公開講演会用要旨

公開講演会用要旨
軟サンゴフトウネタケ抽出物(MC-1)の抗炎症、抗アレルギー性皮膚炎
作用発現メカニズムの解析
崔 学
柱
【目 的】
日本をはじめとする先進国では、産業の発展に伴う大気汚染、食生活や生活環境の変化によ
るアレルギー疾患の有病率が増加しており、韓国も産業化と都市化などの影響で、大人の喘息と
アトピー患者数は毎年増加している。アレルギーは、再発が頻繁で症状が悪化すると、通常の社
会活動に制約が生じるだけでなく、長期の通院や入院治療が必要となる。このように、韓国や日
本など多くの国々でアトピー、喘息などアレルギー性疾患の増加が大きな社会問題になっている。
現在までに知られているアトピー性皮膚炎の治療に使用されている薬にはステロイド剤や抗ヒス
タミン剤の塗布、及び、その服用の他、免疫抑制剤が使用されており、ほとんどはステロイド剤
で、大量または長期間の使用により全身的には副腎皮質機能低下、局所的には皮膚萎縮、毛細血
管拡張など重篤な副作用を起こす可能性が高く、安全性に問題がある。そこで、これらステロイ
ド剤に代わる副作用の少ない伝統的漢方薬や天然物からアレルギー性炎症を抑制する物質を単
離、同定し、アトピーなど炎症性の疾患の治療に有効な生物応答調節(BRM)剤の開発が望まれ
ている。本研究では、沖縄県沿岸に生息する軟サンゴフトウネタケ(Lobopytum crassum)のノ
ルマルヘキサン抽出物(以下、MC-1)を使用し、MC-1 の抗炎症、抗アレルギー作用発現メカニ
ズムを in vitro と in vivo で解析した
【方 法】
In vitro
細胞実験はマウスマクロファージ由来細胞株である Raw264.7 細胞を LPS で刺激し、ROS 消去
能、NO 生成量、サイトカイン(IL-1β, IL-6, IL-10, IL-13, MCP-1, TNF-α)を ELISA で定量した。さらに
IL-1β, IL-6, TNF-α のmRNA 発現を測定した。ヒト T 細胞株である Jurkat 細胞では IL-4, IL-5, TNFα、 IFN-γ を ELISA で定量した。ヒト単球細胞株である THP-1 細胞とヒト好酸球細胞株である
EoL-1 細胞で IL-6, IL-8, MCP-1 を ELISA で定量した。
In vivo
実験動物にはオス 6 週齢の NC/Nga マウスを使用した。 本実験は大田大学動物実験倫理委員会
(IACUC:Institutional Animal Care and Use Committee) の承認を受けた(DJUARB2010-027)。7 週齢
になった NC/ Nga マウスの背部を脱毛した後、皮膚の微細傷治癒のため、24 時間放置した。 1%
House dust mite (HDM) 溶液 200 µl を塗布し(アセトン:オリーブオイル=3:1)
、4 日後に 0.4% HDM
溶液 150 µl を再塗布し、2 日後から 1 週間に 3 回 0.4% HDM 溶液 150 µl を 3 週間塗布した。実験
は、4 つの群に分けて、通常群、対照群には蒸留水を、実験群である MC-1 投与群は 200 mg/kg、
400 mg/ kg の濃度で 3 週間毎日経口投与した。
実験終了後、臨床的肉眼薬効評価、肝臓機能検査、腎臓機能検査、血清中サイトカイン(IL-6,
IL-13, TNF-α)の定量 、 血清中免疫グロブリン (IgG1, IgE)の定量、蛍光フローサイトメトリー
(anti-CD4-FITC, anti-CD11b-FITC, anti-CD69-FITC, anti-CD3-PE, anti-CD8-PE, anti-Gr-1-PE) 分析を
血液中、リンパ節、背中の皮膚について行った。さらに、血液中の白血球や好中球、リンパ、単
球の含有量を計測した。また、皮膚組織から hematoxyline/ eosin (H&E) 染色および肥満細胞 (mast
cells)を染色する toluidine blue 染色を実施して、組織内の肥満細胞の浸潤を観察した。
実験データは mean±standard error (S.E.)で表示し、有意性の検証は、Student's t-test 分析法を用
いた。
【結 果】
各種培養細胞株に対する MC-1 の細胞増殖阻害活性を検討した結果、MC-1 は全ての細胞株に
対し、2µg/ml 濃度で細胞増殖に影響を与えなかったが、THP-1 細胞と EoL 細胞に対しては
4µg/ml、Raw264.7 細胞と Jurkat 細胞に対しては、8µg/ml の濃度で細胞増殖阻害活性を示した。
次に、各種培養細胞に対する MC-1 の抗酸化、抗炎症活性を評価した。マウスマクロファージ由
来細胞株である Raw264.7 細胞を LPS で刺激し、産生した ROS と NO 生成抑制活性を検討した
結果、MC-1 は濃度依存的な産生抑制活性を示した。また、MC-1 は炎症や発熱を起こし、リンパ
球や好中球などを活性化する IL-1βの産生に対し、ELISA 測定と mRNA 発現解析により、濃度依
存的な抑制活性を有することが確認された。また、MC-1 は LPS 刺激による Raw264.7 細胞での
IL-13 産生を抑制した。更に、MC-1 は単球、マクロファージ、血管内皮細胞において、IL-6, IL-8
などの産生を誘導し、細胞膜表面の TNF-α receptor に結合して炎症をおこす TNF-αの産生と
TNF-α mRNA の発現を Raw264.7 細胞及び Jurkat 細胞株に対し著しく抑制した。ヒト T 細胞株
である Jurkat 細胞に対し、MC-1 は IL-4,L-5 の産生を著しく抑制した。一方、IgE の産生を抑制
する INF-λの産生は促進した。MC-1 は Raw264.7 細胞で IL-6 の産生や IL-6 の mRNA 発現を抑
制した。また、ヒト単球細胞株である THP-1 細胞とヒト好酸球細胞株である EoL-1 細胞で、濃
度依存的に IL-6 の産生を抑制した。MC-1 はヒト単球細胞株である THP-1 細胞に対して、
4µg/ml
濃度で有意な IL-8 の産生抑制活性を示し、MCP-1 の分泌は全濃度で有意な抑制を示した。ヒト
好酸球細胞株である EoL-1 細胞に対しても、THP-1 細胞と同様に IL-8 は 4µg/ml 濃度で有意な産
生抑制活性を示し、MCP-1 の分泌は全ての濃度で抑制する傾向を示した。以上の実験結果より、
MC-1 が炎症関連細胞群に対し、炎症性サイトカインやケモカインの産生抑制効果を介して抗炎
症、抗アレルギー作用を示すことが示唆された。
次に、屋内塵性ダニ (HDM) 粉末を背部皮膚に塗布して誘起した皮膚炎 NC/Nga マウスを用
い、MC-1 の抗炎症作用と作用機序を解析した。MC-1 の経口投与により、 臨床的肉眼薬効評価
では MC-1 投与群で対照群に比べて 紅斑、浮腫、痂皮、苔癬化などの症状が顕著に抑制された。
MC-1 の毒性については、肝機能指標である ALT は正常群との差は認められなかったが、AST 数
値は、投与量の増加により若干増加することが確認された。腎臓機能指標である BUN 数値は若
干抑制されることが確認されたが、クレアチニン数値に顕著な腎毒性は確認されなかった。また、
MC-1 投与により 15weeks で血清中の IgE は両量共にほぼ正常値に改善された。更に、MC-1 は
histamine の血清中のレベルをほぼ正常値に改善した。CD3/CD28 で誘導した脾臓細胞培養液で
IL-4 と INF-λの産生量を測定した結果、Th2 細胞サイトカインである IL-4 の用量依存的な産生抑
制活性が見られたが、 Th1 細胞のサイトカインである INF-λには顕著な産生亢進作用が確認され
た。MC-1 の投与により白血球数の減少と好中球数は増加がみられ、また、リンパ球数は対照群に
比べて、有意な減少を示した。PBMC を分離し CD4+免疫細胞数を解析したが、有意な変動は確
認されなかった。更に、ALN と dosal skin 中の免疫細胞数は、対照群に比べて MC-1 の投与群で
有意な減少を示した。しかし、 DLN 中の CD4+免疫細胞については、すべての投与群で CD4+
免疫細胞の有意な増加が確認された。CD8+免疫細胞数は PBMC や ALN, dosal Skin 中で、対照
群に比べて有意な減少を示したが、DLN 中の CD8+免疫細胞は、対照群に比べてすべての投与群
で CD8+免疫細胞の有意な増加を示した。MC-1 の経口投与により、すべての投与群で CCR3+免
疫細胞数の有意な減少が確認された。CD4+/ CD25+免疫細胞は ALN 中では MC-1 (400mg/kg) 投
与群で有意的な減少を示したが、DLN 中ではすべての投与群で有意な増加を示した。これは背中
のアトピー性皮膚炎発症部位に近い DLN 中の regulatory T リンパ球が活性化されたことによる
と考えられる。Dosal skin での IL-5 と IL-13 の遺伝子発現はすべての MC-1 投与群で有意に減
少した。皮膚組織を H&E 染色と toluidine blue 染色により解析した結果、対照群は、epidermis
の厚さが過形成、展開されていた。また、その周辺に色素沈着、顆粒の増加、不全角化症、肥満
細胞の浸潤が上群に比べて顕著に増加したが、MC-1 (200mg/kg) 投与群では、対照群に比べて、
正常群の近くに epidermis の厚さが減少し、その周辺に細胞変形と放棄の症状、肥満細胞の浸潤
の減少が認められた。
【考 察】
以上、MC-1 は Th1 と Th2 細胞のバランスや免疫細胞の調節により、抗炎症、抗アレルギー
作用を発現していることが明らかとなった。本研究によって得られた知見が炎症やアレルギー性
皮膚炎の病態解明ならびに新しいクラスの薬剤の創生に繋がり、炎症やアレルギー性皮膚炎に苦
しむ患者の治療に一助になることを願う。
in vitro
in vivo
MC-1 の免疫細胞に対する抗炎症・抗アレルギー作用
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