第1回 地震の発生 1-1 地震と断層 1-2 プレートテクトニクスと地震 1-3 日本列島周辺の地震 1-4 地域の活動度 1-5 主な被害地震と教訓 参考書 1-1 地震と断層 (1)断層 • 岩盤の物理的特徴:力を加えれば変形し (歪み),限度を超えるとせん断破壊する • 地震とは:断層間の岩盤の歪が限度を超え, せん断破壊してずれ,エネルギを放出する • 地震動とは:断層のせん断破壊による衝撃 が地震波として四方八方に伝わる 地震の震源・震央と断層 :地震でずれた断層 阪神大震災の地表地震断層 淡路島の北淡町 断層のタイプ <縦ずれ断層> 地震でのずれが上下方向に発生したもの • 逆断層:両側が近づく方向の縦ずれ断層 • 正断層:両側が遠ざかる方向の縦ずれ断層 <横ずれ断層> 地震でのずれが水平方向に発生したもの • 右横ずれ断層:向かって右側にずれた断層 • 左横ずれ断層:向かって左側にずれた断層 断層のタイプ (2)断層モデル • 断層モデル:地震での断層運動を単純化 • 断層パラメータ:9つ 長さ:L と 幅: W (km) ,平均変位:D0 (m) 傾斜角:δ, 走向:φ, 食い違い方向:λ° 岩盤のせん断弾性係数:μ (kN/m2) 断層の破壊伝播速度: Vr≒3.0 (km/s) 立ち上がり時間:τ(s) 逆断層・左横ずれ型の断層パラメータ 断層の上面 マグニチュード(M):地震規模の尺度 • 気象庁マグニチュード(M j): 震源からある距離での特定地震計で記録され た振幅の常用対数 • モーメントマグニチュード(Mw): 物理的意味が明快な地震モーメントから算定 Log M0 = 1.5 Mw + 16.1 • 地震モーメント(M0): 岩盤のせん断弾性係数×変位量×断層面積 M0 = μ × D0 × L × W (dyn・cm) 2011年東北地方太平洋沖地震の断層モデル φ=195-180=15° λ=13°低角逆断層 最大変位 Dmax:23m 平均変位 D0:12m 2011年東北地方太平洋沖地震の モーメントマグニチュードの算定 • 地震モーメント:Mo ←地震によるエネルギー Mo = μ×D×L×W = 3.86 ×1029 (dyn・cm) 11 μ:岩石のせん断弾性定数:3×10 (dyn/cm2) D:平均すべり量:12×102 (cm) 5 5 L,W:長さと幅:510×10 (cm) , 210×10 (cm) • モーメントマグニチュード: Mw Mw =( log10 Mo -16.1 )/1.5 = 9.0 震度:地域の地震動の強さの尺度 • 気象庁震度:1996年以後の震度は,計測震 度計により加速度記録から自動的に算定 • 計測震度の算定法: 加速度波形(60秒)を1/√fのフィルターをか けて,0.3秒間以上継続する値(a)を求めて, I = 2×log10 a + 0.94 で求める • 1996年気象庁震度階:震度5と6を強・弱に 細分化して,10段階になった 最大加速度・速度の距離減衰特性 2011年東北地方太平洋沖地震の例 1000 ガル 50 カイン 山間地での震度の算定例 k-net MYG003 東和 の(元の)地震波形 最大:580 ガル 600 加速度(cm/s/s) 400 200 0 -200 -400 -600 0 10 20 30 40 50 時 刻 (s) 60 ローパス・フィルターで約1/4に k-net MYG003 東和 のフィルター後の地震波形 130 ガル 0.3秒以上継続する値を見つける 600 加速度(cm/s/s) 400 200 0 -200 -400 -600 0 10 20 30 40 50 時 刻 (s) 60 震度 I = 2 × log10 130 + 0.94 = 5.2 → 震度5強(被害小) 平野内での震度の算定例 最大:1000 ガル以上 k-net MYG013 仙台 の(元の)地震波形 1000 800 加速度(cm/s/s) 600 400 200 0 -200 -400 -600 -800 -1000 0 10 20 30 40 50 時 刻 (s) 60 ローパス・フィルターで約1/2に k-net MYG013 仙台 のフィルター後の地震波形 450 ガル 1000 800 0.3秒以上継続する値を見つける 600 加速度(cm/s/s) 400 200 0 -200 -400 -600 -800 -1000 0 10 20 30 40 50 時 刻 (s) 60 震度 I = 2 × log10 450 + 0.94 = 6.2 → 震度6強(被害大) 震度と古い木造住宅の全壊率 100% 5.2 6.2 0% 5 5強 6弱 6 6強 7 7 (3)断層の破壊と地震動 • 断層の破壊現象≒せん断食い違い理論: 直交する2つの偶力に近似できる←双偶力 • 断層の食い違いで生ずるせん断波:断層面 の平行方向と直交方向に発生 • 断層の食い違いで生ずる P 波の初動: 断層面の45°方向に押しと引きに分離 ・地震波の距離減衰: 震源域からの距離に揺れの強さが減少 断層の食い違いと双偶力 初動が引き 初動が押し 断層の食い違いによる波動方向 初動が引き 初動が押し • 断層破壊のドップラー効果:断層破壊が進行 する側で振幅が大きくなり周期が短くなる • 地震規模と断層長さ(L):M8で約100km, M7で約30km,M6で約10km • 地震規模と地震波の周期:地震規模が大きい と長周期成分が優勢になり長くなる • アスペリティ:震源断層の中の固着域で,地震 の際に大きな破壊エネルギーを放出する 阪神大震災のアスペリティ分布 震央 兵庫県南部地震の波形の軌跡 ドップラー効果と アスペリティで大きくなる 震央 東日本大震災のドップラー効果 大船渡 震度 4.3 岩沼 震度 6.0 飯館 震度 5.4 岩手県の震度より 茨城県の方が大きい 大子 震度 5.6 1-2 プレートテクトニクスと地震 (1) プレートの運動 • 大陸移動説(1912年Wegener): 約2億年前まで大陸は一つであり,分裂して移 動したため現在の大陸になったという説 • プレートテクトニクス (1967年McKenzie & Parker): マントルの対流によりプレートは移動して海嶺 や海溝ができるという説 ・ 地球の内部構成:核(半径約3,500km) ,マン トル(厚さ約2,900km) ,プレート(約100km) 地球の内部構造 地球の内部と外核の対流 大陸移動説(ウェゲナー1912 年) プレートテクトニクス理論 (1967年 McKenzie & Parker) 火山帯 海溝 海嶺 海溝 プレート 境界地震 世界のプレート分布 (震源が浅く) 規模の大きな地震分布 世界の新期造山帯(地震帯) マントル対流とプレートの運動・衝突 溶融鉄 鉄 溶融鉄 マントル ・プレートの構成:リソスフェア(マントル上部が冷 えて固まった層)+アセノスフェア(軟らかい層) • マントル:地球深部では固体だが表面近くの低 圧力下では液体,冷えると固まる(リソスフェア) • プルーム:核からマントルが上昇している部分 • 海溝:海のプレートが大陸プレートと衝突して, 屈曲して下降している場所 • 海嶺(海膨):海洋プレートが移動した場所で, 受動的にマントルが湧き出すところ • ホットスポット:プルームの上昇により高温のマ ントルが湧き出すところ プレートの運動 リソスフェア アセノスフェア マントル ホットスポット プルーム 海溝 海嶺 プルーム (2)日本列島周辺のプレート • 太平洋プレート:東太平洋海膨で生まれ年間 約9cmの速さで西北西に移動している • フィリピン海プレート: 年間約4.5cmの速さで北西に移動している • ユーラシアプレート: 日本列島の南側の陸のプレート 年間約1cmの速さで東南東に移動している • 北米プレート:日本列島の北側の陸のプレート 糸魚川―静岡構造線で接している 日本周辺のプレートの動き プレートの動きと地震のタイプ リソスフェア アセノスフェア 1-3 日本列島周辺の地震 (1) 海の地震 • プレート境界地震:海溝沿いにプレート の衝突に伴う圧縮力で起きる地震 • プレート内の地震:海溝で沈み込んでい る海のプレートの内部で起きる地震 日本列島周辺の被害地震の震源域 日本列島周辺の過去10年間の震源域 出典:防災白書 日本列島の 地体構造 限界地震の 規模 M9.0の地震が 2011年に発生 M9.1に修正 (2012年) 南海トラフの巨大地震の断層域 内閣府 2012年 防災白書 大規模地震対策地域 2010年 ・十勝沖地震の発生周期(北海道): M8級は50~80年(1952年,2003年) ・宮城県沖地震の発生周期(東北): M7.5級は30~80年(1897年,1978年) ・関東地震の発生周期: 220~415年(878年,1293年,1703年,1923年) ・東海地震と南海地震の発生周期: 90~147年(1605年,1707年,1854年,1944・46年) ・東海地震の発生:1944年東南海地震では破壊し なかったが,歴史上単独での発生はない 十勝沖・宮城県沖地震の震度分布 防災白書 2010年 十勝沖・宮城県沖地震の津波高さ 防災白書 2010年 東海・南海地震の繰り返し M 8.6 東海・南海・関東地震の繰り返し 宝永 M8.6 安政 M8.4 昭和 M7.9 南海トラフでの巨大地震の時間予測 モデル 宝永 M 8.6 安政 M 8.4 昭和 M 7.9 大きな地震の後は次の 地震までの間隔が長い 東南海・南海連動地震の震度分布 防災白書 2010年 東南海・南海連動地震の震度分布 内閣府 2012年 東南海・南海連動地震の津波高さ 防災白書 2010年 東南海・南海連動地震の津波高さ 内閣府 2012年 東南海・ 南海地震の 防災戦略 出典:防災白書 (2) 陸の地震 • 内陸型地震:陸の活断層で発生する浅い地震。 逆断層型で横ずれを伴うものが多い • 活断層:約170万年前から繰返し活動していて, 将来また活動すると考えられる断層 • 活断層の確実度: Ⅰ(地表地震断層が明確にある)Ⅱ,Ⅲに分類 • 活断層の活動度の年平均変位:A級:1~ 10mm,B級:0.1~1mm,C級:0.1mm以下) • 地震断層の分岐形態:破壊の終端では断層が 枝分かれする→震源の位置が分かる 明治以後の活断層による主な内陸地震 過去の地震の断層調査 地層断面図と過去の地震断層 過去の地震断層の跡 内陸型地震の断層調査結果 内陸地震の要注意断層 (1)中央構造線 (2)有馬・高槻・六甲断層帯 (3)阿寺断層 (4)伊那谷断層 (5)糸魚川・静岡構造線 (6)富士川河口断層帯 (7)神縄・国府津・松田断層帯 (8)柳ヶ瀬・鈴鹿断層帯 (9)西関東断層帯 (10)信濃川断層帯 (11)秋田・庄内断層帯 地震断層の分岐とセグメンテーション 1-4 地域の活動度 (1) 関東地方 ・ 元禄地震(1703年):M7.9-8.4, 小田原で死者約2300人, 千葉では津波で死者6500人 • 安政江戸地震(1855年):M7.0 荒川河口付近で発生,死者約1万人 東京東部などで震度6相当の揺れ • 関東地震(1923年):M7.9 相模トラフ沿いが震源域,死者約10万人 相模湾沿岸地域では震度7相当の揺れ (2) 関西地方 • 慶長伏見地震(1596年): 有馬-高槻断層と六甲・淡路島断層 京都と大阪で被害 • 1662年の地震: 三方・花折断層 • 兵庫県南部地震(1995年): 野島断層と六甲・淡路島断層 (3) 東海地方 • 天正地震(1586年): 養老―桑名―四日市断層 庄川断層と阿寺断層も? • 濃尾地震(1891年): 根尾谷断層を含む濃尾断層帯 震源域近くで震度7相当 • 三河地震(1945年): 深溝断層,東南海地震の約1ヶ月後 1-5 主な被害地震と教訓 (1) 明治以降の日本の被害地震 • 内陸型地震:地震規模は小さくても震源が近 いため被害が甚大 • 海洋型地震:M8クラスが多く,津波を伴って 広域に被害を与えている • 福井地震(1948年)~兵庫県南部地震(1995) :約50年間,国内では顕著な被害地震は無し (2) 明治以降の海外の被害地震 • 建物の耐震化や津波意識が低い地域: 地震の規模や震度が小さくても,構造物に 甚大な被害が発生し,死者が増大する • 唐山地震(1976年):中国河北省,M7.9 死者242,000人と発表 • トルコ・コジャエリ地震(1999年):トルコ北西部 M7.4,広域で液状化が発生,死者17,000人以上 ・スマトラ沖地震(2004年) : インドネシア スマトラ島北西部,M9.0 海洋型地震,死者22万人以上(津波による) ・パキスタン地震(2005年): 北東部カシミール地方,M7.6,死者約10万人 ・四川大地震(2008年): 中国四川省,M8.0,死者約87,000人 ・ハイチ地震(2010年): ハイチ首都付近,M7.0,死者22万人以上
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