学力の評価と測定 宮城教育大学 平真木夫 (たいら まきお) [email protected] http://staff.miyakyo-u.ac.jp/~m-taira/ 話の流れ 1. 絶対評価の全面的な導入によって生じた 混乱(相対評価の撤廃によって生じた空 白) 1. 評価のインフレ現象と対応策 2. 学力低下論争で見逃されている問題 1. 瞬間最大学力という問題 3. 理想的な知識状態と,評価方法 用語説明(1) 絶対評価の分類 • 極端な態度主義・主観的判断としての絶 対評価 ・・・(別名)認定評価 • 絶対的な基準としての自己 ・・・いわゆる 自己評価、個人内評価 • 教育目標、学習目標といった目標に対す る到達度を利用した絶対評価 ・・・到達度 評価(形成的評価) 用語説明(2) 規準と基準の違い • 規準 ~単元の到達目標=観点 – 単元目標 「異分母の分数の足し算ができる」 • 基準 ~「どの程度できる」ようになったら・・・とい う具体的な記述 – いくつか異なるレベル・種類の問題の中で、何割正答 したか? • ルーブリック(rubric 評価指標) – 数量化しにくい「基準」の場合には、質的な「基準」を 使う 用語説明(3) 特に重要な概念 • 事前段階 ・・・ 診断的評価 – 絶対評価、相対評価 • 中間段階 ・・・ 形成的評価 – 絶対評価 • 終了段階 ・・・ 総括的評価 – 絶対評価、相対評価、個人内評価 • 指導と評価の一体化 – 評価の観点と指導の目標とは一致しているべきで、学 習の指導も、すべての子どもたちが目標に到達できる ように行うべきである。 絶対評価への道筋(1) 相対評価に対する批判 • 目標の達成度を判断する基準が、必ずし も用意されているわけではない • 「全ての子どもの学力保障」という理念に 反する可能性が高い • 「テストに合わせて教える・学ぶ」可能性が 高くなる • 個人内の変化を把握するのには不向きで ある 学習活動と評価方法の対応関係 勉強を道具とし て割り切る 外発的動機づけ 学 習 活 動 量 学習開始時よりも,意 欲が低下する 内発的動機づけ 勉強すること自 体が面白い 外的報酬の打ち切り(e.g., 入試など) クラス平均がアップしても。。。 1 更に、A組とD組と で5の価値が違 0.8 う? A(50) B(52.5) C(55) D(57.5) 頻度 0.6 0.4 0.2 0 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 偏差値(平均が50で標準偏差が10になるように調整) 100 絶対評価への道筋(2) 指導と評価の一体化 優勝劣敗の • 全ての生徒に一定レベルの到達度を保障 市場原理の導入 する • 教育機会の選択権・決定権を消費者に与 える • 選択に必要な情報を公開する(アカウンタ ビリティ) 評価のインフレ?学校間格差? でも,絶対評価への完全移行で, 基準のすり合わせ作業 1. 甘い課題が使われている こんな問題が。。。 全国標準学力試験? 2. 学力の学校間格差 3 絶対評価 人 数 相対評価 成績またはカッティングポイント 結局,こちらのタイ そもそも,相対評価とは? プの相対評価は生 ~ 準拠集団による分類~ き残る? • ノルム準拠評価 – 国、県といった大規模な集団から、厳密にサンプリ ングして作成した、標準テストを用いる – 全体の中における相対的な位置や適性を知るのに 有効 • コホート準拠評価(校内テスト) – 特定のクラスや学校を準拠集団とした評価基準を 採用する – 既存の一般的な相対評価であるが、大数の法則を 満たしていないので、中途半端な相対評価といえる 問題を作っている 絶対評価と目標準拠評価 側に問題がある のでは? 大前提 • 相対評価でも、目標(問題)は目標準拠で あって構わない – 難易度(相対的な位置情報)が標準化された 良問を評価に利用することは、中途半端な絶 対評価より確実に優れている よい問題と悪い問題 • 特定の問題集、ドリル、ワークばかりやっていると、 その問題と似た問題は解けるようになる( テスト で似た問題を出してあげる。記憶力の試験か?) – 宮城県の模試では高得点だが、山形県の模試では低 得点 • 問題が解けるということと、理解できていることとは 別であることが多い(台形の公式を使うことはでき ても、変換作業ができない生徒もいる) • あまり馴染みのない別の角度から質問するような 問題を使うべき 課題の難易度と評価インフレ現象 どうやったらキチンと把握できる? 絶対評価:Cの課題 相対評価:5段階で2以下 絶対評価:Bの課題 相対評価:5段階で2・3 Poor students probable task difficulty Average students proportin correct proportin correct proportin correct task difficulty improbable 絶対評価:Aの課題 相対評価:5段階で4以上 task difficulty Good students 学力論争の3つの争点 日本の弱点は? • 国際比較 – ある種の国威発揚? • 世代間比較 – 昔の人は偉かった? • 個人内比較 – 昔は頭がよかったのに。。。 学力論争の整理(1) 小学校・中学校では、学力低下が見られない • IEA(国際教育到達度評価学会)の調査結果 – 日本はシンガポール、韓国と並んでトップグループ • OECD/PISAの調査結果 – 日本はかなりよい成績--明らかに上位群に位置し ている • 平成13年度「小中学校教育課程実施状況調査 報告」 – ほとんどすべての教科で「設定通過率」を十分に越え ている 学力論争の整理(2) しかし、大人は・・・ • 平成13年に実施した、「科学技術に関する 意識調査」では、大人(18歳以上)の科学 的知識・興味がOECD諸国と比べて、ほ ぼ最下位にあることが示された 小学校,中学校までトップクラスだったのが, いきなり落ちるのは変じゃないか? 学力論争の整理(3) 他にも、、、 • 平成14年度「高等学校教育課程実施状況調査」 の結果 – 数学・理科を中心に明らかな低下がみられる • 河合塾が入塾生に対して毎年実施している学力 調査の結果でも、同様の結果が1999年の段階で 示されている(1994年度との比較) • 阪大の調査グループも、小学校5年生の学力が、 1989年と比べて2001年では落ちていることを示し ている 学力論争の整理(3) 更に、ちょっと気になる結果 • 某専攻のとある学年14名に,センター試験 の国語と数学の問題を解答し,評定しても らった • 「受験時と比べて、どれだけ学力が変化し ましたか?」 • +5(かなり伸びた・楽勝で解ける)~-5 (かなり落ちた・全然手が出ない) 変化度の平均 0 -1 -2 -3 -4 -5 評論 小説 古文 漢文 問題タイプ 図1.2001年度センター試験(国語Ⅰ・Ⅱ) 変化度の平均 0 -1 -2 -3 -4 -5 二次関 確率 数と式 三角比 数列1 数列2 問題タイプ 図2.2001年度センター試験(数ⅠA) つまり、 • (受験を意識して)積極的に勉強した内容ほど忘 れやすく、学力低下も著しい • 受験勉強の対策をたてるのが難しい科目ほど、 学力低下が少ない – しかし、、、現国の勉強方法ってそもそもどうやるの か? • センター試験の識別力では不十分? どうすれば,個人内の学力低下を予測できるのか? 果たして,予防は可能なのだろうか? 理想的な知識状態と評価 ~状態が良いとは?~ • • • • 成績がよい 学習意欲が高い 教科への興味・関心が高い 勉強時間が長い 受験勉強で学ばれる知識のように,特定の目的に特 化した方法で勉強すると,短期間で忘れ去られてし まう。。。勉強方法の良い生徒 学習対象の分類 ~勉強をどのようにとらえているか?~ 有意味課題 無意味課題 • 有意味さをはっきりさ • 繰り返しを基本とした 学習 せておくと,学習が容 易になる(学習対象の • 学習材料の量が少な 量は増える) ければ少ないほど, 学習が容易 • 学習対象の量が増え ても,記憶に残りやす • 試験後に忘れても構 いし学習しやすい わない 主な学習方略 • 反復方略 台形の公式を暗記する。ドリルで定着を図る – 定義や手続きを記憶に定着させる • 有意味化 問題解決の手続きではなくて,導出過程を理解する – 既存の知識構造に関連させる • 体制化 台形の公式で正方形の面積を求められることに気づく – 知識構造を再構成・再構築する 台形の公式の有意味化 (上底+下底)×高さ÷2 a a h h a h a b h a a a h h b a h b h b 構造化された知識の例 四角形 台形 ひし形 正方形 平行四辺形 長方形 つまり、有意味学習では、 • 学習すべきターゲット以外のことも、関連さ せて覚えなければならない • 記憶すべき量は、有意味化する分だけ、単 なる丸暗記よりも増える • しかし、きちんと有意味化できた場合には、 記憶への負荷は丸暗記よりも軽いし、記 憶も持続する 台形の単元でこの問題が出せるの か? 四角形 非典型例を 出すことの 重要性 台形 よい先生は、 単純には繰 り返さない ひし形 平行四辺形 正方形 長方形 しかし、勉強はコストがかかって 大変… • 学習対象を有意味化して覚えるのが良さ そうなのは、誰だってわかる •学習対象を有意味化するためには、ある程度 の領域知識が必要である •すべての学習者が内発的に高く動機づけられ ているわけではない 標準偏差(SD)の 有意味化 n SD (x _ i x) i 1 n 1. データの特徴を把握するためには代表値(平 均値、中央値、最頻値など)だけでは不十分 2. データの散らばり具合を把握する必要がある 3. 散布度として偏差の平均が使えそうだ 4. 偏差を単純に合計するとゼロになる 5. 絶対値で計算すると式の展開が面倒 6. 二乗のままだと元の測定値と単位が違うから 平方根をとらなければ不便だ 2 台形と標準偏差の比較と対処 • 記号の難しさ – 最低限度、ある程度の繰り返しが必要 • 導出の難しさ – 有意味化、意味の理解(+背景知識の多さ) • 適用方法の不透明さ – 勉強する意義・目的の不透明さ、他概念との つながりの見えにくさ 授業の仕方で生徒の学習方略が どれくらい変わるのか? 教科の違いと学習方略 学習方略の利用度 3.6 理科 算数 3.3 3.0 2.7 2.4 反復 有意味化 体制化 A小学校 反復 有意味化 体制化 B小学校 有意味学習を放棄したときの、 極端な対応 • 学びからの逃走… メタ認知的判断 – レースに初めから参加しなければ、自分 の実力のなさが露呈せずに済む • 学習性無力感 体制化 有意味化 反復 – 学習できないことを、誤って学習してしま う – 苦手なものがよりいっそう苦手になる 教科(単元) (もっと?)恐ろしいこと。。。 ごまかし勉強 • 勉強=暗記,労働,反復という学習観の 獲得 • 親から子どもへ,学習観が継承される 『教育評価と教育現場における効果測 最後に。。。宣伝 定』金曜日、6:00pm~8:00pm • 各教育評価の方法の特性を把握し,適切な効果測定の方法を 習得することを目標とする •前半部分(11月~1月)では,始めに学習の動機づけと教育評価に関する 講義を行なう •後半部分(2月~3月)では,統計的な処理方法を中心に評価活動に有益 な分析手法を実際に作業しながら解説する • 演習部分では,各種質問紙の作成方法について理論的な基礎 をかため,更にソフトウェアの効果的な使い方について説明す る(主にMS-Excelを利用) • 参加者が学校現場で実際に取り組んでいる事例を持ち寄って, その問題点,改善方法について討議する
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