日本語複合動詞の習得研究 ―使用実態の調査を中心に D3中間報告会(2007年9月29日) コミュニケーション専攻 後期課程三年 陳 曦 本発表の流れ 本研究の対象と目的 先行研究とその課題 本研究の課題と方法 論文全体の構成 各章の概要と進捗状況 現在完成している部分の概要 これからの執筆計画 1.本研究の対象と目的 対象 1)「動詞連用形+動詞」 2)日本語を第二言語として学ぶ学習者 目的 1)学習者の使用実態の解明 2)教師側の教授意識の調査 3)教科書の扱いの考察 4)教育に即した意味提示法の探索 5)習得支援、指導法の提案 2.先行研究とその課題 複合動詞習得の先行研究 1)寺田(2001) 2)松田(2002a,2002b,2004) 3)陳(2004,2006,2007a) 課題 1)使用実態の調査 2)教育現場での扱われ方の調査 3)教育に即した意味研究 4)習得支援、指導法に関する研究 3.本研究の課題と方法 課題1 使用実態の解明 コーパス 課題5 課題4 課題2 教授意識の調査 アンケート 課題3 教科書での扱い 教材分析 意味研究 習得支援 認知意味論 コーパス 指導法の 探索 4.論文の構成と進捗状況 <第一章> 先行研究と本研究の課題 <第二章> 学習者の複合動詞 使用実態 <第三章> 教師側の教授 意識調査 <第五章> 意味提示法の事例研究 <第四章> 教科書の扱われ方 の調査 <第六章> 意味提示法の教育への応用 <第七章> 習得支援、指導法の提案 5.現在完成している部分 話し言葉における使用状況の量的分析 書き言葉における使用状況の量的分析 教科書における取り扱い 意味提示の事例研究及び教育への応用 5.1(第二章 2.1)話し言葉における 使用状況の量的分析―その1 目的: 1)話し言葉における学習者の使用状況の解明 2)習得研究におけるコーパス利用の実証と考察 方法: 学習者コーパスと母語話者コーパスの量的比較 分析視点: 全体使用、後項動詞別、前項動詞別、レベル別、 母語別 5.1 (第二章 2.1)話し言葉における 使用状況の量的分析―その2 データの概要 学習者コーパス⇒KYコーパス 母語話者コーパス⇒上村コーパス 処理手順 データの整形 『茶筌』で品詞情報を付与 複合動詞の抽出 5.1 (第二章 2.1)話し言葉におけ る使用状況の量的分析―その3 結果 1)学習者全体で使用頻度も種類も少なく,特に「差し上げ る」,「申し上げる」など敬語を表す用法が少ないこと。 2)使用頻度上位の複合動詞は多くが共通する一方,学習 者は「~あう」,「~だす」の使用は多いが,「~はじめる」, 「~つづける」などのアスペクトを表すものの使用は少な い。 3)学習者の熟達度や学習者の母語の違いによっても使用 頻度と種類について有意な差がある。 4)現状のコーパスには表記のゆれ,属性情報の精緻化, 誤用情報の付加などに課題が残っている。 5.2 (第二章 2.2)書き言葉におけ る使用状況の量的分析―その1 目的: 書き言葉における学習者の使用状況の解明 方法: 学習者と母語話者による日本語作文の量的比較 分析視点: 全体使用、後項動詞別、前項動詞別、母語別 5.2 (第二章 2.2)書き言葉におけ る使用状況の量的分析―その2 データの概要 国研の『日本語学習者による作文と、その 母語訳との対訳データベース』 処理手順 データの整形 『茶筌』で品詞情報を付与 複合動詞の抽出 5.2 (第二章 2.2)書き言葉におけ る使用状況の量的分析―その3 結果 1)学習者全体で使用頻度も種類も少ない。 2)共通する後項動詞を使用する。学習者の 自他動詞の使い分けについての誤用が多 い。 3)前項動詞は母語話者と大きな相違がない。 4)学習者の母語の違いによる使用頻度と種 類について有意な差がない。 5.3(第四章)教科書における複 合動詞の扱い―その1 目的 1)教科書での扱いの実態と問題点の解明 2)実態調査の結果と比較し、指導する際の留意点 を考察 課題 1)教科書で扱うべき複合動詞項目は何か 2)教科書の扱いの現状と問題点は何か 3)教科書でどう指導すべきか 5.3 (第四章)教科書における複 合動詞の扱い―その2 調査対象 総合中級教科書4種に現れた複合動詞と 関連する記述 調査方法 1)複合動詞を抽出し、全体使用頻度、後項 動詞別、前項動詞別に集計。 2)話し言葉使用実態調査の結果と比較 5.3 (第四章)教科書における複 合動詞の扱い―その3 視点 「学習者」を「母語話者」 へ移行させることは教科書 のあるべき姿 方法 使用実態の調査結果と比較 A~Gのグループごとに分析 B 母語話者 D 教科書 E G 学習者 A C F 5.3 (第四章)教科書における複 合動詞の扱い―その4 調査結果 1)学習項目としての扱いは足りない。 2)教科書の扱いは母語話者の使用実態と ずれがある。 3)結合条件、意味構造、本動詞との関連、 類義語との使い分けなどが説明不足 5.3 (第四章)教科書における複 合動詞の扱い―その5 日本語教育への提言(複合動詞指導) 1)母語話者の使用実態に合わせた複合動詞項 目を指導すること。 2)結合ルールの説明、本動詞との関連性、 類 義語との使い分け、自他動詞、名詞化に触れる。 3)「形式」、「意味」、「用法」の三つの面から 指導すること。 5.4(第五章)「~出す」を事例と した意味研究―その1 目的 認知意味論に基づいた多義複合動詞の意 味提示と指導法について考察 方法 『中日新聞』(1999~2003)により抽出した 実例をもとに、「出す」と「~出す」の例文、 名詞との共起を分析し、ネットワーク構造、 プロトタイプ的語義、イメージ・スキーマを 提示。 5.4 (第五章) 「~出す」を事例と した意味研究―その2 ネットワーク構造(詳細省略) 「内から外への移動」⇒「移動・命令」⇒「発 生」⇒「開始」 プロトタイプ 1)「内から外への移動」 2)「発生・開始」 イメージ・スキーマ(詳細省略) 5.4 (第五章) 「~出す」を事例と した意味研究―その3 日本語教育への提言(多義語指導) 1)多義語のプロトタイプ的意味から導入 2)多義語の持つイメージを絵や図式で提示 3)多義語の複数の異なる意味をネットワーク 図で提示 6.これからの執筆計画 これからの課題 1)使用実態の質的分析 2)教師側の教授意識調査の分析 3)意味構造とその提示法の再考 4)習得支援と指導法の提案 執筆計画 1)11月上旬第一稿完成 2)12月20日までに論文提出 7.研究業績―公刊された論文と学 会発表 1)陳曦(2004)「中国人学習者における複合動詞の習得に 関する一考察―「~あう」と「~こむ」の理解に基づいて ―」『ことばの科学』第17号 pp59-80 2)陳曦(2006)「中国人学習者における複合動詞の習得に 関する一考察――学習者の作文産出に基づいて」『クク ロス:国際コミュニケーション論集』第3号 pp1~15 3)陳曦(2007a)「日本語複合動詞の習得状況と指導への 問題提起―中国西安外国語大学における「~あう」「~こ む」の調査を中心に」『国際開発研究フォーラム』第35号 pp93~102 4)陳曦(2007b)「学習者と母語話者における日本語複合 動詞の使用状況の比較――コーパスによるアプローチ」 『日本語科学』第22号(印刷中) 5)陳曦(2007)「話し言葉コーパスにおける複合動詞使用 状況の調査」日本語教育学会研究集会第三回予稿集 7.研究業績―投稿中論文 1)陳曦(2007)「認知意味論に基づいた多義語の 意味構造と日本語教育への応用」『世界の日本 語教育』第18号 2)陳曦(2007)「日本語複合動詞指導に関する一 考察――日本語中級教科書と日本語の使用実 態の調査をもとに」『日本語教育論集』第24号 3)陳曦(2007)「作文データベースを用いた学習者 と母語話者における日本語複合動詞使用状況 の比較」『小出記念日本語教育研究会論文集』 第16号 参考文献 寺田裕子(2001)「日本語の二類の複合動詞の 習得」『日本語教育』109,20-29 松田文子(2002a)「複合動詞研究の概観とその 展望―日本語教育の視点からの考察―」『言語 文化と日本語教育5月特集号 第二言語習得・ 教育の最前線―あすの日本語教育への道しる べ』,170-184 松田文子(2002b)「日本語学習者による『~こ む』の習得」『世界の日本語教育』12,43-59 松田文子(2004)『日本語複合動詞の習得研究 ―認知意味論による意味分析を通じて』 ひつじ 書房
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