国立市大学通りの景観権侵害 に基づく損害賠償請求事件 1 事件概要 • 国立市大学通りの景観権侵害に基づく損害 賠償請求事件 • 原告―大学通り周辺の住民 • 被告-東京都 国立市 2 事件概要 • 景観権が東京都と国立市の通謀による違法 な都市計画の決定によって侵害された • 適正な手続きによって都市計画をすることを 求める権利が侵害された 東京都と国立市に対して一人当たり5万円の損 害賠償を求める。 3 背景 S.27.1 文教地区の指定を受ける →住民は、大学通りの景観保全活動に積極的に参加 H.1 都市計画決定の見直し H.4 都市計画法及び建築法の改正による「用途地域等に関す る指定方針及び指定基準」の策定 H.8 都市計画用途地域の変更 容積率の緩和、高度制限の撤廃 大学通りに次々と高層ビルが立ち並ぶ 4 原告主張 • 景観権の根拠は、憲法13条、25条に由来す る具体的な人格権ないし環境権の一形態とし て位置づけられ、人はこれらを根拠に良好な 景観を享受する権利である景観権を有する。 そして環境基本法3条でも明らかに規定され ている環境権の具体的現れが景観権でもあ る。よって、景観が破壊、侵害され、精神的苦 痛が生じた場合には、景観権侵害に基づく慰 謝料請求が発生する。 5 被告主張 • 景観それ自体が抽象的かつ主観的なもので あり、地域住民に共通の内容を有する明確 かつ具体的な概念であるとはいえない。 • 憲法13条、25条1項は、個々の国民に対して 直接に具体的な権利を付与した規定ではな いので、景観権がこれらの条項によって保証 されているとは言えないので、個人の私法的 権利として景観権を認めることはできない。 6 • 憲法13条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求 に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立 法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。 • 憲法25条1項 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有 する。 • 環境基本法3条 環境の保全は、環境を健全で恵み豊かなものとして維持すること が人間の健康で文化的な生活に欠くことのできないものであるこ と及び生態系が微妙な均衡を保つことによって成り立っており人 類の存続の基盤である限りある環境が、人間の活動による環境 への負荷によって損なわれるおそれが生じてきていることにかん がみ、現在及び将来の世代の人間が健全で恵み豊かな環境の恵 沢を享受するとともに人類の存続の基盤である環境が将来にわ たって維持されるように適切に行われなければならない。 7 判決 • 請求棄却 • 私有財産に依存する景観を、私有財産の所有 者の都合に関わりなく、一般私人に帰属させる ものとすることに疑問がある。 • 国家賠償法上の違法性の判断 主張内容を許容した場合、景観権を有する者 は、当該景観を構成する土地を所有し、あるい は占有する者に限られなくなる。 • 当該景観を維持する方法としては、特定の個人 に委ねられるべきものではなく、むしろ住民を代 表する者の賢慮に委ねられるのが相当。 8 論点 • 景観権の成否 景観権が法的利益の対象として考えられる ものなのか 原告らの主張する景観権の3要件 1.当該景観が相当期間にわたって永続していること 2.当該景観が希少なものであること 3.他の景観によって代替できないものであること 9 景観権とは • 景観とは、良い風景が客観化、広域化して価値 ある環境、すなわち自然的、歴史的、文化的景 観を形成している場合であり、景観権とは、その ようなよい景観を享受する権利である • 客観的に価値のある景観に対する住民の権利 と捉えれば、環境権の一種と理解することがで きる。しかし、景観を個人的眺望利益の広域的 な集積と捉えれば、眺望権が広域化したものと 理解する (淡路) 10 環境権とは • 環境を破壊から守り、良い環境を享受しうる 権利 • 「環境を破壊から守るために、われわれには、 環境を支配し、われわれの快適な生活を妨 げ、あるいは妨げようとしている者に対しては、 この権利に基づいて、妨害の排除または予 防を請求しうる」(日本弁護士連合会) 11 眺望権とは 「主に、旅館やホテル業者が特定の場所に客 室等を設け、これを営業用に利用している場 合に認められる財産的な営業利益」 12 論点 個人の生命安全や財産等に直接の影響を与え ない場合に良好な環境そのものを保全するこ とを個人の権利として把握することは困難 13 論点 • 私有財産に属するもの ―景観が他人の財産権行使の制限を前提 とするもの • 審美的要素 -個人の主観性の問題 →保護されるべき景観が常に個人の美的感覚 に依拠するものであって客観的な内容を確定 し難い 14 論点 • 「自己の個人的権利に基づくことなく他人の土地 利用を制限することを環境権的に求める」 →「景観権が法律や条例などで十分に具体化され ていない限り、景観権に関する法的保護は求めら れない。」 「環境権的な景観権の問題は立法政策に委ねら れざるを得ない」 15 論点 • 伝統的な所有権的発想でのみ景観権を理解 しようとすると、広域化し価値ある自然状態で ある景観権を正確に把握することは不可能と なるため、自ずとその結論には妥当性が失わ れる(岩嵜) 16 論点 • 人々が文化的で健康な生活を享受できるよう にするためには、自然的に良好な環境だけで なく、文化的にも良い環境が必要であること、 文化的環境の人間の精神生活に果たす重要 性や人格形成に果たす役割についても理解 できる(和歌の浦事件 判決) →「景観を享受する利益も法的保護の対象にな りうると考えるべき」(岩嵜) 17 論点 「いかなる実体法上の用件をクリアーすれば損 害賠償や差止請求が認められるか」 考慮要件 景観破壊の程度、代替手段の可能性、地域の 特性、損害発生回避のために行われた措置 等 18 考察・感想 • 個人的利益として、私有地を含む景観に対し て景観権を認めることはできない。景観を維 持していくためには、条例など、その地域ごと の意思決定が必要と言える。 • 今回は触れなかったが、都市計画決定と住 民の関係性についても考えていかなければ ならないと思う。 • 景観に対する訴訟は、他にもいくつかあるた め、調べて理解を深めたい。 19 参考文献 • 福永実・自治研究79巻8号132~141頁2003 年8月 • 岩嵜勝成・判例地方自治243号91~95頁 2003年11月 • 北村喜宣・環境法48頁2011年3月 • 環境公法資料2010年 20
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