メディア社会学 2013年6月11日 1 1.7 社会学固有の概念を用いる • 社会学の特徴→社会学固有の概念を駆使し て分析する点にある。 • 社会学固有の概念とは? – 例)倉沢進・川本勝『社会学への招待』ミネルヴァ 書房1992,p.15に示された、 ラボビッツの5つの基本概念 「規範」「価値」「役割」「地位」「権力」 2 1.7.1 「価値」という概念について① • 最も大切と思うこと。 – ただし、人(物その他)の価値付けである「評価」 とか、商品の価値付けである「価格」なども含ま れてくる。 3 1.7.1 「価値」という概念について② • 「価値(value)」とは・・・ – 主体の欲求や態度に応じて評価される客体の性質。 – 主体とは個人であることもあれば集団であることもある。 – 「客体」とは事物や人間ばかりでなく、集団、観念、行為 などあらゆるものを指すことができる。 • 価値とは、「人間AにとってBという対象はかくかくしかじ かの価値がある」とされるように、主体-客体の相関関 係のなかに生ずる現象であり、人間がその生活のなか で(自己自身を含めて)あらゆる対象とかかわりあうと き、つねに生起する現象であるといえる。 山根常男・森岡清美・本間康平ほか『テキストブック社会学(1)入門社会学』 有斐閣ブックス、1978年,p.38 より。 4 価値の主観的側面 • 主体の側の欲求や態度とかかわりなく、 客観的に存在するものではない。 • 主体の側によって大いに変わるもの。 ex: 悲劇が好きな人/喜劇が好きな人 (蓼食う虫も好き好き) 5 価値の客観的側面 • 主体の側にあまり関係なく誰にでもほぼ見ら れるプラスマイナスの判断 ex: 死は望ましくない → 「人を殺すなかれ」といったルール(規範)を 導く。 ex: お金は望ましい → 「汝、盗むことなかれ」といったルール(規範) を導く。 6 要するに、「価値」とは・・ • それぞれの人々の意味世界から来る、人や 物や出来事への序列づけに相当する。 → 「価値」は経済学上の「価値」にも通じる。 • 「価値」の一種である「評価」は同一対象に対 しても、人によっても千差万別。 • 他方、「価値」の一種である経済学上の「価 値」はより客観的(→典型は労働価値説)であ るともいえる。 7 1.7.2 「規範」という概念について① • 簡単にいえば「ルール」のこと。ただし正負の サンクションを伴うルールである。 • 「規範」 –社会や集団において、成員の社会的行為に一定 の拘束を加えて調整する規則一般を意味する。 –成員が多少とも共有している価値との関係でいう と、その価値に誘導されて行為を調整するのが 規範であるから、規範は価値よりも、行為を具体 的に特定化する度が大きい 濱島朗・竹内郁郎・石川晃弘編『社会学小辞典〔新版〕』 有斐閣、1997,p.108 より。 8 1.7.2 「規範」という概念について② – 伝統的には、本来他でもありえたはずの行為が 一定の型へと制約されているとき、そこで制約機 能を発揮する価値・慣習・制度・法などが規範と 呼ばれる。 見田宗介ほか編『社会学事典』弘文堂1988,192 より。 – 文化の中核的な要素としての価値が、多少とも 具体的な行動の準則としてながめられるとき、そ れは「規範」とよばれることができる。 山根常男・森岡清美・本間康平ほか『テキストブック社会学(1)入門社会 学』有斐閣ブックス、1978年,p.40 より。 9 1.7.2 「規範」という概念について③ – 「規範(norm)」とは、のぞましい目的の標準とその 達成のための正当な行動様式をさだめた準則であ り、ふつう、これを奨励したり、違反を禁ずるための 明示的な、または暗黙の制裁(sanction)をともなっ ている。 – 集合体への献身や適応を強調する日本の伝統的価 値体系から派生する具体的な規範としては、家風や イエのしきたりへの従属とか、他人の「恩」に報いる こことか、分をわきまえて行動するといった準則が存 在した。 山根常男・森岡清美・本間康平ほか『テキストブック社会学(1)入門社会学』 有斐閣ブックス、1978年,p.40 より。 10 1.7.2 「規範」という概念について④ • 規範 – 奨励のルールおよび禁止のルールからなるルー ルの複合体 – 要するにルールのことであって、正負のサンク ションをそれに加えて考えればよい。 『社会学のエッセンス』有斐閣,1996,p.123 より。 11 規範に違反した場合① • 規範に違反した場合の制裁 – 法規範(刑事的な法規範)の場合→刑罰 – 慣習や道徳の場合→周囲の非難、嘲笑、叱責、 村八分 • 社会学用語の「制裁」には賞罰・正負双方が ある点がポイント。 – 身近な例としては、自己の行為に対する他者の 評価(表情の肯定・否定)等。 12 規範に違反した場合② • このような規範のうち、制裁の強いのが法(法 規範) • 規範破りに、制裁を加えるのが、権力ないし は権力を持つ人(権力者)であるといえる。 13 規範・価値と意味世界1 • 社会全体の「意味世界」やそれに基づく世界 の色々な事柄の「価値づけ」に基づき「規範」 が構成されるといえる。 • 社会全体の意味世界→価値(序列づけ・価値 づけ)→(社会)規範 14 規範・価値と意味世界2 • 個人の意味世界は現代では社会のそれとズレが生 じうる。 – 価値づけも社会のそれと違う人々が増え、規範も 社会のそれと異なりうる。あるいはどこをその人 にとっての大事な社会(準拠集団)とするかで、変 わってくる 。 • どの集団の規範かで変わってくるが、いずれにせよ 規範や価値が、われわれの意味を支える。 • サブカルチュア、若者文化の問題。ジャイアンの制 裁とママの癇癪 15 1.7.3 「権力」という概念について① • 簡単にいえば「力」。他人を支配する力。 • 特に「暴力」「体力」といった物理的な「力」と 区別された意味での「力」を意味することが多 い。ex:政治力 など。 • お金の力ともある程度区別することも多い。 • しかし物理的な「力」や金の「力」が微妙に背 景にあって、「権力」に絡んでくるから、事は 単純ではない。 16 1.7.3 「権力」という概念について② • 権力 – 広義には、社会関係において人間の行動様式を 統制する能力。 – 最終的には権力手段によって威嚇または価値剥 奪を通じて、強制的に服従を調達する – 地位・名誉などの利益誘導または価値付与を通 じて、服従の自発性を作り出すことも多い。 – 強制と合意は互いに関連しつつ、権力の二側面 を形づくる。 17 1.7.3 「権力」という概念について③ – 私刑・武力などの物理的制裁、波紋などの精神 的制裁、経済封鎖などの経済的制裁などのさま ざまな手段を通じて、相手方の抵抗を廃して自己 の意思を貫くとき、この能力は発揮される。 – こうして権力関係は、積極的な服従(正当性)が 与えられたときに安定化するが、社会関係におけ る行動様式が変化するに応じて不安定となり変 動する。 濱島朗・竹内郁郎・石川晃弘編『社会学小辞典〔新版〕』 有斐閣、1997,p.163 より。 18 1.7.3 「権力」という概念について④ • 一般に、他者をその意図に反して、自己の目的 に従わせることができることを、権力を持つとい う。 • 権力は、通常、意図に従わないものを制裁する ことで証明される。 • 制裁を伴うことなしに、論理や金力によって従わ せることを、影響力あるいは勢力とよんで、権力 と区別することがある。 見田宗介ほか編『社会学事典』弘文堂1988,p.271 より。 19 1.7.3 「権力」という概念について⑤ • 要するに背景に暴力装置をもち、暴力をちら つかせつつ、自発的に相手を自分に従わせ る力が権力であるといえる。 20 権力は誰がもつか? ① • 昔:国王・貴族、 いま:政治家、行政官(官僚) ただし彼らは地位の上下によって権力の多少がある。 • 彼らの背景にあるもの – 権威。情報処理能力(知識と頭の良さ) – 物理的暴力 • 資本家は生産手段をもたない労働者を意のままに働 かせるという意味で権力をもつ。彼らの背景にあるもの はお金・資本である。 21 権力は誰がもつか?② • 地位、役割に応じて与えられたそれぞれの人の行動の 規範に基づき、それぞれの人が、権力を行使する人と 権力を行使される人とに分かれると考えられる。 • 現実にはピラミッド型組織(hierarchy)によって、トップ以 外権力は分有され、支配されると同時に支配するとい う構図が成り立つ。 • 「地位」及び「地位」に基づき与えられた「役割」によって 人は、それぞれに応じて権力を分かちもち、人から合 法的に一定の枠内で支配を受けるといえる。 22 日本型の権力の曖昧さ • 天皇と将軍と執権と管領 • 天皇と上皇と法皇 • 社長と会長と名誉会長と相談役 →責任主体の曖昧さ 無限責任と無責任の併存(丸山真男) 23 1.8 結局、社会学とは? 24 2.行為の意味 2.1ウェーバーの行為の4類型 • 目的合理的行為 • 価値合理的行為 • 伝統的行為 • 感情的行為 25 目的合理的行為 • 目的合理的行為・・・ある目的を達成するため に最も合理的な(つまり自己利害にかなった) 手段を選択するような行為→「行為の意味理 解」の3水準の「動機」にかかわる。 • 名誉、地位、権力、お金等を求める行為など 26 価値合理的行為 • 価値合理的行為・・・行為が、その結果を顧慮 することなく、ある特定の価値--美的・宗教 的・倫理的など--に無条件に方向付けられ ていることをいう。 →これも「行為の意味理 解」の3水準の「動機」にかかわる。 • お金や権力よりは理想をという生き方など。も ちろん理想、価値の実現のためにお金、地位、 権力が必要な場合も 27 伝統的行為 • 伝統的行為・・・伝統的行為とは、ある刺激に 対して昔から続いてきた方法で習慣的に反応 する行為のことをいう。日常的行為のほとん どはこれである→没意味性と有意味性の限 界線上にある行為類型 28 感情的行為 • 感情的行為・・・感情的行為とはある行為が そのときどきの感情によって動かされている ものをいうが、常に意味的に方向づけられて いるわけではない。方向付けられていれば、 目的合理的行為や価値合理的行為に容易に 転化していく→意味ある行為とそうでなく意味 のない行為との境界事例 29 行為の意味理解との関係 • 最初の二類型は行為の意味理解に密接。な おかつ目的合理的行為と価値合理的行為は 対立しうる。 • 他方、後の二つ、伝統的行為と感情的行為 は、有意味性と没意味生徒の境界に位置す る。(「行動」に近い) 30 2.2見田宗介の行為類型 • 見田宗介(1937-)東大名誉教授。真木悠介 の別名での著書も多い。 • 甘粕正彦(大杉栄を殺戮した将校)の従兄弟 で著名なマルクス主義者甘粕石介の子供 • 『時間の比較社会学』 • コンサーマトリとインストルメンタル 31 『時間の比較社会学』 • 時間観念と行為類型を結びつけた • インストルメンタル・・・道具的。将来を顧慮し、 現在という時間を、未来の犠牲にする生き方。 アリとキリギリスのアリに近い。 • コンサーマトリー・・・自己目的、自己完結。そ れ自体を目的とすること。キリギリスに近い。 現在の時間をそれ自体で楽しむ生き方。 32 • インストルメンタル・・・プロ倫の行為類型、時 間観念に近い。近代資本主義社会 • また、ウェーバーの目的合理的行為に近い。 • コンサーマトリー・・・南米の行為類型、時間 観念など • ウェーバーの感情的行為に近い。 33 2.3大塚久雄の理念と利害状況 • 理念と利害状況の組み合わせ • 理念・・・価値合理的行為の目標、思想・宗教 • 利害状況・・・目的合理的行為の目標、経済 的状況 • シュパンヌング(双方が緊張感を保ちつつ、 影響を与え合う・反映論を否定) 34 大塚の示唆の発展型 • 短期的利害と長期的利害、個人的利害と集 団的(人類的)利害を組み合わせたマトリック スの形成 35 行為と意味についての例 • スポーツとメダル、メダルと柔道、課長の地位 (「やっと俺も課長だ」という10年前のCMコ ピー)、石を投げれば部長、課長に当たるとい われた某大手広告代理店、紙幣と貨幣、同 棲とDINKSの夫婦、単位取得の集積と卒業、 議員の大臣病と上がりとポスト増、学歴・資格 インフレ 36 • →希少資源としての地位・名誉等と地位・名 誉インフレ • 制度の根拠の本質的恣意性 ・・・恣意性の中での(恣意性に薄々気づきつ つの)意味づけ 37 3.属性的な類型 3.1属性的な類型立ての方法と有効性 • 「AよりもBの方がCである」についての復習 • 変数X(値AB)人口学的変数・属性・アンケート 調査のフェースシート。ほかに記憶や過去の 経験、性格もあり得るが • 変数Y(値CD)意識・行動。意識・・・世界観、 行動の意味づけ、行動のもととなる規範・習 慣など。特に世界観はXとYの中間に入るもの であるともいえる。 38 人口学的変数(属性) • 上記の狭い意味でのXに相当する人口学的 変数(属性)ごとに、社会学上の問題を概説し ていく。・・・重要な説明変数故 • 性別、年齢、学歴、職業、年収、居住地、家 族構成(本当は宗教、出生地、母語、国籍、 支持政党、家柄(親の属性)、財産等も) • アンケートのフェースシート項目(上の括弧部 分以外は) 39 • 旧来、地位→地位に応じた役割取得→役割 演技→意識や行為パターン • よって属性によって世界観や行動が明確に。 40 3.2属性の説明力の低下の理由 • 社会のボーダーレス化 • 属性が実体概念から機能(役割)・関係概念 に 41 社会のボーダーレス化① • 経済のグローバル化→国境を越えた労働力 と資本と技術が往来→国籍のボーダーレス 化 • 国籍のグローバル化・ボーダレス化→宗教の グローバル化・言語のグローバル化→文化 (生活様式・行動様式、およびそれの背景に ある価値観)の多様性・雑居性→文化に伴う 価値や規範の変化→投票行動の変化 42 社会のボーダーレス化② • 年齢のボーダレス化→終身雇用の崩れ・中 途採用の増加、学びの機会の多様化、初婚・ 出産の時期の多様化、「年貢の収めどき」の 死語化 (矢印は実は双方向) • 性別のボーダレス化→ユニセックスのファッ ションの増加、女性の権利の自覚、同性愛の 社会的容認度の増加 43 3.2.2属性が実体概念から機能(役 割)・関係概念に • 実体概念と機能概念 • エルンスト・カッシーラ • 中井正一 44 3.2.2.1性 • 生物学的な性別→役割としての性・・・gender 概念 • 同性愛の容認 • 人類の歴史はすべてにおいて自由の獲得の 歴史 • 性愛についても、性役割分業についても、双 方について共に、自由の領域が拡大 45 3.2.2.2年齢 • アメリカでは定年制を年齢差別と。テニュア。 • 実年齢とその人なりの年齢とを切り離す • また肉体的にも肌年齢、精神年齢、腸年齢、 脳年齢、その他等々、諸々の事柄にそれぞ れ「年齢」という被修飾語を充てる • これらは実年齢の束縛からの自由と捉えるこ とも可能(とはいえ○○年齢は我々を脅迫す るが) 46 3.2.2.3学歴 • 良い学歴(学校歴)とは? • 頭の良さ(あるいは悪さ)の指標→その人が 得た能力的な資格 • 専門大学院、社会人入学、編入→学歴が固 定的なものではなくなる • 宿命的な枷としての学歴→我々の学びのグ レードの証としての学歴(「自動車学校」の卒 業のようなもの) 47 3.2.2.4職業 • 終身雇用制の綻び、フリーターの増加 • 職業人に求められる技術が陳腐化、通用しな くなる年数の早まり(←変化の早い世の中← 情報の速い伝達)→リカレント教育の必要性 の増大 • 年功序列→能力給、業績給に(正社員や公 務員も一部歩合制を加える) • 終身雇用制→片道切符の出向、リストラ 48 3.2.2.5年収 • 機能概念化を実現するもの • 他の属性における機能を手に入れる根拠。 • その意味ではこれだけは実体である側面は 強い。 • でも、一時的に大金もち気分を味わうには、ク レジットカードや、消費者金融がある。 49 3.2.2.6未既婚 • 昔は既婚の方は比較的固定的 • 今、未婚→既婚の5割の頻度で既婚→未婚 • 自由の増大=安定性、安心の欠落(デュルケ ムが懸念した事態に) • 同棲カップルと子供のいない夫婦との違いは 紙切れ一つ 50 3.2.2.7家族構成 • 家族の果たした機能のアウトソーシング化 • 衣食住、教育、性(生殖あるいは快楽として の)、会話の機能 • 衣(裁縫・編み物)、食(外食・中食)、住(子供 のプチ家出、単身赴任)、教育(勉強以外の 社会生活上の教育も学校に頼る・塾通い)、 性(婚外セックス・不倫・代理母)、会話(「お 話し聞きます」ビジネス、テレビ、チャット) 51 3.2.2.8居住地 • 単身赴任、子供の進学等・・・住民票上の住 所と現実の住所とが一致しないケースの増大 • 職住接近→職住分離・・・昼間人口≠夜間人口 • 準拠集団が地域社会以外の集団に(特に欧 米諸国の教会のようなコミュニティが日本で はないので)。 52 3.2.3貨幣(お金)の影響 • ジンメル『貨幣の哲学』、今村仁司『貨幣とは 何か』1995年、筑摩新書 • 従来、上下関係をコントロールするもの・・・広 い意味の権力 • 現代、貨幣が上下関係、支配・被支配の関係 をコントロールする • 上下関係の性質の変化 • 固定的なもの→契約的なもの 53 ジンメルの貨幣論 • 主従関係・封建的隷従関係 • 貨幣を通じての関係でないので、四六時中、 上下関係が続く(「花輪君とひで爺」)→ • 貨幣を通じての、上司と部下 • 期間・時間限定の上下関係になる→役割・規 範も時間限定に→行動、意識も時間限定に 54 貨幣と機能としての属性 • 貨幣の力 • 従来「属性」実体的 • 貨幣時代の「属性」・・・時間限定のもの(全人 格的なものではなくなり)、機能・役割としての み意味を持つ。 55 今村仁司の貨幣論 • 貨幣をコミュニケーション・メディアとして捉える • 貨幣なき権力関係・・・剥き出しの暴力 • 例・・・ポルポト派(ポルポトはカンボジア共産党 書記長)、中国の文化大革命「貨幣なき理想社 会」→権力闘争、究極的に相手の死を望む。異 論の粛正 • 貨幣の媒介・・・貨幣の契約的性格(「金の切れ 目が縁の切れ目」)・・・権力に一定の枠を嵌め る・・・権力の暴力性を和らげる 56 メディアとしての「貨幣」のデメリット • 自我を統一するような規範が曖昧に • ←役割が9時-5時で終わる。その「役割」を 演じるルールが「規範」 • 準拠集団が曖昧に • すべての役割・機能が貨幣でのやりとりに よってなされる→属性の機能の良い部分を金 で 57 属性の機能の貨幣でのやりとり • 性(セックスの商品化、遺伝子の商品化、性 的魅力の商品化(化粧・整形)) • 年齢(上記、整形・化粧) • 学歴(塾・家庭教師、一部私立大附属小中 高)・・・「裏口」でない学歴も金次第(平沢・安 倍は失敗例?) 58 4.性別 4.1性の3つの位相 • Sex・・・生まれ落ちての性、「性別」 • Gender・・・社会的な性、後天的に獲得された 「性役割」 • Sexuality・・・性愛としての性、日本語の「セッ クス」の語感に近い 59 3つの位相の関係 • Sex • Gender・・・sexとしての性別の差(わずか)を、 より強化する • Gender論の立場・・・genderとして性差を「社 会的に作られたものとして」減らそうとする • Sexualityとしての女性「性」・・・アンチgender 論的な立場への逆作用 60 Genderとしての女性 • 生まれながらのものではない • 役割期待で作られる • tomboy、赤と黒のランドセル、女の子は赤系 統の服、男の子は青系統の服。女の子は長 い髪、男の子は短い髪、「女の子は脚を広げ て座るな」、男の子はファミコンせずに外で遊 べ、女の子は人形やオママゴトや読書で家で 遊べ・・・家庭教育の場で、役割期待を刷り込 む 61 「サーチライト」としての新しい概念 • 苅谷剛彦『知的複眼思考法』講談社+α文 庫,2002年(苅谷は東大教育学部教授) • ある概念の発見→今まで見えないものが見 える • 「ジェンダー」概念の発見 • 「女性が子供を出産」・・・生物学的な身体の 違い • 「女性が子育てする」・・・・「女性は子育てをす るものだ」という社会の約束事あって成り立つ 62 4.2役割期待 • 役割・・・社会の中での地位に基づき、他者か ら期待される行動様式や態度 • 役割規範・・・期待に背いた際には制裁が加 えられるようになると、そういった役割(期待) を役割規範という • 地位や職業が「~らしさ」を人に与える 63 ミードによる説明① • アメリカ社会学の古典とされるジョージ・ハー バード・ミード『精神・自我・社会』 • ミード(1863-1931)のIとme 64 ミードによる説明② • I・・・「主我」 • me・・・「客我」・・・子供は「重要な他者」(通常 は両親・母親)から、彼らの振る舞いを通じて、 また彼らから自分がどのように振る舞うかを 期待されているかを知ることによって(「役割 期待」)、「客我」を身につける。これは具体的 には良心とか規範とかいった、社会的な自我 である。 • 大人における重要な他者・・・準拠集団 65 役割と属性 • 役割(役割期待)→「らしく」振る舞う • その年齢の人は、自分の年齢にふさわしく振 る舞うし、それぞれの職業、地位の人はそれ ぞれの職業、地位にふさわしく振る舞うように なる 66 役割と振る舞いの身近な実例 • 首相になると首相らしい顔つきに レーガン大統領、シュワちゃん • 女性は子供が生まれると母親の顔に一夜にして 変わると従来いわれた(フェミニストに怒られる が・・・)。「ヤンママ」は? • ダライ・ラマ • 小中高校大学それぞれの顔に、それぞれの新 入生は一年生の2学期頃に変貌する。 • 恋人同士の役を演じる女優と男優が本当に恋人 同士に 67 4.3役割期待の変化とジェンダー • 母親における理想の女性像の変化 • (←結婚によって叶えられなかった「夢」) • →娘への教育方針も従来と変化 • 「男性より高学歴だと結婚難に」という考えが 減る • 女子の進路の変化 • 文学部・家政学部→医学・法学(男性と対等 に伍せる高度な資格系学部) 68 「女性は家庭に」という従来の考え方 の理由 • 避妊技術の不足→子沢山→子育て多忙 • 家電製品なし→家事労働重労働 • 旧来の労働は一般に肉体を弄した・・・外での 労働は男性の専有物 • 貴族・武士を初め親の跡を継ぐ時代・・・「家」 の血統の証明大事・・・女性にのみ貞操を求 め、家庭に閉じこめる(cfフランス貴族)(長子 相続) 69 「女性は家庭に」という考え方からの 変化の理由 • 避妊技術の発展、少子化→夫婦とも子育て に追われる部分が減る • 家電の発達→専業主婦は「三食昼寝付き」と いわれ、時間を持て余す→外で働こうか • 労働の質の変化(←産業構造の転換、情報 処理的な仕事の増大(身体よりも頭を))→女 性が能力を発揮できる職種の増大 • 継ぐものとしての「家」の崩壊→貞操は男女に 等しく求められる(求められない)ものに 70 残業-男女共同参画社会の妨げ • 職場での男女平等・・・家庭では不平等が残 存 • 男性・・・専業職業人 • 女性・・・専業職業人 兼 母・妻 • 残業・・・男性社員にのみ夜遅くまで頼むよう に • 残業を多くする人が出世 71 4.4役割の変化とセクシャリティ 4.4.1ジェンダーがらみの変化 • 従来、家父長制・・・家父・家長の支配権を絶 対とする家族形態 • 家長権・・・家族制度において、家長が家族に 対して持つ支配権。古代・中世においては、 家族の生命、財産はその下に支配された(広 辞苑) • 妻や娘は家長である父親が支配する。 • パターナリズム(今年度は早期に板書で詳 述) 72 パターナリズム① • (国民や従業員に対する)父親的温情主義;[ けなして]家父長的態度;干渉政治」(『ジーニ アス英和辞典』) • 「温情的干渉主義と訳される。政治・経済・雇 用関係などにおいて、中央当局などが、父が 子に対するように各人の行うべき判断を代行 し、その判断を各人におしつけること」(金森 久雄ほか『経済辞典(新版)』(有斐閣、1986 年) 73 パターナリズム② • 人間は基本、他人に迷惑をかけなければ自 由。何をしても良い。当人にとって不利益なこ とでも。 • しかし未成年者へは親や社会が(他人に迷 惑をかけず、当人に不利益なことを)干渉す るのはある程度、当然。 • 例・・・たばこ、お酒・・・嗜んでも当人が将来、 アル中や肺ガンになるだけ・・・しかし未成年 なので干渉する。「父親」の立場で。 74 パターナリズム③ • それでは未成年ではなく成人の場合は? • パターナリズムが成人に対して認められるか どうかという議論 • 麻薬や覚醒剤。お酒と違って当人を害する度 合いが著しい。他人を害さずとも、取り締まり は是。 • シートベルトの着用義務 75 パターナリズムと性 • パターナリズム的な家父長支配の下、女性は 保護=干渉の対象 • 未成年、成人問わず娘のセクシャリティに、 父親は発言権があった。 • 「良妻賢母」の理想に娘を近づけるため。 • 父権の弱体化に伴って、娘への干渉は減る。 76 4.4.2 それ以外の変化の要因 • マス・メディアからの要因 • 医療技術上の要因 • 宗教の威信の相対的低下 • 一貫性、不変のものよりも変化しうるものをと いう思考の志向性 77 マス・メディアからの要因 • エドガール・モラン『スター』・・・神話的世界の 人 • 「沈黙の螺旋階段」理論(ノエル・ノイマン) • モランのいう「神話」が一般的な多数派として、 庶民にまで下降・普及 78 医療技術上の要因 • 避妊技術の向上・・・性と生殖の切り離し • クローン人間、遺伝子工学、代理出産技術の 発展・・・性と生殖を論理的にも切り離す 79 宗教の威信の相対的低下 • • • • • • 全ての宗教・・・性的禁欲・節制が戒律に 神の下での結婚の誓い ところが宗教の威信低下 ←「あの世」の生より「この世」の生 寿命の延びとまずまず豊かな暮らし 神秘現象の合理的説明可能性の向上 80 一貫性、不変のものよりも変化しうる ものをという思考の志向性 • 宗教(一夫一婦制と天職を支持)の威信の低 下 • 商品を売るための流行(商品の「飽和状態」 避ける) • ネット社会の情報摂取方法の非線形性 • 「大きな物語」の崩壊(ジャン・フランソワ・リオ タール1924-98) 81 4.4.3 性的自由のメリット、デメリット 4.4.3.1 性的自由のメリット • 結婚前に相手に対してより多く知る→ミスマッ チ減る(就職についてのインターンシップのよ うなもの) • 女性が自立した存在に・・・男性と対等に振る 舞える • 性的快楽をタブー視しなくなる • 商品の購買意欲を喚起し、内需を拡大 82 性的自由のメリット(続き) • 性や家庭、戸籍の国家管理が弱くなる→国家 から自立した意識の人間の増大 • 離婚、再婚を増やす→人類の種としての多様 性の実現 • 別れる可能性があるとの自覚→良い意味の 緊張感 83 4.4.3.2 性的自由のデメリット① • 離婚率の上昇(←恋愛、同棲、結婚の境界不 明瞭性)→行為の意味の不在 • 若さ、美しさを一元的に称揚する価値観の支 配、正常性・規範性の美や肉体における支配 • 身体を自己の交換可能な部品のように考え る • 性の商品化を促進する 84 4.4.3.2 性的自由のデメリット② • 家族の解体の一つの動因に(離婚というだけ でなく、なかなか家庭をもとうとしない、家族と の共有する時間がなくバラバラ等も含めて) • 性的自由→離婚率の上昇→子供の教育が、 一貫性をもって行われなくなる • 自由を享受できる人と不器用な人との格差が 顕在化する 85 セクシャリティとジェンダーの境界の 話題というか命題 • なぜデートの時に、男性が女性をおごるの か? • なぜ、両方とも免許や車を持っているとき、男 性の車で男性の運転でデートをするのか? • なぜ、男性の方から告白することの方が比率 的に多いのか? • なぜ自分より背の高い男性を女性はパート ナーに選ぶべきという規範があるのか? 86 4.5 ジェンダーとセクシャリティの在 り方の変化の行き着く方向について • Gender論(genderの動き)もsexualityの現状も、 最後は男女の生得的違いsexの領域を極小 化 • 近未来の我々・・・uni sex, homo sexuality を 目指す方向へ • 機能としての性(パートナー)、機能としての 家族・・・異性の必要性ないし人の必要性な い・・・ヴァーチャルな性 87 4.5② • 性的魅力は、機能として必要なくなったもの • 要するに職業上は男らしさ、女らしさは不要 に。 • しかしセクシャリティの領域では(セックスア ピールとしては)男らしさ(強さ)・女らしさ(優 しさ)として残る • ジェンダーの展開とセクシャリティの矛盾 88 4.5③ • 「女性の社会進出」と「女性の性的自由」の親 和性(因果関係ではない) • 男性が性愛をプロの女性に委ねない→双方 の不倫の可能性→夫婦の恒久性が危うく • 夫のリストラの可能性、年金受給年齢と退職 年齢とのつなぎの必要。熟年離婚の増大→ 結婚=女性にとっての「永久就職」ではなくな る→女性の経済的自立および女性としての 魅力の維持不可欠に 89 4.5④ • 子育て支援体制(夫の家事分担、社会の育 児休暇への温かい目、有償・無償のサービ ス)の不足→働く女性が欧米先進国よりも子 供を作りにくい状況→少子化さらに進展 • {パートナーと別れる確率が高いことを前提と した制度設計→社会全体で子育てをする仕 組み}→これがないので日本の少子化対策は 根本対策足り得ない 90 性と国家統合① • 合衆国のような宗教国家・・・性的自由の問 題(中絶の是非、同性愛婚の合法化の是非) が大統領選の争点に • 性の問題は世界観に関わる(教義とも不可 分) 91 性と国家統合② • 戸籍を管理することが、国家の国民への支配 の正当性の根拠←昔は、宗教の正当性の根 拠が神の下で結婚の誓いを立てさせることに あった • 結婚と同棲と恋愛の違いが紙切れ一切れ に・・・戸籍管理の正当性が危うくなる • 国際結婚の一般化・・・国民であることの条件 に「文化の共有」という部分が欠落する 92 まとめ • ジェンダーからの自由とセクシャリティとして の性の自由は対立する要素を孕みつつ、広 い意味で相関しうる。 • 両方の性の自由の増大は、必然的な流れで あるし、メリットも大きいが、意味の喪失、国 家の統合の危機を招く可能性はある。 93 5.年齢 5.1世代(generation)と年代(age) • 5.1.1世代 • 5.2.2年代 94 5.1.1世代 • 「世代」「生年・成長時期がほぼ同じで、考え 方や生活様式の共通した人々。またその年 代の区切り。ジェネレーション。「--の差」 「戦後--」」(『広辞苑』) • 例)「安保世代」「団塊の世代」 • いつ頃生まれたかで人々を区分して、考え方 や行動の仕方の相違をみていく際に使われ る言葉。 • ある世代の人・・・ある時は子供の年代であり、 ある時は青年の年代であり、ある時は中年に 95 「団塊の世代」 • 「団塊の世代」(「1947-49年のベビーブーム時 代に生まれた世代」『広辞苑』) • 1960年には彼らは年代としては少年の年代 • 1970-80年頃までは青年の時代、 • 今は中年の年代になっている。現在、定年を 迎え、彼らの大量退職が技術の継承の可否 という観点から注目されている。 96 世代論と技術決定論 • 「太陽族」「新人類」(1960年生まれ以降)など。 • 「携帯電話世代」とか「オタク世代」 • マス・メディア、電気通信等のメディア環境の 変化→世代特有の行動様式(文化)を形作る • しかしあまりにそこの部分を強調すると、技術 決定論やマス・メディア効果論の皮下注射モ デルに陥ってしまう。 97 世代論の陥穽 • ①戦争や災害や技術などインパクトの大きい 事柄の説明力を必要以上に過大評価 • ②時代の最先端の人(若者)の行動のみに着 目しがちである • ③いずれにせよ多数派は世代の特色を(少 なくとも当初は)備えていない • ④報じられることで最先端が普通になること はある(沈黙の螺旋状階段仮説) 98 5.1.2年代 • 「年代」「一生の一時期」(ジーニアス英和の ageの説明の一つ) • teenage 10代の(13-19歳) • いつ生まれたかによる意識や行動様式の差 は「世代」のこととなるし、いつ生まれたかに かかわりなく、若者には若者固有の意識や行 動があり、そちらに着目すると「年代」のことと なる。 99 アンケート調査と世代、年代 • 実際には両者の影響は不可分的に混ざり 合っている。一度の時点でアンケートをしても、 両者は分離できない。 • 両者を区別する調査手法・・・コーホート分析 100 ‘若者の保守化 改憲論議’ 世代と年代のズレの例 • 従来 高齢者 保守的 /若者 革新的・・・ 時代を問わず、ほぼ普遍的にいえた ↓ • 冷戦の崩壊(1990年前後)→保守、革新の枠 組みの崩れ。55年体制の崩壊→戦争を知ら ない世代が政治の表舞台に ↓ • 従来の振り分けとある意味逆転している状況 101 5.2 年齢による意識の差の理 由・・・準拠枠組みの違い • 「準拠枠組(frame of reference)」・・・「「認識 枠組」「関係枠組」ともいう。人間は外部から の刺激を「知覚」するが、それをどのように 「認識」するかは、その人の持っている認識の 枠組によって異なり、同一の刺激が同一の認 識をもたらすわけではない。このように、外部 からの刺激に統一的な「認識」を与える枠組 みを準拠枠組という」 (倉沢進・川本勝『社会学への招待』ミネルヴァ書房1992,p.51)。 102 準拠枠組みの違いの生じる例① 親が子供に対して多く注意している事柄(倉沢進・川本勝 『社会学への招待』ミネルヴァ書房1992,p.50。オリジナルは、東京都『東京の子供と家庭』1985)。 • 1位 人に迷惑をかけないこと 46% • 2位 言葉づかいや挨拶をきちんとすること 32% • 3位 交通事故やけがに気をつけること 32% • 4位 勉強すること 21% 103 ② 子供が親から多く注意を受けている事柄 • 1位 勉強すること 43% • 2位 言葉づかいや挨拶をきちんとすること 30% • 3位 整理・整頓をすること 27% • 4位 交通事故やけがに気をつけること 22% 104 ③ • 親は社会的規則や通念をいっているつもり。 • 子供の方は具体的な生活上の事柄の注意が、 頭に残る。よって、のび太のママやしんちゃん のミサエ(「おかたししなさい」)のような発言 が印象残る。 • →同一の事柄に対する意味付与・・・大人と子 供で異なってくる。つまり、「個々の行為とそ の行為に意味を与えている価値や規範は違 うものであ」る(倉沢進・川本勝『社会学への招待』ミネルヴァ書房1992,p.52)。 105 ④ • ・・・子供の方が生活世界が狭く、特に友達集 団でのつきあいが、自分の最も大切な集団と なる。したがって友達づきあいを邪魔される 「宿題済ませたの?」は、子供にとって最も不 快で煩わしく、他の言葉よりも印象に残ること になる。他方、親の方は生活世界が広いので、 地域社会あるいは将来の日本社会での子供 の正しい成長を願っての発言が多くなってい ると感じている。 106 5.3 年齢と地位、役割 • 「年齢に比例して地位が上がる」・・・普通の 社会、あるいは従来の日本社会。いまは若干 変化している面もある。当然地位に応じて、 一般的には権力もふえるし、収入もふえる。 • 年功序列制であると、年齢とともに、会社の 中での地位が上昇することになる。経験が大 切な仕事であれば、年齢ととも実際に実力が つく。そして年齢、実力に伴い、役割や地位も 大きくなる。 107 • 日本での社員の評価 ・・・専門的な能力や独自の才能<<<会社内 での顔の広さ、人脈等 →年齢に応じて地位が向上することになる。し かしそれも定年までの間のこと • ▽山一証券「俺は部長なら得意だ」▽ 108 地位の非一貫性・・・日本の特色 • 中小企業の部長と大企業の係長のどちらが 地位が上か? • 社内では地位の上下は明確であり、そこで閉 ざされた地位のピラミッド型システムがあるが、 社会全体では?不明 • 職業上の地位だけでなく、財産や収入や学歴 その他諸々の要素が地位を構成している • 学歴は地位の理由であると同時にそれ自体 地位・・・昔の本、「文学士誰それ著」 109 年齢と地位 • 儒教社会・・・年齢と地位とがすぐに結びつく • しかし現代社会、定年制・・・60歳までの間で の期限付き、「年齢に応じた地位」 • 江戸時代も「ご隠居」は自主的定年・・・でも隠 居後も「水戸のご老公」 • 会社社会でも役員(重役)は定年がない。よっ て社長、副会長、会長と屋上屋が重ねられる。 110 5.4年齢につれての地位向上の機 会の減少という近年の状況 想定される諸要因 • マスメディアの影響・・・美男美女系(テレビ映 りの良い人)であれば若い人ほどメディア露 出しやすい • 能力主義の傾向 • 稼ぎで全てを評価する傾向 • 価値と希少性の問題 111 マスメディアの影響 • 社会がテレビなどの影響を受けやすくなる→ 若さが大切な仕事がスポットライトを浴びる→ 年齢を経た者が高い地位を占めることへの 反感も強まる • スターの若さ称揚→それが一般化→沈黙の 螺旋状階段(ノエル・ノイマン) 112 能力主義の影響 • 年功序列型と地位と賃金の配分→能力に応 じた地位と給料へ • 創意工夫を重視する社会へ→長年の経験の 蓄積よりも新しいことを生み出す力を重視→ 年を重ねることが優位性の根拠にならぬ • スポーツの監督よりスター選手の方が多い年 俸、大きな発言力を 113 価値の希少性の減少の影響 • 少子高齢化→若者の数減少→相対的に若者 の稀少性が増大→従来以上に大切にされる • 高齢者の増加→高齢者の有り難み減少 • 従来の年齢と地位との関係を問い直させる。 114 5.5 世代とカウンターカルチャー、 サブカルチャー • 世代間の情報行動、消費行動の相違→世代 間の文化的な摩擦の原因に • ギリシア時代から「今の若者はなっていない」 という言葉。 • 大人の価値・規範及びそれらが具体化した形 での行動様式(文化)≠若者のそれら • 大人・・・自分たちの価値・規範に生きてきた ことの意味づけ→若者の文化に不満 115 サブカルチャー② • 若者・・・大人の価値・規範を継承するだけで は、年の功のある彼らを抜けない→自分らの レゾンデートル(存在意義)を示す必要→別の 文化(サブカルチャー、カウンターカルチャー) を模索する • サブカルチャーは「年齢高くなる=地位」とい う見方を押しつける伝統的社会への反撥の 意味合いもあった(と思われる) 116 サブカルチャー③ • 学校教育で体現される価値や規範(既存文 化の側)とは別の規範→学校文化への反逆 (ex尾崎豊の「卒業」) • ジーンズやロック・・・反戦のシンボルから商 品へ(体制の側に吸収される) • 既存の価値や文化に対する若者の反逆を、 大人の側が商品とする 117 サブカルチャー③ • 市場の飽和状態を避ける→商品の差別化の 要請→この資本の側の要請に、若者文化、 サブカルチャーは応えてしまう。 • しかも世代、年代の問題が生じる。サブカル 世代が年齢を重ね、社会の主要ポストを占め ていく。→二重の意味で体制に取り込まれる。 118 サブカルチャー④ • サブカルチュア・・・社会的逸脱の一つ • 大人たちは、担い手に不良のレッテル貼り(ラ ベリング)を • しかし、その「不良」たちが社会の主流・中堅 どころといずれはなる • 彼らの「逸脱した」行動様式の一部あるいは ほとんどが、社会の主流の行動様式となる→ 社会の文化そのものを組み替えていく。 119 サブカルチャー⑤ • 小説・・・詩と違って二流の文学と見なされて いた • その後、映画は小説や詩や演劇と違って、二 流の芸術とされた • 漫画やアニメは二流の文化とされていて、今 でも図書館界の反発はあるが、次第次第に 漫画学会や大学の漫画学科ができて、主流 の文化で公認されるようになってきている 120 サブカルチャー⑥ • 不良の音楽とされていたビートルズやローリ ングストーンズであるが、ビートルズは、イギ リス女王によって1965年勲章をもらいマッ カートニーは1997年貴族に列せられ、先頃 ミック・ジャガーも貴族になった。 • ジャズはむかしはクラシックに較べ低級文化 とされたが(アドルノという世界的な社会学者 など)、今は、クラシックファンとジャズファンは 結構被るとされている。 121 サブカルチャー⑥ • 教育界・・・正統文化が支配 • 現在の教育システムで、優れた能力をもつと される人・・・新しい文化の基準においてはそ うではない可能性も • 未来の基準による「優等生」は、今ストリート でダンスに興じているということも充分にあり 得る(と今まで配付資料に書いてきたが、つ いに2012年、文部科学省の悪の手がダンス に及ぶ) 122 5.6 年齢の説明力の変化 • 従来は、年齢の差は、性とともに大きい説明 力 • なぜなら職業上の地位の差、家庭での立場 の差←年齢の差 • ←終身雇用制(年功序列と定年制。ただし勤 め人。しかも大企業・公務員のみ) • ←結婚(初婚)年齢がほぼ一定 • ←離婚率の低さ 123 年齢の説明力の低下 • 日本がアメリカ型の社会になる→年齢と地位 とが照応しにくくなってきている • 社会のボーダレス化→年齢不明人増える • 儒教道徳の衰え→年長者への尊敬の減退 • 終身雇用制(7.3.1参照)の崩れ。中途採 用の増加 • 定年制が年齢による差別とされる 124 年齢の説明力の低下② • 未婚単身者(パラサイトシングル?)の増加と 初婚年齢の多様化、離婚率の上昇 • 結果(メリット、デメリット) ①人間の自由の増大 を見よ 属性よりもその人個人 ②強い人間以外は孤独感が強まったり、意味 喪失に陥る 125 6.1 学歴についての予備的議論 6.1.1 学歴社会と学校歴社会 • 日本は、「学歴社会」というよりも「学校歴社 会」 – 「どんな教育を受けてきたか」よりも「どの学校を 出たか」 – 「学歴ロンダリング」、「学歴フィルター」なる用語 • 高学歴なはずの「博士」は就職難 – 理系修士は、就職がいい – 文系修士は、就職難 126 6.1.2 達成価値と属性価値 • 学歴は、本来、達成価値であるが、属性価値 的な要素も強い。 – 18,9歳のときまでの頑張り次第で決まってしまう ものだったので 127 アスクリプション(属性原理、属性主義)とア チーブメント(業績、達成)の対比 • 業績主義 – 「地縁・血縁・家柄・性別・人種」といった個人に とって変更不可能な属性によってではなく、その 人の能力・努力・実力に応じて、資源を配分した り、地位を決定すること • 属性主義 – 血縁・家柄などの属性によって地位を決定するこ と 128 6.1.3 学歴インフレ① • 学歴は、いろいろな属性に関係する – 学歴→職業→収入→居住地、未既婚、家族構成な ど、その他の属性に多く相関する – 意識や行動様式を多く規定する • そのため、親は子どもに良い学歴を望む → 世代交代を経るごとに学歴は良くなる傾向にある → 学歴インフレ 129 6.1.3 学歴インフレ② • 文化的蓄積、知識の蓄積に伴い、一人前の 技術者や研究者になるために必要な年数が 増えている。 – 理系は、修士に進む学生が大半 – 薬学部では、6年制課程の設置がスタート – 教員養成も?? • その意味で、高卒よりも大卒、大卒よりも院 卒が望まれる世界的な傾向がある 130 6.1.3 学歴インフレ③ • 学歴をアンケート調査で調べる際・・・ – 「学歴インフレ」の状況に考慮する必要がある – つまり、学歴の要因を年齢で、コントロールする • お金も資格も学歴も希少性があって初めて価 値を持つ – 大卒の価値の低下 – 末は博士か大臣か 131 6.2 学歴と階層再生産 • ピエール・ブルデュー (1930-2002) • フランスの社会学者 • 階層再生産の議論 出典:藤原出版 132 よい学歴(学校歴)のある人の DISTINCTION(卓越化)の構成要素 1. 能力そのものの差(頭の良さ、努力の結果の差) – 立ち居振る舞い(ハビトス)の差(文化資本) – ハビトスとウェーバーのエートス概念との類似性にブ ルデュー自身が言及 2. 周囲の評価の差 3. ネットワーク、人脈の差(社会資本) – 慶應義塾大学の人脈力 133 階層再生産① • 高学歴(支配階級)の親の戦略 → 子どもに対する階層再生産戦略を施す → 良い学校に入れ、よい就職をさせる → つまり、教育投資 • 学校教育が、子どもに求める能力 → 支配階級の好む文化、知識、教養 • そのため、支配階級の文化に接して育った子ど もは、学校教育についていきやすい 134 階層再生産② • その結果・・・ 1. 学歴が階層流動化の要因ではなく、階層再生 産の道具としてのみ機能するようになってしまう 2. 同じ一流とされる学校の卒業生において、親が 一流の職業に就いている人の方が、早く高い地 位に就ける → 学歴が専門的能力の証明であるよりも、教養 の高さ、文化資本の伝達・授受の証拠に使われ る 135 日本でも言えること、言えないこと 1. 東大・早慶の学生の親の年収は、他大学よ り高い – 東大と慶應の隔世遺伝 2. 日本では、階層の格差がフランスなどに比 べ少ないという説と、日本でも階層の格差が あるという説がある。 3. 芸術等の趣味という意味での文化資本のあ るなしは、社会的地位に関係しない – 階層による違いというよりも、世代による違い 136 文化資本① • 文化の持つ社会的な価値の側面、親から子 へと相続される側面を強調した用語。 – 流暢な標準語、クラシック音楽への素養 • 家庭生活を通じて、親から子へと受け継がれ る場合が多く、文化資本をより多く持った家の 子どもはやはり優位な位置に立つ – ブルデューの「階層再生産」 137 文化資本② • 文化資本は必ずしも金銭的な資産に比例す るものではない – 経済資本○ 文化資本× – 経済資本× 文化資本○ • ブルデューは、文化資本の中身を「身体化さ れた様態」、「客体化された様態」、「制度化さ れた様態」の3つに分類した。 138 文化資本③ 1. 身体化された様態 – 話し方や立ち居振る舞いなど 2. 客体化された様態 – 物としてのピアノ、百科事典など 3. 制度化された様態 – 学歴や資格など 139 ブルデューの議論 • フランス、ヨーロッパ型の階級社会を前提 → 日本にそのままの形ではあてはまらない が、それに類するものは日本でも存在してい る 140 6.3 学歴の高低と権威主義① • 低学歴のものほど、権威主義的な性格 • 進学校の生徒ほど、上下重視態度が弱く、権 威主義的でない ⇔ 親が高学歴の子どもほど、上下重視態度 が強いとも 141 6.3 学歴の高低と権威主義② • 学歴の低い人ほど、日常生活上の不満を自 国への誇りで解消させようとする傾向 → 高学歴者よりも権威主義になりやすいという指 摘 142 6.3 学歴の高低と権威主義③ • 従来、高学歴な者ほど、政治的にリベラルある いは、左寄り – 岩波書店、朝日新聞 • 低学歴な者ほど、保守的(なおかつ、保守的) • しかし、今日では、このような分け方が成り立た なくなっている – 朝日新聞、日経新聞の両紙を購読 – 若い高学歴層は、反朝日、反テレ朝、反中国、反韓 国 143 7.職業 7.1職業の多様な次元の種別 • 業種(大きく分ければ第一次産業か第二次産業 か第三次産業か。勤め先の業種)「業種」「事業 や営業の種類」(『広辞苑』) • 仕事の内容(勤め先の業種が製造業であっても、 事務的な仕事もあるし、営業的な仕事もある。他 方、製造業の根幹に関わる開発・技術部門や行 員として実際の製造に携わる人も多い) • 従業上の地位(平から係長・課長・部長・役員・ 社長等) 144 7.2日米の雇用形態・職業意識の違 い • 就職と就社 • ジェネラリストと専門職 • 企業内組合と同業者組合 145 7.3日本的経営 • 終身雇用制 • 年功序列制 • 配置転換による雇用調整とジェネラリストの 養成 • 御神輿型の意志決定と人の和の強調 • 丸抱え的システム 146 7.3.1終身雇用制 • ・・・(中途採用の少なさ、学歴よりも学校歴重 視の理由、就職よりも就社となることの理由) • メリット・・・首切りの少なさであり、社員の愛 社精神を強くし、仕事へのモチベーションを高 める。 • デメリット ①不採算部門に人をいつまでも残しておいたり 不景気になっても人減らしができない→日本 の企業の国際競争力を弱くする(構造改革論 者) 147 7.3.1終身雇用制② ②成果→好条件での転職というモチベーション が働かない→独創性を阻む企業風土 • この終身雇用制の反対がいわば「リストラ社 会」とでもいえる。 ③「会社人間」を作り出す・・・家庭を顧みない人 生・・・定年後の生き甲斐のない状態 148 7.3.2年功序列制① • (就社ゆえ、社内の人脈が大切になる) • 賃金や地位が勤続年数(=年齢・・・中途採 用が少ないので)に応じて決まる・・・横並び の昇進・昇級→社員の間での対立や嫉妬心 が生まれにくい。社員の創意工夫を殺ぐとい う批判もある。 • 独創性よりも調整力を重んじる(山一証券倒 産時のエピソード)。7.3.3のジェネラリスト ゆえこのような社内の人脈を重視する人間が、 エリートとしてのさばる。 149 7.3.2年功序列制② • 中途採用や、新卒でない者の採用が不利に なる。 • 日本が学校歴社会に留まり、学歴社会になら ない理由でもある。 • 現実にはポストは上に行けば行くほど限られ る。・・・出向、課長「級」のようなポストの用意 • 右肩上がりの時代は、上記の問題はあまり 目立たず巧くいった。 150 7.3.2年功序列制③ • 住宅ローンや退職金、年金等、ライフプランそ のものが日本では、年功序列制を前提として いた。 • それに併せて結婚年齢、子供の生まれる年 齢その他も、人による違いが従来は少なかっ た。 • ライフスタイルの多様化(≒属性の説明力の 減少)により、年功序列制の意義も薄らぐ 151 7.3.3配置転換による雇用調整と ジェネラリストの養成① • (就社であるがゆえに、不採算部門をレイオ フしなくて済む) • メリット ①首切りの少なさ・景気の変動・人気商品の変 化に対応できる ②社内の事情に通じた人物が幹部として育つ (「幅広い」視野) 152 7.3.3配置転換による雇用調整と ジェネラリストの養成② • デメリット • 専門職が育たない、専門的能力を評価できな い • 会社の外に人間関係の広がりを育もうとしな い人が増える 153 7.3.4御神輿型の意志決定と人の 和の強調 • ・ボトムアップ的な意志決定 • メリット・・・末端の社員も会社の方向を左右 する重要なアイデアを出す機会があり、モ ラール(士気)が高まる。 • デメリット • 1.責任が曖昧になる(日本の社会は無責任 の体系が支配するということは丸山真男その 他が指摘するとおり)。 • 2.意志決定に時間がかかる。 154 7.3.5丸抱え的システム • コンピュータ、英会話等、自分をスキルアップ するための研修費用も会社持ち • 社員食堂、社宅その他、福利厚生を会社が 面倒見る • お茶くみ専門の一般職の女子社員を大量に 採用し、幹部候補生の男子社員の結婚相手 の候補として、それでも売れ残った人にはお 見合いの話を紹介する。 • 社員旅行、接待ゴルフ、社内の飲み会等、社 員運動会等、社員および家族の娯楽 155 丸抱えシステムのメリット • 1.会社に対する愛情や忠誠心がわき、仕事が生 き甲斐になる。その結果、モラール(士気)が高ま り、仕事上の効率は増える。 • 2.9時-5時で職業人としての意識が途絶えない だけに、職業上の地位が、その人の役割や規範を そのまま規定することになり、人格上の統合の矛 盾が生じにくい。 • 3.名目上の給料よりも実質上の給料は高くなる が、それによって社員が支払うべき税金(所得税) は、相対的に低くて済む。(民間企業よりも公務員 に関して宿舎等々についてこの利得はある)。 156 丸抱えシステムのデメリット① 1.娯楽、余暇活動が仕事の延長になる。カラオケ に行っても、飲み屋に行っても上司の顔を見る んでは、部下はストレス発散できません。結局ジ ンメルのいうような貨幣的人間関係が構築され ず、相対的に下の立場の人間の自由が得られ ない状況であるといえる。 2.事実上の就業時間の延長。会社に余暇や娯楽 の面倒をみて貰うということは、逆にサービス残 業をすすんで受け入れる下地にもなる。 157 丸抱えシステムのデメリット② 3.地域社会への繋がりができない理由にも。 ただし会社と家族しか濃密な人間関係を築く ネットワークができないため、会社での立場 が悪くなり、家族ともしっくりいっていないばあ いには、逃げ場や相談相手がなくなる恐れも ある。 • ※会社がゲゼルシャフトではなく、擬似的な ゲマインシャフトとして機能するといわれる。 158 ライフサイクルと職業① • 人生の一部の時間のみ「職業人」 • 80年のうちの22-60歳の38年 • しかも余暇が増えて、この38年のうちの何割 かのみが職業に充てる時間 • ただし22歳までは「職業」という「夢」の実現 のための投資期間ともいえる • また生き甲斐も職業と併せて考えられている。 159 ライフサイクルと職業② • とはいえ余暇時間の充実を支える • お金と肩書きも職業が規定する。 • 自分の子どもへの教育投資も、職業を念頭に 置いている・・・その意味では社会学上の多く の「属性」が職業を巡って、廻っている • 職業・「再生産」(マルクス・ブルデュー的な) をキーワードすると、人間の諸活動のほとん どがその中あるいは周辺に関連づけられる。 160 ライフサイクルと職業③ • ただし普通の意味の学歴が関係する職業は、 全職業の一部だし、花形職業は学歴不問で あったり(スポーツ・芸能・ファッション)、学歴 は要するがさらに驚異的な競争率であったり する(マスコミ産業等) • 「職業-学歴-再生産」の軸が社会を大きく 規定するが、それを外すと何が残るか、そこ に自明性を越えた眼を向けたい。 161
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