[連載] Washington, D.C. 通信

連載 Washington, D.C. 通信
50 分ずつの授業を毎日それぞれの担当の先
生から教わる。Reading では,習熟度別に与
えられた課題図書を,数人からなる小さなグ
「やっぱり教科書がないと
ダメよね。」
ワシントン日本語学校(補習授業校)
雨宮 真一
「アメリカから来ました。」という ALT に
ループで読み進めている。授業中,先生に呼
ばれたグループは教室の隅で輪になって座り,
その週課題だった章について質問に答えたり,
小声で議論したりする。この小グループでの
授業は,内容「理解」にとどまらず分析と批
評の「表現」が中心だ。子どもたちは常に作
品に対する自分の意見が求められているのだ。
なるほどあらかじめ配られた課題プリントは
「あ,そう。」で会話を終わらせてはいけない。
無理なく生徒の表現を引き出す構成になって
「どの辺?」と尋ねてみるといい。この広い
いる。自分の番を待っている他の生徒たちは,
国では,天候やその地域の歴史,人種,食文
黙々と読書を続けたり,読んだ章から出題さ
化や話し方はもちろん,宗教や政治的考え方
れる語彙テストの練習をしている。図書館の
まで地域によって大きく違うこともある。有
ように静まり返った授業中,熱心に課題に取
名都市や名物の話の後,もう少し掘り下げた
り組む子どもたちの背中は 11 歳らしく小さ
話ができるときっと面白いだろう。
教育制度もどこでも同じということはない。
かったが,頼もしく見えた。
一方,クラス一斉に本を読み進める授業で
修業年限や学齢が切り替わる日も州によって
は,物語のジャンルについて学ぶことが年間
異なるし,学習指導要領はまるで日本でいう
目標だ。また,毎日宿題になっている 30 分
都道府県や市町村が定めているかのような感
間読書は,自分で本を選ぶことができ,読ん
覚だ。ワシントン D.C. を中心とした首都圏は,
だ本の中から月に一度エッセイを書くことに
全米トップクラスの教育の質を誇っている。
なっている。もうひとつのグループ読書では,
ここメリーランド州モンゴメリ郡では,幼稚
メンバーがそれぞれ役割を担当し,異なった
園の 1 年間と小中高 5-3-4 の 13 年間が義務教
観点から本を読む。つまり生徒は常に 4 冊の
年で小学校までが新カリキュラムになった。
それぞれの活動で年間 3 冊程度の本を読むと
育だ。ここ数年で教育改革が実施されて,今
学校では日本のように教科書を中心に授業を
進めるのではなく,教師は郡の教員専用サイ
本を同時に読み進めている。とても器用だ。
いうから,少なく見積もっても 1 年間に 12
冊は授業で扱うということになる。これを教
トでカリキュラムや指導案,活動や課題など
科書にしたら,辞書より厚くなるだろう。推
を参考にして,授業計画を立てる。教科に
薦・課題図書は全て,郡が提供するサイトで
よっては授業のために指定された教材が学校
指導案と共に紹介されている。
に送られてくることもある。廊下に小学 3 年
生の理科用に届けられた大きな箱が置いて
「教科書?私が小さい頃は使っていたわ。」
担当の先生が懐かしそうに言った。
あった。コッソリ蓋を開けてみると,
「音の伝
「教科書?やっぱり教科書がないとダメよ
わり方」の実験や観察キットがポスターと一
ね。うちの子が学校で何を勉強しているか
緒に生徒分ギッシリ詰まっていた。楽しそう。
さっぱりわからないわ。」娘の親友のエリー
小学校最高学年の 5 年生の英語の授業を覗
いてみよう。Reading と Writing の 2 科目は,
教研英語123.indd 2
スの母親ナタリーが言った。日本では教科書
が大いに親の役にも立っていることだろう。
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