ディオドラ・アスタロトは臆病だ ID:110352

ディオドラ・アスタロ
トは臆病だ
グローバルエリート
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︻あらすじ︼
ディオドラ・アスタロトの子供の頃に見た夢はとても恐ろしかった。
その夢が彼に取ってトラウマになるぐらいに
第
第
第
第
第
第
7
6
5
4
3
2
話 ││││││││││││
1
95
83
71 60
36
25
16
6
1
目 次 第
話 ││││││││││││
第
8
話 ││││││││││││
話 ││││││││││││
話 ││││││││││││
話 ││││││││││││
話 ││││││││││││
話 ││││││││││││
話 ││││││││││││
第
9
話
1
やめてくれ、やめてくれ
は子供の彼にはトラウマに残るレベルで心に刻み込まれそれを応援する眷族達を見て、
そういう彼を無視して妙に感情の篭らない目で自分の顔を執拗に殴ってくる赤龍帝
!
斬られたりした時の痛みがダイレクトに伝わってくる。
赤龍帝の圧倒的なパワーに彼はボコボコにされる。妙にリアルなもので殴られたり
いれようとするが多勢に無勢であった。
夢の中の成人したディオドラはそんなものを意に介さず嗤いながらアーシアを手に
とは今の彼からしたらとてつもない恐怖だった。
グレモリー眷族の全員に向けられる憎悪の目、女の子があんな恐ろしい目で見てくる
落とされる。
だが、アーシア・アルジェントという女を手込めにしようとした結果、彼はどん底に
いた。そこまでは彼にとって結構幸福な一時に思えてとても興奮した。
その夢では自分が教会のシスター達を手込めにしていき自分の眷族として使役して
ディオドラ・アスタロトは子供の頃に夢を見た。
第
1
子供のディオドラは思った。
彼らこそが本物の悪魔だ。
⋮⋮⋮ゆ、夢か﹂
と逃げても逃げても追いかけてくる眷族達から逃げた最期は仲間であったものから
の裏切りだった。
﹃君は用済みだ﹄
そして、彼は死んだ。
!!
うか
これは未来の僕なんだろうか。未来で僕はこんな悲惨な最期を遂げてしまうのだろ
確かに僕は女の子が大好きだ。最近ではシスターの女の子にハマっている。
だった。何故、大人の僕はあんなことをしたのだろうと思った。
息が荒い。僕はどうやら夢を見ていたようだ。とてつもなく嫌な、そして悲惨な夢
﹁イヤだァアアアーーーーー
第1話
2
﹁嫌だ⋮⋮死にたくない﹂
僕は頭を抱えながら呟く。僕は死にたくはない。まだやりたいことだって沢山ある
お、女の子がこ、怖いよぉー﹂
し女の子とイチャイチャだってしたい。したいんだけど
﹁ひぃっ
数年後
﹂
そこから僕はその日、ずっと机に向かって作業を延々と繰り返したのだった。
避しなければ
僕はあの夢で女の子が怖くなってしまった。ど、どうにかしてこのバットエンドを回
!!
ディオドラのお兄ちゃんだぁーー
﹂
!!
﹁あ
ねぇ遊ぼうよぉ
!
!
﹁ほんとだぁー
!
3
﹂
﹁俺達が先だぞ
﹂﹂﹂﹂
!
しかし、最近では僕も大きくなってしまってなかなか近所からはいい目で見られな
の子でも平気らしく僕は日頃のストレスをこの公園で晴らしているのだ。
灯っており、穢れを知らないこの子達は僕に心の平穏を与えてくれる。幼い子ならば女
今の僕の癒しはこの戯れてくる子供達、マイエンジェルだ。まだ目には純真な心が
になってしまった。
あの時、見た夢が僕に相当なダメージを与えていたのだろうか女性恐怖症というもの
というより女の子をとてもじゃないがナンパ出来る根性など持ち合わせていない。
あれから僕はナンパなど一度もしていない。ましてや眷族集めなどもしていない。
﹁﹁﹁﹁分かった
﹁ほら、落ち着いて僕は居なくならないからね。みんなで遊ぼう﹂
景だ。
いつもの公園に遊びに行くと子供達が僕の周りに集まってくる。とても癒される光
﹂
﹁私達だよぉー
!
!
第1話
4
い。また、父上は眷族探しを早くしろと煩いんだ。
僕は何にもなりたくない。このまま保育士にでもなろうか。貴族悪魔など僕には最
早関係ない。あのグレモリーに会うのは勘弁したいのだ。
因みにあの夢の中の人物が把握出来た。リアス・グレモリーというそうだ。未だ赤龍
おふろにする
﹂
帝 は 味 方 に し て い な い よ う だ が い ず れ は す る だ ろ う。そ の 時 に 僕 は 死 ん で し ま っ た。
ごはんにする
そう考えると今でも身震いがする。
ど抜かりはない。あの夢の中の僕のような間抜けにはなりたくない。
を建てようかと思ってる。冥界ではそのような施設はないから一からのスタートだけ
こうしておままごとに興じていることの方が全然いいのだ。最近では本気で保育園
?
﹁お帰りなさぁーい
?
﹁分かったぁーちょっとまっててねえー﹂
﹁そうだなぁご飯にしようかな﹂
!
5
第
話
使ったとしても中々難しいものがある。だから人間界に学びにきたんだ。
えた。だが、残念なことに冥界ではあまり近接戦に富んだものはいない。僕のコネを
戦は必要だ。それらを組み合わせるからこそ戦いにおいて優位に立てるのだと僕は考
あの夢で思ったことだが戦闘では魔力だけでは通じないところもある。やはり近接
強するため、あと自衛手段を学ぶためだ。
父上には眷族集めといったが実は違う。目的は保育園設立に向けたものと制度を勉
頑張ってきたのではない。
人間界に入るための審査は僕にとって簡単なものだ。伊達にあの夢を見たときから
眷族集めをしてくるといって人間界に旅行をしに行った。
2
時間がかかる。そんなものは面倒だ。
空港に着いた僕はここから人間界へと入っていく。電車という手段もあるんだけど
﹁さて、まずは自衛手段の習得かな﹂
第2話
6
そして、僕はイギリスというまだこの人間界では珍しい王権主義を取っている国に出
発した。
早速やろう。用意はいいかね
﹂
よかった。私はロバートだ。よろしく﹂
?
﹁ディオドラです。それでバリツは﹂
﹁ああ
!
﹁はい、お願いします﹂
?
﹁君かい
﹁すみません、ここでバリツを習えるって聞いてきたんですが﹂
いてやって来た。飛び道具を使いながら戦うのはとてもそそられるものがある。
ていたものらしいが空想上のものだ。でもそれを真剣に研究している御仁がいると聞
イギリスにはバリツという格闘術があるらしい。かのシャーロック・ホームズが修め
﹁ありがとうございます﹂
﹁あぁ、それならこの道を進めばあるよ﹂
﹁すみません、ここに軍学校があると聞いたのですが﹂
7
第2話
8
早速、僕はロバートさんの教えでバリツを習い始めた。この世界では僕はジャージを
着ている。これは楽で動きやすい。
さて、習い初めてみたがこの格闘術は多くのものが複合的に混ざっているようだ。基
本は柔術でそれを組み合わせて両手に持った獲物で止めをさすというアクロバティッ
クなものだ。これをものにするために1ヶ月みっちり修練する。どのみち、僕は暇だか
らね。何も気にすることはない。夜は保育士の免許の勉強だ。一応日本で取っとけば
冥界に帰ったときに役立つだろう。資格があるのとないのじゃ保護者の安心度が違う
だろうしね。
ロバートさんは何気強い。魔力を全く使わないとはいえ僕を子供のようにあしらっ
ていく。
そして、1ヶ月が経った
バリツの大まかな基本動作を覚えた僕はホクホク顔で街を歩く。街の人とはもう知
り合いになってしまったので差し入れだと僕に色々なものをくれた。
明日にはここを出ようと思うだから今日はゆっくり休んでおこうと思ったんだけど
体が疼くから近くの広場で型の練習をしていた。
夜だからあまり人は歩いていない。気持ちのいい夜風を浴びながら動いているとふ
﹂
と人が座っているのに気付いた。
﹁えっと、どうしたのかな
てみたらそれだった。
﹂
え、大丈夫ですか
!
◆
もしかして私が何かをしたのでしょうか
﹂
私はアーシア・アルジェントという名のシスターでした。でしたというのは私は既に
?
﹁ひぃっ
﹁え
?
﹁あ、あぁ、な、なんでもないよ﹂
?
それはアーシア・アルジェントだった。暗くて分からなかったけど声を掛けて近寄っ
﹁あ、いえなんでもないです﹂
?
9
というのも私は教会の前に傷だらけになって倒れていた御仁を癒して上げた
教会から追放された身だからです。
何故
はいないと思うのです。
﹃隣人を愛せ﹄と神は仰いました。私はあの方が悪い方であってもこの行いは間違って
ら
別にあの方達を恨んではいません。私は私のしたいようにあの方を癒したのですか
です。
たのですが手のひらを返されたように堕天使を治療した魔女だと言われてしまったの
だけなのですがその人は堕天使だったそうで以前聖女として皆さんから期待されてい
?
スの夜はとても寒いです。この試練を私は乗り越えられるのでしょうか。
明るかった空もいつの間にか暗くなり周りは真っ暗になってしまいました。イギリ
のでこうして出てきても何をすれば良いのか分かりません。
私はため息をついて広場の椅子に腰を下ろしています。今まで教会で過ごしてきた
﹁はぁー﹂
第2話
10
﹁フッ
ハッ
﹂
という
腕を突きだしたり蹴り
そのような格好をした人が何やら運動をしているようです。
をしたりしています。
教会の戦士である友人がしていた演舞というのでしょうか
のでしょうか
私が呆けている間に誰かが来たようです。緑のラインが入った。ジャージ
!
?
?
!
﹂
てきました。どうしたのでしょうか
﹁えっと、どうしたのかな
﹂
もしかして私が何かしたのでしょうか
﹁あ、いえなんでもありません﹂
え、大丈夫ですか
﹁ひぃっ
﹁え
﹁あ、あぁ、な、なんでもないよ﹂
?
!
﹂
どうして私を見て驚いたのでしょうか。何処か怪我でもしているのでしょうか
私
?
?
?
私がその演舞を眺めていると彼は私の視線に気付いたのかこちらを振り向き近付い
それはとても洗練されていて美しくありました。武術を習っているのでしょうか。
?
?
?
11
は心配になりました。
こんなところにいると危ないよ﹂
あぁどうしましょう。主よ、どうして私にこんな試練を﹂
﹁ここのシスターさんかな
﹁そ、そうなんですか
?
﹁い、いや大丈夫だよ。ただ偏頭痛持ちなんだ﹂
ほんとに
マジで
﹂
私なら治せますのでそこに横になってください﹂
!
﹁それは大変です
﹁い、いやほんと大丈夫だから
!
すると目の前の方が頭を痛そうに押さえています。やはり何処か悪いのでしょうか
神 は 何 を 望 ん で こ ん な 試 練 を お 与 え に な っ た の で し ょ う。私 は 神 に 問 い か け ま す。
?
かったら無理しなくてもいいけどどうせなら話してスッキリしなよ﹂
?
シスターさんがこんな時間にここにいるのは変だ。話したくな
その慌てた姿がすこし可愛らしくて子供っぽくて私は笑いが込み上げてきました。
!
!
﹁で、なんかあったの
第2話
12
2、3度押し問答をしていると彼はハニカミながらそのように私の事情を話させよう
と促してきます。
本当であればこのようなことは話してはいけません。それに私は正直言えば恐怖心
がありました。私のしたことは間違ってはいない。だけどこの話を知った人達は私を
すごい剣幕で睨んで罵ってきます。それを経験してしまった私は彼に話すのを躊躇し
ていました。
小声で彼の後ろ姿に声をかけますが彼には聞こえません。彼はどんどん遠くに行っ
﹁間違っていない⋮⋮のでしょうか﹂
私を異に返さずその場からそそくさと離れようとします。
まるで私を知っているような言葉に私は反応してしまいました。しかし、彼はそんな
荷造りしなきゃならないからここでお別れだ﹂
しないけど君は多分間違ったことをする人ではないと思うよ。それじゃあ僕は明日の
﹁まぁある程度は予想付くけどそれならしょうがないね。僕はあまりそういうのは気に
13
てしまいます。
私に声をかけてくれた人、そして、私のことを否定しなかった人
彼は私のしたことを間違ってはいないと言いました。どこを見てそう言ったのかは
﹂
分かりません。でも、私にはもう何もない。この癒しの力以外に
﹁ま、待ってください
﹁わ、私も連れていって下さい
﹂
一生懸命出そうと絞り出した声は震えていました。それでも私は彼ならば私に道を
!
を待っていたようなそんな気がしました。
彼は振り返りました。その顔は暗くて見えませんでしたが何となく私がそう言うの
!!
﹂
示してくれるのではないかとそう思ったのです。
そんな彼は
まじで
?
﹁⋮⋮え
?
第2話
14
15
と答えました。
第
話
このたこ焼きというものは美味しいですね
﹂
あぁ主よこの出会いに
!
﹁ディオドラさん
﹂
感謝します﹂
﹁だ、大丈夫ですか
?
!
!
何となく分かったんだ。だからあの時、申し訳なくてそのまま去らずにいたんだけど
それを知ってか多分彼女は僕の代わりに唆されて騙されたんだろうなぁというのが
新たに出てくるって現象なんだけどね
ば、ドイツの第二次世界大戦の指導者ヒトラーが別の道を辿っていたならその代わりが
勉強したなかに運命の収束なんていうのがあって、まぁ推論出しかないんだけど例え
に乗ろうとしたんだ。
れがトラウマになっていて夢にも出てくるんだからあの時は謝罪の意味も込めて相談
はいえ、未来の僕があんなGUESSなことしてしまうかも知れなかったんだ。今もそ
僕は、僕はねぇ、別に何もしないつもりだったんだよ。でも、今の僕がしていないと
3
﹁イタッ
第3話
16
﹁う、うん平気だよ﹂
まさか、着いてくるなんて思わなかったよ。僕は女の子は怖いし、いずれ僕が破滅す
る要因である彼女とはもう関わりたくなかったんだけど見た目によらず頑固で夜の間、
ずっと粘られて僕は折れてしまったわけだ。
彼女が近付くと僕は離れて、また近付いてきたのを反対に避ける。それの繰り返し
だ。
﹂
まぁこれも元はといえば僕の撒くはずだった種なんだ。受け入れないといけないの
かもしれない。
そして、僕は着いた。
﹁ディオドラさん、ここは
◆
僕の楽園へと
﹁ここはほら、保育園だよ﹂
?
17
﹁では、これからディオドラさんを担当します。小野崎です。よろしくお願いします﹂
殺せ
﹁あ、はいディオドラです。よろしくお願いします﹂
保育園の先生は女の子が多い、くっ
!
!
アーシアは今、校庭で子供達にもみくちゃにされていると思うよ。
ば発行してもらえるようにしてもらった。
1ヶ月後、別に人間界で保育士をするわけではないから1ヶ月の実習と試験に合格すれ
僕のいい意味のコネを全て使って人間界の保育園で実習することになった。試験は
﹁では、まずこれから1ヶ月間実習で任せるクラスを紹介しますね﹂
!
さて、それじゃあパッパと覚えて資格とりますか
◆
﹁ディオドラさん﹂
第3話
18
﹁んー
なんだい
アーシアさん﹂
?
﹁ディオドラさんは保育士になりたいんですか
?
﹂
?
﹂
?
も今まで言っていなかったことを告げよう。
﹂
アーシアさんは冗談だと思っているんだろうな。笑いながらそう答えた。だから僕
﹁ふふっそんな場所ってあるですか
﹁それは僕が強くなきゃやっていけない場所で保育園を作るからさ﹂
ここらが潮時かな
まえるとき使ったから僕の強さも身を持って知っているだろうしね
なんとも答え辛い質問だね。確かに保育士になるならそんな必要ないよね。強盗捕
﹁武術も習ってですか
﹁そうだね、子供は可愛いから﹂
僕の試験が明日に迫った日、僕はアーシアさんにそんな事を聞かれた。
?
19
﹂
﹁そりゃあそうさ僕が作りたいという場所は冥界だからね﹂
﹁⋮⋮めいかい
﹁僕は悪魔さ
これがその証拠﹂
アーシアさんはキョトンとして首をコテッと傾げる。
?
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
かったんだ﹂
﹁ご め ん よ、別 に 騙 す つ も り は な か っ た ん だ。あ の 時 だ っ て 君 を 連 れ て 行 く 予 定 は な
たかせる。
僕は悪魔の翼を広げる。まるでコウモリのような形の大きな翼、そしてバタバタ羽ば
!
多分彼女は怒っているのだろう。何も言わずに拳を握り絞めているのがその証拠だ
﹁この試験が終わったらお別れだ﹂
第3話
20
そして、僕は翼を仕舞って勉強を始める。またジャージ買わないと背中が破けてし
まった。
﹂
?
﹁それは僕のお陰じゃないさ。君が勝手に気付いたんだ﹂
に笑ってくれるのを見て力を使わなくても人を幸せに出来るんだって﹂
でした。⋮⋮⋮でも、ディオドラさんと一緒にいて思ったんです。保育園の子供達が私
ました。でも、傷は治せましたけど皆さんの心までは治せません。幸せには出来ません
﹁私は話した通り魔女です。当時は皆の幸せはこの力を使わないと生まれないと思って
い。見る気が起きなかった。
僕は問題を解きながら答える。アーシアさんが今どんな顔しているのかは分からな
﹁てっきり怒られるもんかと思ってたけどなぁアハハハハ﹂
いていきたかっただけなんですから﹂
﹁ディオドラさんの正体なんて関係ないんです。私はただディオドラさんという人に付
﹁ん
﹁ディオドラさんはおたんこなすさんです﹂
21
﹁違います
ディオドラさんが連れて行ってくれたから今があるんです﹂
はないからペンを動かす。
﹂
﹁ディオドラさん私を眷族にして﹁それは出来ない﹂
﹁どうして⋮⋮ですか
それを私に治させて下さい﹂
それは無謀というものだよアー
!
﹁なら
﹁一人でいる方がいいって考えをかい
﹂
シアさん。君は僕の事情を知らない﹂
アハハハハッ
やるもんだ。君にはまだ希望が残されている筈だよ。だから僕は一人でいいんだ﹂
れに君のそれは誰かに依存しているって言うんだよ。それは本当に絶望しきった人が
?
?
﹁僕はねぇ眷族は作らないんだ。そして、何より女性恐怖症だ。それは分かるだろ
そ
アーシアさんの方を見て話したい。でも、僕は女の子が怖いからあまり振り向きたく
!
も終わったし
むむっ、本当にアーシアさんは頑固だ。こうなったら強制手段しかないか。丁度勉強
!
?
!
﹁そ、それでもです
第3話
22
﹂
﹂
そして、僕はバックから札束を出して彼女に放り投げる
﹁こ、これは
﹁これで駒王町に行くといいよ﹂
﹁そんなので私が納得できると思っているんですか
﹁君には君の人生がある。僕に一生涯を捧げるような人生は嫌だろ
﹂
なんといっても僕
それじゃあ私は何もディオドラさんに返せていません
が願い下げだ。僕は出るよ﹂
﹁待ってください
!
しいな﹂
ど、何処に行ってしまったんですか ディオドラさん
﹂
!!
﹂
?
?
あ、あれ
!
﹁これはブレスレット
﹁ディオドラさん
?
﹁これはこんな僕に付き合ってくれた感謝と謝罪の印だ。どうせなら付けてくれると嬉
す
僕は無視して翼を広げる。そして、懐からあるものを取り出してアーシアさんに手渡
!
?
!?
?
23
僕はもう空の上だ。さて、それじゃあ他のホテルにでも泊まりますか
たい
てか、早く寝
!
﹁それじゃあアーシアさん、本当にごめんね。でも、グレモリーに居たときの君はとても
幸せそうな顔をしていた﹂
その後、ブツブツが出て無性に痒かったのはしょうがない
その日、僕は人生で初めて女の子に触れた。
﹁僕にそんな風には⋮⋮⋮到底出来ないよ﹂
第3話
24
第
話
﹁ブァーカモーーーン
4
いよ﹂
﹁そんなもの知らん
!
﹂
それなのにこいつったら持ち帰ってきたのは保育士の免許と数百円だと
!
ふざけるんじゃないぞ﹂
あるんだぞ
数ヶ月もすればレーティングゲームのルーキー御披露目会だって
﹁お父さんちょっとディオドラも頑張ってきたんだから今日ぐらいは勘弁してあげなさ
いた。こんなことなら秋田犬でも眷族にしとけば良かったかなぁ
まるで某交番の主人公の上司並の怒声と拳を喰らった僕はメンタルが少し決まって
の免許書と友情、努力、勝利の鉄則が掛かれた書物だけだから怒るのは無理もない。
いって眷族探しの旅に行ったというのに帰って来て手元にあったのは数百円と保育士
冥 界 へ 帰 っ て 来 た 僕 に 待 っ て い た の は 父 上 の 拳 骨 だ っ た。何 せ 結 構 な 大 金 持 っ て
!!!
25
!
公園でプ
母上撃沈、やはり父上は強い。でも僕は別に眷族とか欲しくないんだけどなぁ、別に
保育園ぐらいなら行政に許可取れればいいんだし
﹂
!
﹁こいつがなんて呼ばれているか知っているか ﹃玉なしのディオドラ﹄だぞ
﹁お父さん
ラプラして幼児と遊んでままごとなんぞしおって﹂
?
立派な玉が付いているだろう
何故に僕の言うことが分かったんだ父上
﹁父上、僕だってちゃんと﹁そんな事を言ってるんじゃない
?
だから﹂
﹂
ディオドラだって頑張って学校主席で出たん
﹁なんでこんな息子になってしまったんだ。俺は、俺はもっとだなぁ﹂
!!!
?
あぁー僕もっとショック、玉なし ははッ待ってくれよ僕は玉なしじゃないぞ。ほら
!
﹁お父さん、そんなこと行ってもダメよ
第4話
26
!
﹁そりゃあ過去の話だろ
はぁ、もういい俺は寝るよ﹂
のせいだよね。本当に申し訳ない。
父上はそう言ってリビングから出ていった。その後ろ姿はすごく寂しそうでって僕
?
墜は凄かったんだと思いますよ。
母上そのまさかがあのまま行ってたら起きてました。あれからのアスタロト家の失
うな子だったからいつかとんでもない事件を起こすんじゃないかと心配してたの﹂
は本当に父上に似てて女の子が好き過ぎていつも女の子のお尻ばかり追いかけてるよ
﹁ディオドラ、父上はああいう風にいってるけどね、私は全然気にしてないの。昔の貴方
僕は母上の隣に座る。すると母上は僕に切ってくれた果物を食べるように促した。
﹁⋮⋮⋮母上﹂
﹁ディオドラ、こっちに来なさい﹂
27
﹁でもね、ある日を境に貴方は勉学に勤しむようになって真面目になってくれて学校も
⋮⋮だからね貴方の思う道に進みなさい。
主席で卒業出来た。それはお父さんでもお母さんでも出来ないことよ﹂
可愛い息子のためなんだから
﹁母上、いつもすみません﹂
﹁いいのよ
!
わずに今まで耐えてくれていたのか⋮⋮
?
﹁そうねぇ眷族が欲しくないなら犬とかでもいいじゃないかしら
﹂
領地で家畜が食い荒らされる被害が出ていたのよぉー﹂
﹁犬ですか
丁度アスタロト家の
僕は母上にも父上にもかなり迷惑をかけていたんだね。それを母上と父上は何も言
させてやってくれって頭を下げているのよ﹂
ておきなさい。お父さんもレーティングゲームの理事会でディオドラを御披露目に出
私は貴方が元気ならそれでいいの。あと出来ることなら眷族は一人でもいいから入れ
!
?
私もペットが欲しかったから丁度いいんじゃないかしら﹂
!
確かにこれ以上ぷう太郎やっているのも母上と父上に悪いな。動物なら眷族にして
﹁そう
第4話
28
も問題は無いわけだし
それじゃあ明日車でも出すわね﹂
﹁母上分かりました。僕は眷族を一匹は作ります﹂
﹁頑張って
﹁えっ
走ってって
ディオドラ
!
﹂
﹁いえ、走っていきますので、ではお休みなさい母上﹂
!
!
それならば早く寝てしまおう
明日は日が上る前から出発しなくては
て保育園のマスコットキャラになるだろう
よし
午前4時丁度
!
僕はドアを閉める。うん、確かに動物なら言うことはない。それに犬なら愛嬌があっ
!
!
!
にきつい。何故なら姿勢を正しくして走れば腹筋も背筋も使うし腕も振るから腕の筋
あっちには6時に到着する予定だ。走るのは体を鍛えるためなんだけどこれは中々
きてはいなかったから書き置きだけして出てきた。
僕は走っている。目玉焼きとベーコンをパンに挟んで食べてもまだ母上も父上も起
!
29
力も使う。足も当然のことながら使うしハンドグリップもニギニギしているから体全
体を使うことになる。
古典的ながら画期的なトレーニング、そうそれがランニングなんだ。
まぁこれはロバートさんの受け売りなんだけれども
人間界で買った心拍数を読み取ってくれる時計を使って僕はペースを維持しながら
魔力の方は母上と父上のお陰で
走る。途中、森を抜けることになったんだけどそれはそれでアスレチックを攻略してい
る見たいで楽しい。もちろん魔力は使っていないよ
高い方だしね。両親には感謝だ。
﹂
時間は5時を過ぎたようだね。そろそろ道のりも半分だろう。
?
先の方で誰かが魔物に襲われているようだ。そうだなぁバリツも実践で使わ
﹁た、助けてくれぇー
あら
!
化しそうだ。
隠れててぇー
!
﹂
なきゃ意味がないんだし助けておこう。僕の目の前で死んでしまうのは夢見が更に悪
?
﹁そこの人ぉー
!
第4話
30
﹁た、頼む
る。
﹂
グリズリー
かなぁ
そんな魔物がいる。僕に気付いたようであっちも向かってく
銃を取り出した。勿論これにも魔力を通す。
僕は魔力を身体強化に回した。そしてジャージの両腰に下げてあるホルダーから拳
!
?
﹂
﹁グァテマラァァァー
﹁甘いよ
﹂
僕は牽制で撃ちながら近付いていく。魔物はそれで動きが制限されているようだ。
BAN、BAN、BAN、BAN、BAN
?
と金属が擦れあうような嫌な音を立てながら流し懐に入る。
ジャリジャリジャリジャリ
け流す。
雄叫びが何やらおかしいけど鋭い爪を振り抜いてきた魔物に僕は拳銃を合わせて受
!!
!
31
﹁ハッ
﹂
﹁フンッ
﹂
回し蹴り
そこからの
!
上手く首に決まった。そこから背中に回り、がら空きの背中に拳銃を撃ち
して、苦し紛れに振るった腕を回避
からね。どんなに硬くても骨が全くないところに決めたんだ。相当堪えるだろう。そ
肘打ちを決める。グリズリーも結構効いているようだ。鳩尾にクリーンヒットした
!
﹁あ、ありがとう
を見ているとさっきの襲われてた人が出てきた。君も
助かったよこの借りはいつか必ず返すよ﹂
﹁んー想像以上に使えるなぁバリツ﹂
ツが有能だと分かったから安心できるな
結局、グリズリーらしきものを倒すのにそこまで時間が掛からなかった。これでバリ
込む。弾はゴム弾だけど魔力を通しているからあり得ないほどに食い込んだ。
!
!
!
ぶっ倒れているグリズリー
?
第4話
32
災難だったね
いいの
﹂
!
﹂
僕も急いでいるんだ。それじゃあ会う機会があれば﹂
でもそれじゃあ
﹁あーうん、大丈夫だよ。お礼は入らないから﹂
﹁えっ
﹁いいの
﹁ちょっと待ってくれ
!
!
といペット
!
系って謎だなぁ﹂
も
!
⋮⋮⋮冥界の生態
すまないけど行かせてもらおう。そうして、僕はまた走り出した。目指すは眷族
悪いんだけど僕も急いでいるんだ。そうしないと時間が無くなるし父上に怒られる。
!!
!
﹁てか、さっきの雄叫びってコーヒーの豆の名前じゃなかったっけ
◆
?
33
﹁な、なんてこったい
﹂
﹂
お礼はしたい。だがその当の本人は物凄い勢いで走り去っていってしまった。
男 は 薄 情 で は な か っ た。流 石 に 何 と も 出 来 な い よ う な 状 況 を 助 け て も ら っ た の だ。
が、あの嵐のように来て去っていった男に助けられた。
男は正直これで終わったと思った。ミンチにされて大熊の餌にでもなるだろうとだ
く比較的硬い悪魔でさえも潰してしまうような化け物だった。
大熊の毛は硬く魔力による攻撃でさえ弾いてしまう。そして、物理的攻撃力は凄まじ
腕前に男は驚いていた。
政府の駆除隊でさえも倒すのに苦労するこの大熊をあの短時間で気絶させるほどの
かった。
男 は 自 業 自 得 と し か 言 い よ う が な い。だ が そ ん な 考 え は 男 の 頭 に は 全 く 入 っ て こ な
この魔物はこの時期になると餌を探しに降りてくる。だからこの時期にここにきた
男はグリズリーのような魔物、グリズリーヘッドバンの気絶した姿を凝視していた。
!
こいつの爪を持っていけば
!
!
﹁そ、そうだ
第4話
34
大熊の爪はとても強靭で鉄さえも裂けるほどのものだが内部から魔力を流すと簡単
に根元から折れるという特性を持っていた。
これは爪が刺さって抜けなくなったときに緊急時の脱出方法と考えられていた。
これを見せれば男は確実に信用してもらえるだろう。そして、あの男がどれだけ強い
か分かる筈だ。
あったがそれ以上に早くこのことを村の皆に伝えたいと⋮⋮⋮
男 は そ う 言 う と す ぐ さ ま 行 動 に 移 す。大 熊 が 目 を 覚 ま す 前 に 逃 げ よ う と い う の も
れだけはさせてくれぇ﹂
﹁ディオドラ様、今までぷう太郎だの玉なし野郎など言って申し訳ねぇ、だからせめてこ
35
第
話
﹂
!
それは助かるわぁーちょっと待っててね、今呼んでくるから﹂
を受けにきたのですけど⋮⋮ヒェッ
﹁あのぅーすみません、僕はディオドラ・アスタロトと申します。アスタロト家から依頼
を仕入れて行動しなくちゃいけないんだ。
僕はそんな子供達の無邪気な姿を微笑ましく見ながら村長に会いに行く。早く情報
えてくれるんだからね
やはり子供はこの世の宝だと思う。だってこんなにも僕の砂漠化した心に潤いを与
あぁ、和まされる。
遊んでいた。
そこは森を切り開いて作った開拓村だった。子供達がキャッキャッと鬼ごっこして
僕はとうとう村に着いた。少し息は弾んでいるけど動くのには問題はないようだ。
5
あらぁー本当
!?
!
僕は冥界であまり表立って活動していないから村の人達も僕が次期当主なんて分か
﹁
第5話
36
らないようだ。なんだか空しくなるなぁ∼アハハハハ∼
⋮⋮それにしても焦ったぁ。スカーフ巻いてたからお婆ちゃんかなぁと思ったんだ
けど若い女性の方だったとは⋮⋮やっぱ怖いなぁ女の人
こう思ってたのが今から12時間前のことだ。
僕は村長の家で村長から情報を聞き出していた。
何でもそいつは夜に現れるというのだがそれを見た人は皆が皆、﹃犬神﹄と言うそう
だ。
犬神というと日本でもあるしイギリスとか欧州にもブラック・ドックと言って祟り神
のように崇められるものがあるけどそんなイメージでいいのかなぁ
犬なら犬で母上も喜んでくれそうだし
ありがとうございます。では準備もありますので早速行きますね﹂
!
そう答えて意気揚々と村を出たのが9時間前
﹁あ、はい
﹁行くなら用心しなされ、あれはとてつもなく強い魔物じゃ﹂
37
第5話
38
今回は眷族にするためだから屈服させる必要があるから森の中に複数仕掛けを作っ
ておこうと思う。餌を置けば食い付いて来るはずだし目標の奴以外が来たらゴム弾で
犬ならそんな大したことないだろうしね
ビビらせれば大丈夫な筈だ。
1日で終わればいいかな
全力で助けます
おいたけどなんだが可哀想になってきた。牛先輩ほんとにすみません
何かあったら
奴で衝撃を与えて追い払った。今回、生け贄として大きな牛を一頭貰ってきた。縛って
そして、夜、僕は獲物を待っていた。ちょこちょことくる奴はサプレッサーを付けた
と鷹を括っていたのが6時間前だった。
?
!
そうして一時間経った。すると牛先輩がいきなり騒ぎ始めた。
とか
獲物は白銀の毛並みらしい。そして、夜でもその白銀は月の光で物凄く鮮明に見える
!
﹂
ォォォーーー
﹁ど、どうしたんた
﹁モーモ
﹂
!!!
?
﹁モ
﹂
﹂
牛先輩も牛先輩で目に涙を浮かべて怖がって
ここまで耐えてくれたんだ。死なせるか
牛先輩が食べられてしまう
ォォォォォォ
﹁⋮⋮﹂
ヤバい
いた。
!
!
!?
﹁牛先輩はやらせないぞ
!
"
銀色の美しい毛並みをした僕の顔ぐらいまで背丈のある四足歩行の化け物がいた。
来ていた。
ゆらりと⋮⋮それでも堂々とした足取りでソイツはいつの間にか牛先輩の近くまで
れた。
必死すぎる。これは何かあるに違いない。そう思っていると森の奥からそいつは現
"
!
39
バスッ
バスッ
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
バスッ
!
僕は走り出した。
がないなんて
こ、効果が全く見られない。サプレッサーでゴム弾だとしても多少は怯む筈だ
!
﹂
こういう棒術もお手の物だ
﹁ガァァ
バキン
﹂
!!
狙うは首
!
衝撃を与えて気絶させる。
それ
背中から棒を取り出してそいつに向かって振り抜く。バリツは複合型格闘術だから
!
!
!
ブホォ
?
!
僕はぶっ飛んだ。そして木を何本か突き抜けて岩に衝突、衝撃で肺にあった息が漏れ
﹁へっ
第5話
40
る。
﹂
僕はこの時、誤解をしていたんだ。それは犬なんてちっぽけな奴じゃあなくて
﹁ウオォォォォォォォォォォォォン
大狼だったんだ。
◆
僕にも分からない。でもこれだけは言える。あれを手懐けるには僕も死
僕は今、全力で逃げている。
?
森の中では奴の格好の的だ。
あれは本物の狩人だ。何故あんなものがここにいるか分からない。だけど僕はこの
を覚悟しなければならないと
何故って
!!
41
﹁⋮⋮⋮﹂
﹁クソッ
これは僕でもキツいぞ
﹂
﹁これでもッ喰らえ
﹁⋮⋮⋮ッ
﹂
魔力弾も通じなかったし拳銃も無理、棒術でやれば
まずは作戦をもう一度立て直さなければこれはやってられない
先に棒の方が耐えられないし作った罠も5個は破られてる﹂
!
なるこれに乗じてまずは離脱だ。
﹂
牛先輩本当にすまない
﹁ハァハァハァ、逃げ切れたか
助けてあげられなかった﹂
!
?
牛先輩の犠牲を僕は忘れない。そして、牛先輩のためにも奴を眷族にしてみせるぞ
!
と息巻いているけど実際どうしたらいいか分からない。
!
僕は地面に魔力弾を放った。轟音とともに巻き上がる砂埃は僕に取っての隠れ蓑に
!
!
!
!
﹁牛先輩⋮⋮くそ
第5話
42
⋮⋮長丁場になりそうだ﹂
と、とにかく奴を屈服させる方法を考えないと、そうしないといつまでも家には帰れ
ないぞ
◆
﹁ははははッ
!
その1
この大狼と戦っている期間で奴にはルールがあることを僕は知った。
われた。
狩りをしようとすれば隙を作るだけだ。この前、狩りをして捕まえたところで奴に襲
けては腐ってないことを確認して食べていた。
喉の渇きは見つけておいた湧水を飲むことで凌いでいる。空腹は動物の死骸を見つ
して、それも通じなくて逃走するということの繰り返しをしている。
間あの大狼の攻撃は断続的に続いている。その度に僕は薄皮一枚で攻撃を避け、反撃を
僕は森に入ってあれからすでに6日が経過していることは記憶している。この6日
!
43
第5話
44
奴は夜、僕が寝るときになるとピタリとその襲撃をしなくなる。
奴は何故か僕が寝静まる。時間的には星の動きから1時頃からだろうか、それから襲
撃を止める。僕にとってはそれはありがたいことだけどそれが妙に不気味で嫌な感じ
だ。
その2
トイレ中にも襲撃はない。
何処で見ているのか分からないが僕はトイレ中も見張られているらしい。そんな視
線を感じる。その時、対応出来るように準備はしてあるが中々来ない。それがまた僕の
神経を削っていく。
その3
湧水での遭遇では不干渉
これには僕は驚いた。この森に唯一、湧水は森の中央ににしかない。だから、そこに
動物達は集まってくるがその時、僕は大狼と出会うことがある。
僕が水を飲んでいるときにきたんだけど警戒している最中僕を一瞥して気にせずに
僕の隣で水を飲みはじめたんだ。
あれほど怖かったときはなかっただろう。
その4
気を抜くことは許されない
このルールを知って僕が気を抜こうとすると決まって奴は襲ってくる。気を抜くこ
とは許さないという奴の警告だろうか
その5
森から出ていくことは自由
諦 め る 振 り を し て 帰 ろ う と す る と そ れ が 戦 闘 中 で あ っ て も 攻 撃 を ピ タ リ と 止 め る。
出ていくのは自由だということか
僕はこのルールを偶然落ちていた新しい死骸の肉を貪って手帳に書き込む。という
動物大戦争か⋮⋮とそんな馬鹿なことも考えていたけどそれ
か本当にこの森って死骸が多いね。しかも、みんな死んでから一時間も掛かってない。
戦争でも起きてるのか
その結果が⋮⋮
よりも奴のルールだ。なんとも奇妙な行動。だけどそこから僕は大狼の目的を探った。
?
!
何故そんなことを
と思っても推論であればいくらでも出てくる。だけどここにい
﹁僕を試している⋮⋮か﹂
45
るのは森のハンターだ。僕を殺せるときは何度もあった。それをしないのは多分僕を
試しているという結論に至った。
僕 の 意 図 を ど う や っ て 知 っ た の か は 分 か ら な い が こ れ で 僕 が ど う 動 け ば い い か が
はっきりした。
﹁さて、決着を付けよう﹂
僕がたどり着いたのは森の奥の更に奥の場所だ。そこは大きな大樹がドンと立って
いて切り開かれたようになっていた。
﹂
その真ん中には僕の背丈よりもずっと大きい大岩、そこに奴は腰を降ろしていた。
僕を試しているのはどう言うことなのかな
?
﹁これが君の狙いかい
﹁⋮⋮⋮グルル﹂
﹁僕が勝てば君を眷族に加える。依存はないかい﹂
?
まるでいいと言っているようだ。大狼はそこから何かを口に加え僕に投げて寄越し
﹁⋮⋮ガウ﹂
第5話
46
﹂
た。小さな赤い木の実だ。
﹁⋮⋮グルル﹂
﹁食べろってことかい
﹁ガウ﹂
すると大狼は立ち上がった。まるでもういいだろうと言うように
﹁⋮⋮⋮⋮⋮グルル﹂
﹁痛みが⋮⋮⋮これは鎮痛剤の効果があるのか﹂
の効果が分かった。
ちょっとすると体はカァーと熱くなってきて僕は動揺したが暫く立つとこの木の実
み込んだ。
僕は口に含んだ。ガリっという硬い感触に口が熱くなってくる。そして、そのまま飲
﹁分かった。ありがたく頂くよ﹂
?
47
﹁あぁ、いいよ。やろう﹂
﹁ウオォォォォォォォォォォォォン
﹂
!
バウ
﹂
最後の大狼による試験は彼の大きな遠吠えが開始の合図となった。
◆
﹁バウ
!
奴は
僕の周りには沢山の狼達が集まってきた。多分15はいる。これを倒せと言うのか
﹁最初は一次試験ってことかなこれは﹂
﹁グルルル﹂
!
﹁本当に辛いねこりゃ﹂
﹁⋮⋮⋮﹂
第5話
48
痛みがないとは言え僕はもう使える武器もない。バリツの基本の格闘戦闘で切り抜
けるしかない。
戦 い の 火 蓋 を 切 っ た の は 一 匹 の 狼 だ。狼 が 勢 い よ く 僕 に 向 か っ て 飛 び 出 し た ん だ。
それを機に全員が僕に向かって走ってくる。その鋭い牙で僕を切り裂こうと言うのだ
ろうか
なんか狼達の動きが手に取るように分かるぞ
一匹が正面から噛みつこうと飛び付くが僕は下に潜り込みアッパーカットを入れる。
あれ
?
﹂
その度にバタバタと倒れ、気絶していく狼達、余計な考えは排除され、あるのは直感
僕は避けなから狼の喉辺りを蹴り上げ、飛び付いてきた狼を叩き落とし、足を払う。
﹁クゥーン﹂
﹁キャン
ば抜けて良くなっている。
動くというのがなんとなく分かった。これを言葉にすると⋮⋮そう直感だ。直感がず
最初の違和感はそれだった。僕ははっきりとはしないのだけれど何故か相手がどう
?
!
49
に従うこと。五感をフルに使い相手がどう出るかを見極める。そして、蹴る
げ飛ばす
殴る
!
﹁⋮⋮⋮﹂
僕の周りには気絶した狼達がいた。全滅、僕はこれで本試験に望めるようだ。
﹁⋮⋮⋮﹂
﹁はぁはぁ、これで一次試験は合格⋮⋮かな﹂
!
投
!
潰されてしまう。
でも、僕に逃げることは許されない。翼を拡げ逃げようとしてもその瞬間に僕は叩き
こから逃げたい。そう考えてしまう。
だろうか。その考えに僕は負のイメージばかりが浮かぶ。誰かにすがり付きたい。こ
奴は静かにそして、優雅に降り立った。その姿はまさに強者だった。僕は奴に勝てる
﹁やっとか⋮⋮﹂
第5話
50
﹁⋮⋮⋮﹂
も苦労を重ねているんだろう。
んーー確かにどうしてだろうね。ただ母上に言われて来ただけなのに何故こんなに
﹃何故、我を欲す﹄
ことは出来ないのに⋮⋮
奴 は 言 う。喋 っ て は い な い。だ け ど 頭 の 中 に 声 が 響 く。可 笑 し い よ ね。動 物 は 話 す
﹁⋮⋮⋮﹂
﹃お前は何のために来た﹄
僕の頭に一人の少女がちらつく。僕がどんなに謝っても赦されることはない。
僕の今までの人生を知っていると言わんばかりにの目に僕はチクリと心に痛みが走る。
奴の目は僕に﹁何を為すためにここに来た﹂と言いたいような目をしていた。まるで
﹁その目は⋮⋮僕の嫌な目だね﹂
51
欲望か
﹄
ここで逃げてしまっても別に僕が困る訳じゃない。ただルーキー戦を一人でやるだ
蛮勇か
?
けだよ。
野望か
?
﹃お前の中には何がある
?
﹃何がある
お前の中に何がある
﹄
?
望、確かにあるかもしれない。でも、そんなものはただの飾りだよ
野望なんて僕にはないよ。そんなものあの幼き日に諦めてしまったから⋮⋮蛮勇、欲
?
﹃ディオドラさん
﹄
何があるってそんな⋮⋮アハハッそんなものなんて僕には⋮⋮
?
﹃ディオドラさん
﹄
クソッこんなときでなんで出てくるんだ。
!
!
第5話
52
うるさい
﹄
アーシアさんには悪いけど邪魔なんだよ
﹄
いい加減、やめてくれ、僕は⋮⋮
ディオドラ様
!
息が詰まる、動悸が激しくなってくる。む、胸が苦しい
ッッ
﹃なんでこんなことをするですか
ッ
﹃ディオドラさん
!
しくて、苦しくて
﹄
﹃お前は何をしたい﹄
﹃ディオドラ様
﹄
ぼ、僕は、僕は本当はそんな酷いことはしたくなかったんだ
!
!?
!
﹃てめぇだけは赦せねぇ
!!
!
ただ、弱かった僕は寂
!
!!!
!
!
53
その言葉に僕のあの悪夢が蘇る。僕の愚行が、彼女を傷付けた。僕のせいで父上と母
僕のエゴで
﹄
僕のせいで
上は暗い人生を歩んでいった。あの時の、アーシアさんの恐怖と怒りに染まった顔が僕
を締め付ける。
僕のわがままで
﹃お前にはそれしか残っていないのか
!
な、何を言っているんだ⋮⋮奴は⋮⋮僕はそれしか
﹃お前はそのお前なのか﹄
根は同じで
!
!
わ、分からない。僕は僕であの汚い僕であることは事実で
﹃お前はどのお前だ﹄
!
?
!
だ、だから僕はッ
!!
第5話
54
あ、アーシア⋮⋮さん
かった。
か も し れ な い と 怖 か っ た か ら。自 信 が な か っ た。あ の 過 ち を 繰 り 返 さ な い と 言 え な
僕はあの時、アーシアさんを捨てた。それは僕がもしかしたらあのディオドラになる
﹃私はただディオドラさんという人に付いていきたかっただけなんですから﹄
優しくてそれでもその言葉には力強さがあって僕はそれを暖かい⋮⋮と思っていた。
僕が保育士の勉強をしていたときに掛けられた言葉
?
﹃ディオドラさんの正体なんて関係ないんです﹄
55
﹃なら
そんなお人好しだから僕なんかに騙されてしまうんだ。でも、それでも嬉し
それを私に治させて下さい﹄
ふふッ
!
?
そ う、違 う ん ⋮⋮ だ よ ね。僕 は あ の 僕 で は な い。確 実 に 違 う 道 を 進 ん で い る 筈 な ん
問いは続く、だけど僕は何かが変わっている気がしている。
﹄
ディオドラという人だから⋮⋮か
て⋮⋮それがあの子が僕に依存しているだけだと知っていても嬉しかった。
かった。僕だから付いてきたんたと言ってもらえて僕を一人にさせないと言ってくれ
!
﹃お前はあのお前か
第5話
56
だ。
﹃何を為す﹄
謝りたい。
僕は確かにあの僕とは違う。ディオドラ・アスタロトであってディオドラ・アスタロ
トではない。だから本当は謝る義理もない。でも、あのディオドラ・アスタロトも僕な
んだ。だからけじめをつけたい。
そして、僕の夢を追いかけたい。
﹃何故我を欲す﹄
僕は臆病だから⋮⋮弱くて臆病だから⋮⋮力が欲しい。
どんなことにも屈しない心が欲しい
誰かを護れるような力が欲しい
だからこそ僕は
!
僕はそのために
!
57
﹁僕は強くなりたいんだ
﹁⋮⋮⋮﹂
﹁そのために君が欲しい
﹂
君と戦って思った
﹃それが貴様の我を欲す理由か﹄
僕は君が必要だ
﹂
!
!!
!
一緒に﹂
?
﹃ふ、ふは、ふはははは 我はお前の保護者か
!
笑わせてくれるじゃないか悪魔の分際で
大狼は僕をじっと見つめる。まるで僕の中の弱い部分を探すように
﹁謝ってくれるかい
﹂
﹁それに僕1人じゃあアーシアさんになんて言えばいいか分からないんだ⋮⋮⋮だから
そして、もうひとつは⋮⋮
めなんだ。
そう、僕はどうしようもなく臆病で弱くてちっぽけだ。でも、それじゃあやっぱりだ
!
!
第5話
58
﹄
!
いや、いいだろう。こんな可笑しい奴ならば飽きはせんだろう。我への
!
﹂
挑戦するんだ
﹁さぁ行こう
胸を借りて
!
!
﹁⋮⋮グカアァァァァァァァァッ
!
﹂
そして、僕の拳と奴の牙は交わった。
!!!!!!
僕は構える。新たな力を手に入れるために、ここからまた新たな自分を始めるために
くことだ。だって僕は臆病で弱くて、ちっぽけだから
色々な人に助けられ、助け、僕は今の僕があるんだろう。それはこれからも続いてい
僕はいつの間にか教えられていたようだ。自分の本当の気持ちがなんなのかを
挑戦受けて立とう﹄
﹃ふは、ふはは
﹁ごめんよ、でも僕は女性はちょっと苦手だし誰かいないと怖いんだよぉ﹂
59
第
話
名前を付けたときのマーさんの感想というと
だよね⋮⋮アハハハハ
因みに僕は﹃マーさん﹄と呼んでいる。結局僕ってあの戦闘でも手加減されていたん
にしてみたんだ。
る神ホロケウ・カムイ﹄と﹃月を飲み込む狼マーナガルム﹄からそれぞれ取って名前風
くしなくなっちゃって前に人間界に居たときネットの友達に教えてもらった﹃狩りをす
なんかあの壮絶な戦いを経験してから僕はマーナガルムをペットとして扱う気が全
認めないぞ。
ど僕はこいつの名前を﹃ホロケウ・マーナガルム﹄と決めた。二人で決めたから異論は
あれから僕は家に帰って来た。帰る途中でこいつの名前を決めるのに結構悩んだけ
6
とまぁこんな感じでマーナガルムをすごく気に入ったようだった。すごく獰猛な顔
﹃マーナガルム⋮⋮か。フフフッ我に合っているではないか﹄
第6話
60
をしていたんだけどどうしたんだろうね
﹂
マーさん的には意味は知っていたっぽいんだけど
﹂
﹁ブァーカモーーーン
﹁あべし
そんなにしなくてもいいじゃない
こうやって帰ってきたんだし依頼だっ
そ、それにほら、ディオドラったらこんな立派な眷族まで連れ
!!
﹁お父さん
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
てきたのだから﹂
てやり遂げたんだから
!
るかの如く怒られてる僕の後ろで存在感を醸し出していた。
た。後ろのテーブルに激突してテーブルは半壊、テーブルは﹃解せぬ﹄と主張をしてい
そして、僕は今父上の渾身の右ストレートで切り揉み回転をしながらぶっ飛んでい
ゴッシャーン
!!
!!!
!
61
願いを出そうかとおもったんだぞ
﹂
口を挟むな
﹂
﹁はぁ⋮⋮すみません父上、でもこいつがまた強くて僕も苦労したんですよ﹂
﹂
お前、最初1日で帰ってくるって言っただろうが
日ならまだしも6日も帰ってこないって言うのは流石に遅すぎだ
﹁そんなことは関係ないんだよ
マーさん
父上の剣幕に圧されて何も言えない。た、確かに1日で帰るとは言ったけどぉー
しょ、しょうがないよね、ね
﹁⋮⋮フン﹂
!
2
もう少しでグレモリーに捜索
てか、なんかこのやり取り前にもなかっ
これは俺とディオドラの話だ
﹁お前には言ってない
﹂
⋮⋮もう
﹁お父さん
!
﹁お母さんも俺もどれだけ心配したか分かっているのか
たっけ
母上は撃沈した。やはり父上は強い。ん
!
!
!
!
!
!
!
?
!
?
?
!
第6話
62
あれ
ちょっとなんでそんな目を逸らすの
ちょっと何
!
僕だけ悪いみたいな感じ
?
せたと思ってるの
﹂
﹁聞いてんのかッ
﹁ヒデブッッ
僕の腹を抉ったそれは魔力を付与しているお
このバカちんがァァァ
﹂
それはないよぉマーさん、何のために僕のお小遣い半分使ってたらふく高い肉食べさ
?
父上の渾身のドロップキックが炸裂
!!
!
?
した。
だの蛮勇
﹂
ただ単に無謀なことをしたってだけだぞ
﹁お前は向こう見ず過ぎる
ら元も子もないんだから
危なかったら引き返せ
死んだ
!
お構い無しに説教しているな。こうなったら
⋮⋮父上の言うとおりなんだけどさ、あれはしょうがなかったんだ。でも、そんなの
!
!
!
!
あの村の連中は英雄だの、勇敢だの言うがお前のそれはた
蔭か、想像以上の威力を持ってまるでダンプカーに跳ねられたかのように僕をぶっ飛ば
!
!!!
!!
63
﹁ご、ごめん父上
﹂
これから大事な用事があってすごく怒ってくれるのは嬉しいんだけ
ディオドラ
!
﹂
戦略的撤退だ
ちょっと待て
おい
ど今日これで
!
!
ここは逃げるが勝ち
◆
!
﹁あっ
!
いていた。
ディオドラの母がマーナガルムをグルーミングする音だけが一定の間隔を刻んで響
ディオドラが出ていったあとリビングは嵐が去ったかのように静まり返った。
!
!
!
﹁あぁ、分かってるさ。ディオドラの奴、俺の拳を顔面に食らうところまで目を離さずに
﹁⋮⋮⋮お父さん﹂
第6話
64
見ていやがった﹂
﹁あ
いや
母さんは違うぞ
!
﹂
!
﹂
?
るの
﹂
ないような奴から護ってやる
﹄って言うセリフを吐いてからずっと待っているんです
﹁もう、私、貴方がプロポーズをしたときに言った﹃俺はお前より強くなってお前が敵わ
!
?
﹁それはなぁ∼アハハ、もうすぐだよ
﹂
﹁フフッ、貴方ったら本当に何時までも子供ね、いつになったら私よりも強くなってくれ
!
﹁それはクイーンである私にも言ってるのかしら
し、レーティングゲームをしたらディオドラに勝てないかもしれないな﹂
﹁アイツは強くなった。それに目の前のこいつは正直規格外だ。俺の眷族には悪いがも
いるようだった。
はそれを見てクスクスと笑う。それは二人がどれだけ仲のよい夫婦かを如実に現して
父は確かにと言いつつ、その母の言葉に対して苦虫を潰したような顔をしていた。母
眷族まで連れてきて﹂
﹁ホントにねぇ、ビックリしたわ⋮⋮成長したのねディオドラは⋮⋮⋮こんなにも凄い
65
!
からね
﹂
てものじゃないかしら﹂
﹁それでもあの子がやりたいと思うことをさせてあげられるようにするのが親の務めっ
しようもない﹂
﹁⋮⋮あぁ、俺だってそう思ってるさ。だけど俺達は貴族なんだ。こればっかりはどう
私は今のあの子を誇りに思うわよ﹂
﹁⋮⋮あの子はあの日から変わったわ。何があったか知らないし教えてもくれないけど
癖だということを彼女は知ってか微笑みながら見ている。
父はその言葉に顔を真っ赤にして頭を掻く。それは、彼が困っているときによくやる
!
族であった。それ故にどうしてもディオドラの将来の選択肢を絞ってしまうことにな
だが、アスタロト家はソロモン72柱の29番目に属するかなり高い地位にある大貴
ことを
二人は分かっている。ディオドラが魔王だとか貴族の地位だとかに全く興味がない
﹁⋮⋮⋮そうだな﹂
第6話
66
ることを二人は悩んでいた。
それを考えた結果だからこそ、二人は彼に貴族らしくして欲しいと思っていた。全て
が片付いた後ならもう何をやっても文句を言う輩なんてものは出ないに決まっている
から
﹁私は貴方の苦悩を理解していますよ
しっかり果たしている﹂
ればいいのよ﹂
貴方は十分頑張ってるわ。父親としての役割を
﹁フフフッ、ディオドラだってあと数年したらここを立ちます。その時になったら甘え
﹁⋮⋮あぁ、お前が分かってくれれば俺はまだ耐えられそうな気がするよ﹂
?
なぁ﹂
﹁子 供 を 育 て る っ て 難 し い な。生 半 可 な こ と じ ゃ あ で き な い ⋮⋮⋮ 辛 い な ぁ、キ ツ い
﹁そうね﹂
て言いたいんだよ﹂
﹁一緒になって共通の話をしたいしディオドラの成長を誉めてあげたい。良くやったっ
﹁⋮⋮分かっていますよ﹂
﹁本当は俺だって怒りたくはないんだ﹂
67
﹁⋮⋮だな﹂
厳しく当たるのは父の務め、それはとても辛いことでとても悲しい思いをする行為、
でもディオドラはたった1人の息子であったからこそ出来ること。ディオドラの兄で
あるアジュカは、既にベルゼブブとして独立しているからディオドラは母と父の実質的
な1人息子だった。アスタロトを継ぐのは免れない。だからこそ、せめて父を越えて欲
しいと思うのは二人の我が儘なのだろうか
﹁ホロケウ・マーナガルム、お前に息子を頼みたい。息子が、ディオドラが間違った道を
進みそうになったら全力で止めてくれ﹂
﹁⋮⋮⋮﹂
﹁規格外なお前だからこそ信頼出来るのだ﹂
﹃その願い承った﹄
﹁やはり、ただの狼じゃあなかったんだな﹂
﹃如何にも﹄
﹁ならば頼む。お前が導いてやってくれ﹂
第6話
68
毛繕い出来たわよ
早くディオドラのところに行ってあ
父は頭を下げる。その目の前にいる白銀の規格外に
﹁さぁてマーナガルムちゃん
げてね﹂
﹁⋮⋮⋮﹂
!
ディオドラが帰って来た日にあった出来事であった。
これはただ単にディオドラ・アスタロトが両親にとても愛されていたというだけの
なんの変鉄もない話
﹁やめろ、照れ臭い﹂
﹁行ってらっしゃい。旦那様﹂
﹁⋮⋮ふぅ、ならば俺も仕事に言ってくるか﹂
き、颯爽と出ていった。
グルーミングが終わったマーナガルムはその巨体を持ち上げ、母の言葉を受けると頷
!
69
あそぼーー
﹂
!
﹂
﹁おにいちゃーん
!!
さぁて今日も公園でみんなと遊ぶぞーー
!!
物詩となっていたとさ
ヒャッホーイ
その喜びに満ち溢れている姿は最早、毎日出没するロリコンお兄さんとして近所の風
ディオドラ・アスタロトはその頃、幼児達と触れ合っていた。
!!
﹁今行くよー
第6話
70
第
話
抱っこしてー﹂
﹂
ディオドラおにいちゃんは私とおままごとするの
カードゲームで勝負しようぜ
﹁おにいちゃん
﹁兄ちゃん
﹁だめだよー
﹂
!
!
7
マーさんは大きな体躯をしているのに物凄い機敏だ。てか、車より速い。
んて全くない。大はしゃぎだ。
ないよとなるかも知れないけどここにいる子達はみんな領民の子だからそんな経験な
貴族の子とかなら馬に乗って馬術、なんてこともしてるからこんなの大したことこと
なんたってマーさんは子供達をその大きな背中に乗せると走り回っているんだ。
が公園に来た以来、彼は子供達の人気物だ。
見守る為に来ている。僕の隣ではマーさんが子供達にモフモフされている。マーさん
あれから半月ぐらい経った。僕は相も変わらず公園に遊び⋮⋮いや、子供達の成長を
﹁はいはい、みんな落ち着いてねー僕は居なくなったりしないから順番に遊ぼうね﹂
!
!
!
71
﹁どうかなマーさん、騎士になった感想は﹂
﹃まぁまぁだな、以前より我の身体を動かしやすくなったぐらいか﹄
そんな彼に僕は騎士の駒を与えた。マーさんの強みである俊敏性を向上させるには
絶好の駒だし、力なんて普通の悪魔を軽く凌駕しているから無駄に上げる必要なんてな
いんだと思うんだ。
﹁マーくん、ミーナにもおせなかのせてー﹂
﹁ほら、言っておいでよマーさん﹂
﹁⋮⋮⋮グルル﹂
という理由ら
彼は人がいるときは喋らない。というか僕にしか聞こえないようにしているらしい。
本人的には他の奴に喋る必要も聞こえるようにする必要もないからだ
!
しいんだけど喋りもしない動物と会話をする僕は端から見たら病んでしまった人に見
﹂
えるだろう。僕、これ以上誹謗中傷受けたくないんだけど
﹁にいちゃん早く
!
第7話
72
﹁ディオドラおにいちゃーん
﹂
﹂
それぐらい今の僕は幸せに満ちている。くんかくんか、ん∼∼ナイス
﹂
えっへん
﹂
でぃおくん、ごはんだよ
﹁はい
これはご馳走だなぁ
﹁わぁ
!
スメル
!
⋮⋮僕は今、死んでしまっても素晴らしい笑顔で生涯を終えれるかもしれない。
﹁えへへーおにいちゃんに抱っこしてもらったぁー﹂
!
!
﹁うでによりをかけたんだから
!
!
褒めてと言わんばかりに突きだしてくる女の子の頭をナデナデしながら僕はその子
いると僕はその何ともない料理が素晴らしいご馳走に本当に見えているんだ。
全部僕が買っているんだけど幼女がこうして胸を張って自慢げにしているのを見て
レンジジュースが紙コップに入れられている。
僕のお皿には綺麗に乗せられた僕が買ってきた魚の缶詰の中身と僕が買ってきたオ
!
!
!
73
近くに引き寄せて座らせると一緒にそれらを食べる。
らっしゃいらっしゃい
﹂
女の子はそれがお遊びだって分かってて一生懸命奥さん役をしてくれている。
﹁へい
!
んよ
あとで埋め合わせるから
まった。
﹃あの子が
!
?
﹃でも、村の方でそれが持ちきりで
しかも証拠まであるって話よ﹄
どう考えたって無理でしょう。あれじゃ﹄
と危険な状態に陥ってしまうことが多々ある。だから意識してなくてもこうなってし
森で過ごせば分かるけど自然と耳や鼻、皮膚に感じる刺激などに注意を払っていない
五感は近所のオバサンの話まで耳に入るぐらいになった。
そんなことをしながら遊んでいる僕なんだけどあの森での戦闘から鋭くなった僕の
!
男の子達は外で八百屋さんだ。暇なのか男の子同士で声を張り上げている。ご、ごめ
!
!
﹃何かしら魔王様の眷族が探しているなんて噂も聞くしなんだか心配ねぇ∼﹄
﹃でも、帰ってきたらと思ったらまた小さな子供と一緒になって遊んでいるわよ﹄
第7話
74
﹃それもこれもぷう太郎でロリコンだからダメなんだわ﹄
これって僕のことなのかな
そんなことを考えているとちょうど﹃みんな大好き
る。
﹁マーさん、あれって僕のことだよね﹂
マーさん号のジェットコース
ただ、子供達と触れ合うのが好きなだけさ
﹃ぷう太郎でロリコンというのであればお前だろう﹄
﹁ぼ、僕はロリコンなんかじゃないさ
﹃物も言い様だな﹄
!
マーさんの言葉が辛辣過ぎて僕は落ち込みそうだ。というか落ち込む。
﹂
ター﹄が帰って来た。子供達はキャッキャッしながらマーさんの背中から降車してい
!
?
要度としては高くはない筈なんだけど何か行けないことしたっけかな
それにしても、魔王の眷族ってどの魔王だろうね、僕は別に依頼こなしただけだし重
!
75
﹂
﹁みんな気を付けて帰るんだぞー﹂
達が帰ったところだ。
﹁マーさん、お疲れ様、楽しかったかい
﹃どうだろな﹄
?
﹂
僕達は公園に誰も居なくなったことを確認してから公園を出ようとする。
⋮⋮これ、マーさんに言ったら起こられるな
マ ー さ ん は ツ ン デ レ さ ん だ か ら な ぁ 尻 尾 だ け 思 い っ き り ブ ン ブ ン し て る ん だ け ど
﹂
辺りはもう夕暮れに差し掛かっている。子供達は次々と公園を後にして今、最後の子
!
﹁でぃおくん待たねーー
!
次はドラゴンデッキで勝負だ
﹁今度は負けねぇからな
!
第7話
76
﹁帰ろうか、マーさん﹂
誰って⋮⋮⋮ヒェッ
女の子
⋮⋮どうかされましたか
﹂
﹂
? !!
﹁お待ちください﹂
﹁ん
﹁女の子
?
いだろ
驚くのも無理はないさ。
﹂
だから僕、物凄い跳躍して8メートルぐらいバックステップしたじゃないか
それに振り向いたらすぐ目の前に女の子がいたんだよ
よ
﹁はい、それなんですが⋮⋮﹂
!
?
﹁い、いや大丈夫だけれども⋮⋮えっとなんの用事かな
!
のメイドを僕が知っている人なんだ。何処かであった訳じゃないけど僕は確かにこの
それに僕は全身から滲み出る冷や汗が止まらなかった。最初、気付かなかったけどこ
?
!
これ以上の恐怖体験はない
メイドさんがいた。いやいや、こんなところにメイドさんがいるなんて普通は思わな
﹁そうですか、それは申し訳ありません﹂
﹁い、いや突然声掛けられちゃったからビックリしちゃって﹂
?
!
77
人を知っている。あの夢の中で
ディオドラ・アスタロト様を連れてくるようにと我が主人、サーゼクス・ルシファー様
﹁コホン、私はグレモリー家でメイドをさせてもらっているグレイフィアと申します。
から仰せつかりました。﹂
⋮⋮⋮サーゼクス・ルシファー
﹁フアァァァァァァーーーーッッッッ
﹂
ぐ、ぐ、ぐ、グレモリー眷族が、が、が、来たァァァ
ぶっ飛ぶぅぅぅー
!
!!!!!
!!!!!
?
や、ヤバい、逃げたい、逃げたい、逃げたい 殴られるゥゥー
僕、爆死
!
!?
思考が定まらない頭を無理やり冷静に保とうと僕は努力するがどうしても冷静にな
!
﹁ディオドラ・アスタロト様
第7話
78
りきれなかった。
何を隠そうこの人はグレイフィア・ルキフグスさん本人だ。サーゼクスの奥さん、巨
乳、銀髪、そして、クーデレ
全力で
?
逃げたぁーーーい
女性とグレモリーは僕の
!!!
でも、今の僕ならはっきり言える
熱烈に
!
!
セリフをベラベラ話した後に﹁今夜、空いてるかい ﹂なんて聞いていたのだろうけど
あの時の僕だったら﹁やぁ、僕の前に天使でも降りてきたのかな﹂なんて歯の浮いた
!
!
さぁ
僕はァもう今すぐ
天敵だぁーい
!!
!
!!
﹂
?
﹂
え、えぇーと、わ、わかったよ。じ、じゃあちょっとトイレに行きたいからま、ま、
﹁分かりました﹂
待っててくれる
?
僕はゆっくりと公園の公衆トイレに向かってクラウチングスタートの体勢に入った
?
﹁あ
﹁私はディオドラ・アスタロト様を連れてくるように申し付けられただけですので﹂
罪とか犯してないよぉ
﹁あ、アハハ、アハハハハ、こんな玉なしの僕になんの用事があるのかなぁ。僕、まだ犯
79
各部異常なぁーし
発車よーいに付け
!
ほ、ほら
﹂
人間界の高校球児って呼ばれる人達だってあんな短い距離
だからこれはその前準備って奴さ﹂
い、いや、あ、あのね僕はいつもトレーニングの一貫としてどこに行くにも駆け足
﹁⋮⋮あのぅディオドラ・アスタロト様
﹁そうなんだよ
!
﹁そ、そうなんですか﹂
が鉄則なんだ
!
メイドさんだ
るな﹂
﹂
﹂
⋮⋮そ、そうだ
﹁スタート⋮⋮ですか
﹂
グレイフィアさん、スタートの合図してくれると助か
!
﹁う、うん、そうしないと雰囲気出ないだろ
?
?
!
﹁い、いやぁーグレイフィアさん理解早いねぇー流石サーゼクス・ルシファー様に仕える
﹁はぁ、コウコウキュウジとは分かりかねますが鍛練の延長みたいなものなのですね﹂
を無駄に全力で走るだろ
!
?
!
﹁あ
!
?
!
⋮⋮⋮位置について
﹂
﹁左 様 で す か ⋮⋮ わ、分 か り ま し た。そ れ で は 僭 越 な が ら 私 が 勤 め さ せ て 頂 き ま す。
第7話
80
!
﹂
よし、これでなんとかなる
﹁よーい
ディオドラ
!
出ます
!
!
﹃ほぉ
何をするつもりだ
ブォンブォンブォン
﹄
尻尾が振られる度に空気を切る物凄い音がする。何それ、ホントに尻尾
﹂
当たったら
中々、面白そうじゃないか⋮⋮我にもやらせろ﹄
久し振りに全力で駆けることが出来そうだな
﹁最初っからそのつもり﹂
﹃ふははは
?
マーさん、喜んでいらっしゃる。
!
骨折りそうなんだけど
﹁ドン
!
?
!
?
ホロケウ・マーナガルムとしての、狩人の顔になっていた。
そして、何故か隣にマーさんが居てスタートの準備をしている。マーさんの顔は既に
!
81
﹂
グレイフィアさんが出発の合図をしたその瞬間僕達は走り出した。トイレにどんど
ん近付いていって⋮⋮
直角に曲がって公園を出た。
どちらに行かれるのですかァー
僕達はそれから風と1つになった。
ディオドラ様
!
﹁えっ
コンチクショーッ
何処に行くかだって
?
僕も知らないよッ
!
?
!
!
第7話
82
第
話
8
﹁お子さんの家庭教師、引き受けましょう﹂
グレモリーでも子供なら可愛いと思えるんじゃないかって
でも、僕は思うんだ。
リーに関する者は総じて怖いし絶対に関わりたくないんだ。
何故だろう、僕は今、僕にとって一番やってはいけないことを考えている。グレモ
﹁出来れば学校を主席で卒業したような人にやってもらいたいんだけど⋮⋮﹂
たような⋮⋮
ファーとグレイフィア・ルキフグスの間には子供がいるらしいと父上から以前聞いてい
僕は彼女が不意に漏らした言葉をふと聞いてしまった。そう言えばサーゼクス・ルシ
﹁はぁ、誰か息子の家庭教師でもやってくれないかしら﹂
83
僕は林の中から飛び出した。
◆
僕は今、連行されている。身体は魔力を縄状にしたものでガッチリとグルグル巻きに
され、僕がよく見ていた時代劇の岡っ引きに捕まった盗人のようになっている。そのま
まグレモリー領まで連れていかれるんだから堪ったもんじゃない。
﹂
?
﹂
﹁あのぅ∼グレイフィアさん
﹁⋮⋮⋮﹂
﹁怒ってます
?
るから悪いんです
﹂
﹂
あと近
﹁ミリキャスを引き合いにしないと捕まえられないなんて⋮⋮それもこれも貴方が逃げ
﹁ヒィッ∼
!!
!
グレイフィアさんが魔力の縄を引っ張って僕を睨んでくる。こ、怖いよぉー
!
第8話
84
いからすごく近いから
﹁⋮⋮⋮﹂
﹁マーさん
助けてよぉ
!
サーゼクス様がお待ちになっています﹂
ほら、もう僕痒くなってるから
﹂
﹁⋮⋮もう、ほら、早く歩いてください
!
!
か
両親は敢えてあまり派手な生活をしない人だから貴族ってもんにあまり馴染みがな
だ。しかも、家は豪邸、メイドに執事とやはり貴族の中の貴族らしい生活振りだ。僕の
サーゼクスの執務室、彼はよく実家で仕事をしていると聞いてはいたけど本当みたい
﹁入ってきなさい﹂
﹁サーゼクス様、ディオドラ・アスタロト様をお連れしました﹂
◆
!
マーさんに助けを乞うもマーさんは知らん顔をしている。僕を見捨てるって言うの
!
!
85
扱い酷くない
かったけどこう見るとただ単にすげぇーという感想しか出てこない。
﹁ほら、さっさと行きなさい﹂
﹁ぐへぇ﹂
﹂
?
﹂
僕は縛られたままサーゼクスの前へと突き飛ばされる。なにこれ
﹁君がディオドラ・アスタロトかい
﹁え、えぇ、そうですがご用件は何でしょうか
?
のような恐怖感がある。
そして、僕は彼が何を考えているのか分からなくて得体の知れないものに出会ったか
ス・グレモリーにしか見えなくて冷や汗が前よりも止めどなく流れる。
れば目が離せなくなるほどのカッコ良さなんだと思うんだけど僕にはもう、あのリア
燃えるような赤い髪、おっとりとした優しそうな顔、そして美男子、普通の人から見
?
?
﹁いや何、1つ聞きたいことと頼みたいことが合ってね⋮⋮それよりも君がグレイフィ
第8話
86
アから2、3日逃げ回ってたって本当かい
﹂
?
﹁それであのグレイフィアから逃げてた訳かい
アッハハハ
アジュカも変わり者だけ
!
お腹が痛すぎるよ
本当に君は小さい子が好きなん
しかも、捕まった理由がミリキャスの家庭教師になりたいってこと
プハァハハハハ
!
ど君も大概だねぇ
なんだからね
だね﹂
!
!
そう言うとグレイフィアさんが指を鳴らすと僕を縛っていた縄は綺麗サッパリなく
﹁⋮⋮分かりました﹂
﹁大丈夫だよ、ミリキャスの家庭教師はしっかりやってもらうから﹂
﹁サーゼクス様、その瞬間、ディオドラ様は逃げるかも知れません﹂
﹁グレイフィア、縄解いて上げて﹂
正直、失神してしまいそう。
魔王様は僕の何かがウケるようです。でも、僕はその笑いがあまりにも不気味すぎて
!
?
魔王様からお声が掛かったので僕が何か悪いことをしたのかと⋮⋮﹂
﹁あ、いや、そのぅーまぁはい、その通りです。いきなりグレモリーなんていうところの
87
なった。
うだね﹂
﹂
﹁それじゃあ本題だ。君は以前両親の受けた以来でアスタロト領の近隣の村に行ったそ
﹂
?
﹁そうですね﹂
ってなんです
﹁そこで君はグリズリーヘッドバンに襲われていた民間人を救出したかい
﹁グリズリーヘッドバン
﹁このような魔物だよ﹂
?
を出してきたんだよ﹂
りしていたみたいだ。それで帰ってこない旦那さんを心配した奥さんが私に捜索願い
﹁その襲われていた人、僕の領民みたいでね、よく山草を取りにアスタロト領の森に出入
﹁あ、はいこれに会いましたね﹂
声のする魔物が写っていた。
グレイフィアさんから渡された写真には僕がマーさんと会う前に出会った変な鳴き
?
﹁へぇーそうなんですかぁ∼﹂
第8話
88
﹁それでそのご主人が言うに君が倒したと言っていたんだけど﹂
そうかい
丁度良かったんだね
本当に殴って倒したのかい
!
﹁プックククッ
﹁はぁー﹂
わ、分かったよ私が聞きたかったのはそれだけだよ﹂
?
よぉー実際僕が習っていた格闘術の使い方も理解出来たんで助かりました﹂
﹁ハハハハッ
!
﹁え、えぇまぁ、鳩尾に肘いれて、首に蹴り入れました﹂
!
撃に執着するけども
﹁それで僕に頼みたいことって何ですか
?
た、確かに悪魔は魔力での攻
?
らを聞いてミリキャス君に逢いに行こう。
何を考えても始まらないか、聞きたいことへの質問は終わった訳だし早く頼み事とや
﹂
物だったけど殴って倒したのがそんなにあれだったのか
な、なんでそんなに笑う必要があるのか本当に僕には分からない。確かに妙に硬い魔
!
﹂
﹁は い、丁 度 良 か っ た ん で 殴 っ て 倒 し ま し た。い や ぁ ー 本 当 に 丁 度 良 か っ た ん で す
89
﹁そうだったね、んーーと、グレモリー領は結構広いのは知っているだろ
それに今悪魔
あの魔物を倒した君だからこそ、私の領地での問題を1つ、処理してきて貰
依頼ってことかな
いたいんだ﹂
﹁それでだ
﹁⋮⋮まぁ確かにそうはなりますよね﹂
所だってあるんだよね﹂
の人口はあの戦争から少ないから眷族に領地を与えて統治しても実際手が回らない場
?
なんだろうか
?
﹁サーゼクス様は行かないんですか
﹂
判断されてから依頼としてその領地の責任者が問題解決に当たるものなんだけどどう
領地経営において領民の抱える問題や悩み事は行政機関を通じて審査されて有効と
?
!
もしかしたら里帰りとかしてくるリアス・グレモリーと鉢合わせしてしまうかも知れな
んーやった方がいいのか判断に迷うなぁ、これ以上グレモリーとは関わりたくないし
﹁そうしたいのも山々なんだけど僕も今は忙しくてね、どうか頼めないだろうか﹂
第8話
90
君
ディオドラくんが立派に役目を果たしたら私が理事会の頭の硬いご老人方を
い。それにこのままズルズル行ったらグレモリーの面倒事にも僕が回されるかもしれ
ない。
﹁そうだ
説得して今度のルーキーのお披露目会に出して貰えるように計らおうじゃないか
の父上にも頼まれていたしね﹂
﹁僕はあまりそう言うものには出たくはないのですが﹂
がね﹂
?
⋮⋮⋮な、なんだと
?
﹁でも、私は今、悪魔の人口が少ないからこそ若手の育成というものが必要だと思うんだ
﹁そ、そうですね﹂
成り立つと考えているからね。行政に申請を出したところで弾かれるだろう﹂
﹁実際、悪魔社会では保育園なんてあまり馴染みがないし必要がない。貴族悪魔で十分
?
今、サーゼクス様はなんて言ったんだ 保育園の設立がすぐに
﹁もし、君がそれで有名になれば君の夢もすぐに叶うと思うけどなぁ⋮⋮保育園の設立
!
!
91
よ。それは貴族ではない悪魔にも当てはまる。実力のある悪魔なら平民であっても雇
用は十分検討する。だが、依然として平民と貴族の学力などの差は否めない。それは小
さい頃からの教育にあると思うんだよ﹂
サーゼクスはまるで演説しているかの如く僕に饒舌に語って見せる。
当然、君の夢が叶うように私も尽力しよう﹂
﹁保育園、いや初等教育はこれからの時代必ず必要になる。どうだろうか、その為の一歩
として今回引き受けてはくれないかい
﹁うぅーむむむ∼﹂
﹁子供は可愛いよねぇー﹂
ピクッ
?
ピクピクッ
﹁そんな子供達が立派になったらいいだろうねぇ﹂
第8話
92
かったなぁ﹂
ピクピクピクピクピクッ
!
ようも出来ないよ
しょう﹂
﹁それは良かった
僕を馬鹿にするならなんとでも言うがいいさ
!
それでも僕はやっぱり子供が好きなんだよ。
!
これで契約成立だね、プククッ﹂
﹁サーゼクス様⋮⋮子供の未来の為に、僕の楽園の為に、その依頼、お引き受け致しま
!
サーゼクスの掌で踊らされているようだが、それを、それを言われちゃあ僕はどうし
﹁それに子供は﹁サーゼクス様
﹂
﹁僕もリアスが小さい頃は﹃将来おにいちゃんと結婚するんだぁー﹄とか言われて嬉し
93
◆
﹁まさかあんなに簡単に⋮⋮⋮﹂
﹁どうだいグレイフィア、上手くいっただろ
﹂
﹁えぇまぁそれはそうですが⋮⋮何故なんですか
﹁そうですか⋮⋮何故なんでしょう﹂
﹂
﹁プクククッ、いや、そうだねぇ彼の名誉に関わることだからねぇ﹂
?
?
ディオドラ・アスタロトの受難は続く
﹃まぁ、頑張りたまえよ、ディオドラ・アスタロト君﹄
第8話
94
第
話
﹂
出来てるじゃないか
﹂
!
出来ました
﹁ディオドラさん
ミリキャス君
!
アさんが間食にオヤツを持ってきてくれるので糖分の補給は上々だ。というかグレイ
ているということらしい。それまではミリキャス君とお勉強なんだ。時々、グレイフィ
因みにあれからサーゼクスはというと僕が依頼をするために関係各所に連絡を入れ
じゃなかったから本当に嫌だった。
難しい厄介な奴、僕も覚えるまですごく苦労したなぁ、別に頭がそこまでいいという訳
今、どのような地位に居てどのような経緯を辿ってきたのかを覚える必要があるとても
まず悪魔の72柱について暗記して各家が断絶したか否か、又は断絶していなければ
いて学ぶ科目で悪魔界の中ではポピュラー、そして一番厄介な科目だ。
僕は今、ミリキャス君に悪魔学を教えている。悪魔学とは悪魔の歴史、成り立ちにつ
どうもディオドラ・アスタロトです。
﹁えへへへーあ、ありがとうございます﹂
!
!
ふむふむ、いいね
﹁どれ見せてみて
!
9
?
95
フ ィ ア さ ん の お 菓 子 美 味 し す ぎ る。サ ー ゼ ク ス は 奥 さ ん に 恵 ま れ て る ね。僕 に は
﹂
ちょっと奥さんというものはハードルが高すぎるけど
﹁ディオドラさん今日もマーナガルムと遊べますか
﹁うん、マーさんも来てるから大丈夫だよ﹂
人じゃないのに気遣いとかなんというかそう言うものが出来ている。
それにしてもミリキャス君はとても賢いね。別に子供っぽくないとかじゃなくて大
カリカリカリ
供の扱いが上手いからミリキャス君は彼と遊ぶのが大好きになったらしい。
ミリキャス君は僕との勉強が終わるとマーさんをモフりに行く。マーさんは妙に子
?
﹂
明日は算術の方やるから教科書見ておいてね﹂
公園の子供達なんて鼻水垂らしながら遊んでいるからね、まぁそこが可愛いところで
はあるんだけど
﹂
?
お疲れ様でした
!
?
﹁ディオドラさんどうですか
分かりました
!
﹁⋮⋮よし、今日はここまでかな
﹁はい
!
第9話
96
﹁はい、お疲れさまぁー﹂
ミリキャス君はトコトコと部屋を後にする。
﹂
﹁マーさんは今、庭にいると思うよー﹂
﹁ありがとうございます
⋮⋮そんなことをいつも思ってしまう。
﹂
﹂
リアス・グレモリーもあのぐらいの幼女だったら僕もこんなに怯えることはないのに
!
ミリキャスの勉強は
?
?
ってグレイフィアさんですか
﹁どうですか
﹁うわっ
!
苦手で
部屋に入ってきたのはグレイフィアさんだった。驚いてすみません。でも僕女性は
﹁そんなに驚かなくても⋮⋮でどうでしょうかミリキャスは﹂
?
97
﹁流石グレモリーの、サーゼクス様のお子さんというところですかね。かなり筋はいい
です﹂
﹁そうですか安心しました﹂
僕は彼女が半径1メートル以内に入らないように調整して立ち回っている。これも
この僕の人生の中で習得した処世術の1つさ。でも、それでも怖い。
﹁⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮﹂
き、気まずい。どうしていいのか分からないぞ。何故こんなにも重苦しい状況になっ
ているんだ。
え、えぇまぁ﹂
﹁ディオドラ様は⋮⋮眷族をあまり作らないのですね﹂
﹁え
?
ましたが学生時代から貴方は接することを避けていたようですね﹂
﹁サーゼクスから聞きました。貴方がどうやら人を避けていると⋮⋮リアスからも伺い
第9話
98
どういうことだ
僕に何を聞きたいんだこの人は
﹁つまり何を言いたいのですか
﹂
というより女性の考えていることなど僕にはサッパリなのだが
?
﹂
?
﹁⋮⋮⋮﹂
﹁そうだったらはぐれ悪魔なんてものは出ませんよ﹂
⋮⋮﹂
﹁悪 魔 は 主 に 仕 え る の が 本 分 で あ り 幸 せ で す。デ ィ オ ド ラ 様 が そ の よ う に 考 え る の は
彼らを幸せにはしてやれない﹂
﹁僕は実際悪魔としての地位とかに興味はないんです。それに眷族なんて作っても僕は
ふむ、そこまで評価してくれたのは嬉しいんだけど
わっていたんでは
はリアスから聞いていた人物とは異なりました。貴方が本気でやればもっと評価は変
﹁私は貴方が何故そこまで人を避けるのか気になっただけです。数日間、見ていて貴方
?
99
﹁⋮⋮僕は本当は誰も信用してはいないのかも知れませんね﹂
﹁そうですか⋮⋮サーゼクス様が許可を貰ってきたそうです﹂
でも、彼は夫のサーゼクスを前にしても流暢に会話をするし、ミリキャスにとても良
臆病者、そんな言葉が似合う私には苦手な人だ。
くの森に入った瞬間に振りきられる。
ディオドラ様は変なお方だった。私は何故か逃げられ、追いかけてそれでも何故か近
◆
ないと
僕はグレイフィアさんとの謎の対話を終え、部屋を後にした。マーさんも連れていか
たことじゃないんだと思うけど⋮⋮
結局、彼女は何が聞きたかったのは最後まで分からなかったなぁ。まぁそんなに大し
﹁分かりました。では明日向かいますね﹂
第9話
100
くしてくれた。ミリキャスはあまり自己主張をあまりしない静かな子だった。それは
夫が魔王であり、グレモリーという大きな家に産まれたから仕方がないことだと思って
いた。
でも、そんな息子は最近ではディオドラ様の眷族と外で遊び、私に甘えてきたりもす
るようになった。
ディオドラさんが教えてくれたんです
子供なら勉強す
それはとても子供らしく、そんなミリキャスを私はらしくもなく少し嬉しくなってし
まった。
﹂
ることがあるんだと﹂
﹁ッ
その中でも学べ
!
でも母上
!
﹁ミリキャス、最近貴方、変わったわね﹂
あ
!
るだけじゃなく遊んだり両親に甘えたりするのも立派な仕事だって
﹁そうですか
?
確かに彼は悪魔らしくはない。でも、私は彼が巷に聞く噂のような人にも見えない。
い。頭はいいが悪魔としての誇りが欠如しているような人物だと
私はリアスに聞いていた彼しか知らなかった。物静かであまり人と関わろうとしな
!
!
101
彼は本来ならもっと高みにいることが出来た人物ではないかと
そ
しかし、それなら何故、彼は悪魔家業もせず、眷族もほとんど作らず、武勇を示さな
いのか疑問に思った。
れで信用出来ないみたいな感じでね﹂
﹁彼は意図して関わろうとしない節があるよね。昔に何かあったんじゃないのかい
た。
みた。ミリキャスも丁度マーナガルム様のところに遊びに行ったようだし丁度良かっ
だから、私は夫がディオドラ様に許可がもらえたと伝えてくれと言われた時に聞いて
は分からないけども
夫はそう言った。それなら今までの彼の行動にも説明は付く。逃げたことに関して
?
その言葉は昔の私が思っていたものと似ていた。私もあの時、旧魔王派と新魔王派と
あぁ、やはりそうなのか
﹁⋮⋮僕は本当は誰も信用してはいないのかも知れませんね﹂
第9話
102
が抗争していたときは誰も信用出来なかった。夫、サーゼクスと会うまでは
それはとても辛い生き方だ。誰にも頼らず、誰の手も借りず、誰にも自分を救っても
らえない。
そんな私をサーゼクスは時間を掛けて救ってくれた。私の心が壊れてしまう前にあ
の人は優しく包んでくれた。
でも、彼には、ディオドラ様には誰もいない。私ではダメだ。彼のことを知らない私
では彼は救えない。似た者同士だからこそ分かることがある。
真に自分を分かってくれる人でなければ深い闇から引き揚げるなど到底無理なのだ。
分かってはいる。私が心配する必要がないことも分かる。そんなことは彼にとって
余計なお世話なのだから。それでも、私は彼が私達に向ける微笑みを見るたび喉に魚の
骨が刺さったような不快な気分になる。
彼は誰かが陰口を叩いていても怒りなど見せもしないのだろう。私が彼の噂を耳に
したと言った時もただただ困ったように微笑むだけだった。
それは私とは種類は違うけども本質的には同じなのだろう。
﹁可哀想な人⋮⋮﹂
103
第9話
104
私の頭には彼の困ったような表情が印象強く残っていた。