複雑な形状をもつ岩石海岸における侵食速度の定 - JoRAS

2015年度 CSIS 共同研究
No. 598
複雑な形状をもつ岩石海岸における侵食速度の定
量化
報告書
2015年05月
研究代表者
株式会社ビジョンテック/主席研究員/小花和 宏之
共同研究員
東京大学空間情報科学研究センター/准教授/早川 裕弌
CSIS教員
早川 裕弌
CSIS 共同研究「複雑な形状をもつ岩石海岸における侵食速度の定量化」
研究代表者 小花和 宏之
受入 CSIS 教員 早川 裕弌
共同研究報告書(2015 年度)
研究内容
地上に設置した観測機器では、一般にその起点からの視野に計測範囲は規定される。しかしな
がら、アクセス困難な対象地や、オーバーハングした構造も含めた複雑な急斜面の計測は、地上
ベースの観測機器だけでは困難な場合も多く考えられる。一方、小型 UAV を活用した低空からの
空撮画像を用いて、対象の 3 次元構造を計測することが可能となってきている。本研究では、地形
変化の生じている複雑な形状をもつ岩石海岸を対象に、小型 UAV を用いた計測を複数回行い、そ
の侵食速度を定量化すること目的とする。ここで計測結果の校正方法として、地上レーザ測量と高
精度 GNSS を併用することで、その精度を担保する。対象地は九十九里海岸南部に連なる急崖で
ある太東崎の中央付近に位置する小型の陸繋島(通称・雀島)である。近辺の海食崖においては、
その基部に消波堤が設置され、波による恒常的な侵食が起きにくくなっているが、雀島においては
その周囲に消波堤はなく、現在でもほぼ自然な状態での侵食速度が観察可能な場となっている。
島は海に面した三方に海食崖が発達しており、特に陸とは反対側の東側は直接観察することはで
きず、徒歩による踏査もほぼ不可能である。しかしながら、小型 UAV を用いることで、陸側からの観
測がほぼ不可能な、海側の海食崖やその基部に大きく広がる波食棚、あるいはオーバーハングし
た海食洞など島の複雑な地形のさまざまな構成要素が観測可能となる。
研究結果
雀島およびその周辺を対象に、UAV­SfM 測量および TLS 測量(GNSS 計測を含む)を実施し
た。一般に UAV あるいは搭載するカメラに付属した GNSS は単独測位方式のためその位置精度
は低い。そこで、UAV­SfM 測量における GCP として高精度 GNSS の測量結果を用いることで、
その位置精度を向上させた。その結果、UAV­SfM 測量結果は、高解像度かつ高精度な TLS 測量
結果と同程度の解像度と精度を担保することができた。
次に、以上の手法により複数時期で 3 次元モデルを作成し、その差分を計算することで、対象期
間における地形変化量の定量化を試みた。雀島は一部の斜面でオーバーハング(海食洞など)して
いる箇所があり、2 時期の DSM の差分による手法では変化量の計算ができない。すなわち、DSM
は一つの座標に一つの高さ情報しか保持することができず、たとえば海食洞のように、同一座標に
島の表面、海食洞の天井面、海食洞の底面、といった逆傾斜を持つ地形形状を表現することができ
ない。そこで、3 次元データを複数の平面に投影することで地形的遮蔽部(外から見えない斜面)を
無くし、各投影面上で DSM 差分を取り、その変化量を計算した。以上の結果、これまで地上からは
見ることも、計測することもできなかった場所において、高精度かつ詳細に地形変化量を定量化す
ることに成功した。
今後の展望
雀島の UAV­SfM、TLS、GNSS 同時計測は、現在も定期的に継続している。今後さらにデータ
を蓄積し、地形変化量とその誘因と考えられるイベント(降雨、地震、波浪など)の対応関係を精査
することで、これまで得ることができなかった詳細な現地データに基づく、海食崖における地形変化
メカニズムの解明が期待される。本研究は、技術開発のみならず、その技術を用いることで初めて
実現することが可能となる研究手法の実証、さらには UAV 測量を軸とする新たな研究分野を提唱
する上で、重要なものだと考えられる。