第7章:中層大気の不安定擾乱について -不安な雲のうかび出て ふたたび明るく晴れるのは- 一般流との相互作用から擾乱が生成するのであろうか 東向き擾乱 波数1、4日波 2日波 4日波 65km PV、2日 波、西向き 慣性不安定 Kelvin-Helmholz不安定 KH不安定で鉛直流が強いよう、 xは圏界面 慣性不安定によるシグナルのよう 7ー1:中層大気中の傾圧不安定で起こっているらしい例 1993年1月 (東西波数3の)2日波、南半球夏の中間圏界面付近の擾乱の よう、Plumb et al. (1987, JAS) 1月 振動数 0.46hPa, 20S 高度 波数 アデレード(35S, 138E)でのレーダー観測(1点観 測)で、東方向、北方向の風の成分 西向き 伝播 Wu et al., 1996, J. Atmos. Sci. による、MLS 温度衛星データからの、s=3, 2-day wave、 西方伝播である。 2.15mb 温度 緯 度 0.46mb 時間 0.046mb 2日波シグナルの各高度での時間-緯度断面図 Wu et al., 1996, J. Atmos. Sci. 92年12月-93年3月(南半球夏)、夏半 球で卓越し赤道域まで広がっている 温度振幅の緯度-高度断面図、DAY 502は1月終わり Plumb(1983) はこの擾乱を傾圧不安定で説明: 境界条件: 大気擾乱の生成メカニズムの1つの傾圧不安定を線形不 安定論で考える。 南北には壁をおく事にする。剛体壁で南北風がないとす れば擾乱について、 方程式は準地衡風方程式を用い、基本の場(高さと緯度の 関数)が擾乱を成長させるか?を議論してみる。 ここで ( ug vg )q 0 t x y の式をもちいる。ここで、 f 2 0 q f y ( ) 0 z N 2 z 2 ' 0 x hence ' 0 at y 0, L 鉛直方向は、地表ではw=0にしよう。ただしPVの式はw を含んでいないので、熱力学の式を変形する。 熱力学の式は p p p ( ( )) ug ( ) vg ( ) w0N 2(z) 0 t z 0 x z 0 y z 0 であった。これの線形での流線関数表現では、 これまでおこなってきたように、東西平均量(基本の場)と それからのずれを考える。 ' ( ( )) u ( ) () w0 fN2 (z) 0 t z x z x y z 擾乱についての線形方程式は以下のようになる。 この式でw=0とおいて、 ( u )q' v' q 0 t x y ここで、 ' ( ( ' )) u ( ' ) (u ) 0 t z x z x z が有限というような境界条件を ' f 2 0 2 q ( ( )) y y 0 z N 2 z である。 無限遠では おこう。 2u f 2 0 u ( ) y 2 0 z N 2 z Ψ’を上の境界条件のもとに解くこと(例えば固有値問題 にする)になる。 f 2 0 ' q' ' ( ) 0 z N 2 z 5章の初めの議論では、下端での強制問題であった。 2 地球流体力学の見直し:準地衡風系における傾圧、順圧不安定の必要条件を示しておく。 線形的な波動擾乱について ' Re(y,z)expik(x ct) の形を仮定すれば、準地衡風方程式は 2 1 (u c) 2 k 2 ( 0 ) q 0 0 z z y y ただし f2 である。下端の境界条件は地面があると、 N2 (u c) u 0 at z 0 z z 一方、上端の無限遠では が有限の境界条件である。 南北には、壁的なものがあるとして、 がゼロとする。 2 1 1 2 k ( ) q0 0 y 2 0 z z (u c) y 上式に * をかける(擾乱の2次の量をつくる) 2 1 2 0 * 2 k 2 * (0 ) 0 q 0 z z (u c) y y 部分積分をして変形すると * 2 ( ) 0 * 0 k 2 y y y y 1 2 (*0 ) 0 * 0 q 0 z z z z (u c) y 0 鉛直と南北に積分し( 式でdydzを省いてある )、境界条件を使うと 2 2 1 2 2 * k ( ) q2 0 0 0 z z z (u c) y y 2 2 1 2 2 2 k dy * 0 0 q 0 z z z 0 (u c) y y 下部境界条件 1 u at z 0 z (u c) z を代入して 2 2 2 2 1 u 1 2 * k dy q 0 0 0 y z (u c) z z 0 (u c) y 2 2 2 2 1 u 1 * 2 k dy q 0 0 0 y z (u c) z z 0 (u c) y となる。不安定の必要条件として(不安定なら c が復素になるから、そのときみたすべき式は)、 左辺は実だから上式の虚部は 0 2 u 0 2 ci q 2 2 y u c z u c これが不安定の必要条件である。不安定のとき dy 0 z0 ci はnot zero だから[ ]内がゼロにならないといけない。 z=0での境界条件が関係しないとき(内部jetの不安定と呼ばれる、中層大気の不安定)、基本場のPVの南北微分が符 号を変えることが、不安定の必要条件になっている。 気象学で学んだEadyの傾圧不安定の問題では、上端に壁があり、上端と地面が関与して不安定となっている(流体中で は不安定の必要条件をみたしていない)。 Plumb(1983)による固有値問題での説明 2u f 2 0 u q ( ) y y 2 0 z N 2 z 東西風の鉛直分布と を示す。Potential Vorticity 勾配が符号を変える (不安定の必要条件はみたしている)。 固有関数として、下図のような鉛直構造の波が不安定に なっている。波長9400km(波数3程度)、南北には5000km のsinモードを仮定してある。Geopotential振幅は80kmあた りが最大になっている。熱フラックスの大きいところは、PV の南北微分が符号を変えているところに対応している(c 図)。 位相 Height場 温度 夏半球の中層大気の風分布とPV勾配 観測の別例: Harris and Vincent, 1993, JGRでは赤道域 2N,157W, Chrismas島で2日波を解析している。かれらによると、このシグナル は東西波数 s=3のRossby-重力波と言っている。MFレーダーによる観測 時 間 南北風の2日あたりにシグナル 2日 最近の衛星観測から: Garcia et al., 2005, JAS 70km 2002, 1-2月, 40Sで夏、k=3, 2日のところに(西向きに 対応)温度シグナル、赤線はc=70m/s 北半球(40N)夏6-7月、2002年のスペ クトル 鉛直緯度の温度構造、夏6-7月、2002 GCMの中の2日波 温度 UGAMP GCM (T21) の7月1日の東西平均風、Norton and Thuburn, 1996, G. R. L. 約65km (3000K), 85km(7000K )で、波数3 の構造が見 える 南北風 波数3の擾乱の緯度-高度断面図、RG波のように、赤道で 南北風が大きい(b)、夏半球で振幅が大きい 北半球 2日波の赤道v振幅の時間変化、実線が波数3でdotted が4 7—2 慣性不安定に関わって Hayashi et al., 1998, JGRから 経度 CLAESで観測された、4S-4Nでの波数1-6 成分の温度偏差、期間は冬期の 1992/12/14-20で、boxの部分にpancake構 造がみられる 緯度 左図に対応した、経度225E付近の温度 偏差の緯度高度図、鉛直方向にfilter がかけてあり、見えやすいようにしてあ る 赤道域の50kmあたりに鉛直波長10km程度のパンケーキ構造がみえる。これは、慣性不安定でつくら れているようである。 u dU(y) v ( f )v 0 fu 0 t dy t 中層大気の慣性不安定については、次回に詳 2 u dU v 2 u dU しい説明があるであろう。不安定の条件を雑に f) 2 f(f )u 0 2 ( 述べると ー> t dy t t dy when f(f dU ) 0, u may be unstable dy Limpasuvan et al., JAS, 2000 ここでの話しは:慣性不安定でtriggerされてい るらしい、2日波について(力学モデルから) t=0から波数1のforcingを与える 初期場 図のboldに挟まれた所が慣性不安定の条件 をみたす領域 dU f(f 20-30日 dy )0 25-35日 影はdQ/dy<0の領域(stratopauseあたりは 順圧的、夏半球の65km以高は傾圧性)、 boldは2日波の臨界ライン U c 、臨界ラインで波と平均場が相互 0 作用を起こし得る(Eliassen-Palmの定理の 破れ) 2日波の南北風、波数4(左)、3(右) 慣性不安定でtriggerされているらしい2日波について(続) 0.3hPa 0.3hPa 南北風のスペクトル 波数4の時間変動、影はdQ/dy<0 U c 0 東風加速 初期の頃のEP-fluxの様子、慣性不安定の条件の領域 でEP-flux(主に )が存在している u' v' 波数4のEP-fluxとdivergence, 影はdQ/dy<0, bold は波数4、2日波の臨界ライン 7−3:4日波について Nimbus 4 and 5 のradianceから求めた s=1 波のシグ ナル、上部成層圏南半球の冬(1971-1972) で東方伝 播(E)の4日あたりのところにシグナルが見える(70S あたり)、Venne and Stanford, J. Atmos. Sci., 1982 西方伝播 東方伝播 4日波の鉛直位相 (△印)、位相が 鉛直にたっている ようである。 (stationary惑星 波のような鉛直伝 播性ではないよ う) 1979年8月(南半球の冬)の平均東西風とPotential Vorticity の緯度勾配、Hartmann, 1983, J. Atmos. Sci. 高度45kmあたりの70S近傍にpotential vorticity gradientの負の領域がみえる。 順圧線形不安定で擾乱生成と言われているよう 解いてある 球面上の線形順圧渦度方程式で解かれてある(南北構 造のみ) ' ' v' Z 0 t a ˆ ( ) exp( i(m t )) s=1 固有関数の南北分布、70度あたりに振幅のピーク(実 線)がある。固有値として、周期が3日で成長率が5日の値 をもつ。このモードが観測された4日波に比較的近いと思 われる。Hartmann, 1983, J. Atmos. Sci. 1 ˆ m 2ˆ m Z (m ) (cos ) 2 ˆ 0 cos cos cos u (a cos ) 1 Ua 1 sec h2( 0 ) B 1 Z 2 2( ) cos 3 sin cos 2 線形の固有値問題で使われた風(上)と渦度勾配(下) U=180, φ0=60として、Bを変えたときの分布 振幅 衛星データからの4日波解析例(Lawrence and Randel, 1996, JGR) 高度場の振幅 影は負のpotential vorticity gradient の領 域 u'v' 4日波 運動量輸送は主 に南北的、 平均東西風の様子、4日波の高度振幅、南北運動量フ ラックス、EP-flux と発散、1977年9月 Manney and Randel, 1993, JAS による順圧傾圧 不安定の線形計算 基本場の様子 温度構造 U (y,z) 西風運動量、赤道向き 30 50 70 +が赤道方向に熱を 輸送、EPflux的には 下向き 波数1の不安定モード(周期4日、成長 率4日) 補足:Garcia et., 2005, JASの4日波 衛星データの解析 70km 東進4日波に対応した温度 波の振幅と位相の緯度高度 図、2004年1-2月(北半球冬 の解析) 東向き 波数1のスペクトル、東進4.3日に ピーク、2004年1-2月 GCM中の4日波の様子 Watanabe et al., 2009, JGR 波数1、3日のところにシグナル、8月 8月(南半球の冬)の東西風、dQ/dy、4日 波の振幅(太い線) 4日波の振幅時間変化、特に8月に 大きな振幅 GCM中の4日波(続) 4日波の空間パターン、線はheight場、0.1hPa 重力波(左)、および惑星波動の加速(右) 東風加速 4日波による加速 7−4:成層圏不安定波らしきモノの別例 Nimbus 4 and 5 のradianceから求めた、波数 s = 2 波のシグナル。南半球の冬で東方伝播の12日 あたりのところにシグナルが見える(50Sあたりで、 100m/s 前例と比較して中緯度より)。Venne and Stanford, J. Atmos. Sci., 1982 中緯度モードを求めるための基本風 Hartmannから、U=180, φ 0 =60, Bを変化させ たときの東西風、PV-gradient 振幅 東方伝播 u'v' 固有関数、U=180, φ 0 =45, B=8の場合の結果、周期は17日 となっている。50Sあたりに振幅のピーク 1983南半球春の例:NMCデータの解析 平均東西風(2mb, 1983)の冬から春へ の時間変化 波数2で東に伝播、周期が10日程度の擾乱が 見える、Shiotani et al., Q. J. R. Met. Soc., 1990。 波数2の東方伝播 H H Height場の時間変化、7-17, Oct.1983, 10mb 波数2の波の振幅の緯度 -高度断面図、20 Oct. 1983, 不安定波かもしれ ない? dQ/dy, 但し 83/9/21-30の期間 7−5:Kelvin-Helmholtz不安定 式を変形すると、 1 dU (N 2 ( ) 2 ) 2 d dG 1 d U 4 dz (U c) G k 2 (U c)G G0 2 dz dz 2 dz (U c) KH不安定の積分定理 この節では、重力波と関係すると思われるKelvinHelmholtz不安定の線形的考え方、および観測例をのべ ておく。図のような風の鉛直シアーが強いときに不安定 の条件を満たすことで擾乱が生成されると考えられてい る。 のようになる。 複素共役のG*を上式にかけて、鉛直方向に積分、さ らに部分積分で境界条件としてw=0を用いれば、 2 dG 1 d 2U 2 2 dz (U c) dz dz 2 dz 2 G k 2 dz (U c) G 1 dU 2 (N 2 ( ) ) 2 4 dz dz (U c*) G 0 2 U c Lindzen, JGR, 1974から のようになる。 積分定理からKH不安定の必要条件を導いておこう。ブ シネスク流体での水平鉛直の2次元線形方程式は、鉛 直流にたいして、 虚数の部分をとりだすと、 1 dU 2 (N 2 ( ) 2 ) dG 2 4 dz G 2 0 ic i dz k 2 dz G dz 2 dz U c d 2U 2 2 d w N dz k 2 w 0 2 2 dz (U c) (U c) 2 ここで、Uは高さ依存の基本風、cは複素の位相速度、kは水 平波数である。 Howard, 1961, JFMに従ってこの式を変形する として、 d dG (U c) (....)G 0 の形に変形する dz dz 不安定ならば、ci > 0であるので、 w (U c) G 1/ 2 (不安定な擾乱を仮定して、cは複素数として、U-c は0ではな い) Ri N2 1/ 4 dU 2 ( ) dz でないと、上式の〔 〕内が0にならない。これがKH 不安定の必要条件である。 K-H不安定によって生成されたらしい重力波の観測(中緯度対流圏) Ferretti et al. (1988, Met. Atmos. Phys.) 00GMT/11/Apr, 1979, Aprilの地表、850mb, 300mbの大 きな場の様子 0235, 11/Apr, 1979でのレーダーエコー 地表圧力偏差パターン(タイプB)の時間変化、波的に みえる(00/11/Apr、1時間ごと) 200km水平スケールで3時間くらいの周期の波とされ ている。 固有値問題も解いてある ミズーリ u0 (z) 位相速度 w U ) w t x ik(U c) when U c, l arg e ( 成長率 基本場の状態(10kmくらいの高度でRiの小さいと ころあり)、0211 11/Apr 固有解の鉛直構造、鉛直変位(左)と鉛直速度(右) の振幅(上)と位相(下) K-H不安定で起きているらしい擾乱の観測例 赤道レーダ( 0.2S, 100.32E)で観測されたK-H不安定、 Yamamoto et. al., GRL, 2003, 熱帯圏界面、2001年11月。不安 定の条件は満たしているらしい。上から鉛直流、東西、shear, Ri、せまい範囲でシグナルが強い、ゆっくり時間的にゆれてい る<ーケルビン波の存在のよう、Xは圏界面 東西風 w シアー 圏界面 Ri Nov.2001の平均 11月
© Copyright 2024 ExpyDoc