教育政策のあり方 ~シンガポールを事例として~

2003年度秋学期 香川研究プロジェクト
個人研究 中間発表
経済発展のための教育政策のあり方
~日本とシンガポールの教育制度比較から~
総合政策学部三年
平田 慧
70107439
中間発表の流れ
1.問題意識と背景 / 研究の目的・期待される成果
2.日本の教育について
①日本の教育概念の歴史的意義 / 種類
②日本政府の教育に対する期待
③日本の教育の現状の理解・問題点の発見
3.事例)シンガポールの教育制度について
①教育制度の歴史的経緯・背景 / 比較する意義
②政府の教育に対する期待
③複線型の学校系統図
4.両国の制度の比較と、今後の研究計画
なぜ教育政策に着目するのか
~問題意識~
~問題の背景~
日本の教育政策は歴史的
に見て、経済成長に対し、
一定の成果を挙げてたと考
えられる。
しかし現在では国際的な競
争力に欠け、人材の育成に
つながっていないのではな
いか。
特に高等教育(大学機関)
における部門で、実社会に
おいて求められている知的
水準を教育機関・制度が与
えられていない、という現状。
経済成長のための「人間能
力の開発」を目標にした新
しい教育システムが期待さ
れている。
研究の目的と期待される成果
 目的
日本とシンガポールの教育政策の現状、経済
への効果や社会への役割を比較することで、
日本の教育政策に対する問題点を浮き彫りに
する。
 研究により期待される成果
卒業制作へ向けた今後の研究の基礎となる
問題意識と話題となる分野を発見できる。
日本の教育の概念
1950~1960:戦後、貧困解決には経済成長が必要。経済
経済成長には「教育」が重要という認識。
学校、社会、人に対する期待と強い信頼が生まれる!!
1970年代:教育改革によって高い経済成長が達成された。
若年層の失業問題、低学力水準指摘、職練不足!!
1980年代:高等教育だけではなく、同時に「初等教育・中等
教育政策に
教育が大きく見直される。 対する不信
感
日本の教育の流れ・種類
単
 教育時期による分類
線
1. 早幼児期教育
型
教
2. 初等教育
育
制
3. 青年期の中等教育
度
4. 大学などによる高等教育
 その他の教育の種類
生涯学習教育、社会教育、国際化・情報化教育
などなど
教育制度の特徴
 複線型教育制度(若者の進路変更に柔軟に対応できる)
例:フランス、ドイツ
労働が職業資格を前提としているので、完全な資格社会
高度な職業訓練、職業教育が長い期間、早い段階で必要
 単線型教育制度(どのタイプの学校へ進んでも高等教育
への道が開けている) 例:日本、アメリカ、イギリス
幅広い基礎的で、理論的な教育を受けることができる。
日本の教育制度の特徴
 高度成長期の経済発展において、教育制度
が形成
 「就社」といわれる雇用の慣行が定着して、専
門的な知識が必要ない。むしろ「柔軟性」「一
般性」を満たすことのできる教育内容が好ま
れた。
現在、こうした企業社会の統合秩序が揺らぎ始めている!!
日本の教育制度の問題とは・・・
 「一般的」「理論的」な能力ではなく、専門的か
つ実践的な内容を提供できる教育制度が充
実していないこと
・・・・・・国際的競争力の低下、経済の停滞
どんな政策を講じればよいのだろう!!??
比較検証)シンガポールの教育政策
 着目した理由
・人材そのものを「国家の資源」であるとし、積極的に人づくり政策を行い、
地球規模の市場競争に参入。結果的に高い経済成長を達成したとい
うことへの評価があること。
・市場競争に生き残るために、リーダーと質の高い労働者を育成したと
いう実績が、日本の人材育成のための教育政策にも応用できる箇所
があるのではないかと、考えられた。
・就学率、識字率などの基礎的な数値だけでなく、国際数学・理科教育
調査による、学生の学力が世界最高水準であり、こうした高学力水準
を達成した要因を調査することで、専門的かつ実践的な教育の政策
が応用可能なのではないかと考えたから。
シンガポールの教育制度の歴史
※1965年~2003年まで義務教育を持たなかった
1965年:マレーシアから独立。英語を必修とし、数学・科学の
授業中も英語による講義を実施
徹底的な英語教育、母国語は採用せず
1980年:高等教育はすべて英語による講義に切り替え
国家としての強力なリーダーシップのもと、能力別言語教育の実施
シンガポール教育の二本柱
多民族・多言語・多宗教が共存する社会という背景
言語・エスニシティを超えた社会統合
人的資源をもって高い経済成長を実現したいという目的
徹底した英語による教育の浸透
都市国家形成のための新コミュニティの創造
高度な情報化・産業化、急速な学歴化を目的
Knowledge Based Economy
強力なリーダーと質の高い労働力の人材育成
「知識基盤経済」への転換に備えた人材育成
地球規模の市場競争に国家として生き残るための社会整備
結果として・・・
アジアにおける貿易・経済の中継基地
世界のハイテクセンター
教育政策が成功した要因
 試験結果を優先にした超複線型の教育制度
 国家予算の20~24%を人材開発費に投資
(日本の場合だと10%程度)
 初等教育は無償、しかも高学歴が達成される
と自動的によい職につけるようになっている
(社会移動システムが整備されていた)
 国家による徹底した学力の管理と、教育にお
ける国民に対する明確な保障体制
比較の結果・・・
日本
単線型の一般的・理論的教育
シンガポール
複線型の専門的・実践的教育
経済成長のための人間能力の
開発(質的・量的)
知識基盤経済へ向けた人材育
成と、多元的な社会統合
大学以外の高等教育機関の多
様な充実と、高等教育と実
社会との接合が目標
徹底した国家管理による教育シ
ステムと、英語教育の浸透
今後の研究の方向性
 両国の教育機関を<教育><研究><経営
>の三つの柱から比較してみる。
 比較の議論に整合性があるかどうか、検証を
試みる。
 最終的に日本の教育制度・政策における問題
点を整理し、今後の研究の問題意識の基盤と
する。
参考文献一覧
 『シンガポールの教育と教科書 ~多民族国家の学力政策~』
2002年 斉藤里美、上條忠夫編 明石書店
 『教育データブック』 2000年 中山恒彦 時事通信社
 『教育改革への提言集』 2002年 下田勝司 東信堂
 『高等教育の経済分析と政策』 1996年
矢野眞和 玉川大学出版部
 『経済発展における人的能力開発の課題と対策』
 『多文化社会と教育改革』 1998年 河内徳子編 未来社
 『教育・グローバリゼーション・国民国家』 2000年
アンディ・グリーン著 大田直子訳 東京都立大学出版会
 『「教育改革」を撃つ 教育と国家Ⅰ』 1987年
鎌倉孝夫 緑風出版