徳島ABA 研究会 自閉症がある高等部2年生の生徒が 用事を頼まれたときに、 「はい、わかりました。」と言うことが できるための支援 1 指導目標 【長期目標】 用事を頼まれたときに、相手の方を向いて、 「はい、わかりました。」と言うことができる。 【短期目標】 学校で教員から用事を頼まれたときに、 「はい、わかりました。」と言うことができる。 2 標的行動 学校で担任(1名)から用事を頼まれ たときに、「はい、わかりました。」 と言うことができる。 3 現状のABC分析 教員からの 指示がなくなる(↑) 休み時間 授業中 近くに教員 がいる 「え~」 「ああ・・・」 「ん~」 などと言う 「~してもらえますか?」と 用事をやりたく ないという意思 が教員に伝わる (↑) 教員から 注意される (-) 用事を頼まれたとき 事前に 「職場のコミュニケーション 練習」なし 4 4 解決策のABC分析 教員からの 指示がなくなる(↑) 休み時間 授業中 近くに教員 がいる 「はい、わかりました。」 と言う 「~してもらえますか?」と 練習したとおり に言えた(↑) 事後の振り返り でグラフに記入 (↑) 用事を頼まれたとき 事前に 「職場のコミュニケーション 練習」あり 振り返りで、結果が わかりやすく 5 あらわれる 5 グラフあり(↑) 方法 【対象児】 特別支援学校高等部2年 男子 自閉症 S-M社会生活能力検査:10歳1ヶ月 (平成25年12月) 【指導場面】 休み時間、授業中(作業、販売実習) 【般化場面】 学校で指導者以外の教員から用事を頼まれたとき。 現場実習先。将来の就職先。 【教材】 ・「職場のコミュニケーション練習」 (「~してくれますか?」という用事を写真と文字で示した カード) ・振り返り用のグラフ 6 指導1 指導1の手続き(1) 【ベースライン】 休み時間や授業中に、「~してもらえますか?」 「~してください。」など本生徒に用事を頼む。 【指導1】 (指導1の指導開始1日目は、「職場のコミュニケーション 練習」の意義について、クラス全員に話をしたり、練習の 方法について説明したりする。) (1)朝のSHRで「職場のコミュニケーション練習」を 行う。 (日直がカードを見ながら「~してもらえますか?」など 用事を頼み、それに対して「はい、わかりました。」と 言う練習を一人ずつ行う。) 8 指導1の手続き(2) 【指導1】 (2)休み時間や授業中に、本生徒に用事を頼む。 (1日に4~10回程度。正反応・誤反応について 直後はフィードバックしない。) (3)帰りのSHR後の振り返りで、グラフの用紙を本 生徒に手渡す。「はい、わかりました。」と言え た回数を伝え、割合を計算してからグラフに記入 するようにことばかけで促す。割合が高いときは 賞賛する。割合が低いときは、なぜできなかった のか本生徒の話を聞いたり、「はい、わかりまし た。」と言えることの大切さについて説明したり する。 9 記録方法 どのような用事を頼んだのかということと、それに 対して本生徒がどのように答えたかについて、次 のように記録する。 「はい、わかりました。」と言えたとき・・・・・・○ 「はい」のみ言えたとき・・・・・・・・・・・・・・・・・△ 上記以外の返事(「え~」「ああ・・・」など)・・× 10 達成基準 用事(本生徒が内容をわかっている用事)を頼ま れたときに、「はい、わかりました。」と言うことが できた割合が100%の日が5日続いた場合、 達成とする。 11 結果 「はい、わかりました。」と言うことができた割合 120 指導1 ベースライン 指導2 正 100 反 80 応 率 60 ( 40 % ) 20 9/ 17 9/ 24 10 /1 10 /8 10 /1 5 10 /2 2 10 /2 9 11 /5 11 /1 2 11 /1 9 11 /2 6 12 /3 12 /1 0 12 /1 7 0 日付 12 指導1の結果(1) ・ベースラインでは、用事を頼まれたとき、指示 には従うことができても、「え~」「あ・・」 などと返事をしたり、無言であったりする場面 がほとんどであった。「はい、わかりまし た。」と言う返事ができたことはなかった。 ・指導1ではベースラインでみられた 「え~」 「ああ・・」などの返事はほとんどみられなく なり、「はい。」や「はい、わかりました。」 のどちらかの返事ができるようになった。 13 指導1の結果(2) ・指導開始2日目から2日連続で100%が続い たが、それ以後は1日だけ100%の日がみら れただけで、なかなか達成には至らなかった。 ・指導が進むにつれて、「はい、わかりまし た。」と正確に言うのではなく、「はい。」の みの返事で終わってしまうことが多くみられる ようになってきた。 ・用事を頼むと、「はい。」と少しイライラしな がら言うこともみられるようになった。 14 指導1の考察 ・本来、あまり用事を頼まれることが好きではない 本生徒に対しては、1日のうちに4回以上用事を 頼むことは、指導回数が多すぎたのではないかと 考え、指導手続きを見直すことにした。 15 指導2 指導2の手続き(1) ・指導2では、朝のSHRで行う「職場のコミュニケーション 練習」の内容を新しくし、指導場面を1日のうち2~3回に 変更した。用事の種類も限定した。 (指導2の開始1日目は、「職場のコミュニケーション練習」 の内容が変更になったことと、その意義についてクラス全員 に話をしたり、練習の方法について説明したりする。) 17 指導2の手続き(2) (1)朝のSHRで「職場のコミュニケーション練習」を行う。 (教員に名前を呼ばれた生徒は、教員の前に行く。教員から 「~してもらえますか?」などことばのみでの指示に対して、 「はい、わかりました。」と言う練習を一人ずつ行う。) (2)休み時間や授業中に、本生徒に用事を頼む。 (1日に2~3回程度。用事の種類を限定する。 正反応ときは、ことばで時々賞賛する。 誤反応のときは直後はフィードバックしない。) (3)は指導1の手続きと同様。 18 指導2の結果 ・指導2に変更してから正反応率が徐々に伸び、 8日目に目標達成した。 19 指導2の考察 ・1日に2~3回の用事で、種類の限定された用事であ れば、本生徒にとってもわかりやすかったようで、イラ イラすることなく取り組むことができたようであった。 ・「はい、わかりました。」と正確に言う割合が多くな り、目標も短期間で達成することができた。グラフが確 実に伸びていくことで、自信を持って意欲的に取り組む ような姿もみられるようになった。 20 指導全体の考察(1) ・毎朝行った「職場のコミュニケーション練習」による 事前の指導が有効だった。練習を通して、用事を頼ま れたときはどういう返事をするべきなのかがわかりや すくなり、実際の指導場面で「練習のとおりできた」 という達成感を自分で感じることができたのではない かと思われる。 ・帰りのSHR後の振り返りのときに、自分でグラフに 書くことで、結果が数値化されたことも、望ましい行 動の強化につながったのではないかと思われる。 21 指導全体の考察(2) ・今回の指導では、生徒の実態把握があまり適切に できていなかったことを反省した。当たり前のこと ではあるが、生徒の実態を把握して、目標や指導手 続きの妥当性を考えることの大切さを実感した。 ・卒業後に就職を目指す生徒に対しては、トップダ ウンの視点からの目標設定が必要であるが、生徒の 実態に応じていない場合は目標や手だてを見直し、 生徒の実態に応じて着実に行動を獲得できるように スモールステップで支援していくことが大切だと改 めて感じた。 22 今後の課題 ・意図的に人や場面を変えて指導していくこと で、様々な人や場面への般化を目指していき たい。 ・「はい、わかりました。」というときの姿勢 (身体を相手のほうに向けて返事をする)に ついて、指導をしていきたい。 23
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