静電斥力(DLVO理論)

2015.10.27
実用濃厚スラリーでの分散設計
〜分散安定化とぬれの考え方〜
小林分散技研/東京理科大学客員教授
小林 敏勝
微粒子懸濁液の基本的性質
~沈降速度・拡散速度~
1秒間の移動距離: 粒子は酸化チタン(ρ=4)、液相はρ0=1,η=10mPa・s)として計算
粒子半径 a
100μm 10μm
1μm
100nm
10nm
1nm
沈降距離
6.5
mm
65
μm
650
nm
6.5
nm
65
pm
6.5
fm
ブラウン運動
21
nm
66
nm
210
nm
660
nm
2.1
μm
6.6
μm
(平均移動距離)
Stokesの沈降式
Einstein-Stokesの拡散式
kT
6a
D
ν;沈降速度 a;粒子半径 ρ;粒子比重
ρ 0;液比重 η;液粘度 g;重力加速度
平均自乗移動距離=(2Dt)1/2
D;拡散係数 k; Bolzman定数 T;絶対温度
フロキュレートの形成と流動性
分散された粒子が液相中で緩い力で
凝集した構造体をフロキュレートと呼ぶ。
構造体を破壊できるだけの力を加えないと、
分散液は流動しない。
分散安定化の問題である。
フロキュレート模式図
フロキュレート有
フロキュレート無
楠本化成Disparlonカタログより
離漿(Syneresis)
フロキュレートの網目が縮まって一
部の連続相が押し出された状態
分散安定化の考え方
顔料表面に障壁を形成
障壁を挟んで接近
障壁に阻まれ離散
粒子分散安定化に関する理論
熱拡散や粒子間引力で粒子が接近した時の
1.静電斥力(DLVO理論)
2.高分子吸着による立体障害
静電荷による安定化のメカニズム
(DLVO 理論)
表面電荷
正電荷イオン
+
+
+++
+
+
+
+
+
+
+
負電荷イオン
+
粒子
+
+ +
+
すべり面
++
+
+
+
デバイ距離;1/κ
電気二重層の広がりの程度を
表すパラメーター
ψ

表面電位ψ0
ζ電位
ψ0/e
0
1/κ
x
粒子周りの電気二重層と
二重層電位ψの模式図
2
2
2e n 0 z
 r  0 kT
e;電気素量,n0;電解質のモル濃度,
z;電解質のイオン価,εr;比誘電率,
ε0;真空の誘電率,k;ボルツマン定数,
T;絶対温度
各種粒子のHamaker定数
〜水中とトルエン中での計算値〜
VA  
A121 

A121a
12h
A11 
粒子
粒子名
酸化チタン(ルチル)
A22

2
VA:粒子間引力ポテンシャル
a:粒子径、h:粒子表面間距離
A121
トルエン
(A22=10)中
水(A22=4)中
A11
25
9
3.2
16.4
4
0.64
カーボンブラック
99
64
46.2
ポリスチレン
6.2
0.25
-
ヘキサン
5.5
0.12
-
酸化鉄
A11,A22は真空中での同種物質間のHamaker定数
単位 10-20J
出典:http://eng-book.com
静電荷による安定化
(DLVO 理論)
•Van der Waals 引力
•静電斥力
バランス
粒子の持つエネルギーが
Vmaxより低ければ
分散系は安定
VR  2r  0 a 0 exp( h )
VA  
A121a
12 h
VA;固体粒子間>>液滴間(エマルション)
実用水性塗料で、静電荷による安定化
を使おうとすると
電気二重層の厚さは (イオン強度)1/2に反比例
イオン強度
(mol•dm-3)
粒子の体
積濃度 (%)
DLVO 理論でよく取
り扱われる系
10-5-10-3
< 0.1
自動車用水性塗料
の一例
1
5 - 30
イオン強度 高
実際の塗料系では、電気二重層は薄いし
粒子間距離は小さい
工業的に実用可能な系では、静電斥力だけによる分
散安定化は多くの場合困難である。
濃厚スラリーで静電斥力により
分散安定化を図ろうとする場合の留意点
1.
2.
3.
4.
表面電位は十分に高いか
イオン濃度は十分希薄であるか(多価イオン)
粒子濃度は十分希薄であるか
異種電荷の粒子が共存しないか
分散安定化の考え方
顔料表面に障壁を形成
障壁を挟んで接近
障壁に阻まれ離散
粒子分散安定化に関する理論
熱拡散や粒子間引力で粒子が接近した時の
1.静電斥力(DLVO理論)
2.高分子吸着による立体障害
高分子吸着による分散安定化のメカニズム
①浸透圧の発生
②高分子鎖の圧縮
高分子鎖の相互進入
による濃度の上昇
圧縮された鎖が
安定状態に拡が
ろうとする力
粒子分散の単位過程
乾粉からの粒子分散
ぬれ
再凝集
機械的解砕
安定化
+
ぬれに影響する因子
*凝集粒子間の微小隙間を毛細管に近似
Washburn 式
粒子凝集体の幾何学的因子
ビヒクルの性質
2
t=
k l
R
2
・
2η
γ
L
cosθ
粒子とビヒクルの親和性
t: 浸透時間 l: 毛細管の長さ
R: 毛細管半径
η: ビヒクル粘度
γ :ビヒクルの表面張力 θ: 接触角
L
良親媒性かつ凝集隙間の 大きい粒子を選択すれば良い
接触角と毛細管内メニスカスの形状
L
S

 SL
 L cos 
θ<90°
θ>90°
拡張ぬれ
S L
 SL
拡張ぬれの起こる条件は
 S   SL   L
Duprè式  S   L  2WSL   SL に
付着仕事の近似WSL   s L を適用すると、
結局
固体名
s L
<液体と固体の表面張力例>
液体名
表面張力
有
機
固
体
mN/m
表面張力
mN/m
テフロン
18
ポリプロピレン
29
ポリスチレン
36
PET
43
エポキシ
47
銅フタロシアニン(顔料)
47
51
ヘキサン
18
チオインジゴレッド(顔料)
エタノール
23
カオリン
170
アセトン
23
酸化鉄
1400
ブチセロ
27
トルエン
29
水
73
無
機
固
体
銀
900
銅
1100
ニッケル
1700
ぬれは上と下の表面張力の
相対的な大きさで決まる
拡張ぬれ;海面に浮かんだ油
付着ぬれ;油の上の水滴
ぬれの過程は溶剤系では基本的に意識しなくても構わないが、
水性系では常に念頭に置く必要がある。
粒子分散における三成分間の親和性
高分子
低:吸着不良
疎水性相互作用 酸塩基
(水系)
(溶剤系)
粒子
SP
表面張力(SP)
高:吸着阻害
低:溶解性不良
溶剤
高:吸着阻害
低:ぬれ不良
SP;Solubility Parameter(溶解性パラメーター)
高分子の粒子への吸着形態と各部の名称
分散剤の場合の呼称
溶媒和部
テール部
ループ部
アンカー部
トレイン部
粒子
アンカー分布と分散性
分散効果有り
ある程度の長さが必用
=高分子
(a)
溶媒和部
(c)
アンカー部
粒子
アンカー部が一つ
(b)
複数のアンカーがランダムに存在
橋架け凝集を生じることがある
分子設計された高分子分散剤
分散剤のアンカー部を構成する代表的な官能基
有機溶
剤系
水性系
酸性
カルボキシル基
リン酸基
スルホン酸基
塩基性
脂肪族アミノ基
芳香族アミノ基
4級アンモニウム基
疎水性
長鎖アルキル基
フェニル基
ナフチル基
芳香族アミノ基
分散剤
• 低分子分散剤(界面活性剤)
• アニオン型、カチオン型、ノニオン型
• 固/液分散では界面張力を低下させる役割
• 分子量が小さいので分散安定化は不十分
• 高分子分散剤(ホモポリマー、ランダムポリマー)
• PVA, CMC, SMA, PAA, etc.
• 分子中にアンカー部と溶媒和部がランダムに分布
• 橋架け吸着、吸着形態が変化しやすい
• 高分子分散剤(ブロックポリマー)
•
•
•
•
ポリエステル、ポリウレタン、アクリル
アンカー部と溶媒和部がブロック化
直鎖型、くし型、etc.
優れた分散安定性(多点吸着、橋架け吸着しにくい)
御清聴ありがとうございました
小林分散技研/東京理科大学客員教授
小林 敏勝
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