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『経済学』 by 矢根 真二 ([email protected])
資料URL http://rio.andrew.ac.jp/~yane/class/becon/
Behavioral Economics < 1 >
<S9>
偶然が引き起こす愚かなバイアス
少数の法則 と アンカリング効果
本日の課題
■
1
2
3
K(14): 10-11章: 偶然に踊ろされる自分に気づける?
統計学を無視する少数の法則
数字に引き寄せられるアンカリング効果
愚かなバイアス: 乱用 と 回避
前回までとの関係 第1部から第2部へ
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2
第1部
1.
2.
3.

2つのシステム: K(14, 序論-9章),<S1-8>
システム1(直感君)とシステム2(熟慮様)の機能と関係
各システムの作用に関する用語・概念・実験結果: 試験
日常会話で使用し,判断力の改善を意識
: 目的
+ 知的努力  知っていても,使えなければ,バイアス
第2部
1.
2.
ヒューリスティクスとバイアス: K(10-18章), <S9-15>
S9-12 & K10-17章: 直感君によるバイアスの具体例
S13 & K18章: バイアスの修正法?
本日の読解力Check
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3
1.
大数の法則,少数の法則とは?
2.
単なる統計的事実(p.194)には,なぜ原因の究明が不要?
3.
アーティファクト(p.197)を,腎臓癌や学校の例で説明すると?
4.
ホットハンド(p.207)って知ってる? 使った例文は?
5.
2種類のアンカリング効果とは? 違いは?
6.
アナタが見たアンカリングの例は?
p.201
p.213
1 統計学を無視する少数の法則
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4
 統計学・確率論の基礎的な極限論
 ≒ 独立試行を繰り返すと,経験的確率は理論的確率に一致
 コイン投げの例: 表が出る回数  理論的確率1/2
 ∴ 統計的推論の前提: ランダムで十分な数のサンプル
大数の法則
不適切な調査法・統計処理  アーティファクト p.197
 例: 過少な標本数(サンプルサイズ) や 無作為でないサンプル
1.
単なる統計的事実(p.194)には,直感君は無能
2.
偶発事象(p.194)なのに,<S6>原因や因果関係を作る!
If
Q1 単なる統計的事実の例
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5
赤と白の札が半々に入った箱からの取り出し&戻す試行の繰り返し
大数の法則:偶発事象も積み重なれば,規則的なふるまい
p.195
1. 一度に2枚ずつ取り出すとき,「赤1+白1」の発生確率は,
極端なケース(赤2)の何倍になる?
考え方
2. 一度に4枚ずつ取り出すとき,「赤2+白2」の発生確率は,
極端なケース(赤4)の何倍になる?
p.195
3. 一度に4枚ずつ取り出すときの極端なケース(赤4)の発生
確率は, 7枚ずつ取り出すときの極端なケース(赤7)の何
倍になる?
p.195

A1 テキストの予想確率の求め方
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6
理論的確率
 リスト: 起こりうる場合に占める割合
1.
22 = 4通り: 赤2 or 白2 = 1/4, 赤白 = 2/4  2倍
2.
24 = 16通り: 赤4 or 白4 = 1/16, 赤2白2 = 6/16, 赤3白1
or 白3赤1 = 4/16  6倍
3.
赤4 or 白4 = 1/24= 1/16, 赤7 or 白7 = 1/27 = 1/128
 %表示の予想確率は,6.25%,0.78%だから,8倍
 全部赤または白の予想確率は2倍の12.5%, 1.56%
Q2 アーティファクトの例
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7
米国3141郡の腎臓癌の出現率調査の結果をどう説明?

出現率の低い郡の大半は,中西・西・南部の人口密度の低い
農村部で,伝統的に共和党の地盤
田舎のきれいな環境のおかげ?
p.193

出現率の高い郡の大半は,中西・西・南部の人口密度の低い
農村部で,伝統的に共和党の地盤
田舎の貧しい環境のせい?
p.194
1.
2.
このアーティファクトの原因は?
Q1 & 小さな標本数
p.197
少数の法則 と 直感君の暴走
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8
 大数の法則の無理解への皮肉
p.201
 小さな標本数なのに,大数の法則が成立すると思い込む錯覚
少数の法則
Q1-2が,「単なる統計的事実」である理由

小標本による偶発事象であり,因果関係ではない
p.194-5
少数の法則が引き起こすバイアス
1.
2.
Q2: 因果関係のない,少数標本による偶発事象でも,
原因や因果関係を作り出す結論に飛びつく連想マシン<S6>
専門家でさえ小数の法則に陥る理由
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9
1.
知っていることを良く分かるには,知的努力が必要
p.197
2.
通常は,情報源の信頼性よりも報告内容に注目
p.202
1.
2.
直感君は信じたがり,熟慮様による疑いには注意・自制が必要
∴ 常に「疑うより信じたい」バイアス
p.203

自分が見た少ない観察例から,一貫しすぎる現実像 p.203
≒ハロー効果の働き: 断片情報  リッチなイメージ

∴ 規則性を偶発事象とは認めない傾向
p.205
意志や因果関係による?  進化: 原因・パターンの探索
3.
4.
Q3 知ってる or 理解している の 自己診断
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10
1.
人生で遭遇する大半のことはランダムだと思う?
p.208
2.
大数の法則を知っていても,よく理解していないとは?
p.197
3.
直近数時間に地域の病院で誕生した6人の赤ん坊の性
別,起こる確率の高い順は?
p.204
 1 MMMWWW, 2 WWWWWW, 3 MWMMWM
4.
ホットハンドとは? 存在する?
p.207
5.
良い学校は,平均的に小さい
p.209
という報告書の問題は?
2 数字に引き寄せられるアンカリング効果
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11
アンカリング(係留)効果
p.213
= 見積もる数値が,その前に示された特定値付近にとどまる
  示された特定値が錨のように見積もり値を係留させる

例: 国連に占めるアフリカ諸国の比率は?
 メモする数字と平均見積もり値: 10  25%, 65  45%

p.212
∴ <S6>プライミング効果のような暗示は,日常茶飯事!
 マーケティングや日常交渉でも多用・乱用  注意が必要

2種類のアンカリングのメカニズム
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1.
12
プライミングによるアンカリング効果  直感君
1. プライム  連想記憶: 高い(低い)温度なら夏(冬)関連語

2.
この探索された記憶をもとに,見積もる

2.
プライムを信じようが信じまいが,自動的に記憶を探索
最初のプライムは,根拠がなくとも偶然でも,アンカーになる
慎重な調整を伴うアンカリング
 熟慮様
1. 不確実だが一定の数値範囲を想起する  注意・自制
2. その一端に達すれば調整を終了  不十分な調整
Q4 2種類の効果
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13
アンカリングのメカニズムを説明できる?
1.
2.
3.
4.
5.
高速道路から一般道路に下りてからのスピード p.215
それは同乗者と話がはずんでいる場合にはどう変化?
伊藤博文が首相になったのはいつ?
p.216
それは高い認知負荷や飲酒時にはどう変化? 1885,44
ガンジーが亡くなったとき,144歳より上でしたか,下で
したか? 何歳で亡くなりましたか?
p.217, 78
1-4:
慎重な調整, 5: プライム
Q5 アンカリング率 A率
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14
アンカリング率
A (%表示) の定義 と テキストへの疑問
 A = 見積もり平均の差 ÷ アンカーの差 × 100
 国連のA = (45-25) ÷ (65-10) * 100 = 36% ≠ 44%
p.224
1.
2.
世界で最も高いアメリカ杉の質問
1. 1200ftより高い低い? どれぐらい? 844ft
2. 180ftより高い低い? どれぐらい?
282ft
 A = (844-282) / (1200-180) * 100 = 55%
海鳥救済寄付 A = 31% ≒ 30%
p.223
p.221
3 愚かなバイアス: 乱用 と 回避
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15
偶然によっても引き起こされるバイアス
1.

2.

小数の法則に基づく誤った原因・因果関係の説明
偶発事象にも,誤った原因や因果関係による説明を発明
アンカリングに基づくバイアスのある推定・判断
偶然のプライムによる暗示 や 偶然の環境による不十分な調整
日常的氾濫と意図的利用に対する注意の重要性
1.
2.
過少サンプルの統計分析やプライムは,日常茶飯事
さらに,意図的利用も多い  熟慮様による注意・自制
Q6 アンカリングの利用・乱用
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16
どのような効果?
1.
2.
3.
4.
5.
6.
そのためには,どんな水準に設定?
安売り店での標準価格表示
p.223
オークションでの予想落札価格
p.223
裁判官に,数字を印象づける
p.224
期間限定・数量制限を伴う特売
p.225
売り手による住宅価格の提示(先手の有利性)
p.225
賠償金額の上限額の設定
p.226
逆に,バイアスを回避するには,どうすればいい?
偶然の威力 と 自由意志
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17
人は自由なの?
1.
2.
3.
vs. 経済学や哲学の合理的経済人観
 意志が,無意識のうちに偶然に支配される現実
p.228
vs. 直感君の世界観: 原因や意志が作る一貫した物語
∴ 直感君も熟慮様も,認め難い事実: 偶然の威力
自由の費用:
1.
2.
3.
意志の自由を保つ熟慮様の機械費用
偶然に支配される自由
 バイアス
偶然を利用して人を踊らせる自由  マーケティング
そうした人に踊らされる自由
 バイアス
偶発事象によるバイアスの回避
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18
1.
統計的事実や数字を見たら,熟慮様の注意をオン: 合理性
1. サンプルの数と無作為性
 母集団との対比
2. 数字のアンカリング効果の認識  数字を無視する
2.
熟慮様のスキルを練習して磨く: アルゴリズム性
1. 統計学の基礎知識
but 知ってる ≠ 使える
2. 交渉術・ゲーム理論の基礎
p.225-6

3.
p.197
先手有利,席を立つ,反対の場合,最低費用,相手の損失費
用
ミクロ経済学は役立つ?
ただし,使えること!
本日の要点 & 次回への準備
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19
1.
偶然が引き起こすバイアスに注意
1. 統計的事実でも,原因を考える前に,サンプル数に注意
2. 先に数字を見たら,アンカリング効果の作用に注意
2.
その意図的な利用の場合には,熟慮様を稼働して反論
 テレビ・新聞の事実報道,日常や特に高額の買い物や交渉
次回準備: K(14) 序12-13 章 <S10> 利用可能性と感情と代表性
 <S2,7> 3ヒューリスティクス
 <S3> ベイズのルール
の使い方の復習開始  <S11>
知っていること と 使えること p.197
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20
1を「知っている」ことが,2を「理解している」とは限らない
1と2は同じ意味なのに,2の理解には知的努力が必要
1. 標本サイズが大きければ,小さい場合よりも正確
2. 標本サイズが小さいと,大きい場合より極端なケースが
生じやすい
 この知的努力の不足  専門家でさえ少数の法則

知っているには大きな幅:
聞いたことがある<ー->使える
理解を深めるには,実際に練習して使えることが重要