ネヴァー・イノセント ID:88835

ネヴァー・イノセント
岸辺繁
︻注意事項︼
このPDFファイルは﹁ハーメルン﹂で掲載中の作品を自動的にP
DF化したものです。
小説の作者、
﹁ハーメルン﹂の運営者に無断でPDFファイル及び作
品を引用の範囲を超える形で転載・改変・再配布・販売することを禁
じます。
︻あらすじ︼
懐かしのPHANTASY STER UNIVERSからNP
Cカップリング
タイラーxイーサン
筆者が別名義で2008年頃運営していたサイトで掲載していた
ものになります。
たしかPSPoくらいの時期のネタ
#0 sideタイラー │││││││││││││││││
目 次 #1 sideイーサン │││││││││││││││││
1
#2 sideイーサン ︻完結︼ ││││││││││││
5
10
#0 sideタイラー
愛してる愛してると繰り返し囁きながら愛を交わせたら、と思う。
彼と寝る日はいつもこうだ。目尻に涙の後を残し、乱れきって
今日も苛めるように犯し、泣かせてしまった。何が悪かったのだろ
うか
眠る彼をいとしいとは思っても、憎いと思ったことなどないのに。
それとも、これが君の望む私と君の関係なのか
﹁⋮⋮イーサン﹂
その額に掛かる赤毛の一房を指を絡める。
い、なのに彼を思うほど心は揺れて。
10歳以上も離れた、しかも少年に
こんな感情は認めてはいけな
んな想いが募って、これは恋なんじゃないか、それは違うと悩んだ。
いけれど、守ってやりたいと思った。何度か行動を共にするうち、そ
に少しあさはかで。放ってはおけないと思った。庇護すべきではな
そしてそれを好ましく思うようになったのは。まっすぐで、それゆえ
彼 の 瞳 に 宿 る キ ラ キ ラ し た 光 に 気 付 い た の は い つ だ っ た だ ろ う。
何が彼を繋ぎ止めているのか。それが、わからなかった。
うで。
けれどこの関係を変えたら、彼が私の手から逃げて行ってしまいそ
るのか。
秘密の、でいい。いつになったら彼を恋人として遇することができ
思えない。信念と脅迫の間で揺れる事はあろうとも。
取っているのだろうか。しかし簡単に脅迫に屈するような彼だとは
それとも、例の件⋮⋮はじめてのあの日、の事で脅迫されていると
悪いように思われてはいないということなのか
い。ちゃんと女性の想い人がいることも、知っている。
る限り、彼は被虐趣味でもないし男色だという噂を聞いたこともな
私が望みさえすれば彼は、ここへ来て応じる。なぜなのか。私の知
?
?
時折、無事を確かめるように振り返る。無心で疑いもせず、私を信用
みで、また、あの薄暗く陰気な場所の探索の補助に行くことになった。
あの頃、こんな気持ちで会いたくないと思っていた。けれど彼の頼
?
1
?
して見せる笑顔に胸が張り裂けそうだった。
あの時何が起こったのか、私は正確に記憶していない。暴走、と呼
べばいいのだろうか
モンスターの血に酔っていたのか、モンスターの特殊攻撃によるも
のなのか、それともあの場に篭る邪念や欲望の様なものが心の隙間に
入り込んだのか。
我を失い、彼を暴行した。
記憶がなくとも、状況の推測は容易だった。爪によって引き裂かれ
た下着、生々しい全身の傷、彼の内腿は血と精で汚されていた。
そして私は。
絶句して立ち尽くす私を見上げ彼は。もどったのか、よかった。と
笑い。なぜこんな状況なのに笑えるのか、それが痛ましくて、どんな
状況であれ己を律せなかった自分が許せなくて。膝を折りやっとの
思いで、すまない、とだけ言った。
そんな時にも翳らない彼らしい光が恐くて、己の罪が恐くて。
私は彼から目を背けた。
あんたは、⋮⋮⋮⋮って言わないんだな、そう言った彼は少し笑ん
それは消えそうな声で。私の上着の裾をつかむと、気を
だのか、嘆息したのか。こういうの、はじめてじゃないから。おれを、
さけないで
還した。
急いでいたのは彼の身を案じたからか、それとも他人にこの様を見
せたくなかったからなのか。
人を遠ざけた自室で、足らない記憶を埋めるようにその体を拭き清
めた。首元の噛み傷と内腿の裂傷は酷かったが、他は擦り傷程度で。
多少なりともテクニックの使える身でよかったと思いながら、細心の
注意を払ってレスタをかける。
意外だったのは秘所からの出血が無かったことだった。
それと
ふと、帰り際の彼の言葉を思い出す。はじめてじゃないから、と。
それは彼が、日常的に男を受け入れているということなのか
も、男にレイプされるのが初めてではないという事なのか。
?
2
?
失った。私は彼の身を簡単に整え、急ぎランディール号へ彼を連れ帰
?
心がざわめいた。
彼の言葉が私の解釈どおりなら、どんな形であれ、過去に彼を抱い
た男がいるということだ。そんな過去なら無かったことにすればい
彼をベッドに繋ぎ、そのから
い。私が知らなければ済む事だ。このまま閉じ込めてしまえば、彼の
未来は私のものになるのではないのか
だを日毎夜毎犯し続ければいつかは心まで。
そんなことを真剣に考えている自分に気付いて身震いする。
私は、彼を屈服させ隷属させたいと望んでいるのではないのに。皮
肉なことではあったがこの件があって、たしかに私は彼に恋している
のだと思い知らされた。
ベッドの軋みで現実に引き戻された。
寝返りを打ったせいか、額と長いまつげに彩られたまぶたがあらわ
になって。そんな彼を心底いとしいと思った。その額に、まぶたに、
頬に、唇に口付けたい衝動を抑えられずに顔を寄せると、眠っている
﹂
と思っていた彼は目を開け、私を見上げた。
﹁タイラー⋮⋮
のか、それははじめての口付けで。
放したくない、離れたくない。求め過ぎな口付けの合間にこぼれる
息は甘い喘ぎのよう。言ってしまおうか。君が好きだと、愛している
と。唇を離し見つめた青い瞳がいつもと違う色に揺れる。
﹁くいころされるかと、おもった﹂
そう言って彼は視線を外し顔を背けた。
﹁何を馬鹿な﹂
喉元まで出掛かった言葉を飲み込み、やっとそれだけ答える。
﹁なあ﹂
伏せられていた目が、私の目を捉える。その瞳にはまた、違う色が。
﹁なあ、今度は⋮⋮今度なんて無いのかも知れないけど﹂
彼はそう言いながら自分の首元の傷を撫でる。普段は服で隠れて
見えないその傷は、あの日の。
﹁今度、あんなことがあったら。俺を食い殺してくれよ﹂
3
?
強く抱き寄せて噛み付くように唇を重ねる。こんな関係だからな
?
俺を殺し
瞳が、その翳った色のまま光を増す。笑い飛ばすべきだったのか。
けれど、私は。
﹁ならばイーサン、私が暴走した時、君に止められるのか
て。﹂
心中か。それもいいかも知れぬ。そしてその相手に私を選んでく
れたことが嬉しかった。
﹁君を食い殺すほどに狂うのなら殺さねば止まらんだろうからな。止
めねば他に被害が及ぶかもしれん﹂
この身で君の剣を受け止め鞘としよう。この顎で間違いなく君を
砕き引き裂こう。無残に引き裂かれた皮膚から止め処なく赤い血が
流れるだろう。その様を見ながら私はさらに深く体を貫かんと死に
行く彼を抱き締め、また私も同じ黄泉路を行くのだ。
私の腕の中で彼は死に、彼を抱いて私は死ぬ。快楽に似た甘美な妄
想だと思った。
﹁なんだよ、ソレ﹂
戸惑う視線が中を泳ぐ。
彼が板挟みに悩み、ヒューマンである自分に悩んでいることは知っ
ていた。けれどいっそ死んでしまいたいと思うほど、その悩みが深く
なっているとは思いもしなかった。
あるいは、私に対してだからこそ吐き出せた弱音なのか。
﹁そう思うなら止めておけ﹂
彼がそれを望み続けるのなら、いつか叶えてやりたいと思う。そん
な日が来ない事を、私は良く知っているのだけれど。
もう一度抱き締めその髪に頬を埋める。
愛してる愛してると心の中で繰り返しながら。
4
?
#1 sideイーサン
こんなとき誰かがそばにいてくれたらいいのに。
肌寒さに身震いする。好きな人がそばにいてくれたら、寄り添って
見詰め合うだけで心から暖かくなると思うのに。誰かの笑顔がまぶ
なんで﹂
たに浮かぶ。その誰かが想定外で頭を抱えた。
﹁だーーーー
こういうときはカレンじゃないのか、と自分で突っ込んで見たけ
ど、本当はわかっていた。
ここのところずっと、頭から離れない人。
って断言できるけど、カレ
カレンは好きだ。本当に好きなんだ、でも。なぜか、こう、あんま
り欲情しない。カレンのためなら死ねる
ンとするのは想像できない。
で注意喚起のため振り返る。
要ないかも、とは思った。けれど俺のためにタイラーが傷付くのは嫌
ふと自分達の殲滅能力以上にモンスターがいることに気付く。必
がいるのが嬉しくて、用もないのに何度も振り返った。
けど来てくれた事がうれしかった。道中、振り返ればそこにタイラー
忙しかったのかそれとも疲れているのか、少し不機嫌そうに見えた
び出した。
何もないのに会いたいなんて言えないから、ミッションを口実に呼
に恋愛できない気がした。
でも俺は。きれいじゃないから。もし、女だったとしてもまっとう
なのになんて思えちゃうくらい。
良くて。何で俺は女じゃいのか、もしそうだったらこれは普通の感情
の人は万事に通じていて。すごく大人で、惚れ惚れするくらいカッコ
独り言でも声に出して名を呼んだらそれを知っていそうなほどそ
タイラー、なんであんたなんだ。
するのは。
いつもそういう妄想に出てくるのは。肩が触れただけでドキドキ
!
丁度、ナノブラストが発動するところで。神々しい光を放って変身
5
!
していく。見蕩れた一瞬に自分の頭上にモンスターの腕が振り下ろ
される。それを剣の鍔尻で受け止め、跳ね飛ばす。
大丈夫、タイラーは俺なんかよりずっと強いから。
まず自分が重荷にならないように、今は目の前の敵に意識を集中す
る。1体でもモンスターが減ればタイラーの負担が減るから。返り
血も瘴気も俺の気を殺ぐことはない。少ない手数で効率よく屠るこ
とだけ考える。
モンスターの断末魔が重なり、だんだん減っていく。
視野内に敵がいなくなったのを確認する。ふと、背後至近距離に獣
の荒い呼吸を感じ、振り返ろうとした。その瞬間。脇腹に痛烈な一撃
を喰らい、壁に、次いで地面に叩き付けられた。強かに背を打ったせ
いか、息が詰まる。
不意に視界が翳る。見上げるとそこには獣化したままのタイラー
が仁王立ちになっていた。
﹂
6
違和感を感じた。既に発動から2分は経っているはずだ。
﹁タイ、ラー
の熱さがすごく嬉しかった。同じくらい、これが既に経験のある行為
痛みをやり過ごすのがやっとで、息もつけない。けれど密着した肌
入る。
みに息が詰まり体が竦む。こちらの都合などお構いなく奥まで押し
所に擦り付けた後、押し込むように突き立てられた。その圧迫感と痛
ち流れていく。タイラーが俺の脚を開き抱え上げる。何度か雄を秘
肌諸共下着をその爪が裂いた。腹に、幾つもの先走る大きな雫が落
たのか、腿に爪が当たる。何本かの線を描く焼ける痛みが襲う。
を伸ばした。何をされてもいい、あんたになら。足を開かせようとし
目の前の獣が腰を屈めて顔を寄せる。剣と服を収納し、その首に腕
言えないから。
きれいじゃないから。愛される価値なんかないから。愛してなんて
理由がどうであれ、あんたがそれを望むなら俺は拒まない。俺は、
ああ、タイラー。
ふと、天を仰ぐようにそそり立つ彼の雄に気付く。
?
で、せっかく好きな人に抱いてもらえるのに初めてではないのがとて
も悲しかった。
勢いよく引き抜かれては叩きつけられる。タイラーの雄が俺の中
に擦り付けられ叩きつけられるほど、繋がった場所が熱くなり、初め
ての感覚が全身に広がっていく。
えもいわれぬ、背徳的で甘美な。
﹁⋮⋮っふ、はぁ﹂
息を吐こうとしてこぼれた喘ぎがやけに淫らで。
﹁んっ⋮⋮ああっ⋮⋮⋮⋮﹂
好きな人に抱かれてる、いやらしい事されてる、考えのまとまらな
くなった頭でそんなこと思って。体が熱くて⋮⋮気持ちよくて、声が
止まらなくなって。お互いの腹に挟まれて擦られる俺の雄がはちき
れそうで。
﹁や⋮⋮も、だめ⋮⋮﹂
自分の鼓動がやけに聞こえる。背筋を何かが駆け上がり、目の前が
白くなって俺は達した。
繰り返し背筋を駆け上がる感覚。
俺の中のタイラーの雄が存在感を増す。未だ獣化の解けぬ彼に揺
さぶられ、壊れてしまいそうで。不意に、タイラーが俺の喉元に歯を
立てた⋮⋮、いや、喰らいついた。強く強く腰を叩きつけ、タイラー
は動きを止めた。中に注ぎ込まれながら俺は、痛みとか疲れとか充足
感とか⋮⋮そういうものに絡めとられながら意識を手放かけた。
引き抜かれる感覚で浮上する。
青褪め、俺を見下ろして獣化の解けたタイラーが立っていた。
﹁もどったのか、よかった﹂
心底そう思った。
タイラーが俺の傍らに膝を付く。長かったのか、それは一瞬だった
のか。彼は俺を見つめ沈黙した。
﹁⋮⋮すまない﹂
搾り出すようにそう言って、顔を背けた。
﹁お前は、俺が悪いって言わないんだな﹂
7
﹂
今まで俺を犯した男は、誘ったお前が悪い、と言い捨てて。俺は一
度だってそんな事をしたことはないのに。
でも、タイラーは違った。
﹁こういうの、はじめてじゃないから。おれを、さけないで
これがきっかけで俺から離れていってしまうのが恐い。あんたは
悪くないから。悪いのはきっと俺。そう言いたかったけど、抗い難い
力が俺の意識を闇に沈める。
離れてしまうならいっそ、今ここで殺してほしかった。
頬に何か温かいものが触れた。シーツの匂いが違うなって気が付
い て 目 が 覚 め た。少 し 目 を 明 け て み る。見 知 ら ぬ 部 屋。灯 り は ベ ッ
ドサイドの小さなランプだけなのか、薄暗い。
視線を動かすと物思いに沈むタイラーがいた。ぼんやりそれを見
ながら、やっぱりかっこいいなとか思っていた。
不意に、あの事を思い出して覚醒した。
俺は、なんて事を。恥ずかしさのあまり頭に血が上る。そして、仕
出かした事を思い血の気が引いた。欲情してなくても極端な興奮状
態なら勃っていたって不思議じゃないのに。身の程も弁えず勝手に
都合よく解釈して誘ってしまった。そりゃ苦悩もするだろう。まさ
か男とやるなんて、だろうし。
具合は。﹂
ふと、目があった。
﹁目が覚めたのか
る方がどうかしてる。
﹁あ、ああ。あの、ここは
それは俺も同じで。
﹁ここは私の私室だ。﹂
予想通りの答え。
﹁⋮⋮くらいな﹂
会話が途切れる。
﹂
﹁ああ、2時を少し過ぎた頃だな。﹂
気恥ずかしくてまともに顔が見れない。暗くてよかったとも思う。
?
8
?
問う声は何かどこかぎこちない。あんな事があって平静でいられ
?
なにか、言わなきゃ。でも、何を
知らん顔は
言いたい事はいろいろある気が
﹂
した。そしてあの事は。言うべきか、知らん顔で通すか
できないと思った。それでも。
﹁あの、さ。なかった事に出来ないかな⋮⋮
﹂
﹁何、を⋮⋮
﹂
いる右目が顕になる。
が掛かるほど近くにタイラーの顔が寄った。普段は前髪で隠されて
呼吸が妨げられる。なぜタイラーが怒るのかまるでわからず。息
﹁そうやって許して誰とでも寝るのか、君は⋮⋮。﹂
め上げるように持ち上げられた。
声を荒げることなく淡々と静かな声で言う。突然襟首を掴まれ、締
か。まあ、今まではそれでよかったかもしれんがな。﹂
﹁な か っ た 事 に し て 上 辺 を 取 繕 っ て 元 に 戻 れ る と で も 思 っ て い る の
明らかに怒りのこもった声だった。
﹁なかった事にね⋮。﹂
聞き返した声は不機嫌なのか、普段より低かった。
﹁ほぅ
無かった事にしたかった。
いじゃない俺がそんな事言ったら迷惑になるから。それならせめて
本当は、好きだから後悔してないって言いたかった。けれど、きれ
較的いい方法じゃないかと思った。
間違いが消えるわけじゃないけど、そう合意できるなら、それが比
?
?
?
紅い目が暗い光に揺れる。本気で恐いと思った。
﹁なかった事にね。いいだろう﹂
とにも拘らず肺が空気を求めるのか咳き込んでしまう。
襟首を掴んでいた手が離れ、ベッドに落とされる。たった数秒のこ
!?
9
?
#2 sideイーサン ︻完結︼
﹁二度と忘れられぬよう何度でも﹂
少し目を細めて嫣然と笑みを浮かべる。
﹁何度でも、体に刻み込んで己が何をしてきたのか教えてやる⋮⋮﹂
その言葉が理解できないうちにシーツごとベッドから払い落とさ
れた。
﹁ったぁ﹂
体勢を立て直す暇を与えることなく不完全なうつ伏せの、その背後
から圧し掛かられた。容赦の無い手が俺の下着を剥ぐ。露出した肌
に時折冷たいものが触れる。その度に息を詰める俺をタイラーは鼻
で笑う。
﹁今からその様では先が思いやられるな⋮⋮。もっとも﹂
首筋に息が掛かる。
泣かなければならないのだ
泣きたいのは俺の方なのに。
何 を さ れ て も い い。そ う 思 っ て い た。今 で も そ う 思 っ て る。こ の 押
ともすれば与え続けられる快感に身を委ねそうになる自分がいる。
?
10
﹁感じやすいのは嫌いではないがな。﹂
胸元を弄っていた指が首の傷に触れ、爪を立てる。ショックに体が
竦み、またあのことを思い出して体が熱くなった。
背徳と甘美と、羞恥と。
何気なく触れただけの場所から波紋のように広がる感覚にめまい
﹂
を覚える。口を開けばいやらしく喘いでしまいそうで。唇を噛締め
て湧き上がる感覚に耐える。
﹁さすがに若いな。それとも待っていたのか
背中に触れるのは髪か
﹁フフフ⋮⋮くくくく⋮⋮⋮⋮﹂
てしまいそうになるのを懸命に堪えた。
その指が俺の雄に指を滑らせる。たったそれだけのことで破裂し
?
面で触れる暖かいもの、さらさらと滑り落
ちるものが髪ならば彼は
?
その低く呻く様な笑い声は泣いているかのよう。タイラーが何故
?
し寄せる波にまかせ彼を求めて。俺はそれでいい、でも彼は
に、恋した人の手に欲を吐き出す。
﹁君が何であれ私は⋮⋮。﹂
﹁何故、君は⋮⋮⋮⋮﹂
体内で響く鼓動は誰の物か
俺は。
俺は
当初シンクロしていたそれはゆっく
む体合わぬ歯の根、蝕むタイラーの熱に為す術もなく。
侵略する意志を持つそれはゆっくりと、だが確実に押し入って。竦
秘所に昂った熱が押し当てられる。
﹁君は⋮⋮﹂
胸をまさぐる手。
押し広げるように挿入される指、震えが止まらぬ体、背を這う舌。
とも出来ない。
けようと蠢く。脱力した体、歯の根も合わずこぼれる声をかみ殺すこ
嘆息するように吐き出した言葉の真意は
長い指が秘所を抉じ開
追い立てられ追い詰められ、世界がホワイトアウトする。その手
﹁も、だめぇ⋮⋮⋮⋮ッ﹂
タイラーが好きで、彼に抱かれたいと望んでいるのに。
輪になった指が俺を追い立てる。これ以上何を誤魔化すの
でなく。汚されて汚されて純潔だとかそんなものを当の昔に失って。
タイラーと⋮⋮いや、たとえ誰であっても。恋をするに相応しいモノ
?
?
のを自分ではとめようもなく。
﹁ふ。フフっ⋮。いいザマだな﹂
叩き付ける。ソレは侵略というより破壊の意志を持って。
﹁そうやって誰とでも寝たのか。誰と寝たのだ、君は⋮⋮﹂
もはやどんな問いも遠くで響くのみ。快感の奔流に押し流されい
く。
﹁君は⋮⋮。君は⋮⋮⋮⋮ッ。﹂
頂点に達した快楽を解き放つ。今までとは比較にならぬほどの脱
力が襲う。
熱いモノが体内を侵した。
11
?
りと、やがて質量とスピードをもって動き。有象無象の喘ぎが零れる
?
﹁⋮⋮イーサン⋮⋮⋮⋮っ﹂
無 明 の 淵 に 堕 ち て 行 く 意 識 の 最 後 に 聞 こ え た も の が 貴 方 の 声 で
⋮⋮、俺はどれほど嬉かっただろう
笑わせるな。
俺は血と欲望に汚れた、あの頃とは違うモノだから。
ないと思っている。
けて散ったとしても本望だ。それでも、もうカレンのところには戻れ
し難い聖域だけど。彼女の為なら盾となろう剣となろう。いつか砕
こんなことになった今でもカレンは心の中に住んでいて、それは侵
に裏切られて、タイラーに求められて。
カレンに出会った。タイラーの存在を知った。あいつに犯されて彼
け れ ば い い っ て 思 っ て た。短 い 時 間 の 間 に い ろ ん な こ と が あ っ た。
ほんのすこし前までは意識したことも無かった。なんとなく楽し
と思う。
生きるってコトは誰かを好きになるって事は重くて苦しいことだ
出したかった。
たとえ許されることでなくても、求められるだけ、それ以上に差し
重ねた肌から伝わる体温は確かに俺の欲しかったもので。
それなのに、あんたは。コレは愛じゃないのかもしれないけれど、
涙が溢れる。
ずなのか。
求めてはいけなかった。愛されたいだなんてどれだけ身の程知ら
ああだから俺は。
繰り返される悪夢のようによみがえる記憶。
た。
体温は無く。拒否しても抉じ開けて侵略する硬いモノに引き裂かれ
冷たい声と、キャスト特有の人工皮膚の感覚、本来ならあるはずの
ズだと
貴様など慰み者にでもなっているのがお似合いだ。ガーディアン
無能者が。吐き捨てるような声が頭の中に響く。
?
この手ではもう彼女の涙を拭ってやることも出来ない。ほんの少
12
?
し触れただけで彼女を汚してしまうから
けれど、あれから何度か⋮⋮タイラーに抱かれた。
﹂
なんて。夢の続きなら。これが夢なら許される
応えても求めても。
力強い腕に抱き寄せられて口付けられた。これは夢の続きなんだ、
﹁タイラー⋮⋮
ふと目を開けると間近に声の主の顔があった。
低く柔らかく響くその声は。
で欲しいと思う。
どこかで俺を呼ぶ声がする。その声が好きだと思う。何度も呼ん
それでも、それだから求められれば何をおいても応えたかった。
いつも、それきりになるのではないかと怯えていた。
ねる毎にその思いは澱のように心の中に沈み積み重なって。
は飽きられて捨てられる運命のおもちゃだとわかっていた。回を重
けれど、いつまでも続けられる関係でもないと知っていた。いつか
理由は、手段はどうであれ、コレはある種の成就だった。
びだった。
どれだけ体が悲鳴を上げプライドが砕かれても、その行為自体は喜
に。
ている。俺の心を抉る様に掻き毟る様に、時に舐める様に、癒すよう
本当は何度かなんて曖昧な表現でなくいつ何をされたか明確に覚え
きではないのか
カレンに対してそうであるなら、タイラーに対しても同じであるべ
自分でも訳がわからない事をしていると思う。
ど。
だからって、現状の自分が正しいなんて微塵も思っていないけれ
?
静かで低い。その声が喩えようもなく好きだ。
﹁何を馬鹿な﹂
彼の手で現世を捨てうるのであれば。
﹁くいころされるかと、おもった﹂
にわかったけれど、夢ならいいのにとも思った。
熱っぽく繰り返される長い口付けが夢なんかじゃないことはすぐ
?
13
?
?
﹁なあ﹂
その紅い目を見上げる。俺を捕らえて離さぬその紅。
﹁なあ、今度は⋮⋮今度なんて無いのかも知れないけど﹂
既にそこには無い傷を示し。それはあの日彼が俺に刻んだ所有の
証。
﹁今度、あんなことがあったら。俺を食い殺してくれよ﹂
貴方が好きで狂いそう壊れそうで。壊れてしまうのならいっそそ
俺を殺し
の手で粉々に、そう傷も現実も悩みも貴方への想いも全て⋮⋮何も残
らぬほどに砕いて欲しかった。
﹁ならばイーサン、私が暴走した時、君に止められるのか
て。﹂
その紅い目に浮かぶ色を歓喜ととった俺は救い難いほど病んでい
るのかも知れない、だが。
﹁君を食い殺すほどに狂うのなら殺さねば止まらんだろうからな。止
めねば他に被害が及ぶかもしれん﹂
ともに死んでくれるというのであれば、それはどれほどの喜びであ
るだろう
中なんて以ての外。
﹁そう思うなら止めておけ﹂
答えられる言葉なんて、持ち合せていなかった。
あんたが好きだ。真実、貴方が好きだ、喩えようもなく。だから変
な妄想は否定してもらえてこそ嬉しかった。
貴方と死にたいだなんて、そりゃ考えたかもしれない、妄想したか
もしれないけれど、俺が死に行く日、貴方には幸せに笑って生きてい
て欲しいと、真摯にそう望んでいるから。
たしかに、何もかも投げ出して、タイラー
﹁ごめん変なこと言った。忘れてくれ﹂
他に何て言えるだろう
?
14
?
でも。俺はタイラーと死にたい訳じゃない。一緒に死ぬなんて、心
﹁なんだよ、ソレ﹂
麻薬の様に刹那で甘美な妄想だと思った。
背徳をよしとし、手に手を取り共に黄泉路を行くのだ。
?
に殺されて、いっそ喰われてしまうならどんなにいいか。
けれど、それをした後の彼のことなんて考えていなかった。
つくづく自分は身勝手だと思う。
﹁君は忘れてくれとか、なかったことにしてくれとか、なかなか難しい
ことばかり言うな﹂
その響きだけでも﹂
そう答えた声は、今まで聞いたタイラーの声の中で一番やさしいも
のに感じた。
﹁忘れることなどできんよ。﹂
ため息が耳をくすぐる。
﹁君の声が、言葉がどうして忘れられよう
抱き締める腕の力が少し強くなる。
﹁忘れえぬほどいとしいのに﹂
その言葉にショックを受ける。
﹁イーサン、君を﹂
それでも。それでもやはり。これ以上言わせてはいけない、遮らな
ければ。
﹁ダメだ、言うな﹂
﹁愛している﹂
その言葉は確かに俺を打ち抜き。涙が溢れた。
﹁君が納得してくれるまで何度でも言う。君を愛している﹂
そんなこと、あっちゃいけない。心の底から震えるように喜びが湧
き上がっても、そんなことあっていいことではない。
﹁好きだ、愛している﹂
必死の思いで頭を振る。
﹁ダメだ、そんなの⋮⋮﹂
後から後から止め処無く涙が流れる。
﹁なぜ﹂
問うというよりは諭すように。
﹁俺は⋮⋮、おれは、きれいじゃないから。あんたに、そんなふうに
言って貰えるようなモノじゃない﹂
タイラーの手が俺の髪を優しく撫でる。
15
?
﹁イーサン。私が誰を恋うるとか愛するとか、誰かに決めてもらうこ
とではない。私が決めることだ。﹂
ならば俺は
﹁私は君の過去がどうであっても⋮⋮、私は君を愛している﹂
ああタイラー、なんてコトを。
﹁な ぜ も っ と 早 く に 出 会 え な か っ た の か と 思 っ た も の だ。君 が ガ ー
ディアンズなんてものに入る前に、なぜ私のものに出来なかったのだ
と。も し そ う 出 来 た な ら 君 を 辛 い 目 に 遭 わ せ ず に 済 ん だ だ ろ う と、
こんな俺でも
ずっと思っていた。﹂
こんな俺を
﹁君を愛している。今まで、すまなかった⋮⋮。﹂
優しく笑んで頷く。
﹁タイラー、好きだ。ずっと、好きだった⋮⋮、いまでも﹂
溢れ出るのは涙だけではない。
﹁ごめん、忘れて⋮⋮﹂
紅い目が俺を覗き込む。
本当にそう思っているのだ。﹂
﹁我ながら⋮⋮あきれるくらい陳腐でありがちなセリフだな。だが、
タイラーが耳元でふっと笑う。
﹁君を傷つける全ての物から守りたいと、今でもそう願っている﹂
?
そっと、柔らかく優しく口付けられた。
完
16
?
?