レプトンフレーバーを破る有効相互作用

ヒッグス粒子崩壊に於けるレプトンフレーバーの破れ
概要
有効理論の立場から、ヒッグス粒子を媒介するレプトンフレーバーの破れ
を議論する。このような現象は拡張されたヒッグス模型に現れる。まず、模
型に対する理論的要請からパラメータ領域を制限し、現在のτ稀崩壊の
データからフレーバーの破れを制限する。ヒッグス粒子のレプトンフレー
バーを破る崩壊の探索が、τ稀崩壊では調べられないパラメータ領域を探
求できる。
hep-ph/0505191
津村浩二
with 兼村晋哉さん、太田俊彦さん
関西地域セミナー 2005/6/4
目次
■ 動機
 レプトンフレーバーの破れ
■ ヒッグス模型
 摂動論的ユニタリ性、真空安定性、etc.
■ τ稀崩壊からの制限
■ ヒッグス粒子のレプトンフレーバーを破る崩壊
動機:湯川相互作用
■ 湯川相互作用でフレーバーは破れるか?
 フェルミオン場の基底を取り替えることで
湯川行列を対角化できる。
→ 湯川相互作用ではフレーバーが破れず、弱い相互作用でのみフレーバー
が破れる。
• レプトンフレーバーについて
– 標準模型のようにニュートリノの湯川相互作用がなければレプトンフレーバーは保存。
– 右巻きニュートリノなどを導入して質量がある模型にしても、どのみち小さな質量で抑
えられるため近似的にレプトンフレーバーは保存。
ということは、レプトンフレーバーの破れが見つかれば、それは
すぐさま標準模型を越えた物理の存在を意味する。
動機:湯川相互作用によるフレーバーの破れの種
■ ヒッグス粒子を複数にする。
 フェルミオンの基底を変えても
2個の湯川を同時対角化できない
すなわち、湯川相互作用によるフレーバーの破れ
逆に、湯川相互作用によるフレーバーの破れは複数ヒッグスの証拠。
レプトンフレーバーの破れ探索は重要。
話は変わってヒッグス模型へ…
有効理論としてもヒッグス模型のパラメータ空間を絞っていく。
2-ヒッグス2重項模型
理論的制限
実験的制限
2ヒッグス2重項模型(2HDM)
■ ヒッグスポテンシャル in 2HDM
Gunion, Habar (02); Kanemura, Okada, Senaha, Yuan (04)
 m1-3,λ1-5 は物理的な自由度で書き直すことが出来る。
 これらのパラメータは理論的、実験的に制限が加えられる。
• 理論的には
– 真空安定性
– 摂動論敵ユニタリ性
• 実験的には
– b → sγ
– ρパラメータ
真空安定性
■ 場の値が無限大でポテンシャルが正。
Deshpande et.al.(78); Nie, Sher (99)
 4点結合λを制限する。
• 例:標準模型 λが正
Kanemura, Kasai, Okada (98)
• 2HDMでは真空構造が複雑なため
真空安定条件
摂動論的ユニタリ性
Lee, Quigg, Thacker(77)
■ 光学定理(散乱振幅に対して)
■ 部分波展開
 組み合わせると各部分波振幅は円の方程式を表す。
摂動ユニタリティ in 2HDM
■ ゲージ場およびヒッグス場の弾性散乱における摂動ユニタリティ条件
 2HDMの場合
の14モードを考慮
Kanemura, Kubota, Takasugi (93); Akeroyd, Naimi(00)
ρパラメータ
■ ゲージ場の2点関数の構造を現すパラメータ。
 新しい物理の効果により1からずれる。
 2HDMでは
 LEPでの精密測定により非常に1に近いことが分かっている。
その他制限
■ b→sγ
Ciuchini et.al.(98); Koppenburg et al.(04)
クォークに対するTypeⅡの湯川相互作用は、
b→sγ実験から制限され荷電ヒッグスの質量に
下限が要求される。
■ 湯川結合の大きさ
 大きすぎる湯川結合は摂動の範囲を超える。
再び話は変わってフレーバーの破れの話へ…
レプトンフレーバーを破る有効相互作用
■ レプトンフレーバーを破る有効結合定数を定義
Higgs mixing
CP even (light, heavy)
CP odd
Charged Higgs
■ 以降でτ稀崩壊からの有効結合定数への制限を調べる。
τ稀崩壊(実験からの上限)1
Mode
Belle(90%CL)
Babar(90%CL)
τ- → e- π0
1.9×10-7
→ e- η
2.4×10-7
→ e- η’
10×10-7
→μ- π0
4.1×10-7
→μ- η
1.5×10-7
→μ- η’
4.7×10-7
→ e- e+ e-
3.5×10-7
2.0×10-7
→ e- μ+ μ-
2.0×10-7
3.3×10-7
→μ- e+ e-
1.9×10-7
2.7×10-7
→μ-μ+μ-
2.0×10-7
1.9×10-7
τ稀崩壊(実験からの上限)2
Mode
Belle(90%CL)
Babar(90%CL)
τ- → e- π+ π-
8.4×10-7
1.2×10-7
→ e- π+ K -
5.7×10-7
3.2×10-7
→ e- K + π-
5.6×10-7
1.7×10-7
→ e- K + K-
3.0×10-7
1.4×10-7
→μ-π+π-
2.8×10-7
2.9×10-7
→μ-π+ K-
6.3×10-7
2.6×10-7
→μ- K+π-
15.5×10-7
3.2×10-7
→μ- K+ K-
11.7×10-7
2.5×10-7
→ e- γ
3.9×10-7
→μ-γ
3.1×10-7
6.8×10-8
τ→ lepton meson
■ τ-→ lepton π0 (η、η’)
 関係する meson の質量と崩壊定数、 phase space が重要になる。
• 同じ フレーバーSU(3) の8表現に属するπ0とηでは、ηに崩壊する率が
大きくなる。
• 実際はηとη’の混合があるのが、今回はηを8表現の固有状態として扱う。
• η’の崩壊定数は不定性が大きいので扱わない。
 A のみが媒介する。
結局、ほとんどの領域でτ→
lepton ηを扱えばよい。
τ→ 3 lepton
■ τ-→ lepton e+ e- (μ+μ-)
 対生成する lepton の質量が重要になる。
• μを対生成するほうが崩壊率が大きい。
 全ての中性ヒッグスが媒介する。
結局、ほとんどの領域でτ→
lepton μ+μ-を扱えばよい。
τ→ lepton meson-pair
■ τ-→ lepton π+ π- (K+K- ,π+K-,K+π-)
 meson を構成するクォークの質量が重要になる。
• Kを対生成するほうが崩壊率が大きい。
 πK-モードはループと小林益川で抑制される
 CP even の中性ヒッグスが媒介する。
結局、ほとんどの領域でτ→ lepton
K+K- を扱えばよい。
τ→ lepton photon
 ループレベルで出る。
• τの湯川結合を拾うので大きくなり得る。
• 実験的精度が良いので重要。
• 荷電ヒッグスが媒介する際に、
結合に非対称性がでる。
 全てのヒッグスが媒介する。
■ 以降でτ稀崩壊からの有効結合定数への制限を調べる。
レプトンフレーバーを破る湯川結合 |κ32|2 への制限
■ tanβの小さいところでは実質上、κに制限はない。
■ 制限にヒッグス質量依存性があるため、切り替わりが見える。
 mAの小さいところではτ→μηが最も強い制限を与え、mAが大きくなるとτ→3μの制限が最も厳
しくなる。τ→μKKもτ→3μと同程度くらい強く、mHが小さくなるとτ→3μより強くなる領域がある。
いよいよヒッグス粒子が崩壊…
ヒッグス粒子のレプトンフレーバーを破る崩壊
■ 分岐比
 先程求めた κ3i のとることのできる最大の値を使って、分岐比のとるこ
とのできる最大の値を求める。
τ
h
μ
軽いヒッグス粒子の崩壊 - 許される Br(h → τμ) の最大値
■ tanβの小さい領域で大きな分岐比の可能性が残されている。
 将来の加速器(LHC, ILC, CLIC)では十分な数の軽い h が作られる。
 LCでは mh=120 GeV でルミノシティが 1ab-1 あれば Br ~ O(10-3) 以上の h → τμ過程が検証で
きる。 Kanemura, Matsuda, Ota, Shindou, Takasugi, Tsumura (Phys. Lett. B599, 83)
■ LCでのレプトンフレーバーを破るヒッグス崩壊の探索は B工場でのτ稀崩壊から
の制限に対して相補的な測定になる。
まとめ
■ 2-ヒッグス2重項の枠組みで許されるレプトンフレーバーの破れを調べた。
 理論的には、摂動論的ユニタリ性&真空安定性
 実験的には、ρパラメータ、b→sγ、τ稀崩壊
■ 結論
 ヒッグス粒子のレプトンフレーバーを破る崩壊の探索は、τ稀崩壊では
調べられないパラメータ領域を探求できる。