アクティブラーニングとしてのPBLの発展可能性

NPO法人日本PBL研究所創立10周年記念フォーラム 2016年6月18日(土)
アクティブラーニングとしてのPBLの発展可能性
溝上 慎一
(京都大学高等教育研究開発推進センター/教育学研究科)
http://smizok.net/
E-mail [email protected]
今日の講演スライドは明日溝上HPにアップします。必要な方はダウンロードしてください。
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1
アクティブラーニングとは何か(YouTube)
https://www.youtube.com/watch?v=NUaT3euoHgU
2
溝上慎一 (編) (2016). 高等学校
におけるアクティブラーニング:
理論編 東信堂
(アクティブラーニング・シリーズ
第4巻)
2
アクティブラーニング型授業へ
講義+講義
演習
Seminar/Tutorial
講義+アクティブラーニング(AL)=アクティブラーニング型授業
(聴く)
(書く・話す・発表する)
(認知プロセスの外化:知覚・記憶・言語・思考など)
習得 - 活用 - 探究 / 深い学習
5
育成が求められる
資質・能力
思考力・判断力・表現力等
☞大学入試改革もセット
3
Contents
①アクティブラーニング型授業改革の背景
-トランジションと学習と成長パラダイム-
②PBLをアクティブラーニング論に位置づけて
③「探究的な学習」をアクティブラーニング論として位
置づける
1
4
なぜアクティブラーニング型授業の改革か
学校から仕事・社会へのトランジション(移行)課題の
解決のため!
高校
大学
学校教育
大人
溝上慎一・松下
佳代(編) (2014).
高校・大学から仕
事へのトランジ
ション-変容する
能力・アイデン
ティティと教育-
ナカニシヤ出版
仕事・社会
トランジション(移行)
・資質・能力を育てるため?
・大学入試が変わるから?
・コミュニケーション力を育てるため?
・総合的な学習の時間だけでいい?
・ALだと成績が上がる?
・AL(学び合い)だとモチベーションが上がる?
4
個→協働→個
5
京大生の就職希望者の就職活動結果
(4年生11月)
7.6 26.5 現在も就職活動中
内定をとり、就職活
動を終了した
66.0 就職活動を断念し
た、中止した、延期
した
2
Data Source 京都大学FD研究検討委員会・高等教育研究開発推進センター『京都大学自学自習等学生
の学習生活実態調査報告書』2013年3月
6
なぜアクティブラーニング型授業の改革か
学校から仕事・社会へのトランジション(移行)課題の
教授パラダイムから学習(と成長)パラダイム
解決のため!
高校
大学
学校教育
大人
溝上慎一・松下
佳代(編) (2014).
高校・大学から仕
事へのトランジ
ション-変容する
能力・アイデン
ティティと教育-
ナカニシヤ出版
仕事・社会
トランジション(移行)
・資質・能力を育てるため?
・大学入試が変わるから?
・コミュニケーション力を育てるため?
・総合的な学習の時間だけでいい?
・ALだと成績が上がる?
・AL(学び合い)だとモチベーションが上がる?
1
個→協働→個
7
教授パラダイムから学習と成長パラダイムへ
• 特徴
教授パラダイム
学習パラダイム
教員から学生へ
学習は学生中心
知識は教員から伝達されるもの 学習を産み出すこと
知識は構成され、創造され、獲
得されるもの
教授学習活動
学習パラダイム
教授パラダイム
• 個性化を導く学習と成長パラダイム
枠を越えた個性的な学習成果
教授パラダイムの枠
習得・到達すべき最低限の
知識・技能・態度(能力)
3
8
Reference: 溝上慎一 (2016). 大学教育におけるアクティブラーニングとは 溝上慎一 (編) 高等学校にお
けるアクティブラーニング:理論編 (アクティブラーニング・シリーズ第4巻) 東信堂 pp.28‐41.
変わる仕事
2
☞ポイント:
・単純作業、知っていれば誰でもできる仕事は無くなるか、
賃金等労働条件が悪くなる
・その人独自の能力や個性が人材としての価値となる
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人型ロボット「NAO(ナオ)」(人工知能)
三菱東京UFJ銀行
5
10
金沢駅で試行的に設置されるペッパー君
*
11
ヒトに近づくアンドロイド研究
エリカ23歳
5
美少女アンドロイド「ASUNA」ちゃん
石黒浩(大阪大学教授)×平田オリザ(劇作家・演出家):
チェーホフ作をもとにアンドロイド版『三人姉妹』
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Contents
①アクティブラーニング型授業改革の背景
-トランジションと学習と成長パラダイム-
②PBLをアクティブラーニング論に位置づけて
③「探究的な学習」をアクティブラーニング論として位
置づける
*
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2つのPBL
・問題解決学習としてのPBL(problem-based learning)
*いろいろな訳「問題解決型学習」「問題基盤型学習」など
・プロジェクト学習としてのPBL(project-based learning)
*いろいろな訳「プロジェクト型学習」「プロジェクト・ベース学習」「課題解決
学習」など
2
14
PBLとは何か
溝上慎一 (編) (2016). アクティブラーニングとしてのPBLと
探究的な学習 東信堂(アクティブラーニング・シリーズ第2
巻)
上杉賢士先生らの一連の「プロジェクト・ベース学習」の著作
1
15
プロジェクト学習(PBL)という学習戦略
プロジェクト学習とは、実世界に関する解決すべき複雑な問題
や問い、仮説を、プロジェクトとして解決していく学習のことで
ある。学生の自己主導型の学習デザイン、教師のファシリテー
ションのもと、問題や問い、仮説などの立て方、問題解決に関
する思考力や協働学習等の能力や態度を身につける。
・20世紀初頭の、主として初等教育におけるキルパトリックの「プロジェクトメ
ソッド(project method)」にルーツがあると説明されることが多い
(ex. Savery, 2006)。
・デューイの進歩主義教育に思想的母体(佐藤, 2004; 田中・橋本, 2012)。
・初等中等教育から高等教育まで幅広く使用されている。
2
16
Reference:
・溝上慎一 (印刷中). アクティブラーニングとしてのPBL・探究的な学習の理論 溝上慎一・成田秀夫 (編)
アクティブラーニングとPBL・探究 (アクティブラーニングシリーズ第6巻) 東信堂
・Savery, J. R. (2006). Overview of problem‐based learning: Definitions and distinctions. Interdisciplinary Journal of Problem‐Based Learning, 1(1), 9‐20. ・田中智志・橋本美保 (2012). プロジェクト活動-知と生を結ぶ学び- 東京大学出版会
プロジェクト学習(PBL)のステップ
生徒学生版の研究活動
(research)
2
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アクティブラーニングの1つとしてのPBL
・PBLはアクティブラーニングの1つである
(Mills & Treagust, 2003; Savery, 2006; Thomas, 2000)
1
18
Reference:
・Mills, J. E., & Treagust, D. F. (2003). Engineering education: Is problem‐based or project‐based learning the answer? Australasian Journal of Engineering Education, 3(2), 2‐16.
・Savery, J. R. (2006). Overview of problem‐based learning: Definitions and distinctions. Interdisciplinary Journal of Problem‐Based Learning, 1(1), 9‐20. ・Thomas, J. W. (2000). A review of research on project‐based learning. 参照日2015年8月4日:
http://www.newtechnetwork.org.590elmp01.blackmesh.com/sites/default/files/dr/pblresearch2.pdf
PBLはAL中心型のアクティブラーニング型授業の1つである
習得
習得
改革の第一ターゲット
2
活用
探究
(PBL)
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実世界の問題解決に取り組ませる教育的意義
・将来取り組むであろう問題解決に必要な態度・能力を育てる
ため(自己主導型学習、協働学習、問題解決能力など)
・PBLがカリキュラムの中心に置かれるべきだという主張
(Bell. 2010; Hung, 2010など)
☞基礎的な知識・技能の習得だけでは、仕事・社会に必
ずしも繋がらない。直接繋げる学習としてのPBL。
見直される
・学校教育の社会的機能
・学校から仕事・社会へのトランジション
2
アクティブラーニ
ング論の問題意
識と同じ
20
Reference:
・Bell, S. (2010). Project‐based learning for the 21st century: Skills for the future. The Clearing House, 83(2), 39‐43.
・Hung, W. (2011). Theory to reality: A few issues in implementing problem‐based learning. Educational Technology Research and Development, 59(4), 529‐552.
Contents
①アクティブラーニング型授業改革の背景
-トランジションと学習と成長パラダイム-
②PBLをアクティブラーニング論に位置づけて
③「探究的な学習」をアクティブラーニング論として位
置づける
*
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習得-活用-探究の「探究」として
生徒主導
PBL
探究
教師主導
総合型(脱教科)
探究的な学習
(総合的な学習の時間)
合教科・科目型
活用II
活用
安彦案
活用I
習得
3
1教科内
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Reference:
・安彦忠彦 (2016) 習得から活用・探究へ 溝上慎一(編) 高等学校における アクティブラーニング(理論
編) (アクティブラーニングシリーズ第4巻) 東信堂
「習得」にアクティブラーニングの基礎を置いて
教育課程企画特別部会『論点整理』(2015年8月26日)
課題の発見・解決に向けた主体的・協働的な学び
(いわゆる「アクティブ・ラーニング」)
i) 習得・活用・探究という学習プロセスの中で、問題
発見・解決を念頭に置いた深い学びの過程が実現
できているかどうか。
3
23
自己の在り方生き方を考える探究的な学習
『高等学校学習指導要領』(2009年3月)
第1 目 標
横断的・総合的な学習や探究的な学習を通して,自ら課題を見付け,
自ら学び,自ら考え,主体的に判断し,よりよく問題を解決する資質や
能力を育成するとともに,学び方やものの考え方を身に付け,問題の
解決や探究活動に主体的,創造的,協同的に取り組む態度を育て,自
己の在り方生き方を考えることができるようにする。
(「第4章 総合的な学習の時間」より)
☞デューイの「社会的生活(social life)」(田中・橋本, 2012)
将来
3
プロジェクト
(問題や問い
の設定)
仕事・社会
Reference:
・田中智志・橋本美保 (2012). プロジェクト活動-知と生を結ぶ学び- 東京大学出版会
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AL批判
総合的な学習の時間やSSH等で、資質・能力を育てればいい
一般的/全体的
(General/Whole)
学力の三要素
(1)知識・技能
(3) 主体性・多様性・協働性
(2)思考力・判断力・表現力
抽象的
(Abstract)
国語
社会
情報
家庭
理科
外国語
保健体育
総合的な
学習の時間
芸術
あらゆる授業で
アクティブラーニング型授業(講義+アクティブラーニング)
個別的
(Specific)
3
数学
習得
活用(I・II)
探究
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Reference:
・奈須正裕 (2015). コンピテンシー・ベイスの教育と教科の本質 奈須正裕・江間史明 (編) 教科の本質か
ら迫るコンピテンシー・ベイスの授業づくり 図書文化 pp.8‐34.
ご清聴有り難うございました
Contents
①アクティブラーニング型授業改革の背景
-トランジションと学習と成長パラダイム-
②PBLをアクティブラーニング論に位置づけて
③「探究的な学習」をアクティブラーニング論として位
置づける
溝上慎一監修 (2016年3月刊行)
『アクティブラーニング・シリーズ全7巻』(東信堂)
・第1巻 アクティブラーニングの技法・授業デザイン
(
(溝上慎一・成田秀夫編)
・第3巻 アクティブラーニングの評価(松下佳代・石井英真編)
・第4巻 高等学校における安永悟・関田一彦・水野正朗編)
・第2巻 アクティブラーニングとしてのPBLと探究的な学習
アクティブラーニング:理論編(溝上慎一編)
・第5巻 高等学校におけるアクティブラーニング:事例編(溝上慎一編)
・第6巻 アクティブラーニングをどう始めるか(成田秀夫著)
・第7巻 失敗事例から学ぶ大学でのアクティブラーニング(亀倉正彦著)
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興味があればお読みください
溝上慎一・松下佳代(編) (2014). 高校・大学から仕事へ
のトランジション-変容する能力・アイデンティティと教育
- ナカニシヤ出版
この10年、世界的に喫緊の課題となっている学校から仕事へのトラン
ジションを、国際的に定義し・国際的な近年の動向を概説したもの(溝
上慎一)。ほか「大学から仕事へのトランジションにおける<新しい能
力>」(松下佳代)、「<移行>支援としてのキャリア教育」(児美川孝
一郎)、「アイデンティティ資本モデル-後期近代への機能的適応」
(ジェームズ・コテ)、「後期近代における<学校から仕事への移行>
とアイデンティティ-「媒介的コミュニティ」の課題」(乾彰夫・児島功
和)ほか。
溝上慎一 (2014). アクティブラーニングと教授学習パラ
ダイムの転換 東信堂
アクティブラーニングを理論的・実践的に包括的に概説した著書。
第1章:アクティブラーニングとは 第2章:なぜアクティブラーニングか
(教えるから学ぶへ、情報・知識リテラシー) 第3章:さまざまなアク
ティブラーニング型授業(ピアインストラクション、LTD話し合い学習法、
PBLなど) 第4章:アクティブラーニング型授業の質を高めるための
工夫(ディープ・アクティブラーニング、授業外学習、逆向き設計、反転
授業) 第5章 揺れる教授学習観(ラーニングピラミッドの功罪など)
溝上慎一 (責任編集) 京都大学高等教育研究開発推進
センター・河合塾 (編) (2015). どんな高校生が大学、社会
で成長するのか-「学校と社会をつなぐ調査」からわかっ
た伸びる高校生のタイプ- 学事出版
序章: なぜ、学校から社会へのトランジション(移行)調査か(溝上慎一)
第1章:生徒タイプの分析から見えてくる高校生の特徴(溝上慎一)
第4章:高校生の生活と意識における地域差(柏木智子)
第5章:島根県立横田高等学校の事例研究(椋本洋)
第6章:岐阜県立可児高等学校の事例分析(河井亨・浦﨑太郎)
第7章:成果シンポジウムにおけるコメントとリプライ~
(2) 安彦忠彦「高大接続の視点から」
(3) 山田礼子「現代大学新入生をどう見るか」
(4) 中原 淳「企業の人材開発の観点から」
第8章:学校と社会をつなぐ調査から見えてくる高校の特徴~インタビュー
(1) 高崎市立高崎経済大学附属高等学校
(2) 鴎友学園女子中学高等学校
(3) 渋谷教育学園渋谷中学高等学校
(4) 神奈川県立横浜翠嵐高等学校
(5) 三重県立津高等学校
(6) 京都市立堀川高等学校
(7) 大坂府立茨木高等学校
(8) 大阪府教育センター附属高等学校
第9章
実践的な指導のポイント(椋本洋)
第10章 理論的まとめと今後の課題(溝上慎一)
2015年7月刊行
チューリップMLを作りました
中学高校に関するイベントや研究会の案内を受け取る、あるいは自由
に投稿できるチューリップMLを作りました。
全国の中学高校関係者に配信されます。
情報を欲しい方、発信したい方はメンバー登録の上、どうぞご利用下さ
い。
http://kyoto‐u.s‐coop.net/tulip/index.html
桐蔭学園の「授業見学」のご案内
◆桐蔭学園はAL向上を目指して、外部からの授業見学をいつでも受け付けてい
ます。見学したい方は下記にご連絡下さい。
担当: 佐藤透([email protected])
講師プロフィール
http://smizok.net/
1970年1月生まれ。大阪府立茨木高校卒業。神戸
大学教育学部卒業、1996年京都大学高等教育教
授システム開発センター助手、2000年講師、2003
年京都大学高等教育研究開発推進センター准教
授。2014年より教授(現在に至る)。大学院教育学
研究科兼任。京都大学博士(教育学)。
日本青年心理学会常任理事、大学教育学会常任理事、『青年心理学研究』編集委
員、『大学教育学会誌』編集委員、“Journal of Adolescence”Editorial Board委員、
“International Conference on the Dialogical Self”Scientific Committee委員。公益財
団法人電通育英会大学生調査アドバイザー、学校法人桐蔭学園教育顧問ほか、大
学のAP委員、高校のSGH/SSH指導委員など。日本青年心理学会学会賞受賞。
専門は、青年心理学(現代青年期、自己・アイデンティティ形成、自己の分権化)と高
等教育(大学生の学びと成長、アクティブラーニング、学校から仕事・社会へのトラン
ジションなど)。著書に『自己形成の心理学-他者の森をかけ抜けて自己になる』
(2008世界思想社、単著)、『現代青年期の心理学-適応から自己形成の時代へ
-』(2010有斐閣選書、単著)、『大学生の学び・入門-大学での勉強は役に立つ!
-』(2006有斐閣アルマ、単著)、『高校・大学から仕事へのトランジション-変容する
能力・アイデンティティと教育-』(2014ナカニシヤ出版、編著)、『活躍する組織人の
探究-大学から企業へのトランジション-』(2014東京大学出版会、編著)、『アクティ
ブラーニングと教授学習パラダイムの転換』(2014東信堂、単著)など多数。