喜ぶのはまだ早すぎる

2011年3月31日現在
喜ぶのはまだ早すぎる
日本産科婦人科学会
新規専攻者の推移
公益社団法人日本産科婦人科学会
医療改革委員会委員長 海野信也
新規産婦人科専攻医数の動向について
• 産婦人科の医師不足は既によく知られているところです。
• 日本産科婦人科学会では、2010年に策定した産婦人科医
療改革グランドデザイン2010では、今後20年間、毎年少な
くとも500名の新規専攻者が必要と試算しており、その総
力を挙げて新規専攻者の増加に取り組んでいます。
• 特に、毎年夏に産婦人科という分野の本当の姿を伝える
目的で開催している研修医及び医学生対象の「サマース
クール」は、大きな成果を上げています。
• そのような努力の結果、「産婦人科医は増えてきている」と
いう「風評」が拡がりつつあるようです。
• しかし、それは本当でしょうか。
• ここでその実態を分析したいと思います。
• 平成23年度に入り、平成22年度の新規産婦人科専攻者
数が確定しましたので、平成21年度の状況と比較してお
示しします。
図1 日本産科婦人科学会・年度別入会者数(産婦人科医)
2011年3月31日現在
600
400
200
0
214 238
152 137 53
48
213 202
241
262 299
女性
男性
93 116 133 161 190 192
50
2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010
• 専攻科として産婦人科を選ぶ場合は、専攻医(後期研修医)研修のため日本産
科婦人科学会(以下、日産婦)に必ず入会します。従って新規入会医師数は新
規産婦人科専攻数の動向を知る上で、非常に重要な指標となります。
• 上のグラフで明らかなように、新入会医師数は過去5年間、単調増加を示してお
り、500名という目標まで、あと一歩のところまで来ているようにみえます。
• しかし、それは本当でしょうか?
図2 日本産科婦人科学会・卒業年度別会員数(産婦人科医)
2011年3月31日現在
500
400
300
200
100
0
215 232 220 227
232 254 256
女性
男性
133 136 108 125 162 179 147 50
38
20
20
2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010
• 大多数の医師は2年間の初期臨床研修を終えた時点で、専攻科を確定し、そ
の分野の基本領域学会に入会し、専門医研修を開始します。2010年度は、
2008年度卒業組がその学年になります。
• 産婦人科でも初期研修医の段階で入会してくれる医師も少数は存在します
が、大部分は3年目の入会となります。勿論中には4年目以降に入会する医
師もいます。
• このグラフは2011年3月31 日の時点での、卒業年度別男女別の医師会員数
を示しています。
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• 図2に示したように、2004年卒業組から2007年卒業組まで、
産婦人科専攻医数は男性も女性も常に前年度を上回ってき
ました。
• しかし、2008年卒業組では2007年卒業組にくらべて全体の
数と男性医師の数が少なくなっています。これでいいので
しょうか?
• 「いや、2008年度組でも4年目以降に入る人をいるだろう。
2007年度組も1年前の時点ではもっとすくなかったはずだ。4
年目以降を加えれば、産婦人科新規専攻医数の増加傾向
は保たれているに違いない。」というご意見もあるでしょう。
• しかし、それは本当でしょうか?
• そこで、1年間のデータと比較してみることにします。
• 図3に、ちょうど1年間の同じグラフを今年のグラフと重ねて示
します。
図3 日本産科婦人科学会
卒業年度別会員数(産婦人科医)
600
2010年3月31日現在
400
200
0
600
400
200
0
215 232 220 226 228 244
133 136 107 125 157 158
女性
男性
32
30 20
15
2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009
2011年3月31日現在
254 256
215 232 220 227 232
133 136 108 125 162 179 147
50
38 20
2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010
女性
男性
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• 図3上段に示されているように、2010年3月末の時点で、
2007年度卒業組会員数は前年度を上回っていました。
• その後の1年間で(図3下段)、2007年度組(4年目)は31
名増加しました。2006年度組(5年目)の増加は9名、2005
年度組(6年目)の増加は1名でした。
• この傾向が持続すると仮定すると、1年後、208年度組は
2007年度組を上回ることはできないことになります。
• 「産婦人科新規専攻医数は頭打ちになっている可能性」
があるのです。
• 特に男性医師数については今後の展開が懸念されま
す。
• 最小限の目安の500名に到達していないこの時点での
「頭打ち」傾向は、重大な問題です。これまでの戦略を継
続するだけでよいのか、検討する必要があります。
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• 2010年度の日本産科婦人科学会新規会員医師
数の増加(前年比39名増)は、1-2年目の初期研
修医の前倒し入会が前年度より29名多かったこ
とが大きく関与しています。3年目組は減少して
います。特に男性医師の減少には注意が必要
です。
• 安定的な産婦人科医療提供体制を築くために
は、これまで以上の努力が必要と考えられま
す。
• 皆様のご尽力をお願い申し上げます。