コモディティ・レポート (2016年4~6月)

2016 年 6 月 30 日
経済レポート
コモディティ・レポート(2016 年 4∼6月)
調査部 主任研究員 芥田 知至
Ⅰ.コモディティ市況全般: 6 月上旬にかけて上昇後、足元は下落
ドル建て国際商品市況全般の動向を示すロイター・コアコモディティーCRB指数は、1 月 20 日に一時 2002 年 4
月以来の低水準となった後、6 月上旬にかけて上昇傾向で推移した。コモディティ市況は、目先、英国の EU 離脱問
題への懸念などから波乱含みだが、その後は、世界景気の持ち直し観測とともに、緩やかに上昇するだろう。
Ⅱ.エネルギー市況:6 月上旬にかけて上昇後、下落して再び 50 ドル割れ
国際指標とされるブレント原油は、1 月 20 日に 27.10 ドルの安値をつけた後、上昇傾向で推移し、6 月上旬には
一時 52.86 ドルと昨年 10 月以来の高値をつけたものの、足元は再び 50 ドルを下回っている。ブレントやWTIの相場
は、目先、40 ドル台後半を中心に推移すると見込まれる。その後は、不透明要因が多いながらも世界景気の拡大に
合わせて原油需要は増加し、原油価格は緩やかに上昇するだろう。
Ⅲ.ベースメタル市況: やや下落し、足元は 4,700 ドル前後
銅市況は、1 月 15 日に 4,318 ドルと 2009 年 5 月以来の安値をつけた後、3 月 18 日には一時 5,131 ドルま
で上昇したが、その後はやや下落している。当面の銅相場は、引き続き、一進一退が見込まれる。年後半に
なると、世界景気が緩やかに持ち直すと見込まれる中、銅市況は緩やかな上昇傾向で推移するとみられる。
Ⅳ.貴金属市況:金は一時 1,350 ドル台の高値
金市況は、昨年 12 月上旬に 1,045.85 ドルと 2010 年 2 月以来の安値をつけた後、上昇に転じ、英国の国民投票
でEU離脱派が勝利した 6 月 24 日には、一時 1,350 ドル台の高値をつけた。引き続き、英国のEU離脱問題の行方
に不透明感が残ることや、米国の利下げ先送り観測が強まりそうなことから、金相場は底堅い展開が見込まれる。
Ⅴ.トピック
原油の需要面・供給面の動き・・・リスク資産全般で英国のEU離脱問題を材料に相場が動いているが、原油につい
ては、需要と供給の面でも相場に大きな影響を及ぼしうる材料が出てきており、注目される。4 月 17 日の産油国会
合では、増産凍結で合意することが出来ず、原油市場の「供給過剰」が継続することが懸念されたが、その後の原油
需給は予想外にタイト化した。ただ、カナダのオイルサンドの生産復旧などから、需給はいったん緩和に向かうと見
込まれる。その後は、世界景気の拡大などから緩やかに需給は引き締まる方向に向かうだろう。
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Ⅰ.コモディティ市況全般の概況:6 月上旬にかけて上昇後、足元は下落
ドル建て国際商品市況全般の動向を示すロイター・コアコモディティーCRB指数は、1 月 20 日には
一時 2002 年 4 月以来の低水準となったが(終値ベースでは 2 月 11 日がボトム)、その後、6 月上旬にか
けて上昇傾向で推移した(図表 1)。ただし、足元では、6 月 24 日に、英国の国民投票でEU離脱派が勝
利したことから、やや大幅に下落した。
マクロ経済環境をみると、年初に懸念された中国景気などに対する不安感は後退してきているが、米
欧中などの景気指標は強弱入り混じり、世界景気は力強さを欠いた状況が続いている。こうした中、米
国の追加利上げ観測は徐々に弱まり、ドル安などを通じてコモディティ相場全般を下支えしたとみられ
る。足元では、英国のEU離脱問題が不透明要因となっているものの、年後半に世界景気は緩やかに拡
大するとの観測は維持されると思われる。コモディティ市況は、目先、波乱含みだが、その後は、世界
景気の持ち直し観測とともに、緩やかに上昇するだろう。
(図表 1)ロイター・コアコモディティー CRB 指数の推移
(1967年=100)
(1973年3月=100)
340
45
←
320
50
300
55
ド
ル
安
280
60
260
65
240
70
75
200
80
180
85
160
90
140
95
ロイター・コアコモディティーCRB指数(左目盛)
120
ド
ル
高
→
220
100
ドル相場(右目盛)
100
105
13
14
15
16
(年、日次)
(注)ドル相場は対ユーロ、円、ポンド、カナダドル、スウェーデンクローネ、スイスフランの加重平均値
(出所)Bloomberg
(図表 2)金・銅・原油・穀物の市況の推移
120
( 2013年末=100)
110
100
90
80
70
原油
60
銅
50
穀物
40
金
30
20
14
15
(年、日次)
16
(注)原油はBrent、金はCOMEX、銅はLME、穀物は大豆・小麦・トウモロコシの幾何平均
(出所)Bloomberg
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Ⅱ.エネルギー
1.原油市況:6 月上旬にかけて上昇後、下落して再び 50 ドル割れ
国際指標とされるブレント原油は、1 月 20 日に一時 1 バレルあたり 27.10 ドルと 2003 年 11 月以来の
安値をつけた後、上昇傾向で推移し、6 月上旬には一時 52.86 ドルと昨年 10 月以来の高値をつけた。も
っとも、その後はやや下落し、足元は 50 ドルを下回って推移している。米国産のWTI原油も同様に 2
月 11 日に 26.05 ドルと 2003 年 5 月以来の安値をつけた後、上昇傾向にあったが、足元では下落してい
る。
4 月の原油相場は上昇傾向で推移した。1 日には、サウジのムハンマド副皇太子が「イランを含めた主
要産油国がすべて増産凍結で合意しなければ、同国は増産凍結に踏み切らない」と述べたと報じられた。
これを受けて、それまでに醸成されてきた増産凍結に対する期待感が崩れ、原油相場は大幅に下落し、5
日にかけてWTIが 35.24 ドル、ブレントが 37.27 ドルまで売られた。
しかし、その後は、米エネルギー情報局(EIA)が発表した原油在庫が大幅な減少となったこと(6
日)、3 月の米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨を受けて早期利上げ観測が後退したこと(6
日)、原油の集積地であるオクラホマ州クッシングに原油を送るキーストーン・パイプラインが原油漏れ
のため閉鎖されたこと(8 日)、4 月のロシアの原油生産が減少したと報道されたこと(8 日)などを材料
に、原油相場は上昇傾向で推移した。12 日には、17 日にドーハで開催される産油国会合を前にして、ロ
シアとサウジアラビアがイラン抜きでも増産凍結で合意する方針を確認したと報道されたことで相場は
大幅に上昇していたが、13 日には、ロシアのノバク・エネルギー相が同会合での合意は、詳細なコミッ
トメントはなく、大枠の合意にとどまるとの見通しを述べたことを受けて相場は下落した。
17 日には、18 の主要産油国がドーハで会合を開催したが、サウジアラビアが増産凍結に応じないイラ
ン抜きでの合意に反対し、合意は見送られることになった。これを受けて 18 日の原油相場は下落が進み、
一時ブレントは 40.10 ドル、WTIは 37.61 ドルまで売られた。もっとも、この日は、17 日に始まった
クウェートの石油施設での大規模なストライキによって、原油や石油製品の生産量が減少するとの懸念
が原油相場の押し上げ材料となり、その後、下げ幅を圧縮する動きとなった。
19 日もクウェートのストなどを材料に原油相場は上昇を続け、20 日には、EIAが発表した週次石油
統計において、中間留分の在庫が急減したことなどを材料に大幅高となった。なお、クウェートのスト
ライキは、20 日午前で終結した。
その後は、サウジ、ロシア、イランなどから原油の増産を示唆する発言があったこと(21 日)などが
相場の押し下げ材料になったものの、米国では油田開発の先行指標となる石油掘削リグの稼働数が減少
を続けたこと(22 日)や、製油所の操業停止などを受けてガソリン価格が昨年 8 月以来の高値に上昇し、
原油も連れ高したこと(26 日)などが押し上げ材料になった。27 日には、FOMCの声明で海外景気へ
の懸念を示した記述が削除される一方、米国の景気認識が下方修正された中、6 月の追加利上げの可能性
は低いとの見方が継続し、原油相場の買い材料になった。
5 月も原油相場は上昇傾向で推移した。2 日には、ロイターやブルームバーグが集計した 4 月のOPE
Cの原油生産量(推計値)が増加したことなどが原油相場の押し下げ材料になった。3 日は、中国の製造
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業関連指標の悪化を受けて原油需要の減少観測が広がり、続落した。
しかし、4 日は、カナダで森林火災が広がり、オイルサンドの供給減少観測につながったため、原油相
場は上昇に転じた。5∼6 日は、カナダの森林火災への懸念が強まったこと、リビアの内紛が深刻化して
原油供給に影響が出たこと、ナイジェリアの武装勢力が石油施設を攻撃したことを材料に小幅続伸した。
一方、7 日には、サウジアラビアのヌアイミ石油相の退任が発表されたことが注目された。後任のファ
リハ氏は、これまでサウジの国営石油会社サウジアラムコの会長を務めており、現行の石油政策を踏襲
するとみられる。つまり、2014 年以降、採られている原油市場におけるシェアの確保に重点を置くスタ
ンスや、ムハンマド副皇太子の影響力が大きい状況は変わらないとみられる。ただ、原油価格の維持に
向けた原油生産量の調整など、他国との協調行動は採られにくいとの観測が改めて強まり、原油相場の
下押し材料になった可能性がある。また、9 日には、カナダの森林火災はその後も燃焼範囲を拡大したも
のの、オイルサンドの生産の落ち込みは一時的なものにとどまるとの見方から、原油買いは一服した。
しかし、10 日には、再びカナダの森林火災やナイジェリアの生産障害への懸念が強まり、原油相場は
上昇した。11 日には、EIAの週次石油統計において、原油在庫が予想外の減少となったことが、需給
引き締まり観測につながった。その後も、ナイジェリアでは武装勢力による石油施設への攻撃や、パイ
プラインでの事故が相次いだことから、石油大手のロイヤル・ダッチ・シェルやエクソン・モービルが
不可抗力条項(force majeure)の適用を宣言する状況となり、ナイジェリア原油の供給懸念が強まった
こと(12∼13 日)、カナダの森林火災の影響でオイルサンドの生産が落ち込む状況が続いたことなどから、
原油相場は上昇傾向で推移した。一方で、石油輸出国機構(OPEC)が月報で、4 月の産油量が 3,244
万バレルと前月比 18.82 万バレル増加したと発表し(13 日)、相場の押し下げ材料となった。
16 日には、米金融大手のゴールドマン・サックスが原油価格の見通しを上方修正したことが相場の押
し上げ材料となった。同社は 1 バレルあたり 20 ドル割れもありうるとの弱気見通しで知られていたが、
一転、5 月 16 日には年後半は 50 ドル前後との見方に修正したようだ。17 日はカナダの森林火災への懸
念が再び強まり、18 日にはEIAの週次統計でガソリン在庫が大幅減少を示したことが一時、原油の買
い材料になった。もっとも、18 日午後に公表された 4 月のFOMC議事要旨では、委員の大半が 6 月の
利上げに前向きであったことが示されたことから、為替市場でドル高が進行し、これを受けてドル建て
で取引される原油は割高感から売られる流れとなった。
その後の原油相場は、上述した複数の供給障害への懸念が押し上げ材料になる一方で、ドル高が抑制
要因となり、もみ合う状況がしばらく続いた。そうした中で、25 日には、EIAが発表した週次統計で、
原油在庫の大幅減少が示され、カナダの森林火災を始めとする供給障害が、いよいよ原油在庫の減少に
つながり始めたとの見方が強まり、原油高が進んだ。26 日には、ブレント、WTIともに一時 50 ドルを
上回った。
もっとも、その後は、原油高が進んだことを受けて、米シェールオイル生産者などが原油生産を増加
させるとの懸念が出たことや、利益確定の売りが出たことで、原油相場の上値は重くなり、27 日には小
幅下落した。同日には、イエレン米連邦準備制度理事会(FRB)議長の利上げに前向きな発言を受け
てドル相場が上昇したことも、原油相場の抑制要因になった。その後は、OPEC総会を控える中、産
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油国が生産調整でまとまる可能性は小さいとの見方などにより、原油相場はやや軟調な推移となった。
6 月に入ると、上旬は原油高が進んだが、その後はやや下落する動きとなった。2 日のOPEC総会で
は、大方の予想通り、生産目標の再設定や増産凍結での合意は見送られた。ただし、サウジアラビアと
イランの政治的な対立の深刻化などを背景に、総会における合意は難しいとの見方が多かっただけに、
合意失敗が明らかになった後も原油相場への負の影響は限定的であった。むしろ、総会での加盟国間の
対立は予想されたほど激しいものにならず、事務局長の人選で合意するなどOPECの結束がやや回復
したとの見方も出ていた。同日の原油相場は、EIAが発表した週次石油統計で原油在庫の減少が示さ
れたこともあって、小幅高となった。
3 日には、米石油サービス会社ベーカー・ヒューズが発表した米国の石油掘削リグの稼働数が増加した
こと(3 日)が相場を押し下げ材料となった。しかし、6 日には、ナイジェリアでは武装勢力による石油
施設の攻撃が続き、原油生産量が落ち込む中、被害が一層拡大することへの懸念が強まって原油相場を
押し上げた。その後も、ナイジェリア情勢への懸念が続き、9 日にブレントは 52.86 ドル、WTIは 51.67
ドルの高値をつけた。
9 日は、一時高値をつけたものの、その後は為替相場でドル高が進む中、利食い売りが出やすくなり、
前日比下落した。10 日には、米国の石油掘削リグの稼働数が増加を続けたことや、ドル高が続いたこと
から、下落幅がやや大きくなった。13 日には、5 月の中国の鉱工業生産や小売売上高の伸び悩みを受け
て、中国のエネルギー需要の減退懸念につながった。もっとも、同日には、OPECが月報において、5
月のOPEC生産量がナイジェリアでの生産障害などにより、日量 10 万バレル減少したと発表し、原油
の供給障害が意識されたことなどが相場を下支えした。
14 日には、英国の欧州連合(EU)離脱の是非を問う国民投票を控えて、各種世論調査で離脱派が優
勢と報じられる中、投資家のリスク回避の動きが強まり、株式などとともに原油などコモディティも売
られた。15 日には、FOMCが開催され、市場予想通りに利上げは見送られた。また、FOMC参加者
が利上げにやや慎重になったことが窺えた一方で、イエレンFRB議長がやや強めの景気認識を示すな
ど、金融市場やコモディティ市場にとって強弱入り混じったメッセージであったことから、原油相場の
反応は限定的であった。16 日は、英国のEU離脱問題を巡って世界経済の先行き不透明感が強まる中、
原油相場の下落幅はやや大きくなり、ブレントは一時 47 ドル割れとなった。
しかし、17 日の原油相場は反発した。16 日に、英国でEU残留派として活動していたジョー・コック
ス下院議員が殺害された事件を受けて、残留派に同情票が集まるのではないかとの観測から、英国のE
U離脱懸念が後退した。このため、為替市場ではポンドやユーロが買い戻される一方でドル安が進み、
ドル建てで取引される原油は割安感から買い戻された。
週明けの 20 日も、原油の買い戻しが続いた。英国の世論調査では、残留派の巻き返しが報じられ、E
U離脱懸念が後退し、為替市場ではドル安が進み、株式などリスク資産全般が買い戻された。また、民
間情報会社が発表したオクラホマ州クッシングの原油在庫が減少を示したことや、米国のドライブシー
ズン中のガソリン需要の増加観測もあって、原油相場は大幅上昇した。
22 日には、EIAの週次統計で原油在庫の減少幅が市場予想を下回ったことを受けて原油相場は下落
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したが、23 日には英国の国民投票でEU残留派が優勢との観測から相場は上昇した。
しかし、24 日には、英国の国民投票においてEU離脱派が勝利したことが判明し、原油相場は大幅下
落した。世界経済の減速や金融市場の混乱に対する懸念が急速に広がる中、他のリスク資産とともに、
原油も売られ、終値ベースではブレントは 4.9%安(48.41 ドル)、WTIは 5.0%安(47.64 ドル)とな
った。
ブレント−WTIのスプレッド(価格差)は、昨年 12 月下旬∼今年 1 月にゼロ前後に縮小した後、3
ドル前後に拡大したものの、その後は再び縮小傾向で推移している(図表 5)。先物市場(WTI)にお
ける投機筋の買い超幅をみると、2 月中旬にかけて縮小傾向で推移した後、拡大傾向に転じていたが、5
月中旬をピークに頭打ちとなっている(図表 9)。一方、商業筋を含めた先物の全建て玉残高は、2 月上
旬にかけて増加したが、その後はやや減少した水準で一進一退となっている(図表 10)。
4 月 17 日のドーハでの産油国会合では、増産凍結で合意することが出来なかったが、その後、原油相
場は大崩れすることなく、むしろ 6 月上旬にかけて上昇傾向で推移した。米国を中心に石油需要が堅調
に推移したことに加え、カナダの森林火災やナイジェリアでの武装勢力による石油施設への攻撃などか
ら、原油生産が落ち込み、原油需給が予想されたよりもタイト化したことが背景にあった。
先行き、ナイジェリア、リビア、ベネズエラなどでの生産障害が継続し、米国のシェールオイルの減
産傾向も続くが、経済制裁が解除されたイランからの原油供給は増加傾向が続き、カナダのオイルサン
ドの生産は復旧に向かうと見込まれる。目先は、原油需給が緩和方向に向かい原油相場はやや下落気味
に推移する可能性がある。英国のEU離脱の影響は、原油相場には金融市場を通じた影響が強く、しば
らく不透明要因として意識され続けられようが、実需面での影響は限定的とみられる。低水準の原油価
格が石油需要を押し上げることもあり、来年にかけて原油需給はやや引き締まる方向とみられる。
ブレントやWTIの相場は、目先、40 ドル台後半を中心に推移すると見込まれる。その後は、不透明
要因が多いながらも世界景気の拡大に合わせて原油需要は増加し、原油価格は緩やかに上昇するだろう。
(図表 3)原油市況の推移
(図表 4)石油製品市況の推移
(ドル/バレル)
140
160
120
(ドル/バレル)
140
120
100
100
80
80
WTI原油
60
ブレント原油
60
ドバイ原油
40
原油
暖房油
ガソリン
40
20
20
13
14
15
(注)直近は6月24日
16
(年、日次)
13
14
(注)直近は6月24日。すべてNYMEXの期近物
(出所)Bloomberg
15
16
(年、日次)
(出所)Bloomberg、日本経済新聞
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(図表 5)油種間スプレッドの推移
(ドル/バレル)
15
(図表 6)米国天然ガス市況の推移
(ドル/バレル)
(ドル/百万Btu)
スプレッド(ブレント−ドバイ)
7
スプレッド(WTI−ドバイ)
120
WTI原油価格
(右目盛)
スプレッド(WTI−ブレント)
10
110
6
100
5
0
90
5
80
-5
4
70
-10
60
3
-15
-20
50
40
2
天然ガス価格(Henry Hub)
(左目盛)
-25
30
1
-30
13
14
15
(注)5日移動平均値。直近は6月24日
20
13
16
14
15
16
(年、日次)
(注1)天然ガスの単位BtuはBritish thermal unitsの略
(注2)直近は6月24日
(年、日次)
(出所)Bloomberg、日本経済新聞
(図表 7)原油先物価格と先物カーブ
(図表 8)WTI原油の先物カーブの変化
(ドル/バレル)
140
(ドル/バレル)
60
期先(6月24日時点)
120
50
100
80
40
60
2015年12月
2016年2月
2016年4月
直近(2016年6月24日)
30
40
20
2016年1月
2016年3月
2016年5月
20
08
09
10
11
12
13
14
(注)限月は28ヵ月先まで、2016年6月24日時点
(出所)ニューヨーク商業取引所(NYMEX)
15
16
17
1
18
(年、月次)
(図表 9)投機筋のポジション(原油)
(ドル/バレル)
140
3
5
7
9
11
13
15
17
19
21
(注)各時点における各限月(28ヵ月先まで)のWTI原油先物価格
(出所)ニューヨーク商業取引所(NYMEX)
(図表 10)原油先物の建て玉(NYMEX)
(%)
23
25
(限月)
(千枚)
(千枚)
800
65
2000
600
60
1800
55
1600
50
1400
45
1200
WTI原油価格(期近物)
130
120
110
400
100
90
80
200
買い(Long)
70
60
0
売り(Short)
50
40
-200
30
投機筋(非当業者+非報告者)
のネットポジション(右目盛)
20
全建玉残高(グロス)(右目盛)
-400
40
10
0
1000
全建玉残高に占める投機筋の割合
-600
13
14
15
16
(年、週次)
(注1)ポジションの直近は6月21日時点、WTI原油は6月22∼24日の平均値
(注2)旧分類に基づいた統計により作成
(出所)CFTC
35
13
14
15
(注1)1枚は1000バレル。直近は6月21日時点
(出所)米国先物取引委員会(CFTC)
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800
16
(週次)
6 /22
(図表 11)OPECの原油生産量(Bloomberg 集計の推計値)
(万バレル/日)
国名
生産量
<5月>
(前月差)
生産量
<4月>
(前月差) 産油能力
稼働率
生産余力
<5月>
アルジェリア
108.0
(-2.0)
110.0
(0.0)
115.0
93.9%
7.0
アンゴラ
177.0
(-3.0)
180.0
(2.0)
187.0
94.7%
10.0
56.0
(0.0)
56.0
(0.9)
55.5
100.9%
-0.5
エクアドル
73.0
(1.0)
72.0
(-1.2)
72.2
101.1%
-0.8
イラン
インドネシア
353.0
(3.0)
350.0
(30.0)
400.0
88.3%
47.0
イラク
437.0
(-5.0)
442.0
(27.0)
445.0
98.2%
8.0
クウェート
291.0
(14.0)
277.0
(-9.0)
300.0
97.0%
9.0
25.0
(-6.0)
31.0
(-2.0)
155.0
16.1%
130.0
161.0 (-11.0)
220.0
65.9%
75.0
リビア
ナイジェリア
145.0 (-16.0)
カタ-ル
サウジアラビア
64.0
(-3.0)
67.0
(2.0)
78.0
82.1%
14.0
1,025.0
(5.0)
1,020.0
(1.0)
1,150.0
89.1%
125.0
285.0
(5.0)
280.0
(4.0)
315.0
90.5%
30.0
232.0
UAE
(-5.0)
237.0
(-7.0)
250.0
92.8%
18.0
OPEC13カ国
ベネズエラ
3,271.0 (-12.0)
3,283.0
(36.7)
3,742.7
87.4%
471.7
OPEC12カ国
2,834.0
2,841.0
(9.7)
3,225.5
87.9%
391.5
-7.0
(注1)2011年12月のOPEC総会において、加盟国の総生産量を現状維持の3,000万バレルとする決定がなされたが、
2015年12月の総会でその生産目標が撤廃された。
(注2)インドネシアは2016年1月よりOPECに再加盟。
(注3)産油能力は、30日以内に生産可能で、かつ90日以上持続可能であることが条件。
(注4)サウジアラビアとクウェ−トの生産量には中立地帯の生産量が1/2ずつ含まれる。
(注5)稼働率(%)=生産量/産油能力*100。生産余力=産油能力−生産量
(注6)OPEC12カ国はイラクを除く
(出所)Bloomberg
2.ナフサ市況:原油に連動して上昇も、原油に対しては割安化
日本の輸入ナフサ価格(通関)は、今年 3 月に 1 リットルあたり 27.7 円まで下落した後、4 月は 28.4
円と小幅上昇した。一方、輸入原油価格は、2 月に 22.5 円に下落した後、上昇に転じ、4 月は 25.9 円で
あった(図表 12)。ナフサと原油の価格差は、1 月にかけて 9.2 円までナフサ高幅が拡大していたが、4
月は 2.5 円にまで縮小した。
アジアのナフサ市況の推移をみると、原油に連動して下落し、2 月 10 日にボトムをつけた後、上昇傾
向に転じていたが、足元では上値が重くなっている。原油との相対価格をみると、1 月上旬にかけてナフ
サが相対的に上昇した後、ナフサ調達が低調になる中、ナフサ安が進んでいた。しかし、原油相場が反
発に転じてからは、ナフサ需給が緩和気味となり、相対的にナフサ安が進んだ。春以降のナフサ需給緩
和の背景には、ナフサを使ってエチレンなど中間原料を生産する設備の定期修理が相次いだことがある。
先行きも、台湾などで大型エチレン設備の定期修理が予定されており、需給の緩和した状態が続きく
とみられる。ナフサ市況は上値が重い展開が見込まれる。もっとも、2017 年にかけては、中東やインド
からのナフサ供給の減少から需給は引き締まる方向に向かうとの見方がある。
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(お問い合わせ)調査部
TEL:03-6733-1070
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(図表 12)日本の原油輸入価格とナフサ輸入価格
(円/リットル)
40
(円/リットル)
100
ナフサと原油の価格差(ナフサ−原油、右目盛)
90
輸入原油(左目盛)
輸入ナフサ(左目盛)
80
(図表 13)アジアの原油・ナフサの市況
(ドル/バレル)
140
35
130
30
120
110
70
25
60
20
50
15
80
40
10
70
30
5
20
0
10
-5
30
0
-10
20
100
11
12
13
14
15
(出所)財務省「貿易統計」
60
ナフサ(シンガポール)
50
原油(ドバイ)
40
13
16
(年、月次)
(図表 14)ナフサの日欧格差とナフサ・原油価格差
20
90
(ドル/バレル)
(ドル/バレル)
14
15
16
(出所)Bloomberg
(年、日次)
(図表 15)日欧でのナフサ・原油の価格差
(ドル/バレル)
15
ナフサ日欧格差(日本−欧州)
15
ナフサ−原油格差(アジア)
ナフサ−原油格差(欧州)
10
10
ナフサ−原油格差(アジア)
5
5
0
0
-5
-5
-10
-10
-15
-15
-20
-20
13
14
15
(出所)Bloomberg
16
(年、日次)
13
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14
15
(注)欧州はブレント原油との格差、アジアはドバイ原油との格差
(出所)Bloomberg、Thomson Reuters
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16
(年、日次)
8 /22
Ⅲ.ベースメタル
1.銅を中心とした概況 :やや下落し、足元は 4,700 ドル前後
非鉄ベースメタル相場の中心となる銅相場は、1 月 15 日に 1 トンあたり 4,318 ドルと 2009 年 5 月以来
の安値をつけた後、3 月 18 日には一時 5,131 ドルまで上昇した。その後はやや下落し、足元は 4,700 ド
ル前後で推移している。
4 月は、上旬に下落が続いた後、中旬∼下旬は上昇傾向で推移した。1 日は、中国国家統計局が発表し
た 3 月の製造業購買担当者景況指数(PMI)が予想以上に改善したことがベースメタル相場全般の押
し上げ要因になったとみられるものの、日銀短観が日本の製造業の景況感の悪化を示したことや、米国
の雇用統計において堅調な雇用増加や賃金上昇率がプラスに転じたことが米連邦準備制度理事会(FR
B)による利上げ観測につながったことから、この日の銅相場は下落した。また、中国のマクロ経済指
標がやや持ち直したとしても、中国における銅需給は緩和した状態が続いているとの見方が強まり、4
日や 7 日には下落幅が大きくなった。
しかし、12 日には、原油などコモディティ相場全般が上昇する中で、銅の上昇幅も大きくなった。13
日には、3 月の中国の貿易統計において輸出が市場予想を上回ったことや、3 月の銅輸入が過去最高を記
録したことを受けて、中国の景気や銅需要の持ち直し観測が強まった。
15 日には中国の 1∼3 月期のGDP成長率が 2009 年以来の低い伸びにとどまったものの、3 月の新規
貸出、小売売上高、鉱工業生産、固定資産投資は市場予想を上回ったため、政府の景気刺激策の持続性
に対する疑念が強まり、銅相場は下落した。
もっとも、18 日には、ドーハで開催された産油国の会合で増産凍結で合意できず、原油が大幅下落す
る中でも、ドル安などを材料に銅相場は上昇した。その後も、米住宅着工が減少し、早期利上げ観測の
後退からドル安が進んだこと(19 日)、原油相場の大幅上昇を受けて銅相場にも連想買いが入ったこと(20
日)などが買い材料となり、中国景気の持ち直し観測が続く中で金属などコモディティ全般に割安感があ
るとの見方が強まった。4 月 22 日には約 1 カ月ぶりの高値である 5,091 ドルをつけた。しかし、その後
は中国の需要動向に関して慎重な見方が再び浮上し、銅相場は下落傾向となった。
4 月 29 日には前日に日銀の金融政策決定会合で追加緩和が見送られた余波を受けて、ドル安が進んだ
ことから銅相場の上昇幅は大きくなったものの、5 月に入ると、銅相場は再び下落基調となった。5 月 3
日には、投資家の利益確定売りが出たことや
1 日に発表された中国国家統計局によるPMIや 3 日に発
表された財新/マークイットによるPMIが低下したことを受けて中国景気の減速懸念が強まったこと
が、銅相場の下落につながった。その後も、中国景気の減速懸念が続いたことや、為替がドル高傾向で
推移したことを背景に銅相場の下落が続いた。6 日に発表された米国雇用統計は雇用増加数が市場予想を
下回り、一時的にドル相場は下落したものの、米国金融政策への影響は限定的との見方からドル売りは
続かず、銅相場への影響も限定的だった。
その後は、4 月の中国貿易統計において輸出入ともに低調なことが示され、中国の内外需の低迷観測が
強まったこと(8 日)や、週次統計の米失業保険申請件数が大幅に増加したこと(12 日)、3 月のユーロ
圏の鉱工業生産が減少したこと(12 日)、などが銅相場の下落材料になった。4 月の米国小売売上高が大
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幅増加を記録したこと(13 日)やミシガン大学消費者信頼感指数が改善したこと(13 日)が銅相場の押
し上げ材料になったものの、4 月の米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨において参加者の大半
が 6 月の利上げを適切と考えているとされたこと(18 日)や、米失業保険申請件数が減少したこと(19
日)などからドル高が進展する中、銅などコモディティ価格は総じて低調な推移が続いた。
5 月末にかけては、売りポジションの手じまいや、小幅ながらも原油高やドル安が進んだことなどを材
料に銅相場はやや買い戻された。
6 月に入ると、5 月の米国雇用統計で雇用増加数が市場予想を大幅に下回り、為替市場でドルが急落し
たこと(3 日)などが銅相場の押し上げ材料になった一方で、中国国家統計局が発表した 5 月のPMIが
前月から横ばいとなり、かろうじて市場予想を上回ったものの、受注指数が低下するなど製造業活動が
引き続き低調なことを示したと受け止められたこと(1 日)などが相場の押し下げ材料になった。7 日に
は、中国需要への懸念などからファンドによる売り圧力が強まり、やや大幅な下落となった。9 日には、
米失業保険申請件数が減少したことから米景気に対する見方がやや強気に戻し、ドル高が進んだことを
受けて、銅相場は一時 2 月以来の安値となる 4,483.5 ドルまで売られた。
その後は、英国のEU離脱を巡る国民投票で離脱派が勝利するとの懸念が強まったこと(16 日)が売
り材料になる局面もあったものの、15∼16 日のFOMCでハト派的なメッセージが発せられるとの期待
感が強まったこと(15 日)や、英国の国民投票で残留派が優勢との見方が強まったこと(20 日、23 日な
ど)を受けて、銅相場は上昇傾向となった。
しかし、24 日には、前日の英国国民投票でEU離脱派が勝利したことが判明し、世界景気の先行き懸
念や為替市場におけるドル高を背景に、銅相場は下落した。
銅など金属相場が上昇傾向で推移していた 4 月頃には、年初に強まっていた中国景気の失速への懸念
が後退する中で、金属では、先行きの需要増への対応や価格の先高観測などを背景とした、在庫の積み
増しが起こり始めたとの指摘もあった。しかし、その後、発表された経済指標から中国景気の持ち直し
の動きは限定的であり、特に金属需要と関連の深い中国の製造業部門の活動は、低調な状態が続いてい
るとの見方が優勢になった。なお、英国のEU離脱は、欧州景気にマイナスの影響をもたらすとみられ
るが、銅などベースメタルの最大消費国である中国の景気への影響は限定的だとみられている。
当面の銅相場は、引き続き、一進一退での推移が見込まれる。その後は、世界景気が緩やかに持ち直
すと見込まれる中、銅市況は緩やかな上昇傾向で推移するとみられる。
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(図表 16)銅
銅相場とLME指定倉庫在庫の推移
現先スプレッド(現物−3 ヵ月物)の推移
2.各他品目の概況および主な注目材料
(1)アルミニウム市況:小動きの後、緩やかに上昇して 1,600 ドル台
アルミニウム相場は、上昇が一服している。昨年 11 月 23 日には 1 トンあたり 1,432.5 ドルと 2009 年
6 月以来の安値をつけた後、上昇傾向で推移し、4 月 29 日には一時 1,686 ドルをつけた。5 月前半は大幅
に下落し、5 月後半以降は 1,500 ドル台半ばを中心に小動きとなっていたが、6 月は緩やかな上昇傾向で
推移して、足元は 1,600 ドル台で推移している。
4 月 8 日には、マレーシアがアルミニウムの原材料となるボーキサイトの輸出禁止を 4 月 15 日以降 3
カ月延長すると発表したが、中国に大量の在庫が存在するとの見方から市場への影響は限定的とみなさ
れた。もっとも、4 月終盤にかけて、値ごろ感、中国需要の持ち直し観測、昨年 12 月に中国のアルミニ
ウム精錬大手が発表した減産効果への期待などから、アルミニウム相場は堅調に推移した。
国際アルミニウム協会(IAI)が 4 月 20 日に発表した統計によると、中国を除く世界のアルミニウ
ム生産量は 2 月の日量 6.99 万トンから 3 月は 6.92 万トンに減少したが、中国では 2 月の 7.14 万トンか
ら 3 月は 8.45 万トンに増加した。もっとも、20 日のアルミニウム相場は、中国景気の持ち直し観測が続
く中で金属などコモディティ全般に割安感があるとの見方が強まり、大幅上昇した。
しかしその後は、中国では価格上昇を受けて再びアルミニウムを増産する動きが出つつあるとの観測
などから、アルミニウム相場は下落に転じた。
5 月中旬以降は、横ばい圏での推移が続いた後、6 月に入ってからは、需要家の買いを背景に相場は上
昇している。6 月 20 日にIAIが発表した統計によると、中国を除く世界のアルミニウム生産量は 4 月
の日量 6.87 万トンから 5 月は 6.90 万トンの微増にとどまった一方で、中国では 4 月の 8.56 万トンから
5 月は 8.63 万トンに増加したものの、相場への影響は限定的だった。しかし、24 日の英国国民投票でE
U離脱派が勝利した結果を受けて、24 日のアルミニウム相場は下落した。
中国におけるアルミニウムの供給過剰は解消される目処が立っておらず、アルミニウム相場は他の金
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属に比べて、低迷が続きやすい状況だと思われる。英国のEU離脱問題はドル相場など金融市場の変動
を通じてアルミニウム相場にも影響しようが、実需面からの影響は限定的であろう。
(2)ニッケル市況:一進一退後、足元は 9,000 ドル前後に持ち直し
ニッケル相場は、2 月 11 日に 1 トンあたり 7,550 ドルまで下落した後、3 月 7 日には 9,480 ドルまで
回復した。その後、下落したものの、4 月は上昇傾向で推移し、5 月 3 日には 9,700 ドルまで上昇した。
その後は再びやや下落していたが、足元では持ち直して 9,000 ドル前後で推移している。
4 月 27 日に発表された国際ニッケル研究会(INSG)のニッケル需給見通しによると、2016 年の世
界のニッケル需要は供給をわずかに上回り、4 年連続した供給過剰から脱する見通しである。ニッケル需
要は、196.2 万トンと 2015 年の 189.0 万トンから増加する。主用途であるステンレス向けの需要が増加
し、航空宇宙産業向けやバッテリー産業向けの需要も増加するとしている。一方で、ニッケル生産は 191.3
万トンと前年(198.3 万トン)から減少する見通しとなっている。
また、6 月 13 日に発表されたINSGの統計によると、1∼4 月期には、ニッケル生産は前年比 0.9%
減少する一方で、消費量は 3.4%増加した結果、需要超過幅は 0.71 万トンとなった(前年は 1.99 万トン
の供給超過だった)。
4 月に相場が上昇した背景には、ニッケル生産が横ばい圏で推移する中で、中国のステンレス生産がや
や上向き、緩やかに需給が引き締まり始める傾向が現れたことがあったと思われる。しかし、その後、5
月に下落傾向で推移した背景には、中国の経済活動の回復が 4 月に想定されたほど力強いものではない
ことが判明したことがあったと考えられる。
なお、5 月 31 日には、オーストラリアのサウス 32 が権益を保有するコロンビアのセロ・マトソ鉱山の
労組が 6 月 14 日から無期限のストライキを実施すると発表し、ニッケル需給が引き締まるとの観測が生
じ、6 月に入ってからの相場上昇につながった面があるとみられる。
また、インドネシアが 2014 年にニッケル鉱石の禁輸を発表して後、ニッケル鉱石の代替供給元となっ
ているフィリピンでは、ドゥテルテ次期大統領が 6 月 4 日の集会で外資系鉱山会社が「国土を破壊し、
資源を搾取している」と批判したと報道されるなど、同国の資源政策への懸念が強まっている。
もっとも、セロ・マトソ鉱山の労使交渉では歩み寄りがみられ、ストライキは回避される流れになっ
た。目先は、再び、上値が重くなる展開が想定される。英国のEU離脱問題による金融市場の混乱など
が不透明要因になるものの、年後半は、世界景気が緩やかに持ち直すと見込まれる中、他金属とともに
ニッケル相場も緩やかな上昇傾向で推移するとみられる。
(3)亜鉛市況:上昇傾向で推移して 2,000 ドル前後
亜鉛相場は、1 月 12 日に 1 トンあたり 1,444.5 ドルと 2009 年 7 月以来の安値をつけた後、上昇に転じ、
4 月中旬には 1,900 ドル台を回復した。その後、一進一退の推移が続いた後、5 月下旬から上昇基調とな
り、6 月 9 日には一時 2,105.5 ドルまで上昇した。足元は、2,000 ドル前後で推移している。
オーストラリアやアイルランドの大鉱山が閉山したことや、スイス系資源大手のグレンコアが昨年 10
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12 /22
月に 50 万トンの大幅減産を発表したことを受けて、需給引き締まり観測が強まっており、他の金属に比
べて相場は上昇しやすくなっている。
5 月 27 日には、中国国家統計局が発表したデータで 4 月の中国の亜鉛生産量が前年比 2.5%減少した
ことが示され、亜鉛相場の押し上げ材料になった。3 月には前年比プラスとなり、昨年 11 月に亜鉛製錬
大手 10 社が発表した 50 万トン(生産量の約 5 分の 1 の規模)の減産への疑念が生じていたが、再び前
年割れに転じ、需給悪化懸念が後退した。
6 月 15 日に国際鉛・亜鉛研究会(ILZSG)が発表した統計によると、1∼4 月期の亜鉛の供給超過
幅は 2.4 万トンと前年同期の 18.5 万トンから縮小している。
亜鉛相場の上昇を受けて、中国で亜鉛鉱山の生産を増やす動きが出ているようだが、2016 年に亜鉛は
需要超過になると見込まれている。英国のEU離脱問題などが不透明要因になるものの、年後半にかけ
て世界景気が緩やかながらも回復に向かい、需給引き締まりが続くとの観測の下で、亜鉛相場は上昇す
ると思われる。
(4)錫市況:一時下落後、17,000 ドル前後に戻す
電子部品のはんだ付けなどに使われる錫の市況は、今年 1 月中旬に 13,085 ドルと 2009 年 7 月以来の
安値を記録した後、相場は持ち直し、3 月 24 日には 17,525 ドルまで上昇した。その後、高値圏での推移
が続いたものの、5 月に入って下落し、25 日には 15,425 ドルまで下落した。その後は再び上昇に転じ、
足元は 17,000 ドル前後で推移している。
4 月には中国景気の持ち直しやインドネシアの減産による需給引き締まり観測などから錫相場は底堅
い推移となっていたが、5 月は中国景気のもたつきが金属需要の伸び悩みを連想させ、他の金属に連動し
て、錫も値を下げた。しかし、6 月に入って再び上昇傾向で推移している。
最大輸出国であるインドネシアでは、政府が錫の生産・輸出に関する規制強化を行い、不法操業の取
り締まりを強化する中、同国からの輸出は低迷が続いており、3 月は前年比 61%減となった。4 月の錫輸
出は 36%増と持ち直したが、5 月は 14%減と再び前年割れに転じた。
5 月 17 日には、インドネシアにある 47 カ所の錫製錬所のうち、現在、稼働しているのは 29 カ所であ
り、生産能力に対する稼働率は 21%にとどまっているとのインドネシア鉱業省高官の発言が報道された。
また、20 日には、インドネシアの国営錫生産会社ティマが、2016 年の同国の錫生産が 6 万トンと昨年(6
万 7350 トン)から減少し、2002 年(5 万 8794 トン)以来の低水準に落ち込むとの見方を示した。
インドネシアからの供給減に加えて、中国でも減産が実施されており、今年の錫需給は引き締まるこ
とが見込まれている(中国の錫製錬大手 9 社は 1 月 20 日に 1.7 万トンの減産を発表)。英国のEU離脱
問題などが不透明要因になるものの、年後半は、世界景気が持ち直し、錫需要も緩やかに増加すると見
込まれる中、需給引き締まり観測を背景に錫相場は上昇しやすいと思われる。
(5)鉛市況:下落後、やや持ち直して 1,700 ドル前後
鉛市況は、2015 年 5 月上旬には 1 トンあたり 2,100 ドルを上回った後、下落に転じ、11 月中旬には一
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13 /22
時 1,566 ドルと 2010 年 6 月以来の低水準となった。その後、3 月 7 日には 1,895 ドルまで上昇していた
が、5 月 25 日には 1,626 ドルまで下落した。足元は 1,700 ドル前後で推移している。
鉛は、春先につけた高値から 5 月下旬にかけての下落幅が他の金属に比べて大きくなった。背景には、
これまで鉛需要をけん引してきた中国の電動バイクのバッテリー向け需要が一服してきていることがあ
る。1 月から鉛バッテリーには 4%の消費税が課税されたことや、各都市が交通安全上の問題から電動バ
イクの取り締まりを強化する動きをみせていることなどが需要鈍化の背景として指摘される。なお、最
大消費国である中国の鉛消費量の 8 割が鉛バッテリー向けとされ、鉛バッテリー向け需要のうち 3 分の 1
が電動バイク向けとされる。また、交換用バッテリー向けの需要が多い北半球の冬場が終わり、鉛の不
需要期にあることも、鉛相場が下げやすかった要因とみられる。
6 月 15 日に国際鉛・亜鉛研究会(ILZSG)が発表した統計によると、1∼4 月期の鉛の供給超過幅
は 2.3 万トンであり、前年同期の 0.2 万トンの需要超過から供給超過に転じている。
英国のEU離脱問題が不透明要因となるものの、市場参加者の世界景気に対する見方は最悪期を脱し
ており、金属相場全般に底堅い推移が見込まれる。しかし、中国需要の伸び悩みなどから、鉛は他の金
属に比べ上値が抑えられやすいように思われる。
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(図表 17)アルミニウム
アルミニウム相場とLME指定倉庫在庫の推移
現先スプレッド(現物−3 ヵ月物)の推移
(図表 18)ニッケル
ニッケル相場とLME指定倉庫在庫の推移
現先スプレッド(現物−3 ヵ月物)の推移
(図表 19)亜鉛
亜鉛相場とLME指定倉庫在庫の推移
現先スプレッド(現物−3 ヵ月物)の推移
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(図表 20)錫
錫相場とLME指定倉庫在庫の推移
現先スプレッド(現物−3 ヵ月物)の推移
(図表 21)鉛
鉛相場とLME指定倉庫在庫の推移
現先スプレッド(現物−3 ヵ月物)の推移
Ⅳ.貴金属: 金は一時 1,350 ドル台の高値
金相場は、昨年 12 月上旬には 1 トロイオンスあたり 1,045.85 ドルと 2010 年 2 月以来の安値をつけた
後、上昇に転じ、5 月 2 日には 1,303.60 ドルまで上昇した。その後、5 月 30 日には 1,199.60 ドルまで
下落したものの、英国の国民投票でEU離脱派が勝利した 6 月 24 日には、一時 1,350 ドル台の高値をつ
けた。
4 月は、月末にかけて大幅高となった。上旬は、3 月の米国雇用統計で雇用増加数が市場予想をやや上
回り、年内に見込まれる利上げ時期が早まるとの観測につながったこと(1 日)、ボストン連銀のローゼ
ングレン総裁がややタカ派的な発言を行ったこと(4 日)などが金相場の下落材料になったものの、3 月
の米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨で多くの委員が利上げに慎重な姿勢を示していること
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16 /22
が確認されたこと(6 日)などが金相場を押し上げ、世界的な株価下落がリスク回避の金買いにつながっ
た。その後も、世界経済の先行き不透明感が続いたことが安全資産である金の需要を高めたことや為替
市場でドル安が進んだことがドル建てで取引される金の割安感を強めたことが金買い材料になり、12 日
にかけて一時 1,260 ドルを上回る動きとなった。
13 日には、3 月の中国の貿易統計が市場予想を上回る好調さを示したことから中国経済に対する懸念
が後退したことから投資家のリスク回避傾向が弱まり、14 日も各国の株価が上昇したことや為替市場で
ドル高が進んだことから金相場は下落した。しかし 19 日には、3 月の米国住宅着工件数が市場予想を下
回ったことを受けて、景気減速懸念からドル相場が下落し、金相場の押し上げにつながった。
21 日には、ECB定例理事会が開催され、その後の会見でドラギ総裁が早期の追加緩和を示唆しなか
ったことなどから一時的にドル安(ユーロ高)が進み、金が買われる場面があったが、持続しなかった。
22 日には、日銀が金融機関に対する貸出にもマイナス金利を適用することを検討しているとの報道を受
けて、対円を中心にドル高が進み、金相場の押し下げ要因になった。その後は、26∼27 日に開催される
FOMCを控えて値動きが小さくなった。そのFOMCでは予想通り政策金利の据え置きが決定され、
声明文も 6 月のFOMCでの利上げの有無に関して中立的な内容だったことから、金利を生まない金に
安心買いが入りやすくなった。また、28 日に日銀が金融政策決定会合において追加緩和の決定を見送っ
たことを受けて、世界的に株安となり、先行き不安から金への逃避買いも増えやすくなった。このため、
28∼29 日の金相場は大幅に買われた。
5 月の金相場は、下落傾向で推移した。月初は、4 月末からの騰勢が続き、一時 1,300 ドルを上回る場
面もあったが、その後、上値は重くなった。4 月の米国雇用統計において雇用増加数が市場予想を下回っ
たこと(6 日)が金相場の押し上げ材料になったものの、アトランタ連銀総裁やサンフランシスコ連銀総
裁が 6 月の利上げに前向きととれる発言をしたこと(4 日)や、ニューヨーク連銀総裁が今年中に 2 回の
利上げがあるとの見方を妥当な見通しと述べたこと(6 日)を材料に利益確定の売りに押された。9 日に
は、ドル高が進む中、金の下落幅がやや大きくなった。その後、株式相場や為替相場の動向をにらみな
がら一進一退となった。
月後半は、金相場の下落が進んだ。18 日に公表された 4 月の米連邦公開市場委員会(FOMC)の議
事要旨において、参加者の大半が 6 月の利上げを適切と考えているとされたことを受けて、早期利上げ
観測が強まる流れになった。その後、ニューヨーク連銀総裁(19 日)、ボストン連銀総裁(20 日)、セン
トルイス連銀総裁(23 日)、サンフランシスコ連銀総裁(23 日)、フィラデルフィア連銀総裁(23 日)な
どの発言が、市場の利上げ観測を強める内容であったこともあり、金相場は下落が続いた。24 日には、
米利上げ観測からドル高が進む中、金相場の下落幅が大きくなった。月末にかけても、27 日のFRB議
長の講演などFRB高官の利上げに前向きな発言が相次ぎ、金相場は下落傾向で推移した。
しかし、6 月に入ると、金相場は反発した。3 日には、5 月の米国雇用統計において雇用増加数が市場
予想を大幅に下回ったことを受けて、米追加利上げ観測が後退し、金相場は大幅上昇した。6 日には、F
RB議長の講演において、追加利上げのタイミングについて具体的な言及を避けられたことが、早期利
上げ観測の後退につながった。英国での欧州連合(EU)離脱の是非を問う国民投票に対する懸念が強
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まったことも、投資家のリスク回避の動きを促し、金相場の押し上げ要因となった。
その後、英国国民投票においてEU残留派が優勢との観測から 1,250 ドル台まで下げていたが、24 日
にEU離脱派が勝利したことが判明すると、1,350 ドル台まで一気に上昇した。その後、やや売り戻され
たが、1,300 ドル台の高値圏で推移している。
足元では、英国のEU離脱問題に伴うリスク回避の動きや米利上げ観測の後退から、金相場は上昇し
ている。引き続き、英国のEU離脱問題の行方に不透明感が残ることや、米国の利上げ先送り観測が強
まる流れにあることから、金相場は底堅い展開が見込まれる。
(図表 22)貴金属価格の推移
金相場
プラチナ相場
(ドル/トロイオンス)
1800
金価格(左目盛)
50
60
ド
ル
安
(1973 年3月=100)
2000
プラチナ価格(左目盛)
1800
50
←
2000
(ドル/トロイオンス)
←
(1973 年3月=100)
60
ド
ル
安
ドル相場(右目盛)
ドル相場(右目盛)
1600
70
1600
70
1400
80
1400
80
1200
90
1200
90
1000
100
1000
100 ド
ル
高
110
14
15
16
(年、日次)
(注)ドル相場は対ユーロ、円、ポンド、カナダドル、スウェーデンクローネ、スイスフランの加重平均値
(出所)Bloomberg
800
→
110
13
→
800
ド
ル
高
14
13
15
16
(年、日次)
(注)ドル相場は対ユーロ、円、ポンド、カナダドル、スウェーデンクローネ、スイスフランの加重平均値
(年、日次)
(出所)Bloomberg
銀相場
パラジウム相場
(ドル/トロイオンス)
ド
ル
安
(1973 年3月100)
40
50
銀価格(左目盛)
35
60
←
1000
(ドル/トロイオンス)
←
(1973 年3月=100)
50
ド
ル
安
900
60
800
70
30
70
700
80
25
80
90
20
90
ド
100 ル
高
15
ド
100 ル
高
600
ドル相場(右目盛)
パラジウム価格(左目盛)
ドル相場(右目盛)
500
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(年、日次)
(注)ドル相場は対ユーロ、円、ポンド、カナダドル、スウェーデンクローネ、スイスフランの加重平均値
(出所)Bloomberg
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110
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(注)ドル相場は対ユーロ、円、ポンド、カナダドル、スウェーデンクローネ、スイスフランの加重平均値
(出所)Bloomberg
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→
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Ⅴ.トピック
∼原油の需要面・供給面の動き∼
他のリスク資産と同様に、原油の相場も英国のEU離脱問題が材料になる状況が続いた。すなわち、6
月 23 日の投票日までは世論調査の数字などに神経質に反応し、24 日にEU離脱派の勝利という結果が出
てからは、大きく売られた。
そうした中で、原油については、需要と供給の面でも相場に大きな影響を及ぼしうる材料が出てきて
おり、注目される。
① ガソリンを中心に需要が上振れ
まず、需要面については、米国が堅調である。米国の石油需要は、6 月 17 日に終わる週の 4 週移動平
均値で前年同期比 2.1%増加しており、特にガソリンは同 3.9%増加している。米国以外でも、中国やイ
ンドを中心に原油需要は増加傾向が続いている。国際エネルギー機関(IEA)の見通しでは、今年の
原油需要は前年比 130 万バレル増加し、2017 年も同程度の増加が見込まれている。
米国は景気が底堅さを維持しており、中国やインドでは自動車の普及が進んでいる。こうした景気面
や構造面の要因に加えて、原油価格が低水準で推移していることも石油需要の押し上げ要因となってい
るものと思われる。
(図表 23)米国のガソリン消費量の推移
(百万バレル/日)
10.0
9.8
9.6
9.4
9.2
9.0
8.8
8.6
8.4
8.2
2016年
2015年
2014年
2013年
2012年
2011年
8.0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
(注)速報系列の4週後方移動平均、直近値は6月17日
11
12
(月、週次)
(出所)米国エネルギー情報局(EIA)
② 原油供給が持ち直す動き
一方、原油供給が持ち直す動きも注目される。武装勢力による石油施設への攻撃などからナイジェリ
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アの原油生産が落ち込んでいるものの、経済制裁の解除を受けてイラン産原油の供給が増加している。
森林火災の影響から大幅に落ち込んでいたカナダのオイルサンドの生産も復旧してきている。
また、原油相場が 50 ドル前後に持ち直す中で、米国のシェールオイル生産者が再び増産に乗り出す兆
しが出ている。原油価格低迷によるシェール企業への打撃は、それなりに大きく、ロイターの集計では、
2014 年以降の負債 1 億ドル以上のシェール企業の倒産件数は 34 件で、負債総額は 523 億ドルに上る。し
かし、大規模なシェール企業は、倒産に陥ることなく、粘り強さをみせていた。
5 月頃には、原油価格が 2 月をボトムに上昇する中で、各社は 1∼3 月期の決算発表の場などにおいて、
事業環境は最悪期を脱したとの見方や、原油価格が上昇傾向を維持するならば、シェール開発を再び増
加させる意向を示すようになっていた。
その後、さらに原油価格は 50 ドル前後まで上昇する中、6 月には油田開発の先行指標となる石油掘削
リグの稼働件数も増加に転じる動きとなっている。米石油サービス会社のベーカー・ヒューズが発表す
る石油掘削リグの稼働数は、5 月 27 日時点の 316 基をボトムに 6 月 24 日時点では 330 基とやや持ち直し
て推移している。
(図表 24)米国の石油掘削リグの稼働数の推移
2,000
(基)
1,800
1,600
1,400
1,200
1,000
800
600
400
200
0
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16
(出所)Baker Hughes
(年、週次)
シェールオイル大手のデボン・エナジーは、6 月 15 日に、同業のパイオニア・ナチュラル・リソーシ
ズなどにテキサス州の権益を 8 億 5800 万ドルで売却すると発表した。デボンは、非中核事業を売却し、
財務体質の向上や中核事業の強化を目指している。一方、パイオニアは海外の権益を手放し、テキサス
州のシェールオイル権益に集中投資する方針である。
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サウジアラビアなどは、原油価格が大幅に下落すれば、米国のシェール企業は、原油市場から退出す
ると考えていたかもしれないが、現実には、シェール企業は粘り強く、コスト削減や事業の統廃合に努
め、体質を強化して生き残ってきている。原油価格が上昇すれば、こうしたシェール企業が再び増産に
向かう動きが出てくるとみられる。
③ 需給バランスをどうみるか
4 月 17 日のドーハでの産油国会合では、増産凍結で合意することが出来ず、原油市場でそれまで続い
ていた著しい「供給過剰」が継続することが懸念されるような状況であった。
しかし、その後、米国、インド、中国などの原油需要が堅調に推移したことに加え、カナダの森林火
災やナイジェリアでの武装勢力による石油施設への攻撃などから、原油生産が落ち込み、原油需給が予
想されたよりもタイト化した。
先行き、ナイジェリア、リビア、ベネズエラなどでの生産障害が継続し、米国のシェールオイルの減
産傾向も続くが、経済制裁が解除されたイランからの原油供給は増加傾向が続き、カナダのオイルサン
ドの生産は復旧に向かうと見込まれる。イラク、ロシア、サウジアラビアなどが高水準の原油生産を続
けるとみられることもあり、目先は、原油需給がやや緩和方向に向かうとみられる。
冬場に入ると、暖房向けの季節需要が増加することもあり、需給緩和感が弱まるだろう。2017 年には、
新興国を中心とした原油需要の増加を背景に、原油在庫の増加に歯止めがかかる局面になってくると思
われる。
なお、英国のEU離脱の影響は、ドル相場の上昇が原油相場の抑制要因になるといった金融市場を通
じた影響が強く、しばらく不透明要因として意識され続けられようが、実需面での影響は限定的とみら
れる。
こうした需給の見通しを背景に、ブレントやWTIの相場は、目先、40 ドル台後半を中心に推移した
後、緩やかな上昇傾向を辿り、2018 年にかけて 50 ドル台半ば程度に上昇するだろう。
(図表25)原油価格の見通し
<2016年6月時点>
→予測値
(ドル/バレル)
16年
15年
17年
18年
1Q
2Q
3Q
4Q
1Q
2Q
3Q
4Q
1Q
2Q
3Q
4Q
1Q
WTI原油価格
48.6
57.9
46.4
42.2
33.5
45.5
45.6
47.1
48.8
50.1
51.5
53.0
54.5
(ブレントとの価格差)
(-6.5)
(-5.6)
(-4.7)
(-2.5)
(-1.6)
(-1.4)
(-1.0)
(-1.0)
(-1.0)
(-1.0)
(-1.0)
(-1.0)
(-1.0)
ドバイ原油価格
51.9
60.9
50.0
41.0
30.7
43.1
43.1
44.6
46.3
47.6
49.0
50.5
52.0
(ブレントとの価格差)
(-3.2)
(-2.6)
(-1.1)
(-3.7)
(-4.4)
(-3.7)
(-3.5)
(-3.5)
(-3.5)
(-3.5)
(-3.5)
(-3.5)
(-3.5)
ブレント原油価格
55.2
63.5
51.2
44.7
35.1
46.8
46.6
48.1
49.8
51.1
52.5
54.0
55.5
(注)シャドー部分は予測。期中平均値。
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