もしも子供を診るときは

もしも子供を診るときは
県立広島病院 研修医 杉本智裕
【症例】
4歳 男児
【主訴】
頭部打撲
【既往歴】 特記すべきことなし
【内服薬】 なし
【現病歴】
H22年11/20(来院前日) 21:30頃、兄弟で遊ん
でいる際にマッサージチェアから転落。机と床で
右後頭部と左側腹部打撲。直後に近医受診する
も、外傷は診れないと断られ様子を見ていた。
11/21 9:00当院救急外来を救急車で受診した。
当院受診までに10回程度の嘔吐があった。
【来院時現症】
体重:14.6kg,意識:清明・JCS 0
体温:37.3℃,血圧:156/86mmHg,脈拍:117/min
SpO2:100%(room air)
対光反射:迅速、視野欠損:明らかなものなし
眼球結膜:黄染無し,眼瞼結膜:貧血なし
眼球運動:full&smooth,舌運動:良好、
咽頭発赤(-),口蓋扁桃腫大(-)
心音:雑音なし, 呼吸音:雑音なし
腹部:平坦・軟・圧痛無し
四肢:筋力低下あり(MMT3程度)
• 鑑別診断
• 検査は??
【血液検査】 11/21 9:30施行
WBC:7900/μl,Hb:13.2g/dl,Plt:10.4万/μl
MCV:78.6,MCH:27.4,MCHC:34.9
AST:40IU/L,ALT:8IU/L,LDH:430IU/L,
ALP:690U/L,CPK:120IU/L
BUN:19.5mg/dl,Cre:0.17mg/dl
Na:138mEq/l,K:4.7mEq/l,Cl:101mEq/l
CRP:0.4mg/dl,FBS:93mg/dl
【CT所見】
硬膜外・硬膜下血腫なし・脳実質内の出血なし
骨折線なし
• 細胞外液(ヴィーンF)点滴。
• 脳震盪の疑い。
• 意識状態など悪くなれば再診指示で帰宅。
• 後日血液検査については再検指示。
【経過】
11/22(受診翌日)になっても食事摂取できず、
何度も聞くと、右脇腹が痛いとの訴えがあった。
全身状態が悪く、近医小児科受診。意識レベ
ルの低下も認められたため、当院小児科に救
急車で紹介受診・入院となった。
【来院時所見】
GCS:E2V4M6
JCS:10(傾眠傾向)
BP:101/69,SpO2:100%(room air)
対光反射:両側迅速,左右差なし
眼球結膜:貧血なし,眼球結膜:黄染なし
腹部:平坦・軟・圧痛なし
上肢・下肢:麻痺なく指示通り動ける
大腿四頭筋・上腕二頭筋・三角筋:MMT5/5
左側胸部:擦過傷あり、腫脹・圧痛なし
• 鑑別診断は??
• 検査は??
頭部CT・胸部レントゲン・腹部レントゲン・腹部
エコー検査施行。
• 各種画像検査で特記すべき所見なし。
【血液検査】 11/22 12:30 施行
WBC:8100/μl,Hb:13.5g/dl,Plt:36.3万/μl
MCV:79.4,MCH:27.3,MCHC:34.4
AST:30IU/L,ALT:8IU/L,LDH:225IU/L
ALP:646U/L,γ-GTP:9U/L:23,T.Bil:0.6mg/dl
BUN:15.3mg/dl,Cre:0.25mg/dl
Na:128mEq/l,K:4.8mEq/l,Cl:94mEq/l
CRP:0.5mg/dl,FBS:65mg/dl
【尿検査】
色調:淡黄色, 濁り(-), 比重:1.017, pH:5.5
蛋白定性:-
糖定性:-
ウロビリノーゲン:+-
ケトン体:3+
潜血:-
白血球:-
ビリルビン定性:-
亜硝酸塩反応:-
【血液検査】
総ケトン体:6940(基準値:26~122)
アセト酢酸:1380(基準値:13~69)
【入院後経過】
アセトン血性嘔吐症を疑い、来院後血液検査
施行とともに急速点滴(ソリタT1 200ml)開始及
び20%ブドウ糖液30ml 静注施行。
その他外傷ないか精査。
精査をしている間に、徐々に意識レベルも改善
してきた。輸液をソリタT2 40ml/hrに変更。
夕方には空腹感を訴えハンバーガーを自分で
食べるまで回復。
入院翌日、全身状態軽快・食事摂取も良好で
あったため退院となった。
アセトン血性嘔吐症とは
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•
2~10歳の小児に発症(乳児にはみられない)
はっきりとした原因不明
感染、打撲、旅行などストレス後に生じる
ケトーシスであるが低血糖発作はない
腹痛を訴えるが、腹壁緊張↓↓
発熱や下痢は原則認めない
血中・尿中ケトンが強陽性血清Na・Cl、CO2の
低下とKの上昇を認める
アセトン血性嘔吐症
• 脱水とアシドーシスを考慮し、重炭酸Naを含
む低・等張性脱水に準じた輸液をする。
• 低血糖はないことも多いが、ケトーシス改善
目的にブドウ糖投与も行う。
• 他の疾患を除外する。
ex:中枢神経疾患(てんかん、脳炎、髄膜炎)
腎疾患(慢性腎炎、尿毒症)
消化器疾患(肝炎、腸重積症、腹膜炎)
10回嘔吐している小児を帰宅させて
よかったのか?
・神経内科医師による診察で神経脱落所見なし
・頭部CTで有意な所見を認めなかった
↓
頭蓋内外傷による嘔吐は否定されたが、他の
原因は完全に否定されていない。
打撲に注意が行き過ぎ、他の疾患の可能性を
否定できていなかった。経過観察目的に入院
を考慮してもよかったかもしれない。
嘔吐を来たす原因の鑑別
・①種々の臓器への刺激が末梢神経(迷走神経・
交感神経、舌咽および三叉神経、前庭神経)の
求心路を経て伝わるもの
• ②催吐物質によるchemoreceptor trigger
zone(CTZ)が指摘され嘔吐中枢に至る経路
• ③脳圧亢進により直接嘔吐中枢が刺激される経
路がある。
初期輸液がヴィーンFでよかった?
• 小児の輸液は糖入りがよい。
• Na量も細胞外液であるとやや負荷が大きい。
• 開始時はKフリーの方が無難。
• 浸透圧が高すぎる輸液は、血管を痛める可
能性もある
⇒ブドウ糖静注は50%ではなく20%で。
Na
K
Ca
Cl
lactate
糖
血清
142
5
5
103
生理食塩水
154
0
0
154
0
0
ヴィーンF
130
4
3
109
28
0
ソリタT1
90
0
0
70
20
2.60%
ソリタT2
84
20
0
66
20
3.20%
ソリタT3
35
20
0
35
20
4.30%
ソリタT4
30
0
20
10
4.30%
頭部CT2回も撮影必要だったか?
・小児の頭部CTによる放射線暴露によって、悪
性腫瘍が増加するといわれています。
・小児は放射線に対する感受性が成人の数倍
高い。
↓
適応を考慮すべき。
今回の症例では来院後ブドウ糖静注後徐々に
症状改善したため、その時点で中止を考慮し
てもよかった。
最後に
• 初期の印象だけで判断せず、症状の改善な
ければ症候から考えられる鑑別疾患をもう一
度考慮する
• 小児患者で嘔吐などで食事摂取不良時は尿
検査も考慮に
おしまい
ご清聴ありがとうございました<(_ _)>