運動方程式 平成 28 年度 解析力学 講義ノート [9](担当:井元信之) 2016 年 6 月 23 日 前回の演習問題の答 [問 3.4]2 次元中心力場下での質点のラグランジアンは (2.30) 式より L= また粘性力 Fx! および Fy! は、題意より " m! 2 ṙ + r2 θ̇2 − U (r) 2 Fx! = −kẋ , (1) Fy! = −kẏ (2) なので、散逸関数は " k! 2 " k! 2 ẋ + ẏ 2 = ṙ + r2 θ̇2 2 2 (1) と (3) を散逸関数のある場合の方程式 (3.127) すなわち D= d dt に代入すると、θ について # ∂L ∂ q̇j $ − (3) ∂L ∂D =− ∂qj ∂ q̇j (4) d ! 2 " mr θ̇ − 0 = −kr2 θ̇ dt すなわち (5) d ! 2 " k ! 2 " r θ̇ = − r θ̇ (6) dt m ! k " 1 1 2 を得る。面積速度はその意味から 2 r · r θ̇ = 2 r θ̇ であるから、これは面積速度が exp − m t で減衰することを 意味する。 —————- 面積速度の極座標表現は変数変換からも ! " ! "& 1 2 1 1% (xẏ − y ẋ) = r cos θ ṙ sin θ + r θ̇ cos θ − r sin θ ṙ cos θ − r θ̇ cos θ = r θ̇ 2 2 2 と求まる。 第3章 54 x y z ラグランジュ形式の力学 — 一般編 第 3 章— ラグランジュ形式の !"# x y z! z !"# z! z !! ξ φ θ η z !! ζ ξ ψ ξ φ θ η ψ φ θ φ θ ζ ! y y ψ z η ζ ψ ξ !! φ θ η ζ ψ φ θ x y !"#z φ θ ψ φ θ ψ φ θ ψ x !"#y (7) ψ x y !"#z φ θ ψ φ θ ψ φ θ ψ ξ η ζ x! !"# x y z ξ η 1 !! x!! x 図 3.3: オイラー角 3.4.2 y ! y !! コマの運動方程式 図 3.3: オイラー角 ζ x! 2 56を使ってもよい。ここから先は特殊関数の知識が必要となるので、ここではこれ以上立ち入らない。 第 3 章 ラグランジュ形式の力学 — 一般編 — 3.5.1 3.5 時間の並進対称性とエネルギー保存則 対称性と保存則 同じ実験を今始めても数秒後に始めても一ヶ月後に始めても、まったく同じ結果が得られるであろう14 。こ 第 2 章 2.2.2 節では循環座標を導入した。2 次元中心力場における極座標の θ はラグランジアンに含まれないた のような再現性がなければ自然科学は成り立たない。言い換えれば物理法則や自然定数は時々刻々変わらない。 % & め、運動方程式が d ∂L = 0 となり、これを一回積分して ∂L = const. を得た。これは具体的に mr2 θ̇ =const. dt ∂ θ̇ ∂ θ̇ 同じ結果が得られないとすれば、制御しきれていないゆらぎが混入しているか、あるいは時間とともに変化す 54という角運動量保存則となる。 第 3 章 ラグランジュ形式の力学 — 一般編 — る外力が働いて実験を再現することができない場合である。 一般に運動方程式を一回積分して得られる式を 運動の積分(integral of motion)または運動の第一積分、ま 3.5 対称性と保存則 いまポテンシャルが時間とともに変化しない場合を考える。その系のラグランジアンは t を陽に含まない。 たは単に積分と呼ぶ。その式が C(t, q1 , q2 , · · · , qn , q̇1 , q̇2 , · · · , q̇n ) =const. という形をとって時間 t に依存しな すなわち L = L(t, qj , q̇j ) ではなく L(qj , q̇2j次元中心力場における極座標の ) である。このとき (∂L/∂t) θ=はラグランジアンに含まれないた 0 だから、 第 2 章 2.2.2 節では循環座標を導入した。 くなるとき、この C を(その系の)保存量(conserved quantity)あるいは運動の恒量( constant of motion) ! " " # !" # d ∂L ∂L ! dL ∂Lqdq ∂L dq∂q̇jθ̇j が保存量となる。 ∂L dqj3.1.1 ∂L dqj という。循環座標が存在する系では、それを ∂L/∂ 節で一般座標 め、運動方程式が = ∂L 0 となり、これを一回積分して = const. を得た。これは具体的に mrq2jθ̇から一 =const. j として j dt ∂ θ̇ = + + = + (3.136) ∂t ∂qj dt ∂ q̇j pdt ∂qj dt ∂ q̇j dt 般運動量を pj ≡ ∂T /∂dt q̇j で定義した。保存力下でこれは という角運動量保存則となる。 j ≡ ∂L/∂ q̇j に等しいから、保存力下ではこちらの j j 方を一般運動量とする。解析力学特にハミルトン形式ではこの に対する共役な( conjugate)運動量 一般に運動方程式を一回積分して得られる式を 運動の積分(pintegral motion)または運動の第一積分、ま j を、qj of ∂L となる。この 12 にラグランジュの運動方程式を適用すると、 ∂qj と呼ぶ 。この言い方を使うと「循環座標と共役な運動量は運動の積分となる(保存量となる) 」と言える。 2 たは単に積分と呼ぶ。その式が C(t, q1 , q2 , · · · , qn , q̇1 , q̇2 , · · · , q̇n ) =const. という形をとって時間 t に依存しな % quantity! 次元中心力場ではCθ を(その系の)保存量( と共役な運動量は角運動量であるから、それが保存されるわけである。 くなるとき、この conserved )あるいは運動の恒量( ! $ d " ∂L # ∂L dq d ∂L d ! constant of motion) j = q̇j + = q̇j = pj q̇j (3.137) 循環座標はいつでも見つかるとは限らない。その存在は一般座標の選び方にも依るし、系そのものにも依る。 という。循環座標が存在する系では、それを q∂jq̇として dt ∂ q̇j dtq̇j が保存量となる。 ∂ q̇j dt3.1.1 j節で一般座標 qj から一 j dt ∂L/∂ j j 13 しかしよく知られているように、エネルギーや運動量や角運動量には保存則がある 。これらの基本的な保存 般運動量を p ≡ ∂T /∂ q̇ で定義した。保存力下でこれは p ≡ ∂L/∂ q̇ に等しいから、保存力下ではこちらの j j j j となる。 (3.136) と (3.137) の両端を結ぶと 則は座標の選び方にも系にも依らない。実はこれらの保存則は時間と空間の対称性の性質である。本節ではこ 方を一般運動量とする。解析力学特にハミルトン形式ではこの pj を、qj に対する共役な(conjugate)運動量 れらを導くとともに、その一般化であるネーターの定理を見て行く。 12 と呼ぶ 。この言い方を使うと「循環座標と共役な運動量は運動の積分となる(保存量となる) 」と言える。2 ! d 12 「一般」より「共役な」の方が「どの座標に対する?」を意識させる。次章のハミルトン形式の解析力学では座標と運動量まで混合し p q̇ − L = 0 (3.138) j j 次元中心力場では θ と共役な運動量は角運動量であるから、それが保存されるわけである。 dt て新たに一般座標と一般運動量を定義するので、その場合は単に共役な変数とも言う。すなわち pj は qj の、そして qj は pj の共役な変 j 数となる。 循環座標はいつでも見つかるとは限らない。その存在は一般座標の選び方にも依るし、系そのものにも依る。 13 もちろん保存力でなかったり散逸のある系では一見保存されない。しかしそれは力学以外の系が持ち逃げるのである。たとえば空気 である。そこで新たに 13 抵抗の下で止まってしまう質点の運動エネルギーは失われても、空気を暖めるという熱エネルギーに変換される。 しかしよく知られているように、エネルギーや運動量や角運動量には保存則がある 。これらの基本的な保存 ! H≡ pj q̇j − L (3.139) 則は座標の選び方にも系にも依らない。実はこれらの保存則は時間と空間の対称性の性質である。本節ではこ j れらを導くとともに、その一般化であるネーターの定理を見て行く。 と定義すると、(3.138) は H = const. を意味するので、H は運動の積分(系の保存量)となる。この H を ハミルトニアン(Hamiltonian)と呼ぶ。すなわち「ラグランジアンが時間の並進対称性を持つ」という仮定 3.5.1 時間の並進対称性とエネルギー保存則 だけから H の保存則が導かれた。この H が T + U すなわち全エネルギーに等しいことを見て行こう。 同じ実験を今始めても数秒後に始めても一ヶ月後に始めても、まったく同じ結果が得られるであろう14 。こ いまデカルト座標から一般座標への座標変換は時間を含まないとする。このときラグランジアンは、 のような再現性がなければ自然科学は成り立たない。言い換えれば物理法則や自然定数は時々刻々変わらない。 ! L(x , · · · , x , ẋ , · · · , ẋ ) = 1 m (ẋ )2 − U 1 n 1 n i i 同じ結果が得られないとすれば、制御しきれていないゆらぎが混入しているか、あるいは時間とともに変化す 2 i * + ! ∂xi ! ∂xi 1! = mi q̇j q̇k t − U いまポテンシャルが時間とともに変化しない場合を考える。その系のラグランジアンは を陽に含まない。 2 i ∂q ∂qk j j る外力が働いて実験を再現することができない場合である。 k すなわち L = L(t, qj , q̇j ) ではなく L(qj , q̇j ) である。このとき (∂L/∂t) = 0 だから、 1 !%! ∂x $ $ i ∂xi q̇j q̇k − U % = m i # # dL ∂L ∂L dqj ∂L2 dq̇j ∂L dq̇j ∂qj∂L ∂qdq k j + = + + j,k i= dt ∂t ∂qj dt ∂ q̇j dt ∂qj dt ∂ q̇j dt j (3.140) (3.130) j のようになる。ここで一般座標における質量テンソル Mjk を となる。この ∂L ∂qj にラグランジュの運動方程式を適用すると、 #& $ d ∂L = dt ∂ q̇j j で定義すると、ラグランジアンは % ! ∂xi ∂xi Mjk (q1 , · ·'· , qn ) ≡ mi # ∂q ∂q j k ∂L dq̇j d # ∂L d i q̇j + ∂ q̇j dt となる。(3.130) と (3.131) の両端を結ぶと となる。 = dt j ∂ q̇j q̇j = dt j 1! L(q1 , · · · , qn , q̇1 , · · · , q̇n ) = Mjk q̇j q̇k − U 2 # d dt j,k j pj q̇j − L = 0 pj q̇j (3.141) (3.131) (3.142) (3.132) 12 「一般」より「共役な」の方が「どの座標に対する?」を意識させる。次章のハミルトン形式の解析力学では座標と運動量まで混合し 14 量子力学における単一事象の観測を除く。 て新たに一般座標と一般運動量を定義するので、その場合は単に共役な変数とも言う。すなわち pj は qj の、そして qj は pj の共役な変 数となる。 13 もちろん保存力でなかったり散逸のある系では一見保存されない。しかしそれは力学以外の系が持ち逃げるのである。たとえば空気 抵抗の下で止まってしまう質点の運動エネルギーは失われても、空気を暖めるという熱エネルギーに変換される。 14 量子力学における単一事象の観測を除く。 d ! pj q̇j − L = 0 dt j である。そこで新たに H≡ ! j (3.138) (3.139) pj q̇j − L と定義すると、(3.138) は H = const. を意味するので、H は運動の積分(系の保存量)となる。この H を ハミルトニアン(Hamiltonian)と呼ぶ。すなわち「ラグランジアンが時間の並進対称性を持つ」という仮定 だけから H の保存則が導かれた。この H が T + U すなわち全エネルギーに等しいことを見て行こう。 いまデカルト座標から一般座標への座標変換は時間を含まないとする。このときラグランジアンは、 L(x1 , · · · , xn , ẋ1 , · · · , ẋn ) = = 1! mi (ẋi )2 − U 2 i * + ! ∂xi ! ∂xi 1! mi q̇j q̇k − U 2 i ∂qj ∂qk j k = 1 ! ! ∂xi ∂xi mi q̇j q̇k − U 2 ∂qj ∂qk i (3.140) j,k のようになる。ここで一般座標における質量テンソル Mjk を Mjk (q1 , · · · , qn ) ≡ で定義すると、ラグランジアンは ! L(q1 , · · · , qn , q̇1 , · · · , q̇n ) = mi i ∂xi ∂xi ∂qj ∂qk (3.141) 1! Mjk q̇j q̇k − U 2 (3.142) j,k となる。 14 量子力学における単一事象の観測を除く。 3.5. 対称性と保存則 57 さてハミルトニアンとの関係を見るのであるから、ここでポテンシャル U が座標の時間微分を含まず座標の みの関数であるとしよう。(3.142) の U は U (q1 , · · · , qn , q̇1 , · · · , q̇n ) でなく U (q1 , · · · , qn ) となる。すると ! ! ∂L 1! 1 ! pm ≡ = Mjk (δjm q̇k + q̇j δkm ) = Mmk q̇k + Mjm q̇j = Mmk q̇k (3.143) ∂ q̇m 2 2 j,k j k k となる。最後の等式は質量テンソルが対称テンソルであることを用いた。これを使うと (3.139) は、( 3.142) も 援用して、 H≡ ! j pj q̇j − L = !! j k Mjk q̇k q̇j − L = 2(L + U ) − L = T + U (3.144) となって、エネルギー保存則が一般的に導かれた。 ポテンシャルが時間に依存する場合に、そのポテンシャルを作っているもののエネルギー変化を無視して系 のエネルギーだけ見るならば、そのエネルギーは保存しない。しかし全エネルギーを見るならば保存する。そ の保存の由来は、全系の再現実験を今日行おうと明日行おうと変わらないという時間の並進対称性にある。 3.5.2 空間の並進対称性と運動量保存則 ラグランジアンに空間的並進対称性があるとしよう。この節から 3.5.4 節までは質点の番号を i とし、質点 i の位置ベクトルを ri とする。いま ri を新たに ri +δri に変えたとしよう。どの質点も(i にかかわらず)一斉 に δri = ∆r(∆ は微小な数、r は定ベクトル)だけ動かしたとしても、それに伴うラグランジアンは変化しな いから、 δL = N N ! ! ∂L ∂L · δri = ∆r · =0 ∂r ∂r i i i=1 i=1 である。微小変位ベクトル ∆r は勝手にとってよいので、これは &N ∂L i=1 ∂ri (3.145) = 0 を意味する。するとラグラン のエネルギーだけ見るならば、そのエネルギーは保存しない。しかし全エネルギーを見るならば保存する。そ の保存の由来は、全系の再現実験を今日行おうと明日行おうと変わらないという時間の並進対称性にある。 3.5.2 空間の並進対称性と運動量保存則 ラグランジアンに空間的並進対称性があるとしよう。この節から 3.5.4 節までは質点の番号を i とし、質点 i の位置ベクトルを ri とする。いま ri を新たに ri +δri に変えたとしよう。どの質点も(i にかかわらず)一斉 に δri = ∆r(∆ は微小な数、r は定ベクトル)だけ動かしたとしても、それに伴うラグランジアンは変化しな いから、 δL = N N ! ! ∂L ∂L · δri = ∆r · =0 ∂r ∂r i i i=1 i=1 である。微小変位ベクトル ∆r は勝手にとってよいので、これは ジュの運動方程式より N N N ! ! ∂L d ∂L d ! ∂L = = =0 ∂ri dt ∂ ṙi dt i=1 ∂ ṙi i=1 i=1 これは全運動量保存則にほかならない。 ⇒ &N ∂L i=1 ∂ri (3.145) = 0 を意味する。するとラグラン N N ! ! ∂L = pi = const. ∂ ṙi i=1 i=1 (3.146) もし外力やポテンシャルが空間の位置に依存する場合、それを作っているものの運動量変化を無視して系の 運動量だけ見るならば、その運動量は保存しない。しかし全運動量を見るならば保存する。その保存の由来は、 全系を再現する実験を宇宙のどこで行おうと変わらないという空間の並進対称性にある。 3.5.3 空間の回転対称性と角運動量保存則 ラグランジアンに空間の回転対称性があるとしよう。微小回転 δφ に対しラグランジアンは変化しない。微小 $ で表す。すなわち δ φ $ を回転軸とし、回転角は δφ ≡ |δ φ| $ である。ベクトル解析で 回転を微小回転ベクトル δ φ $ としたと思えばよい。 は角速度ベクトルを図 3.4 右図で表すが、その回転運動を δt だけ行い、ω $ δt のことを δ φ 回転前の質点 P の位置ベクトル r およびその時間微分 ṙ は、δφ第の回転後は 58 3 章 ラグランジュ形式の力学 — 一般編 — ' ( ' ( $ × r , ṙ + δ ṙ = ṙ + δ φ $ × ṙ r + δr = r + δ φ (3.147) 3.5.3 空間の回転対称性と角運動量保存則 ラグランジアンに空間の回転対称性があるとしよう。微小回転 δφ に対しラグランジアンは変化しない。微小 # で表す。すなわち δ φ # を回転軸とし、回転角は δφ ≡ |δ φ| # である。ベクトル解析で 回転を微小回転ベクトル δ φ # としたと思えばよい。 は角速度ベクトルを図 3.4 右図で表すが、その回転運動を δt だけ行い、ω # δt のことを δ φ !"#$%&!! !' *-.#$%&! !' "! !!! ()*+!!! ()*""!!! !' !' ! !!""+,!! #' #$!"!""$#"!' #' !!!"!!!"#"!' !' !' "' "' 図 3.4: 微小角 δφ の回転 回転前の質点 P の位置ベクトル r およびその時間微分 ṙ は、δφ の回転後は ! " #×r , r + δr = r + δ φ となる。これに対しラグランジアンの変化は δL = = N $ # ∂L ! " # × ṙ ṙ + δ ṙ = ṙ + δ φ % # $ %' N & " ∂L dpi ! # dri # · δri + · δ ṙi = · δ φ × ri + pi · δ φ × ∂ri ∂ ṙi dt dt i=1 i=1 % N $ N # # dpi dri #· #· d δφ ri × + × pi = δ φ (ri × pi ) dt dt dt i=1 i=1 (3.147) (3.148) (3.149) 回転前の質点 P の位置ベクトル r およびその時間微分 ṙ は、δφ の回転後は ! " #×r , r + δr = r + δ φ となる。これに対しラグランジアンの変化は δL ∂L · δ ṙi ∂ ṙi · δri + % (3.147) $ %' N & " # dpi ! # # × dri · δ φ × ri + pi · δ φ ∂ri dt dt i=1 i=1 $ % N N # # dpi dri #· #· d = δφ ri × + × pi = δ φ (ri × pi ) dt dt dt i=1 i=1 = N $ # ∂L ! " # × ṙ ṙ + δ ṙ = ṙ + δ φ = (3.148) (3.149) # は任意に選べるので、これは となる。微小回転ベクトル φ N # i=1 (ri × pi ) = const. (3.150) を意味する。これは角運動量保存則にほかならない。 もし外力やポテンシャルが空間の方向に依存する場合、それを作っているものの角運動量変化を無視して系 の角運動量だけ見るならば、その角運動量は保存しない。しかし全角運動量を見るならば保存する。その保存 の由来は、全系を再現する実験をどの方向に向いて行おうと変わらないという空間の回転対称性にある。 3.5. 対称性と保存則 3.5.4 59 ネーターの定理 3.5.1 節から 3.5.3 節までの話を一般化したのがネーターの定理である。いま一般座標 q に対し、あるパラ メーター α — これは 3.5.2 節では ∆ に相当し 3.5.3 節では δφ に相当する — で特徴づけられる変換 q → q(α) を考える。この変換に対しラグランジアンが不変であるためには dL(q(α),q̇(α)) dα = 0 ということになり、 dL(q(α), q̇(α)) ∂L(q(α), q̇(α)) ∂q(α) ∂L(q(α), q̇(α)) ∂ q̇(α) = + =0 dα ∂q(α) ∂α ∂ q̇(α) ∂α (3.151) である。ここで α → 0 とすればこれは = = ! ! ∂L(q, q̇) ∂q(α) !! ∂L(q, q̇) ∂ q̇(α) !! + ! ∂q ∂α α=0 ∂ q̇ ∂α !α=0 ! ! " # " # d ∂L(q, q̇) ∂q(α) !! ∂L(q, q̇) d ∂q(α) !! + ! ! dt ∂q ∂α α=0 ∂ q̇ dt ∂α α=0 ! " # d ∂L(q, q̇) ∂q(α) !! =0 dt ∂q ∂α !α=0 となる。いま一つの一般座標 q についてこのようになったので、qj (j = 1, 2, · · · n) の場合は適宜 最終的には となる。すなわち ! n d ' ∂L(q, q̇) ∂q(α) !! =0 dt ∂q ∂α !α=0 j ! n ' ∂L(q, q̇) ∂q(α) !! = const. ∂q ∂α !α=0 j (3.152) (3.153) (3.154) $n j が入り、 (3.155) (3.156) となる。これがネーターの定理(Noether’s theorem)である。 たとえば空間の並進対称性の場合は α = ∆ として、ri (∆) = ri + ∆r とすれば、(3.156) 式は (3.146) を導く。 また空間の回転対称性の場合は、α = δφ として、極座標(z も含めれば円筒座標)で xi (δφ) = ri cos(θi + δφ) および yi (δφ) = ri sin(θi + δφ) とすれば、(3.156) 式は (3.150) を導く。 61 第 4 章 ハミルトン形式の力学 61 ラグランジュ形式の力学ではニュートン力学と同様、具体的な運動方程式は座標 x や q の 2 階の微分方程式 になった。しかし 3.2.2 節のパラメトリック励振を扱ったとき、振り子の振れ角 θ に関する 2 階の微分方程式 第 4 章 ハミルトン形式の力学 (3.66) を解く代わりに、(3.67) のように θ とその時間変化 v に関する 1 階の連立微分方程式に分解した。そう したのは定数変化法で振幅と位相の微分方程式にするときに、θ の 2 階の微分方程式を使うより θ と v の 1 階 の連立微分方程式を使った方がうまく解けるからであった。 ラグランジュ形式の力学ではニュートン力学と同様、具体的な運動方程式は座標 x や q の 2 階の微分方程式 2 階の微分方程式を 1 階の連立微分方程式に分解するのは計算の便法のように見えるが、それだけではない。 になった。しかし 3.2.2 節のパラメトリック励振を扱ったとき、振り子の振れ角 θ に関する 2 階の微分方程式 一般に解の構造を大局的に見たいときは、座標の時間依存性だけを追うより座標とその速度の関係を見る方が便 (3.66) を解く代わりに、(3.67) のように θ とその時間変化 v に関する 1 階の連立微分方程式に分解した。そう 利である。たとえば質点の座標がわかったとしても、速度ベクトルがわからない限り質点の運動は決まらない。 したのは定数変化法で振幅と位相の微分方程式にするときに、θ の 2 階の微分方程式を使うより θ と v の 1 階 すなわち座標空間 — 質点一つなら実空間、質点 N 個の場合は xi が張る 3N 次元の配位空間(configuration の連立微分方程式を使った方がうまく解けるからであった。 space)— での軌跡(trajectory)の群を見ると、それらは一般に無数に交差するであろう。一本の軌跡が自分 2 階の微分方程式を 1 階の連立微分方程式に分解するのは計算の便法のように見えるが、それだけではない。 自身と交差することもあるだろう。そのような軌跡だけを見ても、軌跡の各点をどんな速度で動くかはわから 一般に解の構造を大局的に見たいときは、座標の時間依存性だけを追うより座標とその速度の関係を見る方が便 ない。時間とともに点が動くアニメーションを伴っていれば運動の情報としては完全になるが、それでも無数 利である。たとえば質点の座標がわかったとしても、速度ベクトルがわからない限り質点の運動は決まらない。 に交わる軌跡群から運動の構造を理解するのは容易ではないだろう。 すなわち座標空間 — 質点一つなら実空間、質点 N 個の場合は xi が張る 3N 次元の配位空間(configuration これに対し、座標と速度を独立した変数としてプロットする空間を考えると、その中の一点からその後およ space)— での軌跡(trajectory)の群を見ると、それらは一般に無数に交差するであろう。一本の軌跡が自分 びその前の運動が決まるので、軌跡は交わることもないし、アニメーションにしなくても時間情報を含んでい 自身と交差することもあるだろう。そのような軌跡だけを見ても、軌跡の各点をどんな速度で動くかはわから る。こうすれば、たとえば運動が位置的にあるいは速度的に局在しているか広域にわたるかなど、運動のあり ない。時間とともに点が動くアニメーションを伴っていれば運動の情報としては完全になるが、それでも無数 方が位相空間内で棲み分けする様子がわかる。次元が 2 倍に増えてしまう代償はそれを補ってあまりある。 に交わる軌跡群から運動の構造を理解するのは容易ではないだろう。 ここで、本当に座標とペアになる変数は「速度」でいいかという問題がある。座標と「それに共役な運動量」 これに対し、座標と速度を独立した変数としてプロットする空間を考えると、その中の一点からその後およ というペアの方がよいことはないか。デカルト座標では、質量 m が時間とともに変化しない限り速度と運動量 びその前の運動が決まるので、軌跡は交わることもないし、アニメーションにしなくても時間情報を含んでい は同義語だから、この違いはさしたる意味はない1 。しかし一般座標になると、q̇j と pj は別物である2 。質点 る。こうすれば、たとえば運動が位置的にあるいは速度的に局在しているか広域にわたるかなど、運動のあり の運動を支配しているラグランジアンは qj と q̇j の関数である3 が、これに対し qj と pj の何らかの関数が運動 方が位相空間内で棲み分けする様子がわかる。次元が 2 倍に増えてしまう代償はそれを補ってあまりある。 を支配するような形式の力学はないか? ここで、本当に座標とペアになる変数は「速度」でいいかという問題がある。座標と「それに共役な運動量」 本章で展開するハミルトン形式の力学は独立変数を qj と q̇j のペアから qj と pj のペアに変えるものである。 というペアの方がよいことはないか。デカルト座標では、質量 m が時間とともに変化しない限り速度と運動量 そこでラグランジアンの代わりに運動を規定する役割を担う新しい関数がハミルトニアンとなる。運動方程式 は同義語だから、この違いはさしたる意味はない1 。しかし一般座標になると、q̇j と pj は別物である2 。質点 は qj と pj に関するものになるが、得られる運動方程式は qj と pj に関し対称となり、しかも時間に関し 1 階の の運動を支配しているラグランジアンは qj と q̇j の関数である3 が、これに対し qj と pj の何らかの関数が運動 連立微分方程式になる。ハミルトン形式を使うと問題が解きやすくなる例はもちろんあるが、ハミルトン形式 を支配するような形式の力学はないか? の意義はそれよりは、力学を超えてあらゆる物理 — 量子力学にまで — 繋がる点にあり、理論上重要となる。 本章で展開するハミルトン形式の力学は独立変数を qj と q̇j のペアから qj と pj のペアに変えるものである。 そこでラグランジアンの代わりに運動を規定する役割を担う新しい関数がハミルトニアンとなる。運動方程式 [問 4.1]球座標 r, θ, φ と共役な運動量 pr , pθ , pφ を用いて質量 m の質点の運動エネルギーを " は qj と pj に関するものになるが、得られる運動方程式は 1 階の 1 ! 2 qj と p 2j に関し対称となり、しかも時間に関し 2 T = A p r + B p θ + C pφ (4.1) 2m 連立微分方程式になる。ハミルトン形式を使うと問題が解きやすくなる例はもちろんあるが、ハミルトン形式 とするとき、 A(r, θ, φ)、B(r, θ, φ)、C(r, θ, φ) を求めよ。 の意義はそれよりは、力学を超えてあらゆる物理 — 量子力学にまで — 繋がる点にあり、理論上重要となる。 1問 4.3 参照 [問 r, θ, φ と共役な運動量 pr , pθ , pφ を用いて質量 m の質点の運動エネルギーを 2 問 4.1 4.1]球座標 参照 3 ポテンシャル自体が時間 t に直接依存する場合は時間の関数でもあるが、いまポテンシャルは時間に依存しないとする。 " 1 ! T = 2m A p2r + B p2θ + C p2φ とするとき、 A(r, θ, φ)、B(r, θ, φ)、C(r, θ, φ) を求めよ。 1問 4.3 参照 4.1 参照 3 ポテンシャル自体が時間 t に直接依存する場合は時間の関数でもあるが、いまポテンシャルは時間に依存しないとする。 2問 (4.1) 第 4 章 ハミルトン形式の力学 60 4.1 正準方程式 60 ハミルトン形式の力学の中心をなすのは正準方程式である。それを導くにはラグランジアンのルジャンドル 第 4 章 ハミルトン形式の力学 変換としてハミルトニアンを導く方法と、ハミルトンの原理に基づき変分法を使う方法がある。変分法は第 1,2 4.1 正準方程式 章で頻繁に使ったので、あらためて変分法を使うよりルジャンドル変換を使う方がよいだろう。ここでは前者 ハミルトン形式の力学の中心をなすのは正準方程式である。それを導くにはラグランジアンのルジャンドル で導く。また正準方程式の使い方の簡単な例を通じて、位相空間での軌跡の読み方に親しみ、次節の正準変換 変換としてハミルトニアンを導く方法と、ハミルトンの原理に基づき変分法を使う方法がある。変分法は第 1,2 への準備とする。 章で頻繁に使ったので、あらためて変分法を使うよりルジャンドル変換を使う方がよいだろう。ここでは前者 で導く。また正準方程式の使い方の簡単な例を通じて、位相空間での軌跡の読み方に親しみ、次節の正準変換 4.1.1 ルジャンドル変換 — 独立変数の変更 — への準備とする。 qj と q̇j のペアから qj と pj のペアに変えるということは、qj と q̇j と pj の三つは独立ではないということで ある。だからその関係式を使って、qj と q̇j の何らかの関数 — たとえばラグランジアン — をそのまま qj と 4.1.1 ルジャンドル変換 — 独立変数の変更 — pj の関数として書き下すことはできる。しかしここでいう「独立変数の変更」とはそれだけのことではない。 qしばらく添え字 qj と pj のペアに変えるということは、qj と q̇j と pj の三つは独立ではないということで j は一つに決めたとして、式を簡明にするために落とそう。いま q が q + dq になり(かつそ j と q̇j のペアから ある。だからその関係式を使って、 qj と q̇j の何らかの関数 — たとえばラグランジアン — をそのまま qj と れとは独立に)q̇ が q̇ + dq̇ になったとき、ラグランジアンが L+ dL になったとしよう。このとき pj の関数として書き下すことはできる。しかしここでいう「独立変数の変更」とはそれだけのことではない。 ∂L ∂L dL(q, q̇) = dq + dq̇ (4.2) ∂q ∂ q̇ しばらく添え字 j は一つに決めたとして、式を簡明にするために落とそう。いま q が q + dq になり(かつそ れとは独立に) q̇ が q̇L+の微小変化は dq̇ になったとき、ラグランジアンが L + dL になったとしよう。このとき となる。この式は「 q の微小変化と(それと独立な) q̇ の微小変化だけが関わっている」こと を示し、q と q̇ が独立変数であることを端的に物語っている。この ∂L ∂L L(q, q̇) に何らかの関数 H(q, p) を対応させ dL(q, q̇) = dq + dq̇ (4.2) ∂q ∂ q̇ ∂H ∂H dH(q, p) = dq + dp (4.3) ∂q ∂p となる。この式は「L の微小変化は q の微小変化と(それと独立な) q̇ の微小変化だけが関わっている」こと を示し、 q と q̇ が独立変数であることを端的に物語っている。この L(q, q̇) に何らかの関数 H(q, p) を対応させ という表現が得られれば、初めて独立変数を q と p のペアに変えたと言えるだろう。このとき、当該力学系の 性質を L(q, q̇) が特徴づけているのと同様、H(q, p) はその力学系の全てを特徴づけている必要がある。そのよ ∂H ∂H dH(q, p) = dq + dp (4.3) ∂q ∂p transform)という。ルジャンドル変換は力 うな L(q, q̇) から H(q, p) への変換をルジャンドル変換(Legentre という表現が得られれば、初めて独立変数を q と p のペアに変えたと言えるだろう。このとき、当該力学系の 学系に限らない概念なので、一般的な書き方をしよう。さしあたり q はそのままで q̇ から p ≡ ∂L/∂ q̇ に変数 性質を L(q, q̇) が特徴づけているのと同様、 p) はその力学系の全てを特徴づけている必要がある。そのよ を変更したいので、 q̇ を x と書き、L(q̇) を fH(q, (x) と書き、 p ≡ ∂L/∂ q̇ を u ≡ df /dx と書いて変数一つの問題に うな L(q, q̇) から H(q, p) への変換をルジャンドル変換(Legentre transform)という。ルジャンドル変換は力 する。 学系に限らない概念なので、一般的な書き方をしよう。さしあたり q はそのままで q̇ から p ≡ ∂L/∂ q̇ に変数 y = f (x) という関数関係において、x の各点において微分係数を u ≡ df /dx とすると を変更したいので、q̇ を x と書き、L(q̇) を f (x) と書き、p ≡ ∂L/∂ q̇ を u ≡ df /dx と書いて変数一つの問題に df = u dx (4.4) する。 y = f (x) という関数関係において、 x の各点において微分係数を u ≡ df /dx である。これは「 u を固定して x が自由に dx だけ動いたとき f は従属的に dfとすると だけ変化する」ことを意味す る(図 4.1 左)。ここで f も u も x の関数である。さて、x の値と u の値が1対1対応している場合を考える。 df = u dx (4.4) このようなことが起こるのは u(x) が単調増加関数または単調減少関数のときである。f で言えば、x のいたる である。これは「 u を固定して x が自由に dx だけ動いたとき f は従属的に df だけ変化する」ことを意味す 所で f (x) が下に凸か上に凸のときである。さてこのような場合、 u を指定すれば x を指定したことになるの る(図 4.1 左) 。ここで f も u も x の関数である。さて、x の値と u の値が1対1対応している場合を考える。 で、変数を u に変えて問題を表現する方法があるはずである。ここで「 x を固定して u が自由に du だけ動い このようなことが起こるのは u(x) が単調増加関数または単調減少関数のときである。 たとき従属的に変化する」ような関数 g(u) を構成することができるだろうか。つまりf で言えば、x のいたる 所で f (x) が下に凸か上に凸のときである。さてこのような場合、u を指定すれば x を指定したことになるの dg = x du (4.5) で、変数を u に変えて問題を表現する方法があるはずである。ここで「x を固定して u が自由に du だけ動い たとき従属的に変化する」ような関数 g(u) を構成することができるだろうか。つまり となる g とは何だろうか。図 4.1 右の図からそれは f (x) の接線の y 切片(の符号を変えたもの)であること がすぐわかるだろう。少していねいに書くと、点 (x0 , f (x0 )) を通る接線を y = ax + b とすると、a = u(x0 ) か dg = x du (4.5) となる g とは何だろうか。図 4.1 右の図からそれは f (x) の接線の y 切片(の符号を変えたもの)であること 4.1. 正準方程式 61 がすぐわかるだろう。少していねいに書くと、点 (x0 , f (x0 )) を通る接線を y = ax + b とすると、a = u(x0 ) か つ b = f (x0 ) − x0 u(x0 ) であることがすぐ計算できる。この b にマイナスを付けて g ≡ −b とすると、 g(x0 ) = x0 u(x0 ) − f (x0 ) (4.6) 4.1. 正準方程式 61 つ b = f (x0 ) − x0 u(x0 ) であることがすぐ計算できる。この b にマイナスを付けて g ≡ −b とすると、 g(x0 ) = x0 u(x0 ) − f (x0 ) (4.6) となる。f (x) が x の凸関数とすれば、u を指定すれば x0 は決まるので、x0 は u の関数である。 y f (x0 ) ux − g y = f (x) という関数関係において、 y y = f (x) という関数関係において、 y = ux − g df y = ux − g f /dx とすると =x ) x0 f (x0 ) =x ) x0 ux − g )x − (g + dg) y = (u + du)x − (g + dg) 図 4.1: 左:u 固定の下、x の微小変化 dx に対する f の変化 df (= u dx)。右:x 固定の下で u が微小変化したとき dg = x du となる g は f の接線の y 切片であることを示す図。 したがって (4.6) を単に g = xu − f (4.7) と書いたとき、両辺とも u の関数と考えることができる。両辺の全微分をとれば、 dg = d(xu) − df = x du + u dx − u dx = x du (4.8) となって、確かに (4.5) が実現される。これをルジャンドル変換という。図 4.1 の右の図は x = x0 の点につい て描いたが、x が動くにつれ y 切片 g は u(≡ df /dx) の関数として動く。その様子を図 4.2 に示す。g(u) のル ジャンドル変換をとれば f (x) に戻ることも示すことができる。つまり g(u) は f (x) の全情報を完全に保って いる。 y 62 y = f (x) という関数関係において、 の各点において微分係数を u ≡ df /dx とすると 第 4 章 ハミルトン形式の力学 =x y y = f (x) という関数関係において、 的に変化する」ような関数 xu − g(u) を構成することができるだろうか。つまり の各点において微分係数を u ≡ df /dx とすると 図 4.2: f から g へのルジャンドル変換 =x 的に変化する」ような関数 xu − g(u) を構成することができるだろうか。つまり ちなみに、全情報を保ちながら変数がすっかり変わってしまう変換の例としてラプラス変換やフーリエ変換 がある。これらの積分変換は、関数 f が x の全域で定められないと変換ができない。一方で単なる変数変換 のように、x の一点における f の値を教えてもらっただけでその x における変数変換ができるものもある。ル 図 4.2: f から g へのルジャンドル変換 ジャンドル変換は大域的積分変換ではないが、f の値だけでなく導関数 u の値も知らなければ — すなわち点 x の近傍の様子も知らなければ — 変換できない。 ちなみに、全情報を保ちながら変数がすっかり変わってしまう変換の例としてラプラス変換やフーリエ変換 がある。これらの積分変換は、関数 f が x の全域で定められないと変換ができない。一方で単なる変数変換 のように、x の一点における f の値を教えてもらっただけでその x における変数変換ができるものもある。ル ジャンドル変換は大域的積分変換ではないが、f の値だけでなく導関数 u の値も知らなければ — すなわち点 x の近傍の様子も知らなければ — 変換できない。 ところで図 4.1 右の図から、f (x) が下に凸の関数であれば y 切片は単調に負の方向に行く — g は単調に増 加する — ことがわかる。そればかりでなく、g は凸関数であることもすぐわかる。これは f (x) が上に凸の関 数でも同じである。したがって g(u) もルジャンドル変換できるが、その結果は f (x) に戻る。 [問 4.2]g(u) が凸関数であることおよびルジャンドル変換が f (x) に戻ることを示せ。 f (x1 , · · · , xn ) のように変数がたくさんあって、その中の xi だけ独立変数を ui ≡ ∂f /∂xi に変更したい場合は g = xi ui − f (4.9) [問 4.2]g(u) が凸関数であることおよびルジャンドル変換が f (x) に戻ることを示せ。 f (x1 , · · · , xn ) のように変数がたくさんあって、その中の xi だけ独立変数を ui ≡ ∂f /∂xi に変更したい場合は g = xi ui − f (4.9) dg = u1 dx1 +, · · · , +ui−1 dxi−1 + xi dui + ui+1 dxi+1 +, · · · , +un dxn (4.10) がルジャンドル変換となる。このとき全微分は のように、i 番目だけ独立変数が変更されている。これは熱力学で言えば、たとえば内部エネルギー E(S, V, N ) をルジャンドル変換してヘルムホルツの自由エネルギー F (T, V, N ) を得るときのように、エントロピー S だ け独立変数を温度 T に変更したい場合、F = E − T S とルジャンドル変換することに相当する。そうすれば dE = T dS − P dV + µ dN ⇒ dF = −S dT − P dV + µ dN (4.11) のように1カ所だけ独立変数を変更したことになる4 。 すべての i についてルジャンドル変換したければ (4.9) の代わりに g= ! i とすればよい。 xi ui − f [問 4.3]1 次元の直線運動をする質点の運動エネルギー T (ẋ) = m 2 ẋ 2 (4.12) の独立変数 ẋ を運動量 p ≡ ∂T /∂ ẋ に変更しルジャ ンドル変換せよ。(結果は単に ẋ から p へ変数変換したのと同じになる。これはデカルト座標の特徴である。) 4 見て分かる通り、熱力学では習慣的に符号が異なった定義であるが。
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