抗菌剤の使用と薬剤耐性

抗菌剤の使用と薬剤耐性
鹿児島大学名誉教授 岡本嘉六
抗菌剤は、ヒトと動物の健康と福祉に欠かせない薬物で
ある。しかし、殺される側の細菌はそれに耐えて生き延びる
仕組みを次々と生み出してきた。さらに強力な抗菌剤を開
発するが、細菌はそれにも耐性を獲得し、このイタチごっこ
は細菌の勝利を迎える可能性がある。そうなれば、様々な
感染症に対する治療法がなくなり、人類は抗菌剤がなかっ
た18世紀に逆戻りすることになる。
1910: エールリヒと秦 佐八郎によってサルバルサン開発
梅毒、鼠咬症、ワイル病、イチゴ腫に有効
合成抗菌薬
1939: サルファ剤、スルファセタミド開発
1942: ベンジルペニシリン(benzylpenicillin:PCG)開発
1944: ストレプトマイシン(streptomycin:SM)開発
抗生物質
1948: クロロテトラサイクリン、オーレオマイシン開発
1949: クロラムフェニコール(chloramphenicol:CP)開発
抗生物質
β-ラクタム系
アミノグリコシド系
テトラサイクリン系
リンコマイシン系
クロラムフェニコール系
マクロライド系
ケトライド系
ポリペプチド系
グリコペプチド系
テトラサイクリン系
合成抗菌薬
ピリドンカルボン酸(キノロン)系
ニューキノロン系
オキサゾリジノン系
サルファ剤系
抗生物質(antibiotics)とは、他の微生物
の発育や代謝を阻害する放線菌が産生
する化学物質と定義されたが、微生物
が産生し、ほかの微生物など生体細胞
の増殖や機能を阻害する物質と拡大さ
れた。5,000~6,000種類あると言われ、
約70種類が実際に使われている。
ベンジルペニシリンは1942年に開発されたが、 早くも1946年には
ロンドンの病院内でペニシリン耐性ブドウ球菌が15%分離され、1947
年 40%、1948年 60%となった。
薬が効かなくなるのはどうしてか?
耐性菌の割合が急速に増えるのはどうしてか?
抗菌作用の仕組み
細胞壁
ペプチドグリカン
D-Alaを切り離して
架橋形成する
構成要素であるD-Ala-D-Alaの部位で架橋が形成され細胞壁の
強度が保たれる。この部分の立体構造がペニシリンと酷似しており、
トランスペプチターゼが誤認識し、細胞壁の架橋ができなくなる。
β-ラクタム環
失活
耐性菌はβ-ラクタマーゼを出してβ-ラクタマム環を開裂させる
ペニシリンは、抗菌剤の不活性化による耐性獲得の代表例である
が、動物細胞にはない細胞壁を標的とする作用機序は副作用が少な
いことを意味する。この有益な特徴を生かすため、 β-ラクタマーゼ(ペ
ニシリナーゼ)によって分解されないメチシリン、オキサシリンなどの
合成ペニシリンや第1世代セフェム系薬が1960年代に開発された。と
ころが、新たな種類のβ-ラクタマーゼを産生してそれらに耐性を持つ
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)がすぐさま出現した。
耐性化の仕組みには、不活性化(薬剤の分解や修飾機構の獲得)
の外に、細菌の薬剤作用点の変異、薬剤の細菌細胞外への排出促
進などが知られている。
細胞壁合成阻害: β-ラクタム系(セファロスポリン、モノバクタム、カル
バペネム)、グリコペプチド系(バンコマイシン、テイコプラニン)
蛋白合成阻害:クロラムフェニコール、アミノグリコシド系(ストレプトマ
イシン、カナマイシン、ゲンタマイシン)、マクロライド系(エリスロマイシ
ン、リンコマイシン)、テトラサイクリン系(ドキシサイクリン)
細胞膜機能阻害:ポリペプチド系(バシトラシン、ポリミキシンB)
DNA合成阻害:ナリジクス酸、ニューキノロン
RNA合成阻害:リファンピシン 葉酸合成阻害:サルファ剤
耐性菌の割合が急速に増えるのはどうしてか?
抗菌薬を使用していない自然条件下でも、突然変異によって少数
の耐性菌が発生しているが、通常の菌よりも生存力が弱く淘汰されて
しまう。しかし、抗菌薬を使用すると、通常の菌が死滅するので生存環
境を独占して生き残る(選択圧)。抗菌薬の低濃度投与、投与中断、
長期間投与はこの選択圧を耐性菌に好都合なものとする。
このような耐性化は大腸菌などの腸内に常在する非病原菌でも起
こる。薬剤耐性遺伝子は、細菌の遺伝子(染色体)そのものに組み込
まれる場合と、プラスミドとして細胞質に存在する場合がある。耐性プ
ラスミドには、性線毛とよばれる細胞表面の繊維状器官によって他の
細菌にプラスミドを伝達する。バクテリオファージに組み込まれて他の
菌にファージが感染することでも伝達される。
プラスミド
性線毛
ファージ
溶菌
ペニシリンを人工的に
化学修飾して、ペニシリ
ナーゼによって分解され
ない抗生物質「メチシリ
ン」が開発 され、1960年
から発売された。しかし、
その1年後の1961年には
メチシリン耐性黄色ブドウ
球菌( MRSA )が現れた。
多くの薬剤(基本的にはβ
ラクタム系抗生物質)に対
して耐 性を獲得している。
MRSAに有効なバンコ
マイシンに対しても、2002
年にはバンコマイシン耐
性黄色ブドウ球菌
(VRSA)も見付かった。
英国健康保健局による入院患者のMRSAの割合
バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)は、
健常者の腸管内に保菌していても通常、
無害、無症状であるが、術後患者や感
染防御機能の低下した患者では腹膜炎、
術創感染 症、肺炎、敗血症などの感染
症を引き起こす場合がある。現在世界の
ICUなどで分離される腸球菌の20%以
上がVREと判定されている。vanA ~G
の耐性遺伝子がコードしている。
日本の状況
1939年に開発されたサルファ剤は、終戦直後の日本で赤痢が流
行した際、有効な治療薬としてあちこちで多用された。ところがしばら
くしてサルファ剤の効かない赤痢菌が出現し始め、1950年頃にはも
はや赤痢菌の80%がサルファ剤耐性菌となってしまった。・・・・・
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌( MRSA ):海外での発見は1960
年頃であったが、国内でも1980年代の後半より各地の医療施設で見
つかり分離率は最大1割程度だった。しかし、現在では、分離される6
割程度がMRSA と判定される事態に至っている。
バンコマイシン黄色ブドウ球菌(VRSA):2002年にMRSA感染症
の治療に用いるバンコマイシンに対する耐性菌が米国で見つかった。
バンコマイシン耐性腸球菌(VRE):1980年代前半に欧州で最初に
分離されたが、国内でのVRE分離も増えている。
感染症法における取り扱い: VREおよびVRSAは全数把握疾患
に定められており、診断した医師は7日以内に最寄りの保健所に届け
出る。MRSA 、ペニシリン耐性肺炎球菌、薬剤耐性緑膿菌は、定点
把握疾患に定められ、全国約500ヶ所の基幹定点より毎月報告。
感染症法5類感染症のうち、多剤耐性菌の報告数
厚労省:平成22年09月10日 「多剤耐性菌の動向把握に関する意見交換会」の資料
カルバペネム耐性腸内細菌( CRE )
広域β-ラクタム系薬に対し耐性を獲得しているのみならず、他の系
統の、例えばフルオロキノロン系やアミノグリコシド系の薬剤にも多
剤耐性を獲得している。最後の切り札的抗菌薬であるイミペネムやメ
ロペネムなどのカルバペネム系抗菌薬に対し耐性を獲得した肺炎桿
菌や大腸菌、さらにその仲間の腸内細菌科に属する細菌が近年報
告されている。
一般健康成人では問題にならないが、手術後の患者は、創部の感
染症や腹膜炎、膿瘍などの原因になることがあり、免疫低下者など
の高リスク者も敗血症などに陥る。
元々腸内に棲息する菌種であり、腸内に長く定着することから別
の病原菌に耐性を伝達する危険性がある。そうなれば、一般健康成
人でも重大な問題となる。
セリン・β-ラクタマーゼ
活性中心にセリン
メタロ・β-ラクタマーゼ
活性中心に亜鉛
クラスA・β-ラクタマーゼ(ペニシリナーゼ)
クラスC・β-ラクタマーゼ(セファロスポリナーゼ)
クラスD・β-ラクタマーゼ(OXA型)
クラスB・β-ラクタマーゼ(カルバペネマーゼ)
IMP-1:イミペネムに耐性、NDM-1:ニューデリーメタロ
β-ラクタマーゼ、KPC:K. pneumoniaeで発見
海外での多剤耐性菌の検出状況(2010年)
欧米諸国と比べて、検出率が総じて低い。大半は渡航先、とくにア
ジアで治療を受けた際に感染している。しかし、渡航歴のない院内感
染例もあり、予断を許さない状況にある。
厚労省:平成22年09月10日 「多剤耐性菌の動向把握に関する意見交換会」の資料
耐性遺伝子解析結果(2010年9月15日~12月28日)
菌種
IMP-1
KPC
NDM-1
全て陰性
合計
大腸菌
肺炎桿菌
エンテロバクター・クロアカ
プロビデンシア属
セラチア・マルセセンス
シトロバクター属
プロテウス・ミラビリス
モルガネラ・モルガニイ
クレブシエラ・オキシトカ
23
19
22
3
3
2
ー
ー
ー
ー
2
ー
ー
ー
ー
ー
ー
ー
ー
2
ー
ー
ー
ー
ー
ー
ー
44
12
6
3
3
3
2
3
1
67
35
28
6
6
5
2
3
1
合計
72
2
2
77
153
NDM-1:2010~12年にインドで感染した3名、渡航歴がない2名。
KPC: 2009 ~12年にインド、中国、北米、不明の6名。
IMP-1:この他に、イミペネムに感受性のIMP-6産生株が数年前よ
り関西地区で分離されている。
厚労省:「我が国における新たな多剤耐性菌の実態調査」の結果(平成23年1月21日)
薬剤耐性菌研究界:薬剤耐性菌国内情報
WHOの危機認識と行動の呼掛け
抗微生物薬耐性:発生動向調査の国際的報告 2014年4月
ペニシリン発見後容易に治療可能だった肺炎などの一般的な市中感染症が多くの
施設で利用可能なまたは推奨される薬剤に反応しなくなっており、患者の生命を危
険にさらしている。
●
新生児室や集中治療室において一般的な感染症が、益々治療困難になっており、
時には治療不能になっている。
●
癌の治療、臓器移植およびその他の高度な治療を受けた患者が感染に対してとく
に脆弱になっている。そのような患者で感染の治療に失敗すると、感染が生命を脅
かし、致命的になる可能性がある。
●
術後の手術部位の感染を防ぐために使用される抗菌剤の効果が低下し、無効にな
っている。
報道発表 2014年4月
耐性とどのように戦うか?
安易な使用が耐性
次のことで、人々は耐性との戦いを手助けできる。
● 医師に処方された時だけ抗生物質を使用する
化を加速させてきた。
● 快方に向かったと感じても、処方通り全量を使用する
厳格な使用を維持し
● 抗生物質を他人と共有したり、残った処方を使用しない。
ないと、新たに有効な
次のことで、医療従事者と薬剤師は耐性との戦いを手助けできる。 抗菌剤が開発される
● 感染の予防と制御の強化
前に、現存の全ての
● 本当に必要な時にのみ抗生物質を処方・調剤する
抗菌剤が無効になる。
● 病気を治療するために適切な抗生物質を処方・調剤する。
次のことで、政策立案者は耐性との戦いを手助けできる。・・・・・・・・・・・・・
●
動物における抗菌剤使用と耐性菌の拡散
サルモネラDT104: 1984年に英国のウシから、アンピシリン(A)、クロラムフェニ
コール(C) 、ストレプトマイシン(S) 、サルファ剤(Su) 、テトラサイクリン(T)の5
剤に耐性を示すS. Typhimuriumファージ型(definitive type)104が初めて分
離された。1994年には牛サルモネラ症から分離されたサルモネラの66%がST
DT104 ACSSuTと急増した。ヒトの感染例は、1088年以降増加し、1993年には
1000名を越えた。
ST DT104 ACSSuT は、その他
の家畜に広がるとともに、欧州、米国
など世界に広がった。日本では1986
年ごろから散発下痢症事例や、小規
模な集団事例、家畜での事例などが
確認されていたが、2004年には大阪
でDT104 による患者数358人の大規
模集団事例が発生した。
サルモネラ・ティフィムリウム - 食品安全委員会
ST DT104の簡易スクリーニング法
ST DT104 ACSSuT は、耐性薬剤が追加または脱落した6剤、4剤耐性株や、
ファージ型が異なるものの類似した耐性パターンを示すサルモネラ株を生み出した
と考えられている。 ST DT104 の起源は、どこで、どの動物で誕生したか不明であ
るが、抗菌剤が広範に使用されている状況で家畜およびヒトに広がった。
研究成果報告書 研究科題名 多剤耐性サルモネラの ... - 食品安全委員会
1990
2000
DT104
クロラムフェニコールは
ヒト・チフス症の特効薬。
この耐性遺伝子拡散は
ヒトの健康への脅威
Ampicillin
Gentamicin
ヒトおよび各種動物から分離
されたCampylobacter jejuni
感染症学雑誌、1984
Tetracycline
耐性率(耐性株数/検査数)
ヒト ウシ 家禽 野鳥
Ampicillin
Gentamicin
Tetracycline
1.8 0.0 2.2 1.7
2
0
1
1
0.0 6.9 1.5 0.0
0
2
1
0
68.8 55.2 21.7 10.2
77 16 10
6
1984年の散発下痢患者のCampylobacterの感受性もほぼ同じだが、ヒト由来株を
その後同じ薬剤を調べた論文は見当たらない。小児カンピロバクター腸炎および
サルモネラ腸炎の検討(2010)では、サルモネラのAmpicillin耐性が8.7%。
牛及び豚に使用するフルオロキノロン製剤に係る薬剤耐性菌に関する食品健康影響評価
キノロン系抗菌剤は、DNAジャイレースの働きを阻害する DNAの「ねじれ」を解消
ことによって細菌の増殖を妨げる。 ナリジクス酸(1962年)は して複製を準備するト
第1世代のキノロンであり、1984年に第2世代のノルフロキサ ポイソメラーゼの2型
シン(NFLX)が発売され、現在第3世代。 ヒトの疾病治療に
おけるフルオロキノロン系抗菌性物質の重要度やハザードに
よるヒトの疾病の重篤性等から、腸管出血性大腸菌および
サルモネラは高度、カンピロバクターについては中等度。
牛および豚由来株に対するエンロフロキサシン(ERFX)
またはシプロフロキサシン(CPFX)の耐性状況 一般大腸菌:MIC分布域には
一般大腸菌 サルモネラ カンピロバクター 大きな変動がみられず、耐性
率は牛由来で0.0~1.5 %、
ウシ ブタ ウシ+ブタMIC ウシ ブタ
豚由来で0.0~4.1 %の範囲
0
0.1
8.8 21.3
1999 0.3
サルモネラ: MIC分布域には
0
<0.125
25 23.5
2001 0
大きな変動がみられず、感受
4.1
<0.125
17.6 34.9
2003 0
性を維持している。
0.25
25 30.6
2005 1.4 1.3
カンピロバクター:牛由来C.
0
<0.125
27.3 56.4
2007 1.5
jejuni の耐性率は8.8~
2.2
1
24.4 48.4
2009 0
30.3 %の範囲で変動、豚由
1
29.4 71.1
2011 0.7 2.8
来C. coli の耐性率は21.3~
0.8
0.5
32.4 42.9
2013 0
71.1%の範囲で変動した。
食品安全員会2009年:畜水産食品における薬剤耐性菌の出現実態調査 報告書
牛肉(大腸菌101株) 豚肉(大腸菌103株)
耐性率(耐性株数) 耐性率(耐性株数)
アンピシリン
10.9(11)
25.2(26)
オキシテトラサイクリン
23.8(24)
51.5(53)
ストレプトマイシン
19.8(20)
44.7(46)
アプラマイシン
21.8(22)
39.8(41)
クロラムフェニコール
8.9(9 )
18.4(19 )
トリメトプリム
5.9(6)
27.2(28)
カナマイシン
6.9(7)
8.7(9)
フロルェニコーは、
ビコザマイシン米国、EU 、カナダ、オーストラリア、ニュジンドに
4.0(4)
2.9(3) おいて使用
が認められている。日本では、食品安全委員会の再評価において「食品媒介性疾
ナリジクス酸
3.0(3 )
3.9( 4)
患に使用されない」ことから無視できる影響とした。
コリスチン
2.0(2)
1.0(1)
欧州食品安全機関は、飼料添加物としてのトヨセリン(R)(Bacillus
ゲンタマイシン
0.0(0)
0.0(0)toyonensis)
がクロラムフェニコールおよびテトラサイクリンに対して耐性を有し、耐性をコードす
エンロフロキサシン
0(0.0 )
1.9(2 )
る遺伝子を拡散するリスクが考えられるとした。
セファゾリン
6.9(7 )
1.0(1 )
セフチオフル
0(0.0 )
0(0.0)
米国における3剤以上に耐性のサルモネラの割合
ヒトの多剤耐性菌の割合は、 The 2012-2013 Integrated NARMS Report
2008年まで減少した。
鶏と七面鳥の多剤耐性菌の割合は、処
理場段階よりも小売段階が高い。七面鳥
の割合は増加傾向にある。
牛の処理場段階の多剤耐性菌の割合は、
2000年からの10年間増加していた。
食用家畜への使用目的で販売されている抗菌薬の量が、2009年の1270万kg
から12年には1450万kgへと16%増加していた(2014年発表)。
米国における3剤以上に耐性のサルモネラの割合
生体分離株の多剤耐性菌の
割合は、ヒトおよび鶏、乳牛、
仔豚との間の差がないが、七
面鳥、肉牛、出荷豚は高い。
盲腸
盲腸
The 2012-2013 Integrated NARMS Report
解体・食肉処理・流通の過程で多剤耐
性菌の割合が高まっている。感受性
菌との消毒剤に対する抵抗力の差?
盲腸 盲腸
盲腸 盲腸
動物における抗菌剤使用と耐性菌の拡散ー Part 2
治療を目的とする使用以外に、経済動物として生産コストを削減
するための飼料添加物としての抗菌剤使用がある。
ビタミンB補給を狙ってテトラサイクリン製造残渣を家畜に与えると成長促進の
あることが1949年に判明した(その後、この効果はビタミン補給とは関係なく、腸内
細菌の改善によるものと推定された)。
少ない飼料で増体効果が得られ、成長促進効果があることから、抗生物質の
飼料添加を米国FDAが1951年に認可し、欧州もそれに続いた。病気の治療を目的
としない使用に対して、耐性菌や残留問題などで当初から反対があったが、欧州
が成長促進剤としての使用を禁止したのは1999年であった。
FAO:食用動物における抗生物質成長促進剤
抗生物質成長促進剤の最善の代替方法は、たとえば、スウェーデンモデル
(1985)のように食料生産動物の一般条件の改善である。医学的に重要な抗生物
質は、成長促進での使用を即時に禁止しなければならない。残念ながら、ス
ウェーデンが示したように、改革は遅く、非常に費用が掛かることがある。業界の
改革を全体として開始するためには、成長促進抗生物質使用の考え方を変更す
ることが不可欠である。抗生物質の使用を継続する最大の脅威はヒト用薬剤に起
因しているが、耐性株の選別は全ての者に影響を与える。耐性株の選別が臨床
的濫用やその他の原因で起きれば、抗生物質の治療がほとんど無効になる。
感染症の予防は、抗菌剤の予防的使用より、ワクチンが優る。
飼料及び飼料添加物の成分規格等に関する省令
飼料は、抗菌性物質(飼料添加物として指定されたものを除く)を
含んではならない。
ブロイラー用
豚用
飼料添加物名
(濃度ppm)
前期用
後期用
ほ乳期用
子豚期用
亜鉛バシトラシン
アビラマイシン
エンラマイシン
クロルテトラサイクリン
バージニアマイシン
硫酸コリスチン
16.8-168
2.5-10
1-10
10-55
5-15
2-20
16.8-168
2.5-10
1-10
42-420
10-40
2.5-20
16.8-168
10-40
2.5-20
5-15
2-20
10-20
2-40
10-20
2-20
飼料添加物としての指定に際しては、
1. 人体薬として使用されていない
2. 人体薬に対する交叉耐性を生じない
3. 腸管吸収が悪く、残留問題を起さない
ことが重視されている。
出荷前の仕上げ飼料には、添加が許可さ
れていない。
衛生管理が行き届き、
悪玉菌(Clostridium
属など)が少ない農場
では、成長促進効果は
ほとんどみられない。
GAP(適性飼育管理)
の普及が鍵。
抗菌剤の低濃度・長期使用が耐性化を進めるという見解もあるが、
耐性遺伝子の拡散に関しては見解に留まらない事実である。
FAO・WHO:鶏肉のサルモネラとカンピロバクター 2009年
危害の低減のために可能な介入策
原種鶏群
の管理
孵化場への
種卵の輸送
種鶏用
孵化場
卵の孵化場
への輸送
孵化場
初生雛の農
場への輸送
食鳥処理場
への輸送
食鳥
処理
流通、
取扱い
食鳥処理場での受け渡し
輸送カゴおよび湯漬け前の取り扱い
生体検査
と殺・整体
湯漬け、脱羽および内臓摘出
頭部除去、内臓摘出・素嚢の除去
汚染除去(と体の内側と外側の洗浄)
解体後検査
冷却(空気冷却、浸漬冷却・塩素)
包装・冷蔵・冷凍、保管・出荷
初生雛の種鶏
農場への輸送
鶏群
管理
購入・
調理
低温管理
交差汚染防止
加熱
種鶏群
の管理
飲水の殺菌処理
餌付け・間引き
生菌剤・競合排除法
換気・暑熱慣例対策
敷料管理
農場に入る際の消毒
衣類・長靴の管理
鶏舎間での機材共有
の制限
「農場から食卓まで(From
Farm to Table)」の全ての工程を
管理することでリスクを下げる。
毎日の作業であり、ウッカリ・ミス
を防ぐために、重要な工程には
チェックシートで確認させる。
薬剤耐性問題は、エネルギー問題における核利用と似
ており、人類が作り出した文明の逆襲とも言える。抗菌物
質を利用せずに感染症と闘うことに限界があるのと同様に、
化石燃料に代る核エネルギーを利用することなく地球温暖
化を止める道筋は見えない。
20世紀の大規模化と効率化による生産性向上は、農業
分野においても様々な側面で過剰な負荷を掛けることに
よって地域社会の持続可能性を損ね、地球環境問題を引
起してしまった。大量生産・大量消費のシステムの中で、労
働の喜びが奪われ、分業社会の絆が失われていった。
「文明の逆襲」を解決する方法を見付け出すには、時が
必要である。 競争(Number One)ではなく、個性と協調
(Only One)を重視する「節度ある消費を基盤とする伸びや
かな生き方・社会」を求める中で、難解な問題を解決する
時間稼ぎが必要である。