講義 知的財産法による情報財の保護 法的保護による創造へのインセンティブ – 情報財ははじめから豊富にあるわけではない – 新たな情報財の創造は、分野や産業の発展に 不可欠である そのような有意義な創造に対して、一定の法的保 護を与える(利得の機会を保証したり、独占的な利 用を認めたりする)ことで、創造へのインセンティブ を与える そうして創造された情報財は、文化や産業の発展 に寄与する – 情報財をめぐる紛争の解決 2012年6月20日 3 2012年度法情報学講義 情報のデジタル化とネットワーク化 従来は… – 情報財の客体が無体物であるとしても、多くの場合、その情報は さまざまな有体物と結合 著作物 書籍、キャンバス、CD、DVD 発明 装置、商品 – 情報財の複製には、それが結合している特定の媒体等の複製が 必要 デジタル化 – 文字や符号、音声や画像などの情報は、デジタル化され、CDや ハードディスクなどの電磁的記録媒体において複製可能 – 寸分違わぬ複製 ネットワーク化 – 記録媒体を経由せずに移転 – 短時間のうちに大量に複製 2012年6月20日 4 2012年度法情報学講義 情報財の保護のあり方 法的対応と技術的対応 – 法制度の再検討 時間がかかる – 技術的な保護 さまざまな方法が考案され実施されている – コピーガード技術、アクセスコントロール技術 例)コピーコントロールCD(音楽メディア)、マクロヴィ ジョン(アナログ映像)、CSSやリージョンコード(デジ タル映像)、デジタル著作権管理(DRM) 保護方法によっては情報財は従来よりもはるかに 強く保護され、利用者の利益や文化・産業発展とい う社会の利益とのバランスが崩れる危険も 2012年6月20日 5 2012年度法情報学講義 さまざまな知的財産権 著作権(Copyright) 特許権(Patent) 実用新案権(Utility Model) 商標権(Trademark) 意匠権(Industrial Design) 商号(Tradename) 2012年6月20日 半導体集積回路配置 利用権(Integrated Semiconductor Circuits) 営業秘密(Trade Secrets) 種苗(Seedling) ノウハウ(know-hows) のれん(Goodwill) 知的財産のうち法律により保護されて いるものを知的財産権という。 6 2012年度法情報学講義 知的財産法 工業所有権四法 工業所有権法 知的財産法 • • • • 特許法 実用新案法 意匠法 商標法 その他の工業所有権法 • 種苗法 • 半導体回路設置法 著作権法 不正競争防止法 商法11条・12条・13条 2012年6月20日 7 2012年度法情報学講義 著作権法の概要 目的 – 「著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著 作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化 的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保 護を図り、もつて文化の発展に寄与すること」(1条) 所有権類似の基本権とみなされることもあるが、著作物は公衆 の利用に供される文化的所産でもあり、その保護にあたっては 利用者並びに社会の利益とのバランスを考慮する必要がある – cf. 所有権絶対の法則 • 民法206条「所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の 使用、収益及び処分をする権利を有する。」 • 所有者は、外部からの制約を受けずに自分の所有物を支配することが できる 情報のデジタル化、ネットワーク化は、著作権保護を無意味にす るという見解もあるが、他方で技術の発達は著作権を強化する 可能性ももたらしている 2012年6月20日 8 2012年度法情報学講義 デジタル・コンテンツ 著作物 – 「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文 芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(2条1 項1号)であれば、デジタル・コンテンツも保護の対象と なる 著作物の例示(10条1項) – ①小説、脚本、論文、講演その他の言語、②音楽、③ 舞踊又は無言劇、④絵画、版画、彫刻その他の美術、 ⑤建築、⑥地図又は学術的な性質を有する図面、図 表、模型その他の図形、⑦映画、⑧写真、⑨プログラ ム – 事実の伝達にすぎない雑報、時事の報道(10条2項)、 プログラム言語など(10条3項)は著作物に該当しない 2012年6月20日 9 2012年度法情報学講義 著作権の内容 著作者の権利 – 著作者人格権 公表権(18条)、氏名表示権(19条)、同一性保持権 (20条) – 支分権と呼ばれる狭義の著作権 複製権(21条)、公衆送信権(23条)、譲渡権(26条 の2)、貸与権(26条の3)、翻訳権・翻案権(27条)、 二次的著作物の利用に関する原著作者の権利(28 条) 著作隣接権 – 実演家、レコード製作者、放送事業者、有線放 送事業者の権利(89条~104条) 2012年6月20日 10 2012年度法情報学講義 著作権の発生と消滅 小説を書き、絵画を描き、音楽を作曲してCDに録 音したりすると著作権が生じる(51条1項) 著作者が個人である場合は、創作により発生し、 その死後50年を経過するまで存続する(51条2項) – 日本は1988年にベルヌ条約に加盟しているため、無方 式主義=特別の手続きは必要ない 方式主義の国との調整のために1952年に「万国著作権条約」 が締結され、©マークによる著作権表示によって方式主義の国 でも著作権が保護されることになったが、現在ではベルヌ条約 非加盟で万国著作権条約加盟国はほとんど存在しないため意 味がない(アメリカは1988年に無方式主義に切り替え、1989年 にベルヌ条約に加盟) 2012年6月20日 11 2012年度法情報学講義 著作者人格権 公表権(18条) – 自己の著作物を公表するかどうかは著作者のみが決 定できる 氏名表示権(19条) – 著作者には、氏名を表示する(しない)権利がある – ペンネームの使用、匿名での公表 同一性保持権(20条) – 自己の著作物を著作者の意に反して変更、切除その 他の改変を受けない これら著作者人格権は、著作者の一身に専属し、 譲渡できない(59条) 2012年6月20日 12 2012年度法情報学講義 支分権(狭義の著作権) 支分権(21~28条) – 著作者は、複製、上演・演奏、公衆送信(送信可能化 を含む)、口述、展示、譲渡、貸与、翻訳・翻案する権 利を有する – 公衆送信 放送又は有線放送を通じて直接に公衆に受信されることを目 的として送信すること(2条1項7の2号) – 送信可能化 自動公衆送信が可能な状態におくこと(2条1項9の5号) 音楽をデジタルファイル化し、ウェブページに掲載すること – 自動公衆送信 公衆送信のうち、公衆からの求めに応じ自動的に行うもので、 放送又は有線放送に該当するもの以外のもの(2条1項9の4 号) ウェブページに掲載された音楽をダウンロードすること 2012年6月20日 13 2012年度法情報学講義 著作権の制限 著作権の制限(30~50条) – 私的使用を目的とする複製(30条) – 図書館での利用や教育目的のための掲載や複製(31 条、33条、33条の2、34条、35条、36条) – 引用(32条) – 障害者のための点字訳作成や録音(37条、37条の2) – 非営利・無報酬の演奏など無形的再生(38条) 「文化的所産の公正な利用」や「文化の発展」を考慮した制限 それぞれ一定の条件を満たす場合には、著作権の侵害とな らない 2012年6月20日 14 2012年度法情報学講義 私的使用のための複製① 私的使用 – 「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内 において使用する」目的で複製することは許容される(30条 1項) – 例外:以下の場合は侵害行為となる 「公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製 機器」を用いた複製(1号) – コンビニや図書館のコピー機を用いた複製は違法 – ただし、附則5条の2、119条1項括弧書きによって不可罰 「技術的保護手段の回避」による場合(2号) – 1996年のWIPO著作権条約に基づいて、1999年の改正で追加 – コピー・プロテクトを外して行う複製は違法 「著作権を侵害する自動公衆送信を受信して行うデジタル方 式の録音又は録画を、その事実を知りながら行う場合」(3号) 2012年6月20日 15 2012年度法情報学講義 私的使用のための複製② 補償金の支払い – 「デジタル方式の録音又は録画の機能を有する機器」 によって「デジタル方式の録音又は録画の用に供され る記録媒体」に複製する場合には、相当の額の補償 金を著作権者に支払わなければならない(30条2項) デジタル方式の磁気テープ(DAT)や光磁気ディスク(MD)、光 ディスク(CD-R/DVD-R)に録音、録画する場合 補償金は録音・録画の機器にあらかじめ課金され、文化庁の 指定する管理団体によって管理され、著作権者に一定の割 合で分配される(104条の2~104条の10) – 基準価格の1~3%(音楽用CD-R30枚入り900円の場合、27円/枚) – iPod(フラッシュメモリ内蔵型録音機器)やパソコンの HDDを補償の対象とすべきか 文化庁の「私的録音録画小委員会」で検討中 2012年6月20日 16 2012年度法情報学講義 私的使用のための複製③ ダウンロード違法化 – 「著作権を侵害する自動公衆送信を受信して行う デジタル方式の録音又は録画を、その事実を知り ながら行う場合」を私的複製の例外に追加(30条1 項3号) – ただし、119条1項括弧書きによって不可罰 現在の著作権法では、著作権者に許可を得ずに音楽や 動画のファイルをアップロードすることを違法としている が、一方でダウンロードは著作権侵害にはならない 2012年現在、刑事罰はないが、民事での損害賠償請求 の可能性はある – 2012年改正に注意(6月20日現在、衆議院で可決、 参議院で審議中。本日にでも可決・成立か?) 2012年6月20日 17 2012年度法情報学講義 2009年改正(ダウンロード違法化) 2009年6月12日可決・成立 2010年1月1日施行 著作権法の一部を改正する法律案(文科省) http://www.mext.go.jp/b_menu/houan/an/171/1251917.htm ① インターネット等を活用した著作物利用の円滑化を図る措置 インターネットで情報検索サービスを実施するための複製等 過去の放送番組等をインターネットで二次利用する際に所在不明 等である場合の利用(裁定による著作物の利用) 国立国会図書館における埋蔵資料の電子化 ② 違法な著作物の流通阻止 インターネット販売等で海賊版と承知の上で行う販売の申出は権 利侵害とする(罰則あり) 違法なインターネット配信による音楽・映像を違法と知りながら複 製することを私的使用目的でも権利侵害とする(罰則なし) ③ 障害者の情報利用の機会の確保 視覚障害者向け録音図書作成が可能な施設を公共図書館に拡大 聴覚障害者のための映画や放送番組への字幕や手話の付与 発達障害等で利用困難な者に応じた方式での複製 2012年6月20日 18 2012年度法情報学講義 2009年改正:ダウンロード違法化以外 インターネット等を活用した著作物利用の円滑化 を図る措置 – ストリーミング配信におけるキャッシュは、目的上必要 と認められる限度において認められる(47条の5) YouTube、ニコニコ動画など – 検索エンジンが行うコンテンツの複製や翻案は、当該 検索及びその結果の提供を行うために必要と認めら れる限度において認められる(47条の6) Google、Yahoo!など – ユーザのコンピュータにおけるキャッシュは、情報処理 を円滑かつ効率的に行うために必要と認められる限 度で認められる。(47条の8) 上記の利用 – 著作権者がわからないときの著作物の利用の円滑化 裁定による著作物の利用 – 国立国会図書館での所蔵資料の電子化 2012年6月20日 19 2012年度法情報学講義 ダウンロード違法化の問題点 ダウンロードの技術的な定義や法的な実効性に 対する疑問 – 「ダウンロード」の定義がわかりにくい YouTubeやニコニコ動画などのストリーミングは含まないとさ れるが、ファイルがハードディスクに保存されてしまうものもあ る – 無許可のファイルを判別するのは困難 適法マークをつけて提供するなどの方法が考えられるが、本 物であるかどうかわからない – 刑事罰がない – ユーザの特定と違法性の証明は難しい 「ユーザーがその違法ファイルを本当にダウンロードしたか」 「違法ファイルと知ってダウンロードしたか」 2012年6月20日 20 2012年度法情報学講義 2012年改正(DVDリッピング違法化) 2012年6月15日衆議院で可決 6月19日現在、参議院で審議中 著作権法の一部を改正する法律案(文科省) http://www.mext.go.jp/b_menu/houan/an/detail/1318798.htm 1. 著作権等の制限規定の改正(著作物の利用の円滑化) ① いわゆる「写り込み」(付随対象著作物としての利用)等に係る規 定の整備 – 写真の撮影等によって自己の著作物に他人の著作物が写真に写り込んで しまった場合でも、著作権等の侵害にならない ② 国立国会図書館による図書館資料の自動公衆送信に係る規定 の整備 – 国立国会図書館は、絶版等資料について、図書館等に対して自動公衆送 信を行うことができる ③ 公文書等の管理に関する法律等に基づく利用に係る規定の整備 – 国立公文書館の長等は、法令に認められる限度において、著作物を利用 できる 2. 著作権等の技術的保護手段に係る規定の整備(著作権等 の保護の強化) DVDなどに用いられている暗号化技術を、新たに技術的手段とし て位置づける DVDのリッピングが、技術的保護手段の回避にあたるようになり、 違法となる 2012年6月20日 21 2012年度法情報学講義 2012年改正(違法ダウンロード刑罰化) 6月15日、衆議院の文部科学委員会で、 「DVDリッピング違法化」を含む著作権法の 改正案(政府案)が可決。あわせて、自民・ 公明の両党から「私的違法ダウンロード刑 罰化」を追加する修正案が採決直前で提 出され、賛成多数で可決された。 – 実質的な審議を経ないまま可決 – 6月20日現在、参議院で審議中 – 可決・成立した場合10月1日より施行の見込み 2012年6月20日 22 2012年度法情報学講義 2012年改正(違法ダウンロード刑罰化) 著作権法119条に次の1項を追加 ③ 第30条第1項に定める私的使用の目的をもって、有 償著作物等(録音され、又は録画された著作物又は実演 等(著作権又は著作隣接権の目的となっているものに限 る。)であって、有償で公衆に提供され、又は提示されて いるもの(その提供又は提示が著作権又は著作隣接権 を侵害しないものに限る。)をいう。)の著作権又は著作 隣接権を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動 公衆送信であって、国内で行われたとしたならば著作権 又は著作隣接権の侵害となるべきものを含む。)を受信 して行うデジタル方式の録音又は録画を、自らその事実 を知りながら行って著作権又は著作隣接権を侵害した者 は、2年以下の懲役若しくは200万円以下の罰金に処し、 又はこれを併科する。 2012年6月20日 23 2012年度法情報学講義 違法ダウンロード刑罰化の問題点 違法ダウンロードは是認できるものではない – コンテンツ産業の健全な成長を阻害するおそれ しかし、直ちに刑事罰を導入すべきかについ ては慎重な議論を要するのではないか – 日弁連の意見書 http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/opinion/ report/data/111215_5.pdf – MIAUの反対声明 http://miau.jp/1338800400.phtml 2012年6月20日 24 2012年度法情報学講義 引用 公表された著作物は引用することができる – 公正な慣行に合致するものであり、かつ引用 の目的上正当な範囲内で行われるものである こと(32条1項) – カギ括弧を付けるなど、自分の著作物と引用 部分を区別すること(明瞭区別性)* – 自分の著作物が主で、引用される他人の著作 物が従であること(主従の関係)* – 出所(出典)を明示すること(48条) *最判昭和55年3月28日民集34巻3号244頁。 2012年6月20日 25 2012年度法情報学講義 ウェブページにおけるリンク 自己のウェブページに他人のウェブページへのリ ンクを張る行為 – 一種の言及であって、引用や転載にはあたらず、自由 に行えると考えられる – ただし、フレーム機能等を用いて、自己のウェブページ の一部に他人のウェブページの情報を表示する行為 は、不当な引用ないし転載等による著作権侵害になり 得る cf. 2ちゃんねるまとめサイト – 匿名の表現でも著作権の対象となり得る – まとめサイトの管理人がアフィリエイト広告を掲載することが問 題になった 「トップページ以外にリンクを張らないでください」 2012年6月20日 26 2012年度法情報学講義 著作権侵害① 民事的な救済措置 – 不法行為による損害賠償請求権 – 差止請求権(112条) – 人格権の侵害に対しては、損害賠償に代えて、 又は損害の賠償とともに、名誉もしくは声望を 回復するために適当な措置の請求(115条) どのような行為が著作権侵害となるか – 侵害とみなす行為を113条に規定 1999年改正によって「権利管理情報」の規定が追 加 電子透かし 2012年6月20日 27 2012年度法情報学講義 著作権侵害② 権利管理情報(113条3項) – 音楽や画像などのデジタル著作物に付加される、いわ ゆる「電子透かし」 著作権を侵害する複製の捕捉 誰が著作権者であるかを明示 – 著作権を侵害する行為として、以下を規定 ① 権利管理情報として虚偽の情報を故意に付加する行為(1号) ② 権利管理情報を故意に除去又は改変する行為(2号) ③ これらの行為によって作成された複製物を情を知って頒布、 輸入、所持、公衆送信・送信可能化する行為(3号) – ただし、この行為も119条1項括弧書きによって不可罰 2012年6月20日 28 2012年度法情報学講義 著作権侵害③ 罰則 – 著作権等を侵害した者(119条1項) 10年以下の懲役又は1,000万円以下の罰金 罰則強化:3年、300万円→5年、500万円(2004年改正) →10年、1000万円(2006年改正) – 親告罪(123条1項) – コピー・プロテクト外しの規制(120条の2) 技術的保護手段の回避を行うことを専らその機能とする 装置やプログラムの複製物を公衆に譲渡、貸与したり、 プログラムを公衆送信・送信可能化した者(1号)、業とし て技術的保護手段の回避を行った者(2号)、営利目的 で権利管理情報の改変等を行った者(3号) 3年以下の懲役又は300万円以下の罰金 cf. 不正競争防止法2条1項10号・11号・21条2項4号 2012年6月20日 – 技術的制限手段に対する不正競争(コピーガードキャンセ ラーの販売、有料放送のスクランブル解除装置の販売) 29 2012年度法情報学講義 コンピュータ・ゲームの著作権① ゲームも著作物として保護の対象となる – 映画の著作物であることを認めたリーディング・ケース パックマン事件(東京地判S59.9.28判時1129号120頁) – 無断複製したゲーム機を喫茶店に設置して顧客に使用させた 行為は、映画の著作物における上映権の侵害にあたる – 当時の著作権法では、ゲームの著作権を保護するために、映 画の著作物として構成せざるを得なかった – 現在であれば、113条2項によって、プログラムの著作物の無断 複製物を「情を知って」「業務上」電子計算機において使用する 行為は著作権侵害行為とみなされる – 同一性保持権を認めた事例 ときめきメモリアル事件(大阪地判H9.11.27判タ965号253頁、 大阪高判H11.4.27判時1700号129頁、最判H13.2.13判タ1054 号99頁) – 主人公キャラクターの能力パラメータを高める機能を持つメモ リーカードを使用する行為は、同一性保持権を侵害する行為 – そうしたメモリーカードを販売した被告の行為は、不法行為にあ たる 2012年6月20日 30 2012年度法情報学講義 コンピュータ・ゲームと映画 頒布権 – 映画の著作物についてのみ認められる権利 – 頒布とは、「複製物を公衆に譲渡し、又は貸与するこ と」であり、映画の著作物の場合は、「公衆に提示する ことを目的として当該映画の著作物の複製物を譲渡し、 又は貸与することを含む」(2条1項19号) 映画の上映用フィルムを特定の映画館に譲渡・貸与して上映 することを想定した規定 従来からの慣行である「フィルム配給制度」に由来 大量の複製物を市場に投入するのではなく、少数のプリント フィルムを作成し、それを特定の映画館に配給することにより 高額の投資を回収するシステム – 事実上、中古市場も含め、流通をコントロールすることができる権利 といえる – 頒布権は譲渡権とは違い、消尽しない 26条(頒布権)には26条の2(譲渡権)2項のような規定がない 2012年6月20日 31 2012年度法情報学講義 消尽理論 消尽とは – 特許権者または適法な製造・販売権を有する者か ら特許製品を購入したが、自らこれを使用し、転売 しても、特許権の侵害にならないことを説明するた めの理論 「用尽」ともいう ドイツにおいて提唱 アメリカでは「ファースト・セール・ドクトリン」 特許権のほか、実用新案権、意匠権、商標権等の工業 所有権一般に妥当すると解されている 国際的消尽については議論がある – 海外において日本の特許権に係る製品を販売 – その製品が並行輸入されたときに、特許権を行使できるか 2012年6月20日 32 2012年度法情報学講義 コンピュータ・ゲームの著作権② 中古ゲームソフト販売事件(最判H14.4.25民集56 巻4号808頁) – ゲームソフトの中古品販売が、ゲームソフト・メーカー の著作権を侵害するかが争われた 東京地判:ゲームソフトは「映画の著作物」に該当しないから、 メーカーは頒布権を有しないとして、中古販売業者勝訴 大阪地判:ゲームソフトは「映画の著作物」に該当するから、 メーカーは頒布権を有するとして、メーカー勝訴 東京高判:「映画の著作物」であることは認め、頒布権も有す るが、その行使は認めないとして、中古販売業者勝訴 大阪高判:「映画の著作物」であることは認めるが、映画の著 作物の頒布権が及ぶのは第一譲渡までで、いったん製作会 社から消費者に譲渡されれば、それによって頒布権のうちの 譲渡権は消尽するとして、中古販売業者勝訴 – 最高裁も高裁判支持 中古ゲームソフト販売は合法 2012年6月20日 33 2012年度法情報学講義 ネット上の著作権侵害(P2Pを例として) コンピュータやブロードバンドの普及 – デジタル・コンテンツのネット上での流通がきわめて容 易になった 遠隔地間 迅速かつ大量に複製 – ファイル共有ソフトの出現により、不特定かつ多数の ユーザ間でファイルのやりとりが可能となった ほとんどのファイル共有ソフトは、P2P(Peer to Peer)技術を 使用 共有するファイルには、著作権者の許可を得ていないファイ ルも多数存在 ファイル共有によってウイルスに感染し、そこから大量の個人 情報流出が起きる事件も頻発している 2012年6月20日 34 2012年度法情報学講義 ファイル共有ソフト=P2Pとは 専用のサーバを用いずに、ネットワークに つながっているコンピュータ同士が直接に 情報のやりとりを行う(Peer to Peer) ハイブリッド型/ピュア型 効率のよい情報流通方法 – 流通コストの削減 – サーバを介さないので、アクセスの集中など サーバの障害の影響を受けない 2012年6月20日 35 2012年度法情報学講義 ファイル共有ソフトのネットワークモデル クライアント・サーバ・ モデル P2Pモデル – 対等な動作をするコンピュータ による主従関係のないシステム – ハイブリッドモデルは、情報検 索やノードマッチングを中央 サーバで行い、データのやりとり はノード間で行う – データの一元管理や即時的同 期に優れる – 一方、必要コストや耐障害性 では不利 2012年6月20日 36 2012年度法情報学講義 ファイル共有ソフトの問題点 流通性 – 他人の著作物が無断で公開されると、膨大な違法複 製物が作成される 匿名性 – 送信者の特定が困難。それゆえ、著作権侵害の温床 にもなっている 管理者不在 – 中央サーバを介さないピュア型P2Pでは、情報の流通 を適切に管理することができないため、コンピュータウ イルスや偽物のファイルが混在している場合もある 2012年6月20日 37 2012年度法情報学講義 ファイル共有ソフト利用実態調査 コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)、コンテン ツ海外流通促進機構(CODA)によるアンケート調査 (2012年5月公表) http://www2.accsjp.or.jp/research/ http://www.coda-cj.jp/news110204.html – ファイル共有ソフトの「現在利用者」が4.7%で、「過去利用 者」は9.5%。 減少傾向、著作権法改正の影響 – 「Winny」では全体の46.4%が著作物で、そのうち権利の対象 であり無許諾で送信されていると推定されるものが97.8%。 「Share」では全体の53.7%が著作物で、そのうちの97.2%が 無許諾送信。「PerfectDark」では全体の64.2%が著作物で、 そのうちの96.7%が無許諾送信。 – cf. ファイル共有ソフトによる情報漏えいに関する調査 http://www.hitachi.co.jp/hirt/publications/hirtpub09008/index.html 2012年6月20日 38 2012年度法情報学講義 Napster事件 Napster – ユーザ同士で音楽ファイルを共有するソフト – ユーザは、Napster社のサーバに保存されてい る音楽ファイルのリストを検索して、それを有し ているユーザから直接ダウンロードする Napster社のサーバにはファイルの索引が作成され、 利用者はNapsterを使用してこの索引を参照し、 ネットを介して他人のファイルにアクセスして取得 ピーク時には6,000万人が利用、月に数十億にのぼ る大量のファイルが交換、そのうち8割以上が著作 権によって保護されたファイルであった 2012年6月20日 39 2012年度法情報学講義 RIAA v. Napster 1999年12月6日、RIAA(アメリカレコード協会)参加のメ ジャーレーベル各社が著作権侵害に対する寄与侵害責 任および代位責任を根拠にNapster社をカリフォルニア北 部地区連邦地方裁判所に提訴した。 さらに、2000年6月12日、原告レコード会社側は、Napster システムを直ちに差し止める暫定措置命令(仮処分命令) の申し立てを行った。 2000年7月26日、連邦地裁は、レコード会社の主張を認め、 Napster社に対し、「著作権のある音楽作品を複製、ダウ ンロード、アップロード、送信又は頒布させてはならな い。」旨の暫定措置命令を下した。 2012年6月20日 40 2012年度法情報学講義 Napster事件の争点 1. Napsterのユーザによる著作権侵害がフェア・ユースに該 当するか 2. 寄与侵害責任につき、 Napster社にNapsterのユーザに よる著作権侵害の認識およびこれに対する関与が存在 するか ① 直接侵害が成立する場合に、 ② 侵害行為があることを知りながら、 ③ 他人の侵害行為を惹起し、又は重要な関与を行っていること 3. 代位責任につき、 Napster社がユーザによる著作権侵害 に対し、管理機能を有し、かつ、これによる直接的な経済 的利得があるか ① 侵害行為を監督する権限と能力を有し、 ② 侵害行為に対して直接の経済的利益を有する 者に対して侵害責任を問う法理 4. その他の抗弁 5. 暫定措置命令の範囲が広すぎるか否か 2012年6月20日 41 2012年度法情報学講義 その後の経緯 Napster社は第9巡回区連邦控訴裁判所に控訴 控訴審では、Napster社の寄与侵害責任および代位責任 について肯定したものの、暫定措置命令の範囲について 限定的に解釈すべきとして原審に差し戻した 差し戻し審では、2001年3月5日に暫定的措置命令の範 囲を変更する命令を下した – レコード会社にも侵害ファイル流通阻止のためのデータ提供を要 求=Napster社とレコード会社の協力義務 – Napster社は、削除要請があった日から3日以内にそれらのファイ ルを索引から削除すること – Napster社が技術的に監督コントロールできる範囲において、侵 害の監視・排除の義務を負う この判決にしたがった措置がなされた結果、Napsterの利 用者は激減し、その後Napsterはサービスを停止するに 至っている 2012年6月20日 42 2012年度法情報学講義 ピュア型P2P Gnutella – 中央のサーバを必要としないピュア型P2P – サービス提供者は、ソフトウェアをユーザに提 供した後は、各ユーザがどのような形態で使 用しているかについての監督も、使用の阻止 もできない 寄与侵害責任および代位責任を問えない 2012年6月20日 43 2012年度法情報学講義 ピュア型P2Pに対する裁判例 Grokster, Morpheus事件(アメリカ) – 地方裁・控訴裁は、寄与侵害責任・代位責任とも認め られないとして、サービス提供者の違法性を実質的に 否定(2003年4月、2004年8月) – 「GroksterとMorpheusは著作権侵害に使用できるホー ムビデオレコーダーやコピー機を販売する企業と著しく 異なるところはない」 – 連邦最高裁は、違法なファイル交換を助長する仕組み を提供した者は著作権の間接侵害者として責任を負う と判断。訴訟を控訴審に差し戻した。(2005年6月) KaZaA BV事件(オランダ) – 2002年3月28日、アムステルダム控訴裁判所は、ピュ ア型P2Pソフトウェアの頒布を行っているKaZaA社には 著作権侵害の責任がない旨判決 2012年6月20日 44 2012年度法情報学講義 ファイルローグ事件 ファイルローグ仮処分事件 – 東京地決平成14年4月11日、同4月9日 ファイルローグ事件 – 東京地判平成15年1月29日(中間判決) – 東京地判平成15年12月17日(第一審) – 東京高判平成17年3月31日(控訴審) 概要 – 被告である日本MMOが提供するファイル共有サービ スによって、原告である日本音楽著作権協会及びレ コード会社19社らが、その保有する著作権が侵害され たとして電子ファイルの送受信差止めと、不法行為に 基づく損害賠償を求めた事件 2012年6月20日 45 2012年度法情報学講義 ファイルローグ事件の争点 MMOが著作権侵害の主体といえるか – 利用者の著作権侵害の有無 複製権侵害 自動公衆送信権侵害、送信可能化権侵害 – MMOが送信可能化権および自動公衆送信権を侵害しているとい えるか MMOの行為の内容・性質 利用者の行為に対するMMOの管理・支配の程度 MMOの利益の状況等 MMOに対する著作権侵害を理由とする不法行為に基づく 損害賠償請求は認められるか – MMOの過失の有無 – プロバイダ責任制限法2条4項の「発信者」に該当するか – MMOの代表者個人の損害賠償責任の有無 2012年6月20日 46 2012年度法情報学講義 ファイルローグ事件判決 裁判所の判断 – 送信者の著作権侵害責任を認めた 受信者の法的責任は追及されていない 送信者のパソコンは自動公衆送信装置にあたり、 送信者の行為は公衆送信権及び送信可能化権を 侵害する – MMO 中央サーバ管理者であるMMOが著作権侵害の主 体であるとした – 利用者のパソコンは中央サーバと一体になった自動公衆 送信装置であり、利用者は著作権の間接侵害者であって、 侵害の主体は中央サーバを管理するサービス提供者で ある 2012年6月20日 47 2012年度法情報学講義 Winny開発者著作権法違反幇助事件 京都地判平成18年12月13日判タ1229号105頁 – 京都地裁は、ファイル共有ソフトウェア「Winny」の開発 者に対して、インターネットにおける同ソフトウェアの提 供行為が著作権法違反の罪(公衆送信権侵害)の幇 助犯に該当するとして、罰金150万円(求刑懲役1年) の有罪判決を言い渡した。 大阪高判平成21年10月8日季刊刑事弁護61巻182 頁 – 「著作権侵害をする者が出る可能性を認識していた」と しながらも、侵害を積極的に勧めたわけではないとし て幇助罪の適用を否定。逆転無罪。 最決平成23年12月19日裁時1546号9頁 – 上告棄却。無罪が確定。 2012年6月20日 48 2012年度法情報学講義 価値中立性 Winnyは「包丁」か「ピストル」か? – あくまでも本来は適法な用途に利用されるべき性格の ものか、または、主として違法な用途に利用される性 格のものか? – 開発者を有罪にすることは、今後の科学技術の開発を 不当に阻害する – 原爆開発と同様に、本件でも科学技術開発者の良心 のあり方が問われている 裁判所の判断 – Winnyという技術自体は有意義であり、価値中立的で あると判示 2012年6月20日 49 2012年度法情報学講義 幇助犯の成立について 主観的様態 – 当時、著作権を侵害する様態で広く利用され ており、それを認識、認容しつつ公開、提供を 継続していた 故意としての幇助意思の具備 – Winnyが著作権侵害に広く利用されている現状 を、被告人が認識、かつ認容していた(認容説 =多数説) 結果発生の蓋然性 2012年6月20日 50 2012年度法情報学講義 開発者はどのような措置を講ずるべきだったか? 本判決は、違法なファイルのやりとりをしないよう な注意書きを付記していた等の事実を認めてい るが、どのような措置を講じていれば十分といえ るかについて、明確な基準を示していない。 ↑ 今後の技術開発への萎縮効果が生じるとの批判 – 技術革新を阻害することなく、権利者の保護を図って いく必要がある 権利者は、ファイル交換を行っている個人に対して著作権侵 害で提訴 コピー・プロテクト技術 – YouTubeやニコニコ動画等、新しいサービスへの対応 2012年6月20日 51 2012年度法情報学講義 ドメイン名紛争 IPアドレスとドメイン名 – インターネットに接続された機器は、IPアドレス によって特定される 32bitsの数値列 10000010.00100010.10010001.11110000 130.34.145.240 – 単なる数値の羅列では記憶困難 アルファベット文字を組み合わせた文字列 www.law.tohoku.ac.jp – 宛先を示すことを目的としたシステム 2012年6月20日 52 2012年度法情報学講義 ドメイン名とは JPNIC http://www.○○○.co.jp/ (国別ドメイン) 第3レベル ドメイン 第2レベル ドメイン 第1レベル ドメイン ICANN http://www.○○○.com/ (一般ドメイン) 第2レベル ドメイン 第1レベル ドメイン ※http://は通信方法を wwwはホスト名を表す 2012年6月20日 53 2012年度法情報学講義 ドメイン名の取得と特徴 取得 – JPRSに直接申請 – 指定事業者に申請 JPドメイン名の登録のしくみ レジストリ(JPRS) 特徴 – 国際的一意性 – 先願主義 登録申請 指定事業者 先に登録を受けた者に世界的な 排他独占権が事実上付与される 登録申請 ドメイン名 登録契約 登録申請 申請者 2012年6月20日 54 2012年度法情報学講義 サイバースクワッティング サイバースクワッティング – 電脳空間の不法占拠 ドメイン名登録制度を悪用 – 他人の著名な商号、商標、製品名、サービス名等を含 むドメイン名を抜け駆け的に登録 – 本人にこれを高値で買い取らせようとする ドメイン名紛争 2012年6月20日 55 2012年度法情報学講義 ドメイン名紛争の形態 権利濫用型 – 悪意のあるものによるドメイン名の取得 ADR(裁判外紛争解決)による解決 権利衝突型 – お互いに正当な権利を有するもの同士の争い 裁判による解決 2012年6月20日 56 2012年度法情報学講義 反サイバースクワッティング消費者保護法(アメリカ) ACPA: Anticybersquatting Consumer Protection Act – 1999年11月施行 – サイバー海賊行為の防止 – サイバー海賊行為に対する個人の保護 (参考)"Anticybersquatting Consumer Protection Act" 翻訳文 ftp://ftp.nic.ad.jp/jpnic/translation/acp-j.txt 2012年6月20日 57 2012年度法情報学講義 JACCS事件 富山地判平成12年12月6日判時1734号3頁,判タ1047号297頁 事件の概要 – 株式会社ジャックスがドメイン http://www.jaccs.co.jp を有する有限会社日本海パクトに 「不正競争防止法2条1号および2 号」に基づきドメイン名の使用およ び表示差し止めを求める。 混同惹起行為(1号) 著名表示冒用行為(2号) 2012年6月20日 58 2012年度法情報学講義 日本海パクトのホームページ ホームページ画面(2)と(3)は 本件訴訟提起後に変更された 2012年6月20日 59 2012年度法情報学講義 不正競争防止法 (定義) 第二条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。 一 他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、 商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するも のをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されている ものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品 等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡 しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通 じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為 混同惹起行為 二 自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一若 しくは類似のものを使用し、又はその商品等表示を使用した商 品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸 出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供する行為 著名表示冒用行為 ※赤字部分は 2003年改正により追加 2012年6月20日 60 2012年度法情報学講義 争点 争点① ドメイン名の使用は「商品等表示」の 「使用」に当たるか 争点② ドメイン名とJACCSの営業表示は同 一または類似か 争点③ JACCSの差止請求は権利の濫用に 当たるか 2012年6月20日 61 2012年度法情報学講義 原告側(JACCS)の主張 「営業表示等」の「使用」に当たる – 「営業表示」とは商品の出所、営業表示の主体を示す 表示 – ドメイン名は登録者の名称等を反映したものであるこ とが利用者によく知られている – ホームページ(リンク先を含む)の元で自社製品の宣 伝をしている ドメイン名と営業表示は同一または類似 – 「JACCS」を小文字にしただけ 以上から同法3条1項に基づき差止請求 2012年6月20日 62 2012年度法情報学講義 被告側(日本海パクト)の主張 「営業表示等」の「使用」に当たらない – 商品サービス内容が表示されているページとは別構 成である ドメイン名と営業表示は同一又は類似しない – JACCS社の商標とは色もレタリングも大きく異なる – ドメイン名の「jaccs」は、「Japan Associated Cosy Cradle Society」(起業家支援集団心地よいゆりかご) の略称である 権利の濫用に当たる – 先願申請の努力をせず、自己の商号が著名、商標登 録されているといった理由では不十分 2012年6月20日 63 2012年度法情報学講義 判決理由の概要 「営業表示等」の「使用」に当たる – トップページおよびリンク先画面において商品の販売 広告がなされている – ホームページ上で大きく「JACCS」と表示し、開設主体 であることを示している – ドメイン名「jaccs」も「JACCS」を小文字にしただけ ドメイン名と営業表示は同一または類似 – 「http://www.jaccs.co.jp」のうち、同一又は類似性の判 断は第3レベルドメインによるべき 権利の濫用には当たらない – 当初より金銭を取得する目的でドメイン名を登録したと 推認せざるを得ない 2012年6月20日 64 2012年度法情報学講義 判決の問題点 主文 一 被告は、そのホームページによる営業活動に、 「JACCS」の表示を使用してはならない。 二 被告は、社団法人日本ネットワークインフォメー ションセンター平成10年5月26日受付の登録ドメ イン名「http://www.jaccs.co.jp」を使用してはなら ない。 また、本判決ではドメイン名の使用差止は認められたものの 本件ドメイン名の登録抹消手続請求や移転請求が認められた 訳ではない 2012年6月20日 65 2012年度法情報学講義 控訴審判決 名古屋高金沢支判平成13年9月10日判例集未登載 差止め請求の範囲を “http://www.jaccs.co.jp”から“jaccs.co.jp” とする メールアドレスも対象となる 2012年6月20日 66 2012年度法情報学講義 ドメイン名管理機構による対策 ドメイン名に日本語を使えるようにする – 例)東北大学.jp 参考:ICANNによる対策 ■ 第1レベルドメインの種類を増やす ■ 例) ~.biz ~.info ~.tv 本質的な問題解決にならない 2012年6月20日 67 2012年度法情報学講義 ADRによる紛争解決 登録管理機関(ICANNやJPNIC)による紛争処理方針の 策定 日本知的財産仲裁センター http://www.ip-adr.gr.jp/ – JPドメインに関して相談・仲裁・調停を行う 対象となる紛争 – 「不正の目的で登録または使用」(JP紛争処理方針4条) 費用 – 相談 1万円程度 – 調停・仲裁 10万円 成功報酬 30万円程度 2012年6月20日 68 2012年度法情報学講義 不正競争防止法による解決 不正競争防止法の改正 – それまで、ドメイン名に直接かかわる法律はなかった – しかし、2001年の不正競争防止法の改正により、サイ バースクワットが不正競争の種類に加えられた 不正競争防止法での処断が妥当か – ドメイン名を抜け駆け的に取得したものが、家族の写 真等を掲示しつつ、企業にドメイン名の買い取りを要 求したような事例? 権利衝突型については、不正競争防止法やADR による紛争解決の対象外 2012年6月20日 69 2012年度法情報学講義 不正競争防止法の改正 ドメイン名の不正使用(2001年改正) – 2条1項12号 十二 不正の利益を得る目的で、又は他人に損害を加え る目的で、他人の特定商品等表示(人の業務に係る 氏名、商号、商標、標章その他の商品又は役務を表 示するものをいう。)と同一若しくは類似のドメイン名を 使用する権利を取得し、若しくは保有し、又はそのドメ イン名を使用する行為 電気通信回線を通じての提供(2003年改正) 2012年6月20日 70 2012年度法情報学講義 権利衝突型ドメイン名紛争 権利衝突型のドメイン名紛争類型では、き め細やかな利益衡量によってケースごとに 合理的な結論を導くべき – 不正競争防止法19条1項2号 自己氏名の善意使用 – 登録商標を有している等の場合は、権利濫用 法理等によりケースバイケースで適切な解決 を図るべき 2012年6月20日 71 2012年度法情報学講義 サイバースクワッティングの事例 我が国における裁判事例 – 株式会社ジャックス vs. 有限会社日本海パクト(jaccs.co.jp) – ジェイフォン東日本株式会社 vs. 株式会社大行通商(j-phone.co.jp) 我が国における裁定事例 – – – – – 株式会社エヌ・ティ・ティ エックス vs. 有限会社ポップコーン(goo.co.jp) 株式会社イトーヨーカ堂 vs. 株式会社銀河(itoyokado.co.jp) ソニー株式会社 vs. 合資会社壱(SONYBANK.CO.JP) アイコム株式会社 vs. 株式会社アイコム(icom.ne.jp) エムピー3 ドット コム インコーポレイテッド vs. 有限会社システム・ケイ ジェイ(MP3.CO.JP) – サンキスト・パシフィック株式会社 vs. 株式会社三上商事(sunkist.co.jp) – 株式会社中国放送 vs. 株式会社ワイ・ケー・オー・ヒロシマ(rcc.co.jp) – ジェ ア モドゥフィヌ ソシエテ アノニム vs. デジコン有限会社 (armani.co.jp) – 広島テレビ放送株式会社 vs. 株式会社エーアイブレーン(htv.co.jp, htv.jp) などなど 2012年6月20日 72 2012年度法情報学講義 おしまい この資料は、2012年度法情報学講義の ページからダウンロードすることができます。 http://www.law.tohoku.ac.jp/~kanaya/infolaw2012/ 2012年6月20日 73 2012年度法情報学講義
© Copyright 2025 ExpyDoc