マルチレベルモデルが拓いた可能性

2011.9.19.
日本社会心理学会第52回大会自主ワークショップ
「社会心理学から見たマルチレベルモデル―理論と実証―」
話題提供
マルチレベルモデルが拓いた可能性
―統計的妥当性を超えて―
尾関美喜
(早稲田大学 人間科学学術院)
何のためのマルチレベルモデル?
なぜマルチレベルモデルを使うのか?
統計的妥当性のためではない
この手法が使いたいからではない
以前の私なら・・・
「集団の姿をあぶり出すために」
いずれも理由としては不十分?
使いようによっては、それ以上の可能性が
集団アイデンティティの
マルチレベル・アプローチ(1)
集団レベルの集団アイデンティティ
「集団レベルの集団アイデンティティが高い
集団はまとまっている」(Hogg, 1992)
これだけしかHoggは言わなかった
「それが何かはわからないが、独自の機能を
持つ、『集団レベルの集団アイデンティ
ティ』というものがある」ことにされたまま
で、何なの?
わかんない。
集団アイデンティティの
マルチレベル・アプローチ(2)
最大の課題
集団レベルの集団アイデンティティの測定
集団アイデンティティは個人の自己認知を通して測定される
他人の集団アイデンティティを推測するとまずい
集団内平均を、集団レベルの集団アイデンティティにする
従来の手法だと、集団アイデンティティと、同時に分析に投入で
きない
だから、誰もそれが何なのかを
明らかにしようがなかったんだね。
で、どうするの?
マルチレベルモデルを
使えばできるよ!
ML-SEMを適用すると・・・
パスモデル上での表現と解釈
変数X
Betweenが
効いている成分
withinが
効いている成分
変数Y
Betweenが
効いている成分
withinが
効いている成分
Between
level
model
Within
level
model
同じ概念の、Betweenの成分とWithinの成分に、それぞれ別の意味を付与できる
ML-SEMを適用すると・・・
集団アイデンティティのマルチレベル・アプローチをあてはめる
集団ID
集団レベルの
集団ID
個人レベルの
集団ID
なるほどね。
変数Y
Betweenが
効いている成分
withinが
効いている成分
ね!これで分析できるでしょ♪
集団での
プロセス
モデル
個人の
内的な過程
各レベルを
解釈するにあたってのポイント(1)
対応を考えて各レベルを解釈するにあたってのポイント
(Raudenbush & Bryk, 2002;
豊田, 2000 )
個人レベルに出てくるものは個人のもの、
集団レベルに出てくるものは集団のもの
個人レベルモデルは個人内プロセス、
集団レベルは集団プロセス
集団レベルの方で、ある変数は個人に帰属されるものとして
解釈、別の変数は集団に帰属されるものとして、というよう
な混在はまずい
各レベルを
解釈するにあたってのポイント(2)
集団に帰属される概念の、個人レベルの
成分を解釈するとき
「誤差(個人の認知バイアス)を下に払い落
とす」イメージ
個人に帰属される概念の、集団レベルの
成分を解釈するとき
「個人を超えて、集団として共通する部分を
吸い上げる」イメージ
各レベルを
解釈するにあたってのポイント(3)
ML-SEM
HLM
集団IDの解釈
個人レベル
Withinレベル レベル1
集団ID
集団アイデンティティのマルチレベル・アプローチの枠組みの中で
(個人内プロセス)
(=従来の集団
の解釈
ID)
集団レベル
(マクロなレベルで
のプロセス)
Between
レベル
あとはやるだけ、だね
レベル2
集団レベルの
集団ID
はい、準備はOK!
集団レベルの集団アイデンティティとは何か(1)
尾関・吉田(印刷中)より
「集団レベルの集団アイデンティティが高い集
団はまとまっている」(Hogg, 1992)
集団レベルで、集団実体性を予測するはず
集団実体性(Campbell, 1958):集団らしさを表す概
念。
これが高い集団はまとまりが強い。
集団レベルの集団アイデンティティとは何か(2)
尾関・吉田(印刷中)より
尾関・吉田(2009)から予測されること
集団アイデンティティ
成員性:集団のまとまりにかかわる
誇り:内集団の価値と密接な関連がある
集団レベルでは・・・
成員性:集団実体性と関連するはず
誇り:内集団価値と関連するはず
集団レベルの集団アイデンティティとは何か(3)
集団アイデンティティ
内集団価値
誇り
成員性
集団レベル
?
集団実体性
集団アイデンティティ
内集団価値
誇り
成員性
個人レベル
?
集団実体性
方法
調査対象者
2008年11月時点における,A県内の大学及び短大生287名(男性163名,女性
123名,不明1名) の回答を使用。
2名以下の回答者しか存在しなかった学科を分析対象から除外し,合計17
学科から得られた回答を分析に用いた。
使用した尺度
集団アイデンティティ
尾関・吉田(2007)の集団アイデンティティ尺度に対し,所属学科につい
て回答。
集団実体性
Geartner et al., (2006)で用いられた集団実体性尺度を,学科について回
答しやすいように表現を改め使用。
内集団価値
Leach et al. (2007)を,一部表現を改めて用いた。
分析ソフトウェア
清水他(2007)によるHAD5とAmos 7.0を使用
結果
各変数の級内相関係数
集団アイデンティティ
成員性:ρ=.11, p<.001
誇り: ρ=.17, p<.001
集団実体性: ρ=.20, p<.001
内集団価値
有能さ: ρ=.13, p<.001
社会性: ρ=.35, p<.001
道徳性: ρ=.21, p<.001
モデル適合度
χ2(29)=36.50, n.s., GFI=.96, AGFI=.92, CFI=.99, RMSEA=.03
道徳性
成員性
集団レベル
R2 =1.74
2.21*
0.44
R2 =0.64
社会性
集団実体性
-0.01
0.43
入試偏差値
0.54*
有能さ
誇り
R2
0.08***
R2 =0.39
=0.78
道徳性
集団レベルの成員性=集団のまとまりの源泉
成員性
集団実体性
社会性
誇り
有能さ
集団レベルの誇り=集団の価値を反映
R2 =0.48
成員性
道徳性
0.20***
0.24*
1.87***
0.61***
社会性
1.28***
集団実体性
R2 =0.28
0.91***
1.41***
0.91***
有能さ
0.55***
個人レベル
誇り
R2 =0.17
マルチレベル・アプローチだから
明らかにできたこと
社会的カテゴリ≠集団らしい集団
成員性が一定以上なければ、集団らしくならない
集団凝集性の測定が成員の魅力となった原因の
一端を示す
集団アイデンティティ形成を通じた、集団実体
化モデルの提唱
集団アイデンティティ形成を通じた、
集団実体化過程モデル(簡略版)
誇り
成員性
集団実体性
集団レベル
社会性
この積み重ねが
集団を集団にしていく
集団の価値
道徳性・有能さ
誇り
成員性
集団実体性の認知
個人レベル
もういちど、なぜマルチレベルモデル?
マルチレベルモデルの利点
個人・集団のプロセスを弁別し、集団現象を包括的に描き出せ
る
集団レベルの集団アイデンティティと、個人レベルの集団アイ
デンティティを同時に扱える唯一の方法
マルチレベル・アプローチによる集団アイデンティティ
研究のこれから
実は未知数
なぜ、使うの?
この手法でだけみられる、
誰もみたことのないもの
の先へいくために、かな
ご清聴ありがとうございました
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