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「翻訳とはなにか」を問う翻訳論
柳父章 私論
2009年10月3日 公開講演会
立教大学異文化コミュニケーション研究科
長沼美香子
『翻訳語の論理 ― 言語にみる日本文化の構造』( 1972)
『文体の論理 ― 小林秀雄の思考の構造』(1976)
『翻訳とはなにか ― 日本語と翻訳文化』(1976)
『翻訳の思想 ― 自然とnature』(1977)
『翻訳文化を考える』(1978)
『比較日本語論』( 1979)
『日本語をどう書くか』(1981)
『翻訳語成立事情』(1982)
『翻訳学問批判 ― 日本語の構造、翻訳の責任』(1983)
『現代日本語の発見』(1983)
『ゴッドと上帝 ― 歴史の中の翻訳者』(1986)
『一語の辞典 ― 文化』(1995)
『翻訳語を読む』(1998)
『一語の辞典 ― 愛』(2001)
『ゴッドは神か上帝か』(2001)
『「秘」の思想 ― 日本文化のオモテとウラ』(2002)
『近代日本語の思想 ― 翻訳文体成立事情』(2004)
<あとがき>(柳父, 1979)
「私の書いたものは、よく『分からない』
と言われる。これは私にとっても辛いの
である。私は人一倍、人々に分かりやす
く書かねばならぬ、と念じて書いてきた
つもりだからである。しかし、『分から
ない』にも、どうやらいろいろあるよう
だ。(中略)要するに、それは、私の考
えが、従来のあれこれの学説と違ってい
る、ということなのだ、と思う」
コンテクスト
Translation Studies
J. S. Holmes (1988/2004) The name and
nature of translation studies. in L. Venuti (Ed.),
The translation studies reader, 2nd edition (pp. 180192). London: Routledge.
*1972年国際応用言語学会
発表の論文
[コペンハーゲン]
トゥーリー( Toury, 1995: 10)による
ホームズ「翻訳学の地図(Holmes’ map)」
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翻訳研究書の主な邦訳(1970年代)
(1)ブロアー, R. A. (1970).『翻訳のすべて』 (日本科学技術協会訳
編). 丸善. [原著:Brower, R.A. (Ed.) (1959). On translation. New
York: OUP].
(2)セイヴァリー, T. (1971).『翻訳入門』(別宮貞徳訳). 八潮出版.
[原著:Savory, T. (1957). The art of translation. London: Cape].
(3) ナイダ, E. A. (1972). 『翻訳学序説』(成瀬武史訳 ). 開文社. [原
著:Nida, E.A. (1964). Toward a science of translating. Leiden:
E.J. Brill].
(4) ナイダ, E. A. ・テイバー, C. R.・ブラネン, N. S. (1973). 『翻
訳:理論と実際』(沢登春仁・升川潔訳). 研究社. [原著:Nida,
E.A. & C. Taber (1969). The theory and practice of translation.
Leiden: E.J. Brill].
邦訳その後
<70年代後半からの30年間>と2008年09年
ベルマン, A. (2008. 2) 『他者の試練:ロマン主義ドイツ
の文化と翻訳 』(藤田省一 訳)[1984]
ポェヒハッカー, F. (2008. 9)『通訳学入門』
(鳥飼玖美子 監訳)[2004]
ウスティノフ, M. (2008. 11)『翻訳:理論と実際その
歴史・理論・展望 』(服部雄一郎 訳)[2003]
ゲーテ他 (2008. 12)『 思想としての翻訳:ゲーテから
ベンヤミン、ブロッホまで』( 三ッ木道夫 編訳)
マンデイ, J. (2009. 5)『翻訳学入門 』
(鳥飼玖美子 監訳)[2008]
柳父章の「翻訳論」
日本における1972年以後
「文化の翻訳」vs.「翻訳の文化」
“how”ではなく“what”への問い
「翻訳とは何かを問う翻訳論は、とくに
幕末、明治以降、今日に至る私たちの
国の問題である、と私は考える。近代
以降の私たちの翻訳は、どのように翻
訳すればよいのかという問いに、結局
果たして適切な答えを出してきたのか、
と私は問題にするのである」(柳父,
1979, p. 207)
近似的に意味を伝える翻訳
観念を語ることばの意味のずれ
libertyと「自由」(福沢諭吉)
 Godと「神」(津田左右吉)
 common senseと「常識」(小林秀雄)

nature/自然, concept/概念, citizen/市民
など学問や思想の基本的な用語
翻訳語の成立の歴史
「単にことばの問題として、辞書的な意味
だけを追うというやり方を、私はとらない。
ことばを、人間との係わりにおいて、文化
的な事件の要素という側面から見ていきた
いと思う。とりわけ、ことばが人間を動か
している、というような視点を重視したい。
たとえば、『近代』はmodernなどの…
(以下略)」
(柳父, 1982, p. 47)
<よけいなことば>としての
「彼」「彼女」

「彼」や「彼女」は、翻訳語特有の「効果」
をもつことばであり、この「効果」によって、
よけいなことばとして、「彼」や「彼女」は
日本語の中に入ってきたのである。

それは「今まで空白になつてゐた所へ」「充
填」されたのではない。一つの言語体系に、
「空白」はない。西欧文とつき合わせたとき、
仮に西欧文をモデルとすれば、日本文の方に
欠けている「空白」がある、ということにす
ぎない。(柳父, 1982, pp. 199-203)
カセット効果
「小さな宝石箱がある。中に宝石を入れるこ
とができる。どんな宝石でもいれることが
できる。が、できたばかりの宝石箱には、
まだ何も入っていない。しかし、宝石箱は、
外から見ると、それだけできれいで、魅力
がある。その上に、何か入っていそうだ、
きっと入っているだろう、という気持ちが、
見る者を惹きつける。新しく造られたばか
りのことばは、このカセットに似ている」
(柳父, 1976, pp. 24-25)
異文化の出会いと「カセット効果」
「私の専門の仕事は翻訳論である。翻訳論は
文化の内面的な理解についても、その鍵を
提供してくれるし、とくに私の独自の用語
で『カセット効果』という考えが、異言語
の出会いから、さらには異文化の出会いの
問題を考えるのにも役立つと思っている。
簡単にいえば、異言語、異文化の出会いで
は、お互いどうしが分からないところから
始まるということだ。そこでは、言語、文
化の構造はいったん解体される」
(柳父, 2001, p. 262)
カセット文化論

近代の思想家・文学者による翻訳語受
容を検証し、翻訳語特有の現象を「カ
セット効果」として提唱。

翻訳が日本語と日本文化に何をもたら
したかを問いなおす。
↓
「翻訳の文化」(cf. 文化の翻訳)へ
<異文化コミュニケーション>
という翻訳語
E. Hall (1959) The Silent Language
“intercultural communication” (初出)
(國広正雄・長井善見・斉藤美津子 訳)
『沈黙のことば』(1966)
「異文化間コミュニケーション」
↓
異文化コミュニケーション
「近代日本」というレジスター
新たなテクスト・タイプ
 ことばにおける系統発生と個体発生
 「カセット効果」と「文法的比喩」
 (つづく)……
