マイクロファイナンス的資金を活用した震災被災民への ビジネス再興支援とその展望について ― 共感を資金調達に結びつけるメカニズム ― 八木 正典 YAGI Masanori 日本国内でのMFの可能性 • 菅正広は、日本国内でも徐々に深刻化しつつある貧困問題等への対処 のためマイクロファイナンス(MF)の活用を呼びかけている人 • MFが途上国における貧困削減・社会貢献の手段としてますます注目を 集める一方で、日本国内ではその必要性や意義がとりあげられることは ほとんどなく、現実に普及してこなかった。 (理由) ①MFは、途上国内のものと受け止められていることが多く、その意義や有 効性について正しく理解されていない ②MFのビジネスモデルが分かりやすい形で整理されておらず、具体的に実 践する方法がわからない ・(菅によるMFの定義) 「MFとは、一般的に担保となるような資産を持たず金融サービスから排除 された貧困層や低所得者層に対して、小規模の無担保融資や貯蓄・保 険・送金などの金融サービスを提供し、彼らが貧困から脱却して自立を 目指す金融」。 市民から調達したMF的資金を活用した震災支援 • さる3月11日の東日本大震災を契機に、ひろく市民から調達 した無担保・配当なしの資金を活用して被災民のビジネス再 興あるいは起業を支援していく取組が開始されている。 • 本稿では,次の2点が、上記目的の資金獲得の拡大につな がったと仮説。 (イ)市民の被災民への共感 (ロ)共感を具体的資金調達に結びつけるメカニズム • 以下の3つのケースを調査。 ①NPOバンク、②市民復興トラスト、③セキュリテ被災地応援 ファンド 被災民の自立に向けて 1.緊急救援段階:見舞金、緊急無担保融資 2.暫定的支援段階:キャッシュ・フォー・ワーク のような仕事を用意し、収入を確保する取組 3.自立支援段階:被災民の自立のための起 業・ビジネス再興支援 活用される資金 1.政府予算・補正予算 ・規模は大きい(一次補正4兆円、2次2兆円、3次12.1兆円) ・個人事業家には直接回りにくい(インフラ復旧ほか) ・(第一次)雇用創出基金事業等に514億円。事業融資等に5500億円 (第三次)中小企業の事業再建、経営安定融資、農林漁業者の経営再建 融資等6716億円 2.義援金(日赤等を通じての寄付金) ・規模(3050億円)は大きい。しかし、個人への配分額は最高35万円(家 屋全壊・全焼・流失、死亡・行方不明) ・公平性を重視し、配分に時間がかかる 3.支援金(NPO等の活動資金) ・足は速い ・管理費をとられる 4.市民ファンド・市民トラスト等 ・市民が被災民の特定ニーズを支援する新たな仕組み ・利用者の負担が小さい NPOバンクの震災支援への取り組み • NPOバンク・関連団体のうち、震災支援ある いは支援を目指して取り組みを行ってきたこ とが確認できた団体は以下の5つ ①APバンク、 ②信頼資本財団、 ③ふくしまNPOバンク、 ④天然住宅バンク、 ⑤東京コミュニティパワーバンク (東京CPB) • 各団体とも真剣かつ工夫を凝らした支援に取 り組んでいる。しかし、MF的融資を被災民に 直接実践しているケースは認められず。 NPOバンクの震災支援への取り組み ① APバンク:特別基金(ap bank Fund for Japan)を立ち上げて義援金、復興支援金 の募金を呼びかけ、前者は2.35億円、 後者は298万円を集めた(10月3日現 在)。その他、被災地食材の活用プロジェクト(「Food Relation Network東日本」)、 ボランティアの募集、図書寄贈プロジェクト(「贈る図書館」)を実施。融資活動は休 止中。 ②信頼資本財団:「共感助成特別プロジェクト-東日本大震災復興支援プロジェクト」を開 始し、6プロジェクトへの寄付を募集し、3451万円を確保。融資は、震災関係未実 施。 ③ふくしまNPOバンク:震災後7月までに、信金と連携し3件、700万円の融資(施設の 修繕や風評被害による損失補てん)保証を付与。9月1日から始まっている内閣府 「新しい公共支援事業」にてNPO等への利子補給などを実施。 ④天然住宅バンク:「仮設じゃない『復興住宅プロジェクト』」により、当初、東北の被災地 において本年10月までに一戸450万円、100戸の住宅建設を進めるべく計画を立 案し出資を呼び掛けたが、現地の本格住宅へのニーズを踏まえて計画を修正し、被 災者が仮設住宅を離れなければならない2年後の需要に焦点をあて、長期的なプ ロジェクトとして実施していくことに方針変更。 ⑤ 東京CPB:東京以外での活動を実施するため定款を変更し、被災地支援が可能に なった。特定目的融資制度という予め融資先を決めた上で出資を募る制度を検討 中 (出所:各団体HPまたは照会回答) 「市民復興トラスト」 • • • 維新グループの田舎会社・WWBジャパン連携 プロジェクト 本トラスト第一号は、トラスト事務局から被災地 の事業家の生産活動再開に必要な資金を提供 し、同事務局は、ほぼ同時に応援者から一口5 万円で資金を調達し、将来実際に製品の提供が 可能になった時点で応援者に金額相当分を送付 する形態で運用。第一号のケースでは、5日間で 目標の40口計200万円を調達することに成功。 事業の進捗状況は、ウェブサイト等を通じ、応援 者に伝えられる。 その他10のトラストが立ち上げられている。 市民復興トラストの仕組み 商品売り手 (被災地の事業者) 商品買い手 ④商品送付 (顧客) ①5万円の商品予約 購入を募集 ②資金の提供 (200万円) ③商品費用の先払い 市民復興トラスト事務局 (一口5万円) (市民バンクの口座活用) (取引の構図)トラスト事務局が商品をまとめ買いし、それを顧客に販売したモノの売 買取引にすぎず、金融商品取引ではない (具体的手順) ①市民復興トラスト事務局が、商品の買い手に一口5万円で商品の予約購入者を募 集 ②市民復興トラスト事務局が、市民バンクの口座から200万円を被災地の事業者(今 回は庭さん)に提供 ③商品買い手は、一口5万円を市民復興トラストに先払い(全体で40口を集める) ④商品売り手(被災地の事業者)は、商品の生産が可能になった時点で、商品を買い 出所:田舎会社中原知里氏プレゼンを参 手に送付 考に筆者作成 「セキュリテ被災地応援ファンド」 (金融商品取引業者ミュージック・セキュリティーズ) • 本ファンドは、市民から一口1万円の投資を募り、 うち5千円を事業家への寄付とし、残り5千円を出 資金(手数料5百円加算)とし、将来製品の形で返 済する新たな仕組みを採用。 • 利子、担保はなく、期限もない。 • 2011年10月20日現在17社の募集、3社募集準 備中。累計で11,102人が投資し、53,210口分5億 3210万円の資金調達を目指している。企業から の広報面、説明会場の提供、ITサポート等に関す る協力あり。 「セキュリテ被災地応援ファンド」の仕組み 応援者である投資家 寄付金 5千円 寄付金:5千円 事業者 ファンド 運営者 出資金 5千円 商品5千円分 管理手数料 5百円 手数料収入あり 出所:MSHPのファン ド解説を参考に筆者 作成 被災者支援に「共感」が果たす役割 通常のケース 見返り 投入資金 共感が加わるケース 投入資金 • 通常の場合は、投入資金と見返り (物的対価)が均衡するか、見返りが 大きい場合しか、資金投入は行われ ない (105投入して、50しか見返りのない 取引に参加するインセンティブは働 かない) ・ セキュリテ震災支援ファンドの場合、 共感と見返り合計 > 投入資金 共感 見返り 共感 ① 特定の被災者との双方向の関係性構築によ る連帯感、満足感 ② 自分の支援が有効に活用されていることが実 感できること ③ 但し、共感は、時間や環境とともに変化 (一般的には、時間の経過とともに縮小傾向) 市民の被災民への「共感」 (ケース1)事業家はかつてWWBが支援した仲間であり、事業 家の活動再開にかける熱意が仲間内に伝わり、支援の輪が 急速に広まった。 (ケース2)東北で歴史のある事業を展開してきた被災民のビジ ネス再興への熱い想いをこめて実現したいビジネス計画を 説明会、ウェブサイト上で訴え(参考)、それがメディア、ソー シャル・ネットワークを通じて発信され、広範な一般市民の支 援を引き出した。 (参考)ウェブサイト上、個別の事業者支援コーナーを設け、1)事業者名、 2)事業者の写真、3)復興にあたっての抱負、4)会社紹介、5)被災状況、 6)復興プラン、7)ファンド資金の使途、8)投資家特典を掲載し、ネット上 で出資を募る。その際、目標金額と何口募集しているのか、商品の写真 とともに現在の応募状況をグラフで確認できる。 共感を具体的資金調達に結びつけるメカニズム (ケース1)商品購入代金を一括してトラスト事務局が事業家に払い込み、同事 務局が応援者である顧客から商品購入代金を受け取るイスラム金融のム バダラに近い商品売買取引で、金融取引ではない。 ①事業家にとっては、生産が軌道に乗った段階で、製品を送付すればよい ②顧客にとっては、将来製品の受け取りで見返りが期待され、単なる寄付より も利益が大きい ③トラスト事務局にとっては、顧客、事業家ともインナーサークルに近い人々で あり、互いの信頼が,取引のリスクを押し下げ,関係者が安心できる。 (ケース2)通常の配当を期待する金融商品ではなく、寄付だけでもない新たに 登場した市民から広く資金を募る被災民応援の仕組み。 ①事業家にとっては半額を寄付ということで、負担が大きく軽減される ②応援者である投資家にとっても、支援している実感と将来の製品の両方を得 ることが可能 ③ファンド運営者にとっては、結果的に得られた絶大なる広報効果だけでなく、 現実に手数料収入(1万円の資金供与につき5%にあたる500円/口)が入 ることで、関係する3者の誰もが満足できる。 最後に:今後の展望 • 市民復興トラスト、セキュリテ被災地応援ファンドは、 政府の補助金でも、日本赤十字等を通じた義援金 でも、通常の銀行融資でもない市民による新たな支 援の仕組みとして、「市民の共感」に訴えた支援のメ カニズムとして大いに注目された。 • 共感は、時間、環境とともに変化するもの。共感を ファンドレイジングにつなげる仕掛け、仕組みをタイ ムリーに準備できるのかどうかが鍵となる。 • 今後,NPOバンクも含め,「共感」に訴えた市民の 意思ある金融が被災地はじめ国内各地で存在感を 増していくことが期待される。
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