地域と学校が活かし合うために --「地域の教育力」をめぐる現状と課題、そして思想-- 西村 拓生 (奈良女子大学文学部・奈良県「地域の教育力」 再生委員会 副委員長) 2012年11月29日 1 1.「地域の教育力」をめぐる状況 2.学校の今、子どもたちの今 3.後続世代と関わることの「意味」 2 1.「地域の教育力」をめぐる現状 (1)奈良の子どもたちの「問題」 「全国学力・学習状況調査」と 「全国体力・運動能力・運動習慣等調査」の結果 「奈良県の子どもは、学力は高いが、基本的な 生活習慣や規範意識、体力や運動能力に問題 がある」!? 3 調査結果の「数字」の意味を冷静に考 えることが必要 e.g. 学力と規範意識は反比例するわけではない 奈良県の子どもたちの問題は、日本 の子どもたちの問題の縮図ではない か? 4 子どもたちの問題の根底にあるのは、 かつて学校の教育力を支えていた、 家庭や地域の教育力の弱まりではな いか? ⇧ 都市化・郊外化、核家族化・少子化 コミュニティの希薄化・解体・不在 子育てや教育の私事化 5 (2)奈良県での取り組み 奈良県では、県教育委員会学校教育課と くらし創造部協働推進課が協力して、奈良 県「地域の教育力」再生委員会を発足 (平成20年10月~) 子育て支援、青少年育成、体育・スポーツ、食育、 地域活動、地方自治、社会教育など、県内の 様々な分野からの委員が約1年間、調査と議論 を重ねた 6 平成21年12月 「地域の教育力」を高めるための 方策についてのとりまとめ (家庭・学校・地域が一体となった取組、 施策の提案) --荒井知事に提出 7 「地域の教育力」再生委員会の一つの結論: 「地縁」と「志縁」を「子縁」でつなぐ! 「子ども」をきっかけとした「志」(ボランティア) のつながりによって、地域コミュニティを再生さ せ、 ⇒ それを、学校を支える力に! 8 目指すあり方 学校は地域コミュニティによって支えられ、 地域は学校・子どもとの関わりを通じて 活性化する 地域コミュニティと学校教育との互恵関係 --いわゆる Win-Win の関係 その中でこそ、子どもたちは育つ! 9 (3)地域と学校をつなぐ新しいシステム コミュニティ・スクール3段階説 (鈴木寛・前文部科学副大臣) ①「土曜学校」「放課後子ども教室」 ↓ --学校ボランティアの広がり ②「学校支援地域本部事業」 ↓ --地域ぐるみで学校を支援 ③ 本格的な「コミュニティ・スクール」 (鈴木寛『「熟議」で日本の教育を変える』小学館、平成22年) 10 学校支援地域本部事業 学校支援地域本部は、学校の教育活動を支援 するため、地域住民の学校支援ボランティアなど への参加をコーディネートするもので、いわば “地域につくられた学校の応援団”と言えます。 ・・・ 地域住民が学校を支援する、これまでの取り組 みをさらに発展させて組織的なものとし、学校の 求めと地域の力をマッチングして、より効果的な 学校支援を行い、教育の充実を図ろうとするもの です。 (文部科学省ホームページ) 11 12 コミュニティ・スクール コミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)は、 地域の公立学校の運営に保護者、地域の皆さん の声を生かす仕組みです。 コミュニティ・スクールには、保護者や地域住民 などから構成される学校運営協議会が設けられ、 学校運営協議会が学校運営の基本方針を承認 したり、教育活動などについて意見を述べたりす ることを通じて、保護者、地域の皆さんの意見を 学校運営に反映させることができます。 (文部科学省ホームページ) 13 コミュニティ・スクールの概念図 14 参考 金子郁容・鈴木寛・渋谷恭子 『コミュニティ・ス クール構想--学校を変革するために』岩波 書店、平成12年 金子郁容 『日本で「一番いい」学校--地域連 携のイノベーション』岩波書店、平成20年 15 (4)教育行政の新しい流れ 歴史的に中央集権的・トップダウンの 体質が強い日本の教育行政・教育政 策決定に、新たにボトムアップの流れ を作る試み。 新しい教育の「公共性」 「公」=「官」ではなく… 16 いささか唐突ですが--大阪府・大阪市 の教育「改革」をめぐって cf. 今度の総選挙における自民党の教育政策案 「私たちの子どもたちの教育のあり方を、 誰が、どのように決めるのか」という問い 17 橋下さんは「教育目標は首長が決める」と 主張した vs. 教育委員会 知事や市長が決めるのか、教育委員会が 決めるのか、政府や文部科学省が決める か、それとも-- 18 教育委員会--本来は「地域の子どもたち の教育のあり方は、地域で選ばれた代表者 が話し合って決めましょう」という制度だった 大津の「いじめ」問題をめぐる、教育委員会 の「形骸化」批判、教育委員会不要論 19 教育委員会制度の変遷-- 敗戦後、中央集権的な教育行政への反省か ら、「公選制」で発足 1956年、冷戦下の政治的対立のなかで、首 長による「任命制」に 20 「トップダウンの民主主義」 「ボトムアップの民主主義」 --それぞれのあり方が今、鋭く問われ ている! 「地域の教育力」も、この問題にかかわ る! 21 2.学校の今、子どもたちの今 「どうして先生の言うこと…?」 「われわれ全員が犯人」 (拙稿:奈良県教委メールマガジン第183号、 平成21年12月15日 「巻頭言」 参照) 22 内田樹『下流志向-学ばない子どもたち 働かない若者たち』(講談社文庫、2009年)から 勉強を嫌悪する日本の子ども 「矛盾」と書けない大学生 cf.「ゆとり教育」の問題ではない! わからないことがあっても気にならない オレ様化する子どもたち 教育サービスの買い手、不快という貨幣 23 等価交換の原則を学校教育に当てはめる ことを許したら、もう教育は立ちゆきません。 現に立ちゆかなくなりました。… 「私は自分がその価値を知っている商品だ けを適正な対価を支払って買い入れる」 消費主体としての子どもたちはそう高らか に宣言しつつ学校に入ってくるわけです。 そんな子どもたちが静かに授業を聞くはず がありません。… 24 学びは市場原理によっては基礎づけるこ とができない。 これが教育について考えるときの基本で す。この基本原則を見逃してしまうと、あと はどのような精緻な教育モデルをつくって みても、どのように斬新な教育方法を考案 しても、無駄なことです。(前掲書70頁) 25 このような子どもたちに対して、学校・教師 だけで、十分な対応が可能か? 教師の多忙化、燃え尽き… e.g. 平成18年度文科省調査で、教員の時間外勤務は 月平均34時間。民間は10.7時間。製造業で16.5時間。 教員の自殺数は年間120~150名、新任教員の離職数 は年間およそ300名。これは多いか少ないか? 26 27 28 (たとえば)「いじめ調査」のために、 じっさいのいじめへの対応ができない、 という逆説! 物理的な多忙、のみならず、上述のように 「変わってしまった子どもたち」に対して 管理システムの強化で対応できるか? 29 私たちは学校をサポートすべき。 = 学校にとっての“Win” そのための具体的方策は? 困難は? ⇒ 次のテーマとして… しかし、今回は… では、地域の私たちにとっての”Win”は? 30 3.後続世代と関わることの「意味」 E.H.エリクソン(1902-1994)の 「発達課題」と「ライフサイクル」という思想 大人の発達課題:generativity (しばしば「生殖性」などと訳されるが…) 「生み出す力」(田中毎実訳) 31 32 「ライフサイクル」--通常の理解 33 「ライフサイクル」の本当の意味 先行世代、後続世代のライフサイクルとの 重なりを考えてみると--(図示) エリクソンのライフサイクル論=現代社会 における「人生の意味」を考える思想 「与えること」「必要とされること」によって 得られる「意味」 34 たとえば、地域の学校を支えることによっ て得られる「意味」--それもまた、地域の 私たちにとっての”Win”の一つでは? 生き生きとした自律的な地域コミュニティの 形成・再生という課題 地域への帰属感はどこから? --私にとって「意味」のある地域! 35 おわりに 「あんたが、あんたのバラの花をとても たいせつに思っているのはね、そのバラの 花のために、ひまつぶししたからだよ」 『星の王子さま』 それぞれの「今、ここ」でできることを! 36
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