1 1. 発表要旨 研究課題和文:炎症性腸疾患における TRAF5 の機能解析

1. 発表要旨
研究課題和文:炎症性腸疾患における TRAF5 の機能解析
研究課題英文: Regulation of intestinal inflammation by TRAF5
東北大学大学院医学系研究科免疫学分野
准教授
宗
孝紀
炎症性腸疾患は、潰瘍性大腸炎とクローン病を含む原因不明の難病であり、
その病因の解明と治療法の確立が強く求められている。腸は外界と接する障壁
となる器官であり、日々膨大かつ多様な食物や微生物に暴露され続けている。
微生物の体内への侵入を阻止し、損傷した組織を修復し、新たな組織の新生を
促す仕組みにより腸管の恒常性が維持される。腸管には機能の異なる種々の免
疫担当細胞が分布し、これらの細胞群の機能的な均衡により腸管における炎症
応答が調節、維持される。例えば、腸管組織には CD4 陽性 T 細胞群、すなわち
炎症の促進に関わるエフェクターT 細胞 (Th1, Th2, Th17 細胞など) と炎症の抑
制に関わる調節性 T 細胞 (Treg 細胞) が存在する。
最近申請者は、CD4 陽性 T 細胞に発現する TRAF5 (tumor necrosis factor
receptor-associated factor 5) という分子がサイトカインである IL-6 によるシグナ
ルを抑制するという予想外の炎症制御機構を発見した文献 1。具体的には、TRAF5
が IL-6 受容体のシグナル伝達分子である gp130 に結合し、そのシグナル機能を
阻害すること。また、TRAF5 を欠損した CD4+ T 細胞が炎症性エフェクターT 細
胞 (Th17 細胞) へ分化しやすいことである。
この新たな知見から、TRAF5 を欠損した動物で T 細胞を介する腸炎の増悪が
予想される。一方、腸管上皮細胞における IL-6 シグナルは細胞増殖と組織再生
を促し、腸炎に対し防御的にはたらく。したがって、TRAF5 を欠損した動物が
逆に腸炎に対し抵抗性を示すかもしれない。また gp130 には多彩な機能があり、
IL-6 だけでなく IL-11、IL-27、IL-31、LIF、OSM、CNTF、CT-1 とも結合し、細
胞増殖、生存、体内移動、浸潤、血管新生、炎症を制御することが知られてい
る。本研究では、マウス腸炎モデルを用いて腸管組織に存在する様々な細胞群
に発現する TRAF5 の機能を gp130 ファミリーサイトカイン受容体のシグナル制
御の観点から解明する (図 1)。また、マウス糞便中の Bacteroides、Clostridium、
Lactobacillus、Segmented filamentous bacteria (SFB) 等の腸内細菌群の組成を評価
1
し、これらが TRAF5 の発現によりどのような制御を受け、これが疾患病態とど
のように関連性するかを評価する。
本研究から、TRAF5 による新しい炎症サイトカインシグナル機構を解明し、
炎症性腸疾患の治療に結びつく分子基盤の確立を目指す。
(文献 1) Nagashima H, Okuyama Y, Asao A, Kawabe T, Yamaki S, Nakano H, Croft M, Ishii
N, So T. The adaptor TRAF5 limits the differentiation of inflammatory CD4 + T cells by
antagonizing signaling via the receptor for IL-6. Nat Immunol 2014;15:449-456
図1
TRAF5 は腸炎に対し促進的あるいは抑制的?
2