だから予算管理は重要!

東京MOT会 医療・バイオ分科会
~医薬品業界におけるR&Dのリスクマネジメントの事例~
2010年7月3日
自己紹介
 薬学系大学院卒業
 MBA取得(2010年3月)
職歴:
 現在は某大手外資系製薬会社勤務
※主な業務⇒なんでも屋です。一般的な会社で言うと経営企画に近い?
予算管理について
実務経験をもとに予算管理全般についてお話します。
予算管理とは?
予算管理の実際:イベントとタイミング
予算管理の実際:各イベントについて説明
予算管理の実際:評価
事業性評価、ポートフォリオ構築の考え方:前提(医薬品
業界の基本知識として医薬品業界を取り巻く環境につい
て)
 ポートフォリオ構築の考え方
 予算管理の実際:問題点
 最後に





予算管理とは:その①
みなさんは医薬品業界についてどのようなイメー
ジを持っていますか?
おそらくこんなイメージがあると思っています。
•景気に左右されない
•高収益でうらやましい
などなど
なぜ高収益なのか?
•ハイリスク・ハイリターンなビジネスモデル
•徹底したリスクマネジメント(特に予算管理、ポートフォ
リオ構築など)
予算管理とは:その②
 自社の現状から、目標を設定しその目標を達成させるための
コントロールと、結果に対する評価・対策までを行うことで
ある。
(目的)
 目標管理
⇒目標を設定し、その為の具体的アクションを設定する。
 目標達成のための管理
⇒予算と実績との差異や様々な経営指標を設定し、目標を達成
し、経営をコントロールする。
 コミュニケーションによる連携
⇒部門と密接にコミュニケーションをとることで、予算管理精
度を高める。
予算管理とは:その③
PLは何気なく数値が並んでいるものではありません!
PL
売上高
原価
粗利益
費用
営業利益
・
・
純利益
売上はコントロール出来ないが、原価
と費用はある程度コントロール可能
費用により利益は左右する!
費用減少:営業利益増加
費用増加:営業利益減少
だから予算管理は重要!
予算管理の実際:イベントとタイミング
1Q
予算通達
2Q
3Q
●
BP(Business Plan)
予算の見直し
部門報告からIR
部門報告
財務経理部により分析
CFO
上記の加え、毎月、月次で財務分析を行っている
IR
4Q
予算管理の実際:予算立案(予算通達)
CFOなど
例:R&D
コントローラー
各部門のサブ
コントローラー
研究
製造
臨床開発
①
各部の
基本組織長
各部の
基本組織長
各部の
基本組織長
各部のGM
各部のGM
各部のGM
各部員
各部員
各部員
①トップダウン
②ボトムアップ
②
③
予算管理の実際:BP(business plan)の作成
 予算通達と同じ方法により行う。
 各企業によって期間は様々であるが大体、5年から10年




後にどのようになっているか予想する。
BPでは直近数年についてはかなり慎重に見積もられる。
将来の予想については仮定のもとにおこなうが、仮定に
より大きく異なる。
楽観的、リスクを考慮してみる場合など複数パターン
行っている。
仮定はトップダウンで行われるべきである。
⇒個人的感想ですが、BPは数年から5年程度でいいと思い
ます。その理由は仮定により大きく異なり、あまり意味
がないから。
予算管理の実際:予算の見直し
 予算通達と同じ方法により行う。
 1Q、2Qは今期の予算の見直し、3Q、4Qは今期の見直し
に加えて、来期の予算を立てる(予算立案)。
 予算の見直しをすることにより、実績を確認しつつ、年末
の着地の精度を高めることが出来る。
⇒予算は削減するのが重要ではなく、精度を高めるのが重要
予算管理の実際:財務分析(月次、四半期決算、IR)
 業界平均では大体15日程度らしいが、弊社ではそれよりもか
なり早い。
 月次でやる目的は経営状態をいち早く知り(数字に表れてく
る!)、それに対処するため。
 四半期報告は月次と比較すると、かなり多くの分析を行う。
⇒経営陣、アナリストなどの質問に対し答えられるように。
予算管理の実際:評価
例)研究費(前のスライド参照)
2010年実績:122
期初予算:130
進捗率:92.3%
進捗率%
<90
90-95
95-105
105-110
<110
点数
0
2
5
2
0
医薬品業界を取り巻く環境:その①
先進国市場の成長の鈍化と発展途上国市場の急成長
(億ドル)
8,000
7,000
医薬品市場
6,000
5,000
6,489
6,635
637
585
1,838
2,062
日本
欧州
3,932
4,000
北米
535
3,000
528
2,000
その他
2,960
937
2,913
3,045
1,101
943
2006
2007
869
1,870
1,000
0
1,000
533
590
1996
2001
(年)
出所:IMS Health Market Prognosis
世界の医薬品市場は約2倍になっているのに対し、日本はほとんど変化なし。
近年における新興国の市場成長率は2ケタ成長で特に大きい。
医薬品業界を取り巻く環境:その②
後発医薬品の使用促進,薬価抑制などによる医療費の抑制
 後発医薬品の使用促進、薬価抑制により医療費を抑制しようとして
いる。
 このように医薬品業界は国の規制による介入を受けやすい。
 ただ、国内では未だに後発医薬品の使用があまり進んでいないため
影響はそれほど大きくはない。
 後発医薬品の使用が進んでいる米国では,後発医薬品のシェア(処
方箋ベース)は1980年代半ばでは20%程度であったが,2000年代
には50%を超えるようになり、後発医薬品が発売されることにより
売上は10分の1くらい低下する。
 ちなみに国内では,後発医薬品の使用促進のために、2012年度まで
に後発医薬品の数量シェアを現状の倍以上である30%まで引き上げ
ることとしている。
※「経済財政改革の基本方針2007」(2007年6月19日閣議決定)
 薬価改定は2年に1度行われる。長期収載品に至っては約6%も下が
る。
医薬品業界を取り巻く環境:その③
国際競争力の強化
 日米欧の成長率は低下してきている
 その上、大手外資系は大きな成長率の期待できない自国
のみではなく、世界中に事業を展開している。
 自国以外の諸外国で販売するにもその国で開発を行い,
承認を得る必要がある。
 そのため研究開発費,IT投資,マーケティング投資など
の巨額の費用と時間が必要である。
医薬品業界を取り巻く環境:その④
2010年問題
医薬品業界において2010年前後に大型医薬品の特許が一斉に切
れ,各製薬会社の収益に重大な影響をもたらすと考えられている
問題である。
(百万ドル)
50,000
43,096
2
0
0
7
年
売
上
合
計
42,771
40,000
30,000
27,412
19,585
20,000
10,736
9,474
2016-2017
2018-2019
ヒューミラ
クレストール
アバンディア
ゼチーア
アバスチン
スピリーバ
リリカ
バイアグラ
10,000
0
2008-2009
2010-2011
2012-2013
2014-2015
特許満了年(米国)
セレタイド
リスパダール
エフェクソール
タケプロン
トパマックス
ラミクタール
ハルナール
バルトレックス
リピトール
プラピックス
ジプレキサ
アクトス
コザール
タキソテール
アリセプト
クラビット
プロトニックス
ブロプレス
ディオバン
シングレア
ロベノックス
アバプロ
シンバルタ
エロキサチン
エンブレル
ネキシウム
レミケード
リツキサン
ハーセプチン
グリベック
ニューラスタ
プロクリット
ランタス
エポジェン
セレブレックス
アビリファイ
出所:国際医薬品情報(2008年4月28日)より作成
2007年度の世界上位50製品のうち2008~2013年までに24製品(合計
90,093百万ドル)の米国における特許期間が終了する。
医薬品業界を取り巻く環境:その⑤
研究開発費の高騰
(百万ドル)
5,000
4,082
一
社
あ
た
り
の
金
額
4,000
3,467
3,000
2,000
1,284
1,468
1,249
1,000
347
0
日本企業
米国企業
1998年度
欧州企業
日本企業
米国企業
欧州企業
2007年度
出所:Tomson Worldscopeより作成
米国では約2.7倍、欧州では約2.8倍国、国内では3.6倍にもなっている!
研究開発費が高騰している主な原因としては臨床試験規模の拡大,研究開
発要員の増加、ライセンシング、買収の活発化などである。
医薬品業界を取り巻く環境:その⑥
研究開発の期間の長さと成功確率の低下
開発期間:約7年から15年
1万分の1から
100万分の1
基礎
研究
10~
30%
PhaseⅠ
30~
70%
PhaseⅡ
70%以上
PhaseⅢ
市販後調
査
臨床開発領域
PhaseⅠ:少数の健常人
PhaseⅡ:対象患者によ
る薬物容量反応性試験
PhaseⅢ:標準療法との
比較試験
※特許期限は20年
医薬品業界を取り巻く環境:その⑦
製薬会社のパイプラインの起源と承認されたNME
(%)
100%
90%
25%
26%
27%
12%
11%
10%
6%
5%
80%
研
究
開
発
品
目
の
構
成
比
70%
60%
12%
導入品(BV)
買収BV起源
50%
導入品(Non-BV)
40%
自社起源
30%
52%
57%
58%
米国企業
欧州企業
20%
10%
0%
日本企業
注:前臨床から承認までの品目
BV:創薬ベンチャー
Non-BV:創薬ベンチャー以外(主として製薬企業)
出所:Pharmaprojects(2009.1)
•自社起源のパイプラインは約50%である、買収、導入品も多い。
•1990年代後半から新しい化学物質(NME:New Molecule Entry)の承認数が減ってきてい
る。ちなみにFDAの資料によると、1996~2000年では平均37個だった承認数が,2001~
2005年では平均22個となっている。またIMSヘルスによると、2009年に上市予定の新しい
化学物質はわずか25~30である。
医薬品業界を取り巻く環境:その⑧
ドラッグ・ラグ
•国内と海外で新薬を使用できる開始と終了の共通時間の差の
ことをいう。
•医薬産業政策研究所が2000年から2006年の承認薬54品目に
ついて調べた結果であるが、国内は欧米に比べて治験期間で
1.5年、承認審査は0.5年長い。それに加え、治験に着手する
時期が1.9年から2.7年も遅い。
•ドラッグ・ラグ主な原因としては国内よりも米国の市場の方
が大きいために米国市場での開発が先行する,国内での治験
着手の時間がかかる、食品医薬品局(FDA:Food and Drug
Administration)と比較して審査員が少ないことなどである。
医薬品業界を取り巻く環境:その⑨
新薬開発のステージの変化
医薬品業界を取り巻く環境:その⑩
アンメット・メディカル・ニーズに応える革新的新薬の創出
薬剤貢献度と治療満足度がともに高い:
H2ブロッカーやプロントンポンプ阻害薬の開発により手術が不要となった消化性潰瘍、トレプ
トマイシンの開発により不治の病ではなくなった結核
薬剤貢献度と治療満足度がともに低い:
アルツハイマー病や糖尿病の三大合併症(腎症,網膜症,神経障害)、エイズなど
医薬品業界を取り巻く環境:その⑪
複合的要因(例)
医療費(薬価)抑制により日本の医薬品市場の成長率は非常に低い(ほぼ0%)
 大手外資系製薬会社の参入による競争の激化
 日本は海外に比べて開発に着手するのに時間もコストもかかる。承認審査にかかる時間
もかかる(ドラッグラグ:海外と比較して4年半程度遅い)

日本市場における魅力が低下している
日本において新薬の開発が少なくなる
患者の手によい薬が提供されなくなる(未承認薬問題)
⇒日本の患者にとってはとっても不利益!
医薬品業界を取り巻く環境:その⑫
リスクファクターの設計ポイント
営業利益
販売数量
パブリックリスク
①セミマクロ
業界景気
商慣行
業界規制
②マクロ
政治的
法規制
税制
技術的
技術革新
24
経済的
景気、インフレ、為
替、金利
社会的
人口動態
成熟度
コスト率
価格
プライベートリスク
R&D
財務体質
シェア
設備投資
知的財産
ブランド
戦略
出所)野村証券(株)金融工学研究センタ―資
料より筆者作成
医薬品業界を取り巻く環境:その⑬
まとめ
•医薬品業界は規制当局による介入を受ける
•特許が切れると売上が減少するためそれを上回るだけの新薬
パイプラインを持たなければならないが、研究開発の成功確
率の低下、新薬開発のステージの変化、アンメット・メディ
カル・ニーズなどにより難しくなってきている。
•医薬品を取り巻く環境の変化によりとりうる戦略は変化する。
製薬会社の企業価値の大部分はR&Dの価値であるといえる。
その中でも特に重要なのがポートフォリオマネジメントである!
ポートフォリオマネジメント手法
シナリオ・前提条件
売り上げ・コスト予測
事業性評価
ポートフォリオ分析
ポートフォリオマネジメント手法
事業性評価:NPV(Net Present Value:正味現在価値)
•NPVとは将来得られるフフリーキャッシュフローの現在価値から元本を差し引き、正味でプラ
スかマイナスかを考える指標である。
Ex)500億円を事業開始時点で投資し、投資後5年間のフリーキャッシュフローに基づいて、事
業性を考えてみる。
年度
0
1
2
3
4
5
累計
投資額との差し引き
-500
110
121
133.1
146.4
161.1
671.6
171.6
WACCで割り引く(ここでは10%)
WACC:加重平均資本コスト
年度
0
1
2
3
4
5
累計
投資額との差し引き
-500
100
100
100
100
100
500
0
差額
10
21
33.1
46.4
61.1
計算例)(n年後のキャッシュフローの現在価値)=(n年後のキャッシュフロー)/{(1+WACC)^2}
1年目:110/(1+0.1) 年々、差額が増加しており、期間が長くなればなるほど大きくなる。
長期間の評価の場合は、会計上の数値のみに限らず、NPVがお薦め!
ポートフォリオマネジメント手法
事業性評価:開発短縮の効果とインパクト(ケース:その①)
開発期間の短縮または遅延によるNPVの変化を調べる。
(条件)
以下の5つの場合を想定する。全ての場合について割引率は6.5%とし、製品発売
後の5年間のキャッシュフローを考慮することとする。また、計画案での開発費は
年間3億円、発売後は1年から3年後までは年間10億円ずつ増加し、その後は1000億
ずつ減少する想定とする。
① 現行計画案:2006,2007年の2年間を開発期間とし2008年に発売開始
② 開発期間短縮案:1年間前倒しで、2007年に発売開始。開発費の金額は期間短
縮のため計画案の2年分を1年間に投資し、発売開始後のキャッシュフローは
現行計画案と同じ金額が1年前倒しになると想定
③ 発売が1年前倒しになったことにより、競合他社に先駆けることができ、発売
開始後のキャッシュフローが②より30%増加したと想定した場合。(開発費は
2と同じ)
④ 開発遅延ケース;発売が2009年からとなった場合(発売開始後のキャッシュ
フローは、現行計画案と同じ金額が1年遅れて発生すると想定)
⑤ 発売が1年遅れたことにより、マーケットシェアが上がらず、販売会諸語の
キャッシュフローが⑤よりも30%減少したと想定した場合
ポートフォリオマネジメント手法
事業性評価:開発短縮の効果とインパクト(ケース:その②)
①計画案
キャッシュフロー
NPV/年度
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
5,894
-300
-300
1,000
2,000
3,000
2,000
1,000
②開発期間短縮案:1年前倒しで2007年に発売開始、キャッシュフローは計画案と同じ、開発コストは2年分が1年で発生すると想定
キャッシュフロー
NPV/年度
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
6,326
-600
1,000
2,000
3,000
2,000
1,000
0
③開発が1年前倒しになったことにより、競合他社に先駆けることができ、毎年のキャッシュフローが②より30%増加した場合
キャッシュフロー
NPV/年度
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
8,392
-600
1,300
2,600
3,900
2,600
1,300
0
④開発遅延ケース:発売が2009年からとなった場合
キャッシュフロー
NPV/年度
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
5,228
-300
-300
-300
1,000
2,000
3,000
2,000
1,000
⑤発売が1年遅れたことにより、マーケットシェアが上がらず、毎年のキャッシュフローが④よりも30%したと場合
キャッシュフロー
NPV/年度
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
3,423
-300
-300
-300
700
1,400
2,100
1,400
700
ポートフォリオマネジメント手法
事業性評価:DCF(Discount Cash Flow)法
•DCF法とは、時系列に予測された将来キャッシュフローを
現在の割引価値に戻し(割引キャッシュフロー)、割引キャッ
シュフローを累積して現在価値を求める方法である。
※上市後の累積キャッシュフローを評価資料とする場合もある
•利点:将来における様々なタイミングで得られるカネを単一の
数値で比較できる。
•問題点:開発品プロジェクトに対する要求利回りといえる。ま
た、DCF法のキャッシュフローの前提は開発が成功し、上市す
ることが前提であるため、開発失敗の不確実性が考慮されてい
ない。
⇒開発失敗の不確実性が考慮されていない点については次の
ディシジョンツリー・アナリシスで対処できる。
ポートフォリオマネジメント手法
事業性評価:ディシジョンツリー・アナリシス
•開発品プロジェクトの将来予測においては、複数の選択肢があ
るというのがあるのが通例
例1)開発途中で失敗し、開発を中止するシナリオ
例2)開発途中で導出するシナリオ
例3)上市したあと、共同販売するシナリオ
※シナリオ検討の一連のプロセスを「フレーミング」という。
フレーミングは意思決定プロセスの最初の工程で最も重要なプ
ロセスである。
フレーミング
シナリオ計
画
モデルの設
計
データの収
集
シミュレー
ション
決定
ポートフォリオマネジメント手法
事業性評価:ディシジョンツリー・アナリシス(ケース:その①)
開発の不確実性を反映した期待的価値の算出例
NPV:
928.61
40.0
%
P1成功:
2,771.52
P1失敗:
60.0
%
70.0
%
-300.00
P2a成功:
4,473.60
P2a失敗:
30.0
%
80.0
%
-1,200.00
P2b成功:
6,042.00
P2b失敗:
20.0
%
90.0
%
-1,800.00
95.0
%
P3成功:
6,980.00
7,500.00
NDA失敗
P3失敗:
10.0
%
上市:
5.0%
2,900.00
-2,400.00
(単位:百万円)
•各フェーズの確率による分岐を掛け合わせることにより開発の不確実性も反映した開
発品プロジェクトの期待的価値が求められる。
計算例)上市成功の場合:上市成功のNPV(75億円)×NDA成功の確率(95%)×P2b成功の
確率(80%)×P2a成功の確率(70%)×P1成功の確率(40%)=14.26億円
最終結果の上市成功の場合と失敗の5つの例のNPVの期待値を足すと928.61になる。
※注)実際の開発品プロジェクトは6つの例のうちのいずれのシナリオに終わるため、
期待的価値自体は起こり得ない値である。ただ、開発の成功、失敗によって全体価値が
大きく変わる開発品の特性を反映した指標であることから最終的な評価指標として用い
られている。
ポートフォリオマネジメント手法
事業性評価:リアルオプション(Real Option)
•リアルオプションとは、最も広い意味でいうと、金融工学で使われるオプション価格付け理論
を、金融以外に応用したもの。
•リアル・オプションのエッセンスは、「不確実性下で不可逆な意思決定を行う経済主体がその
決定を先延ばしにできる自由度の価値」です。
•将来が不確実なのに、何か後戻りできない意思決定をしなければならないとき、これを先延ば
しにできれば、決定を遅らせることで、より多くの情報を得て、より適切な意思決定ができる
と期待される。つまり、将来が確実な場合に比べ、将来が不確実な場合は意思決定を待つイン
センティブが生じる。
医薬品開発事業・
バイオベンチャー
事業の不確実性が高い
開発に多額の資金または時間を有する
経営上のオプションがある
投資機会が独占できる
契約型のビジネスである
段階的な開発プロセスを持つ
業界データが豊富である
事業資産が市場で活発に取引されている
知的資産の経済価値を評価するのに適している
(総合評価)
○
○
○
(撤退オプション、
段階オプション)
天然資源採掘事業
不動産開発、大規模
開発事業、資本集約
的事業(鉄道・航空)
ベンチャー・キャピタル
電力・ガス事業
事業
○
○
○
(段階オプション、
縮小オプション)
△
○
○
○
×
○
○
○
(段階オプション、
縮小オプション、
事業停止・再開オプ
ション、
撤退オプション)
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
(段階投資オプション、 (段階投資オプション、
撤退オプション)
撤退オプション)
○
○
○
×
×
△~○
○
○
×
×
△
○
○
○
○
○
○
○
○
○
医薬品業界における開発ではリアルオプションは重要である!
ポートフォリオマネジメント手法
事業性評価:リアルオプション(ケース①)
ディシジョンツリー・アナリシスの例:
上市まで100億円の開発費、上市すると650億円の利益が見込まれているとする。その
成功確率は12%とする。
発生確率
期待値
期待利益値
利益期待値:
12.0
%
-1,000.00
88.0%
上市成功
12.0%
7,800.00
65,000.00
88.0%
-8,800.00
-10,000.00
開発失敗
(単位:百万円)
•ではここで、リアルオプションの例を考えてみる。現在、第2相試験を開始したとして、
第2相試験に30億円の投資を実行する。第2相試験の結果によって第3相試験に70億円を
投資するかどうかをはんだんするとし、第3相試験が成功した場合には上市されて650
億の利益(現在価値ベース)が発生することとする。第2相試験の成功確率を30%、第3
相試験の成功確率を40%とするとどのようになるだろうか?
※上市に至る成功確率・開発費・上市された場合の利益は1つ前のスライドと同じ条件。
ポートフォリオマネジメント手法
事業性評価:リアルオプション(ケース①)
リアルオプションの例:
上市まで100億円の開発費、上市すると650億円の利益が見込まれているとする。その
成功確率は12%とする。
発生確率
20,000.00
20,000.00
30.0
利益期待値: %
P2成功
3,900.00
70.0
%
40.0
%
P3成功
P3投資
60.0
P3投資せず %
P3失敗
期待値
期待利益値
P3成功
12.0%
7,800.00
65,000.00
P3失敗
18.0%
-1,800.00
-10,000.00
P3投資せず
0.0%
0.00
-3,000.00
P3投資せず
70.0%
-2,100.00
-3,000.00
P2失敗
(単位:百万円)
ディシジョンツリー・アナリシスでは利益期待値は-10億円となり開発は
中止されるが、このようにオプション価値を加えることによって利益期待
値は39億円となり、投資する方がよいという結果になる。
ポートフォリオマネジメント手法
事業性評価:まとめ
 外資系大手本社ではRO法を用いているところが多い。
 国内では古典的なNPVやROIを使いつつ、次の
investment decisionまでのコストとシナリオ分析を
行っている。日本ではこれに加え、独自にMonte
Carloなどを用いてリスク分析をしている。
 リアル・オプション法による価値は最終的にいくらに
なるかわかりずらく、そもそもいけいけどんどんの
CEOには不要。
 リアル・オプション法はリスクを過大評価して投資の
意思決定に踏み切れない経営者には有効である。
ポートフォリオマネジメント手法
ポートフォリオ構築の考え方:その①
ケースは中外製薬(親会社のロシュも含む)
中外製薬がロシュグループ入りした当時(2002年)と
現在のポートフォリオの比較をし、定性的に分析する。
ポートフォリオマネジメント手法
ポートフォリオ構築の考え方:その②
ロシュ社とは
本社:スイスのバーゼル
事業:
医薬品ならびに診断薬事業の双方に強みを持つ研究開発型の世界的ヘルスケア
企業である。
得意領域:
がん、ウイルス感染症、炎症、代謝ならびに中枢神経系領域において他社と一
線を画した薬剤を保有する世界最大のバイオテクノロジー企業である。さらに
ロシュ社は、体外診断薬、がんの組織学的診断、糖尿病管理のパイオニアとし
て世界的リーダーとなっている。
社員数:
世界各国に約80,000人の社員を擁し、研究開発費に約100億スイスフランを投資
している。ロシュ・グループの2009年の売上げは491億スイスフランでした。
ジェネンテック社(米国)は、100%子会社としてロシュ・グループのメンバー
となっている。また、ロシュ社は中外製薬(日本)の株式の過半数を保有して
いる。
ポートフォリオマネジメント手法
ポートフォリオ構築の考え方:その③
中外製薬とは
本社:日本橋(東京)
事業:
医薬品事業のみで抗体医薬に強みを持つ。
得意領域:
がん、腎、骨・関節領域において他社と一線を画した薬剤
を保有するバイオテクノロジー企業である。
社員数:
約6,000人の社員を擁し、研究開発費に約550億を投資して
いる。また、ロシュ社は中外製薬(日本)の株式の過半数
を保有している。
ポートフォリオマネジメント手法
ポートフォリオ構築の考え方:その④
開発パイプライン品日(2001年5月21日時点) 赤字:開発中止もしくは開発は成功しているが販売は行っていない。
開発領域
開発コード
予定適応症
オリジン(共同開発)
がん
CCS20267
閉経後乳がん
ノバルティスフアーマ(ノバルテイスフアーマ)
AHM
多発性骨髄腫
自社
O(海外)
CAL
高カルシウム血症、骨転移等
自社
O(海外)
ED-71
骨粗継症
自社
LY130481HCL
閉経後骨粗しょう症
日本イーライリリー(日本イーライリリー)
MRA
慢性関節リウマチ等
自社
MX-68
慢性関節リウマチ等
自社
AVS
くも膜下出血
自社
BO-653
PTCA後の再狭窄抑制等
自社
移植・免疫・
感染症
OCT
乾癬
自社
その他
GM-611
胃麻痺等
自社
FS-69
心控造影等
モレキュラーバイオシステムズ
PB-94
高リン血症
ジェルテックス(キリン・ビ―ル)
TA-270
喘息
大日本インキ(大日本インキ)
LYl10140
うつ病、うつ状態等
日本イーライリリー(日本イーライリリー
LY139603
注意欠陥・他動性障害(ADHD)
日本イーライリリー(日本イーライリリー
O
IC351
性機能障害
日本イーライリリー(日本イーライリリー
O
骨・関節
循環器
第Ⅰ相
第Ⅱ相
第Ⅲ相
申請中
O
O
O
O
O(海外)
O
O(海外)
O
O
O
O
O
O
ポートフォリオマネジメント手法
ポートフォリオ構築の考え方:その⑤
ポートフォリオマネジメント手法
ポートフォリオ構築の考え方:その⑥
中外製薬:領域別売上構成の比較
350
300
250
売 200
上
高 150
100
50
0
123.7
がん
57.6
24.2
22.5
57.1
61
42.4
67.1
2001
2009
年度
骨・関節
腎
その他
ポートフォリオマネジメント手法
ポートフォリオ構築の考え方:その⑦
領域
2001年度の製品
2009年度の製品
腎
エポジン、オキサロール
エポジン、オキサロール、レナ
ジェル
骨・関節
アルファロール、スベニー
ル
エビスタ、スベニール、アル
ファロール、アクテムラ
がん
ノイトロジン、タキソテー
ル、プレラン
アバスチン、ハーセプチン、リ
ツキサン、ノイトロジン、カイ
トリル、ゼローダ、タルセバ、
フェマーラ
移植・免疫・感染
症領域
その他
ペガシス、コペガス、ロセフィ
ン、セルセプト
シグマート、リスモダン、
アルサルミン、アモバン、
グリセオール、ケイテン、
ピシバニール
シグマート
2009年度 青字:他社導入品 赤字:ロシュからの導入品
ポートフォリオマネジメント手法
ポートフォリオ構築の考え方:その⑧
ポートフォリオの比較のまとめ
•重点領域に注力している
⇒リスク分散をするのではなく、より得意な領域に注力するこ
とでリスクを減らし、シナジー効果を高めるため。
•がん製品のポートフォリオ拡大を中心にしている
⇒抗体医薬を中心にアンメットメディカルニーズを満たすため。
他社大手では高くても10%~20%程度。特に国内大手は参入に
遅れたため、近年、M&Aにより技術やパイプラインを拡充して
いる。
•新規領域への参入
⇒糖尿病、精神疾患領域に参入。その理由は?
ポートフォリオマネジメント手法
ポートフォリオ構築の考え方:その⑨
•新規領域への参入
⇒糖尿病、精神疾患領域に参入。その理由は?
メリット:
•市場が大きい
糖尿病
国内2,500億円、海外2兆円(2007年)
精神疾患 国内4,800億円、海外6兆円(2007年)
•アンメット・メディカル・ニーズ
デメリット:
•開発の成功確率が低い
•既にある程度の市場があり、競争が激しく、後手に回る⇒逆に言うとある程
度のシェアを奪えばメリットにもなる。
ポートフォリオマネジメント手法
ポートフォリオ構築の考え方:その⑩
リスク評価
要因
内容
スコア
薬の特性
有効性、安全性、投与経路、製剤など
(first in class、best in class)
5
開発
研究および臨床開発の難しさ(ノウハ
ウの有無)
2
他社の類似製品との薬の特性の比較
4
マーケット規模
3
他社との競争(開発進度、差別化)
4
戦略面
重点領域に合致しているか
4
その他
費用・リソース
4
製薬会社としての使命
2~5
新薬価制度のため
2~5
マーケット性
スコアについては5のほうが影響が大きい
ポートフォリオマネジメント手法
ポートフォリオ構築の考え方:その⑪
最後にまとめ
• 製薬業界の企業価値の大部分はR&Dが占め、その中でも重要
だと言われているのがポートフォリオ構築である。
• ポートフォリオ構築は企業戦略に沿ったものである。
• 一般的にポートフォリオはいろいろな種類にした方がリスク
分散になりよいという考えはあるが、製薬会社の多くは専門
領域を絞り、得意領域に注力することによりリスクを減らし、
シナジーを得ている。
• ただ、重点領域だけではダメで、徐々に領域を広げていくべ
きである。
• リスクは非常に高く、リスクを減らすことは重要ではあるが、
ある程度のリスクをとらなければなかない。その時のウエイ
トはリスクが高いことから20から30%以下にすべきである。
次回の医療・バイオ分科会の予定
• しばらく間隔をあけて秋か年末くらいに開催予定。希望者多
数なら時期は早めることは考えますが講演者の都合を優先し
ます
• 現時点での講演者予定:3名了解をいただいています
※1
※2
※3
大手外資系医療機器 ビジネスデベロップメント部部長
国内大手製薬会社 臨床開発部戦略企画
外資系大手製薬会社 新製品企画部部長
• 医療に興味のある方は“医療関係の交流会&勉強会”にも是非参
加して下さい!
おしまい
ありがとうございました
Twitter ID;hirajun72
予算管理の実際:問題点
医薬品業界を取り巻く環境の厳しさ
 売上:競合品や後発品、需要の変化などにより売上を予測す
ることが難しい。
 原価、生産:生産計画とのずれ。
 目標達成のための管理
⇒予算と実績との差異や様々な経営指標を設定し、目標を達成
し、経営をコントロールする。
 コミュニケーションによる連携
⇒部門と密接にコミュニケーションをとることで、予算管理精
度を高める。