膵がん・胆道がんの診断と治療 up-to-date

膵がん・胆道がんの診断と治療 up-to-date
附属病院 病院長
消化器・一般外科学部門 教授 佐田 尚宏
はじめに
悪性新生物(がん、肉腫)による死亡率は年々上昇傾向にあり、1981 年以降我が国における死亡原因
の第 1 位で、最新の統計(2015 年)では 370,900 人(男性:219,200 人、女性:151,700 人)の方が悪性
新生物で亡くなられたと推定されています.がんの中には、増加しているがん、減少しているがんがあ
ります.膵がんは男性では第 5 位、女性では第 4 位の死亡原因となっており、2015 年には合計 32,800 人
が亡くなられ、年々増加傾向にあります.特に女性では 2020 年頃に胃がんの死亡数を抜いて大腸がん、
肺がんに続く第 3 位となることが予想されています.胆道がん(胆嚢がん、胆管がん)は、膵がんより
は少ないのですが、男性では第 8 位、女性では第 7 位、2015 年には合計 19,200 人の方が亡くなられ、緩
やかな増加傾向にあります.2016 年 1 月全国がんセンター協議会が発表したがんの 10 年生存率(診断後
10 年目での生存割合)データでは、膵がんは 4.9%、胆道がんは 19.7%で、消化器系のがんの中では最も
予後の悪いがんです.
1.膵がん、胆道がんの診断
このように予後の悪い膵がん、胆道がんですが、早期に発見すれば、その治療成績は改善します.大
切なのは、これらのがんの特徴を把握することです.膵がん、胆道がん共通の危険因子(リスクファク
ター)としては、肥満、糖尿病が挙げられます.その他膵がんでは、喫煙、大量飲酒、慢性膵炎が挙げ
られ、膵臓に嚢胞(液体の貯留した病変)がある方は膵がんの罹患率が高いといわれています.胆道が
んでは、原発性硬化性胆管炎という病気や、膵・胆管合流異常という先天的な異常がある方は、頻度が
高くなります.膵がん、胆管がんを早期に発見する検査としては、超音波検査が挙げられます.血液検
査の腫瘍マーカーは、病気の経過観察には有用とされていますが、早期の発見には余り役に立ちません.
定期的に超音波検査を受けていただき、軽微な所見を捉えて腹部 CT 所見検査、MRI 検査、内視鏡超音波
検査などで精査することが診断には重要です.
2.膵がん、胆道がんの治療
膵がん、胆道がんの治療法は、手術療法、抗がん剤治療、放射線治療が大きな柱で、最近は免疫治療
なども試みられていますが、まだ一般的ではありません.治療の中心が外科的治療であることは変わり
ませんが、2001 年塩酸ゲムシタビンが膵がん、胆道がんに対して保険適応になってから、抗がん剤治療
は飛躍的に進歩しました.2010 年以降、複数の抗がん剤が膵がんに対して使用できるようになりました.
その一方で、放射線治療は単独では効果がないとされていて、抗がん剤と組み合わせた治療が試みられ
ています.膵がん、胆道がんを切除する手術は難易度が高く、合併症率が高率で、2-3%程度は不慮の転
帰を取ることもありました.ここ 10-20 年手術方法に大きな進歩はみられていませんが.手術器械の進
歩、技術の向上により手術成績は改善しています.
日進月歩のがん治療ですが、膵がん、胆道がんの治療成績は、まだまだ満足できるものではありませ
ん.一人でも多くの方が治癒できるよう、診断力の向上を図り、治療方法を改良しています.そのよう
な最新の知見をご紹介します.
≪講師略歴≫
氏
名
学歴及び職歴
主 な 著 書
佐田 尚宏(さた なおひろ)
1960 年 1 月 21 日生
1984 年 3 月
東京大学医学部卒業
1994 年 1 月
東京大学医学部第一外科 助手
1994 年 9 月
ドイツデュッセルドルフ大学 客員研究員
2000 年 4 月
自治医科大学消化器・一般外科 講師
2003 年 8 月
自治医科大学消化器・一般外科 助教授
2007 年 10 月
自治医科大学鏡視下手術部、消化器・一般外科 教授
2015 年 1 月
自治医科大学消化器・一般外科 主任教授
2015 年 4 月
自治医科大学附属病院 病院長
●急性膵炎診療ガイドライン 2015 改定出版委員会編.
急性膵炎診療ガイドライン
2015(第 4 版).東京 金原出版 2015(ISBN978-4-307-20338-8 C3047)
●厚生労働省「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班編.肝内結石症の診療ガ
イド.東京 文光堂 2011
●日本消化器病学会編集.慢性膵炎診療ガイドライン.東京 南江堂 2009
●佐田尚宏、古内三基子、関道子、堀江久永.あなたのクリニカルパスは安全ですか自治医科大学消化器一般外科方式クリニカルシステム
2006
東京
メジカルビュー社