自由論題 2 「東・東南アジアの経済」 報告 1 苅込俊二(早稲田大学助手) 「東アジア中所得経済の持続的成長の基盤・条件」 開発経済学は、ある国・経済が経済発展を遂げる過程と要因を分析し、そこから一般的 な普遍性や政策的含意を探求する学問である。その探求を通じて、貧困にあえぐ低開発国・ 経済を経済的離陸に導き、世界全体で貧困を解消していくことが現在に至るまで最重要課 題となってきた。第二次大戦後、先進国による援助や国連や世界銀行などを中心とする貧 困削減の取り組みなどを通じて、「貧困の罠」を脱した国は少なくない。しかしながら、 その後、国際機関や開発経済学者が直面した事象は、経済的離陸を果たした国において中 所得段階に達してから成長が鈍化し、発展が停滞してしまうケースが少なくないことであ った。こうした状況は「中所得国の罠(middle income trap)」と呼ばれ、現在、中所得段 階にある国々の発展可能性を論じる上で重要なキーワードとなっている。 では、アジアを中心とする中所得国・経済が「中所得国の罠」を回避し、持続的発展を 続けていくためにはどうすればよいか。これについては、投資や労働といった生産要素投 入型の成長から生産性を主導とするものに成長パターンを転換する必要がある点でコンセ ンサスが得られている。ただし、いかにして生産性を向上させていくのかについて、既存 研究では幅広い中所得国を一括りにして議論するため、中所得国・経済の捉え方がぼやけ てしまう上、「罠克服のための要件・基盤をどの時点で整備するのか」という順序や優先 度に関する議論が見過ごされてきた。 本報告では、経済発展段階を念頭に置き、中所得の上位及び下位段階で備えるべき要件 を、①人的資本蓄積のための教育・研修制度、②効率的な取引を可能とする制度・ガバナ ンス、③革新的技術を生み出すイノベーション・システムを切り口として、東アジア中所 得経済がそれらをどの程度具備しているか、今後注力すべき要件は何かについて検討する。
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