2009年度法情報学演習 第3回 平成20年度新司法試験 公法系科目[第1問]問題の検討 2009年10月16日(金) 東北大学法学研究科 金谷吉成 <[email protected]> 2009年度法情報学演習 1 2009年10月16日 今回取り上げるテーマ 平成20年新司法試験 「論文式試験・公法系科目・第1問」 – 試験問題(平成20年新司法試験試験問題) http://www.moj.go.jp/SHIKEN/SHINSHIHOU/h20jisshi.html – 論文式試験出題の趣旨(平成20年新司法試 験の結果について) http://www.moj.go.jp/SHIKEN/SHINSHIHOU/h20kekka01.html インターネットにおける表現行為に対して、フィルタ リング・ソフトを用いた表現内容規制の問題 仮想法令としてのフィルタリング・ソフト法 2009年10月16日 2 2009年度法情報学演習 現実の制度 青少年が安全に安心してインターネットを利用で きる環境の整備等に関する法律(青少年ネット規 制法)(平成20年法律第79号) – 2008年6月18日公布、2009年4月1日施行 http://law.e-gov.go.jp/announce/H20HO079.html – 現実の法案は、おそらくできるだけ憲法上の問題がな いように作ってあって、問題文は憲法上の問題がある ように作ってあるはず – 成立の経緯 1999年以降長期間に渡り「青少年社会環境対策基本法」「青 少年健全育成基本法」の制定に向けた取り組みがなされてき たが、メディア規制につながるとして各方面から強い反対を受 け、包括的な青少年保護のための法律はなかなか整備され てこなかった 各地の地方公共団体では、青少年保護育成条例を制定し 「有害図書」を規制 2009年10月16日 3 2009年度法情報学演習 インターネットの有害情報 アダルトサイト(ポルノ画像や風俗情報) 出会い系サイト 暴力残虐画像を集めたサイト 他人の悪口や誹謗中傷を載せたサイト 犯罪を助長するようなサイト 毒物や麻薬情報を載せたサイト – アダルトサイトでは通常、「18歳未満の入場お ことわり」として入場制限を行っているが、確実 に年齢を確認する手段がないため、誰でも容 易に入場することができるのが現状 2009年10月16日 4 2009年度法情報学演習 有害ウェブサイトへの対応 ウェブサイトそのものの規制 – 情報発信者の表現の自由 フィルタリング – 情報を受け取る側で有害なウェブページの閲覧を拒否 する – 有害なウェブページを子どもや見たくない大人に見せ ないようにするためのソフトウェアが「フィルタリング・ソ フト」 パソコンにインストールするもの インターネット・サービス・プロバイダ(ISP)が提供するフィルタ リング・サービス 日本語対応フィルタリング(財団法人インターネット協会) http://www.iajapan.org/rating/nihongo.html 2009年10月16日 5 2009年度法情報学演習 フィルタリングの仕組み レイティング方式 – ホームページに対して一定基準で格付け(レイティングという)して おくことにで、情報受信者がそのレイティング結果を利用して、受 信者の価値判断でフィルタリングを行う方式 – 情報発信者が自ら格付けする『セルフレイティング』と、第三者が 格付けする『第三者レイティング』がある ブラックリスト方式 – 有害なウェブページのリストを作り、これらのウェブページを見せ ないようにする方式 ホワイトリスト方式 – 子どもにとって安全で有益と思われるウェブページのリストを作り、 これらのウェブページ以外のページを見せないようにする方式 キーワード/フレーズ方式/全文検索方式 – 有害なキーワードやフレーズをあらかじめピックアップしておき、 ウェブページを表示する前にその内容とこれらのキーワードやフ レーズを照合することで、有害なウェブページを見られないように する方式 2009年10月16日 6 2009年度法情報学演習 フィルタリング・ソフトの問題点 フィルタリングは、有害なウェブサイトから 子どもたちを効率的に遠ざけることができ るが、万能ではない – フィルタリングの方式によっては、無害なペー ジや有益なページまで遮断してしまう – フィルタリング・ソフトによっては、遮断されない 有害ウェブサイトもある – 新たなサイトの立ち上げとのイタチごっこ – フィルタリング・ソフトによって、無理に子どもの 行動を制限したくないと考える保護者も(イン ターネットの利用の幅を狭くするデメリット) 2009年10月16日 7 2009年度法情報学演習 青少年ネット規制法の内容 ケータイ事業者 – 保護者が申し出た場合を除き、青少年がネットを利用する際にコ ンテンツフィルタリングサービスを提供する 18歳未満の利用者が新規契約する場合、親権者の申し出がなけれ ばフィルタリング・サービスが適用される 既存契約者についても、順次意思確認が行われている インターネット事業者 – コンテンツフィルタリングサービスの普及、および利用を促進する ための措置を取る サイト管理者 – 青少年にとって有害な情報が発信されていることを知ったときに、 青少年の閲覧を防ぐように努める その他 – 青少年の安全なネット利用に関する基本方針を決める「インター ネット青少年有害情報対策・環境整備推進会議」を内閣府に設置 – フィルタリングの調査、開発、啓発を行なう団体を第三者機関とし て認定して、国や地方公共団体が支援 2009年10月16日 8 2009年度法情報学演習 「有害」の判断は誰が下すのか? フィルタリング・ソフト法(事例の仮想法令) – 内閣総理大臣が指定(5条) 国による情報統制や表現の自由の侵害などが懸念 青少年ネット規制法 – 有害情報については例示に留め、民間の自主的な対 応を求める – フィルタリング推進機関 総務大臣及び経済産業大臣の登録を受ける サイト開設者、ISP、国および地方公共団体が協力して対応 罰則なし 2009年10月16日 9 2009年度法情報学演習 実効性の問題 青少年ネット規制法に対しては、以下のよ うなさまざまな問題点が指摘されている – 法規制により青少年の受ける犯罪被害を防ぐ 効果があるとは言いきれない – フィルタリングがかかったせいで普通のサイト まで見られなくなる不便さが生じる – フィルタリングや有害情報のチェック体制を用 意することで企業の負担が増える – 「ケータイ小説」など、未成年者が関係している ケータイ文化を萎縮させないか 2009年10月16日 10 2009年度法情報学演習 青少年ネット規制法への反発 各方面からの反対 – 楽天、Yahoo!、DeNA、マイクロソフト、ネットス ターは、青少年ネット規制法に対して反対の立 場を表明 – インターネット先進ユーザーの会(MIAU)、 WIDEプロジェクト、社団法人日本ネットワーク インフォメーションセンター(JPNIC)、日本新聞 協会、日本民間放送連盟などの団体も、反対 を表明 青少年ネット規制法は、3年以内に見直す とされている 2009年10月16日 11 2009年度法情報学演習 問題の検討 フィルタリング・ソフト法の概要 ① 立法目的 ② 立法目的を達成する手段 – 「有害ウェブサイト」指定制度 ③ 立法事実(①・②の合理性を裏づけ支える一 般事実) – 国民のおよそ4分の3がインターネットを利用 – 有害情報による子どもへの悪影響の懸念 – フィルタリング・ソフトは有効な対応策ではあるが、 実際の普及率は低い 2009年10月16日 12 2009年度法情報学演習 問題の検討 Aの起訴にかかわる事実関係 – Aが運営するウェブサイト – フィルタリング・ソフト法施行による影響 – Aのとった対抗策 – 法令違反による起訴 Aのプログラム提供行為 Aが運営するウェブサイトに掲載されていた画像は、 本法が定める「有害情報」といえるか 2009年10月16日 13 2009年度法情報学演習 「有害ウェブサイト」指定制度の違憲性の主張適格 Aは「有害ウェブサイト」指定制度の違憲性 を主張し得るか? – Aは、法16条1項2号にいう「適合ソフトウェアの 使用目的に沿うべき動作をさせないプログラ ム」を提供した罪で起訴されている – 「有害ウェブサイト」指定制度(法5条)そのもの が、Aの表現の自由と衝突しているのではない 2009年10月16日 14 2009年度法情報学演習 表現の自由に基づく主張について フィルタリングは表現の自由の制約となるか フィルタリングは「検閲」に該当するか – LEX/DBインターネット(法学部内限定) http://www.tkclex.ne.jp/lexbin/ACLogin.aspx – 札幌関税事件判決:最大判昭和59年12月12日民集38 巻12号1308頁 「事前抑制」該当性 – 北方ジャーナル事件判決:最大判昭和61年6月11日民 集40巻4号872頁 「有害情報」の不明確性 表現内容規制 適用違憲の主張 2009年10月16日 15 2009年度法情報学演習 法律の委任の範囲を越える内閣府令 「有害情報」の定義(2条2号) – 具体的基準について、内閣府令(資料2)に委 任している – 法が委任しているのは、「著しく性的感情を刺 激し、著しく残虐性を助長し、又は著しく自殺若 しくは犯罪を誘発するもの」の判断基準 – 内閣府令は、法律の定める定義よりも広い行 為を含み得る表現となっている? 単なる描写(1条1号イ、ロ) 一定の見解の表明(2号イ、3号イ) コンピュータ・ゲームの利用(1号ハ、2号ハ、3号ハ) 2009年10月16日 16 2009年度法情報学演習 青少年保護のための表現規制の特殊性 岐阜県青少年保護育成条例事件判決:最判平成 元年9月19日刑集43巻8号785頁 – 伊藤正己裁判官の補足意見 「ある表現が受け手として青少年にむけられる場合には,成 人に対する表現の規制の場合のように、その制約の憲法適 合性について厳格な基準が適用されないものと解するのが相 当である。」 – 子どもの保護という目的が掲げられれば、表現の自由 制約を審査する際の基準がすべて緩和されるとしてし まってよいのか? – 青少年以外の者への影響は「付随的な効果」にとどま るものといえるか? 2009年10月16日 17 2009年度法情報学演習 参考文献、Web 1. 木下智史「公法系科目〔第1問〕の解説」新 司法試験の問題と解説2008・別冊法学セミ ナー30頁(2008年) 2. 矢島基美「検証 第3回新司法試験 公法系 科目(1)〔憲法〕」ロースクール研究11号10 頁(2008年) 3. 斎藤浩,木下智史,石井昇「新司法試験問 題の検討2008 公法系科目試験問題」法学 セミナー644号37頁(2008年) 2009年10月16日 18 2009年度法情報学演習 おしまい この資料は、2009年度法情報学演習の ページからダウンロードすることができます。 http://www.law.tohoku.ac.jp/~kanaya/infosemi2009/ 2009年10月16日 19 2009年度法情報学演習
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