科学修飾によりN-アシル化されたヒアルロン酸断片は、ヒト由来

THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY VOL. 289, NO. 36, 2014
Chemically modified N-Acylated hyaluronan
fragments modulate proinflammatory cytokine
production by stimulated human macrophages
Oladunni Babasola, Karen J.ReesMilton, Siziwe Bebe, Jiaxi Wang, and Tassos P.Anastassiades
科学修飾によりN-アシル化されたヒアルロン酸断片は、ヒト
由来マクロファージの刺激による炎症性サイトカインの産生
を調節する
2015/5/18
M1 柴田真衣
背景と目的
ヒアルロン酸(HA)は軟骨や皮膚の
細胞外マトリックスに多く存在する。
HAの構造
(グルクロン酸+N-アセチルグルコサミン)
通常時は数千kDaの高分子構造をとる
(HMHA)が、骨関節炎やリウマチ性関節炎
などの病理的状態の場合、HAの低分子化
(LMHA)が認められる1)。
N-アセチル基→
LMHAは、ヒアルロン酸レセプターであるToll-likeレセプターやCD44と結合して
炎症性サイトカインの産生を誘導し、炎症を促進すると考えられている。反対に、
HMHAはLMHAと各レセプターの相互作用を阻害して、炎症の抑制に寄与する2) 。
→筆者らはLMHA中のN-アセチル基に着目して、その部分の科学修飾がLMHAの機能
性に影響を与えるかどうかについて検討した。また、LMHAの受容体についても調べた。
1)Yang, C et al., J. Biol. Chem., 2012
2)Campo, G, M et al., Biochem. Oharmacol., 2010
HAの低分子化と脱アセチル化
抱水ヒドラジン(H₄N₂・H₂O)を用いてHAのア
セチル基の還元と糖鎖の切断を行った。
ヒアルロン酸Na 水溶液にヒドラジン一水和
物、ヒドラジン硫酸を添加して55℃、6~96h
処理し、産物を電気泳動
→ヒドラジン分解によってHAの分子量が低
下した。
HAの低分子化と脱アセチル化
B:産物を比色分析
値=(グルコサミンの物質量)/(グルクロ
ン酸の物質量)
この値は脱アセチル化の割合を示す
C:産物を¹H-NMRで分析し、HAの脱アセ
チル化された割合を計算
→ヒドラジン分解によってHAが部分的
に脱アセチル化された。(DHA)
HAの科学修飾
DHA,AHA,BHAを¹H-NMRで構造解析
それぞれのHA中のN-アセチル基の状態は以下の通りと考えられる。
DHA:約20%脱アセチル化されている
AHA:ほぼ100%再アセチル化されている
BHA:約20%ブチリル化されている
HAの科学修飾
BHA:DHAをブチリル化処理したもの
AHA:DHAを再アセチル化処理したもの
DHA:部分的に脱アセチル化されたLMHA
○
○
○
○
○
BHA
N-ブチリルグルコサミン由来
AHA
グルコサミン由来
DHA
HAの科学修飾
HAと HA派生物 を電気泳動
DHA:部分的に脱アセチル化されたLMHA
BHA:DHAをブチリル化処理したもの
AHA:DHAを再アセチル化処理したもの
→DHAを再アセチル化(→AHA)しても、分
子量の範囲に明らかな差は認められな
かった。
HAの科学修飾
HAと HA派生物 を電気泳動
HA-digested:HA分解酵素で分解処理
AHA-NaOH:HAをNaOHで処理した後、再
アセチル化
→今回の処理条件では、3つのHA派生物
の分子量の範囲は似ていると考える。
HA派生物の炎症誘導作用
P=0.0486
①THP-1(ヒト単球性白血病
細胞株)を、PMA処理でマク
ロファージに分化させる
②500 µg/mL HA派生物を
添加して24h培養
③培地中に放出された
IL-1β量をELISAで定量
(XTT assay の値で補正)
→AHA処理によってIL-1βの放出量が有意に増加した。
また、有意ではないが、アセチル基の構造を持つHA派生物のみ、IL-1β放
出量を増加させる働きを持つ可能性が考えられた。
HA派生物の炎症誘導作用
分化させたTHP-1に種々の濃度の
AHAを添加して24h培養し、培地中
のIL-1β量をELISAで定量
(XTT assay の値で補正)
AHAのIL-1β放出促進作用は容量
依存的で、EC₅₀=292 µg/mL
500µg/mL でAHAの効果はほぼ最
大となる。
HA派生物の炎症誘導作用
分化させたTHP-1に
①500 µg/mL HA派生物
②LPS.EC(TLR-2のアゴニスト)
③PG.PS(TLR-4のアゴニスト)
いずれかを添加して24h培養
→培地中に放出されたIL-1β量
をELISAで定量
→全ての処理によってIL-1βの放出量が有意に(p<0.05)増加した。
HA派生物の炎症誘導作用
分化させたTHP-1に 500µg/mLの
①HA digested
②AHA
③AHA-NaOH
いずれかを添加して24h培養
→培地中に放出されたIL-1β量をELISA
で定量
→各HA分解処理によってIL-1βの放出量が同程度増加した。
HA派生物の炎症誘導作用
分化させたTHP-1に
A:無し
B:HA digested
C:HA digested(>30kDa)
D:HA digested(<30kDa)
いずれかを添加して24h培養
→培地中に放出されたIL-1β量を
ELISAで定量
→HA digested 処理によりIL-1βの放出量が増加するが、それは分子量30
kDa以上のHA断片によるものである。
AHAはTLR4を介して炎症を促進する
P<0.01
P<0.05
P<0.05
分化させたTHP-1を 抗TLR-4抗体(lg)やAHA50,500 (µg/mL)で処理して24h培養
→ELISA
→AHAによるIL-1β放出促進作用は、抗TLR-4抗体によってキャンセルされる
AHAはTLR4を介して炎症を促進する
P=0.0076
P=0.0057
P=0. 0131
黒:no AHA
白:with AHA(50µg/mL)
分化させたTHP-1を各濃度のTLR-4アンタゴニスト(LPS.RS)で処理し、24h培養→ELISA
→AHAによるIL-1β放出促進作用は、TLR-4アンタゴニストによってキャンセルされる
この炎症促進作用にはTLR-4とAHAの相互作用が必要である。
AHAの炎症促進作用はCD44を介さない可能性が高い
黒:no HA
白:with HA(5µg/mL)
灰:with HA(50µg/mL)
A:分化させたTHP-1を、各濃度の
AHAで処理し24h培養→ELISA
(HAはCD44のアゴニスト)
B:THP1を、AHA(50,500 µg/mL)や抗
CD44抗体(Ab1,Ab2)で処理して24h
培養→ELISA
→TLR-4をターゲットにした場合と異
なり、AHAによるIL-1β放出促進作
用は、CD44のアゴニストや、抗
CD44抗体の影響を受けない。
AHAの炎症促進作用はCD44を介
さない可能性が高いと考えられる。
BHAはTLR4に作用して炎症を抑制する
黒:no BHA
白:with BHA(500µg/mL)
A:THP-1マクロファージを、各濃度の
TLR-4アゴニスト(LPS.EC)やBHAで処理
→BHAによってTLR-4を介したIL-1β放
出促進作用が抑制された。
P<0.05
C:A:THP-1マクロファージを、各濃度
のTLR-2アゴニスト(PG.PS)やBHAで処
理
→BHAによってTLR-2を介したIL-1β放
出促進作用は抑制されなかった。
→BHAはTLR-4を介する炎症促進作
用を抑制するが、TLR-2を介するもの
は抑制しない。
BHAはTLR4に作用して炎症を抑制する
黒:AHA
白:AHA+BHA
THP-1マクロファージを 500µg/mL AHA or BHA で24h処理→各炎症性サイトカイン放
出量をELISAで定量
(HA処理を行わなかったものの値を1とし、相対値で表した)
→AHAによる炎症性サイトカイン放出促進作用は、BHAによって抑制された。
BHAのTLR-4アゴニストやAHAに対する炎症抑制作用は他のいかなるHA派生物にも
無く、BHA特異的である。(no data shown)
再アセチル化の割合と炎症促進作用の関係
グルコサミン
/ウロン酸
のモル比
(棒グラフ)
IL-1β放出量
(折れ線グラフ)
無水酢酸の濃度
DHAを各濃度の無水酢酸で処理(再アセチル化)し、THP-1マクロファージに 500µg/mL
添加し24h処理→ELISA
→□の範囲においてアセチル化の程度とIL-1β放出量は逆相関する。
再アセチル化の割合と炎症促進作用の関係
グルコサミン
/ウロン酸
のモル比
(棒グラフ)
Total DHA
(%、棒グラフ)
DHAの分子量毎の画分
DHAを、分子量毎に画分に分け、DHA量やモル比を定量
→□の範囲(DHA分子量100~300 kDa) が、AHAの炎症性が認められるようになる最
少の分子量である
総括
・THP-1細胞において、低分子化HAの炎症促進作用にはN-アセチル基またはアセチ
ル基の存在が重要である。
・再アセチル化したLMHA(AHA)はTHP-1の炎症性サイトカイン産生を促進し、部分的
にブチリル化したLMHA(BHA)はそれを抑制するが、これらの作用はTLR-4を介する。
また、AHAの作用は他種のLMHAにも認められたのに対し、BHAの作用は今回BHA
に特異的であった。
・低分子化ヒアルロン酸の選択的なN-ブチリル化は、新しい抗炎症性半合成分子と
しての可能性を持つ。
AHA
炎症性サイトカイン
TLR-4
BHA
THP-1マクロファージ