第5章 5. 中国輸出入の減少 5.1 物品輸出入額の

レポート「統計データで見る中国経済の減速」 第 5 章
5. 中国輸出入の減少
5.1 物品輸出入額の推移
図 5-1-1 に、中国の物品輸出入額の推移を米ドル・ベースで示しました。
China Statistical Yearbook 2015 のデータと、2015 年は中国海関総署によ
る発表値です。
2002 年ごろから、輸出入ともに急増を始めたことが分かります。また、リ
ーマン・ショックによる落ち込みも 2009 年に明瞭に現れています。注目さ
れるのは、2015 年には輸出入ともに前年を下回っていることです。
図5-1-1 中国の物品の輸出入額の推移
出所:China Statistical Yearbook 2015、
2015年は中国海関総署ウェブデータ
25,000
輸出入量 億USドル
20,000
輸出
輸入
15,000
10,000
5,000
2014
2012
2010
2008
2006
2004
2002
2000
1998
1996
1994
1992
1990
0
図 5-1-2 には、上記の輸出入額について、対前年比増加率の推移を示しま
した。2003、2004 年の対前年比増加率は輸出入とも 35%を超える高い値で
す。また、リーマン・ショックに対する景気刺激策により、2010 年には 30%
1
を超える増加率になり、景気が過熱したことが窺われます。
しかし、その後は輸出入の増加率は急速に低下し、2015 年のマイナスに至
っていることが分かります。
図5-1-2 中国の物品輸出入量の対前年比増加率
出所:China Statistical Yearbook 2015,
2015年は中国海関総署ウェブデータ
50
輸出
輸入
対前年比増加率 %
40
30
20
10
2014
2012
2010
2008
2006
2004
2002
-10
2000
0
-20
世界の工場として中国は、2002 年から輸出入を急増させました。リーマ
ン・ショックやその後の景気刺激策のため分かり難くなっていますが、2005
年頃には、中国の輸出競争力に陰りの兆しが現れているのではないかと筆者
は考えています。
関心が持たれているのは、最近の輸出入の低下です。図 5-1-3 に、過去 3
年間の毎月の輸出額の対前年同期比の増加率を示しました。中国海関総署の
プレス・リリースのデータです。
2015 年は殆どの月が、前年同期の輸出入額を下回っています。特に、輸入
額の増加率は、マイナス 20%に達しています。これで GDP 成長率が 6.9%
と言われても、疑念を禁じ得ません。
2
2016 年 3 月からは、増加率は少し回復してきたように見えます。しかし、
輸出入が落ち込んだ前年と同水準では、回復してきたとは言い難いと思いま
す。
図5-1-3 中国物品輸出入の対前年同月比の増加率
(米ドル・ベース)
出所:中国海関総署プレス・リリース
25
輸出
輸入
15
10
5
2016年4月
2016年1月
2015年10月
2015年7月
2015年4月
2015年1月
2014年10月
2014年7月
2014年4月
2014年1月
-15
2013年10月
-10
2013年7月
-5
2013年4月
0
2013年1月
対前年同期比の増加率 %
20
-20
-25
5.2 輸出入の品目
2015 年の輸入の減少には、
原油や鉄鉱石などの原材料価格の下落の影響が
含まれています。短絡的に、中国経済の後退のためであるとは言い切れませ
ん。そのため、本項では中国の輸出入の主な物品についてのデータを紹介し
ます。
図 5-2-1、図 5-2-2 に、2015 年の中国の物品輸出入の主要項目について、
米ドル・ベースでの総額に占める割合を示しました。中国海関総署のプレス・
リリースのデータです。
<物品輸出>
2015 年の輸出物品で最大の輸出額は、
衣類で全体の7.7%を占めています。
安価な人件費で生産される、代表的なメイド・イン・チャイナの物品です。
また、糸・織物が 4.8%、履物が 2.4%を占めています。
3
一方、ハイテクのエレクトロニクス製品では、携帯電話・部品の 7%、計
算機・部品の 6.7%、集積回路の 3%などが輸出物品の上位を占めています。
その他、2016 年上期現在、国有企業の過剰設備に関連して、世界の鉄鋼業
界でダンピング輸出問題を起こしている半完成鉄鋼製品は、
総輸出額の 2.8%
を占めています。
図5-2-1 中国の物品輸出額 (2015年)
出所:中国海関総署プレスリリース
2015 年輸出額
22,765 億 US ドル
衣類
携帯電話・部品
計算機・部品
糸・織物
集積回路
半完成鉄鋼製品
履物
家具
自動車スペア部品
プラスチック製品
照明
液晶パネル
バッグ類
陶磁器
船舶
水産物
その他
<物品輸入>
輸入額で最大のものは、集積回路の 13.7%です。輸出物品上位の携帯電話
や計算機など、各種エレクトロニクス製品に組み込まれるものです。2.4%を
占める液晶パネルも同様です。部品を輸入し、製品に組み立てて輸出する中
国産業の形態に対応したものです。
原材料の輸入では、原油が 8%、鉄鉱石が 3.4%、銅素材・製品の 1.7%、
銅鉱石の 1.1%などがあります。プラスチック材料の 2.7%や有価個体廃棄物
の 1.3%なども同様のものです。
例えば、2015 年の原油輸入額は 1,344 億米ドルですから、日本円にして
4
約 16 兆円です。後術しますが、2014 年の原油輸入額は、日本円にして約 24
兆円でした。中国の輸入が、資源国に大きな影響を及ぼしていることが想像
できると思います。
図5-2-2 中国の物品輸入額 (2015年)
出所:中国海関総署プレスリリース
2015 年輸入額
16,820 億 US ドル
集積回路
原油
鉄鉱石
プラスチック材料
自動車・車体
液晶パネル
大豆
銅素材・製品
計算機・部品
自動車スペア部品
航空機
LED等
有価固体廃棄物
医療品
銅鉱石
糸・織物
その他
5.3 輸出入の減少
本項では、2015 年の輸出入の減少を統計データで紹介します。先ず、主要
な輸出入物品について、2014 年と 2015 年の輸出入額の比較を示します。次
に、2015 年の輸出入額が減少したのは、輸出入の数量が減少したのか、価格
が低下したのかを示すことにします。
<2014 年と 2015 年の輸出額>
図 5-3-1 に、主要物品について 2014 年と 2015 年の輸出額を示しました。
全般的には、増加している物品と減少している物品が混在しています。これ
まで成長が当然であった中国経済にも、停滞の波が押し寄せているというこ
とでしょう。
5
図5-3-1 中国の主要物品の輸出額
出所:中国海関総署プレスリリース
水産物
米
ハープ・漢方薬
レアメタル
石炭
2014年
2015年
コークス
原油
石油精製品
化学肥料
プラスチック製品
バッグ類
糸・織物
衣類
履物
陶磁器
宝飾品
半完成鉄鋼製品
アルミ素材・製品
携帯電話・部品
集積回路
計算機・部品
電動機・発電機
自動車・車体
自動車スペア部品
船舶
液晶パネル
家具
照明
玩具
0
400
800
1,200
輸出額 億USドル
6
1,600
2,000
輸出額の大きい物品として、衣の類、糸・織物の 2015 年の輸出額が減少
しています。輸出相手国の需要減少に加え、この種の商品での中国の輸出競
争力が低下していること反映したものと思います。
ハイテク分野の輸出では、計算機・部品が減少し、携帯電話・部品と集積
回路が増加しています。この種の製品のライフサイクルの推移を反映したも
のでしょう。
その他、半完成鉄鋼製品の減少は、これまでの中国の過剰な生産と輸出に
対して、それなりの抑制がなされているためと思います。
<2014 年と 2015 年の輸入額>
図 5-3-1 に、主要物品について 2014 年と 2015 年の輸入額を示しました。
図示した 29 物品の輸入額のうち 23 項目の 2015 年の輸入額が減少していま
す。
輸入額の減少が顕著なのは、原油と鉄鉱石です。それらの価格の下落につ
いては後述します。原油の関連では、石油精製製品、燃料油、液化ガス・天
然ガスも減少しています。鉄鉱石の関連ではコークスの減少も顕著です。
原材料ということでは、銅鉱石、銅素材・製品、プラスチック材料、天然・
合成ゴム、木材も減少しています。
輸入の減少の多くは、固定資産投資、設備投資、不動産開発投資に係るも
のです。2. 項の経済成長減速の要因で前述した、国有企業の過剰設備、地方
政府の過大債務、不動産在庫の積み上がり、関連した物品と言えると思いま
す。
<2015 年の輸出額と数量>
図 5-3-3 には、前述の主要物品について、2015 年の輸出額と輸出数量の対
前年比の増加率を示しました。なお、数量のグラフが表示されていない項目
は、海関総署のプレス・リリースに数量データが無かったものです。
対前年比の増加率は、変化を拡大して示すことになり、図 5-3-3 は大きな
変化を示しています。輸出の金額と数量で、増加率が大きく異なるものを、
グラフの上側から順に紹介します。
7
図5-3-2 中国の主要物品の輸入額
出所:中国海関総署プレスリリース
果実・ナッツ
穀類・穀物粉
大豆
食用植物油
鉄鉱石
銅鉱石
コークス
原油
石油精製品
燃料油
液化ガス・天然ガス
2014年
2015年
医療品
化学肥料
プラスチック材料
天然・合成ゴム
木材
パルプ
糸・織物
鉄鋼材料・製品
銅素材・製品
有価固体廃棄物
工具
計算機・部品
LED等
集積回路
自動車・車体
自動車スペア部品
航空機
液晶パネル
0
400
800
1,200
1,600
輸入額 億USドル
8
2,000
2,400
レアメタルの輸出は、数量が 25%増加していますが、金額は僅かに減少し
ています。輸出価格が約 25%下落したということです。その他、輸出数量は
増加しているのに、輸出金額が減少した物品には、コークス、石油精製製品、
半完成鉄鋼製品、電動機・発電機、があります。
一方、輸出数量が減少し、金額が数量の比率以上に減少している物品とし
ては、石炭、宝飾品、計算機・部品などです。
衣類のような代表的輸出物品の数量データが無いのですが、
2015 年の輸出
の減少には、製品価格の低下もかなりの影響を及ぼしていることが分かりま
す。
<2015 年の輸入額と数量>
図 5-3-4 には、主要物品について、2015 年の輸出額と輸出数量の対前年比
の増加率を示しました。数量のグラフが表示されていない項目は、海関総署
のプレス・リリースに、数量データが無かったものです。
輸入数量は増加しているのに、輸入金額が減少した物品としては、大豆、
食用植物油、鉄鉱石、原油、液化ガス・天然ガス、プラスチック材料、天然・
合成ゴムなどです。
一方、輸入数量が減少し、金額が数量の比率以上に減少している物品とし
ては、コークス、石油精製品、燃料油、木材、鉄鋼材料・製品、銅素材・製
品、工具、計算機・部品、LED 等、自動車・車体、液晶パネルなど、多岐に
亘っています。
中国に多くを輸出している資源国などは、輸出数量が減少した上に、価格
も低下した訳ですから、大きな影響を被っています。
9
図5-3-3 中国主要品目の輸出量の対前年比増加率 (2015年)
出所:中国海関総署のプレスリリース
水産物
米
ハープ・漢方薬
レアメタル
石炭
コークス
原油
石油精製品
化学肥料
プラスチック製品
バッグ類
糸・織物
衣類
履物
陶磁器
宝飾品
半完成鉄鋼製品
アルミ素材・製品
携帯電話・部品
集積回路
計算機・部品
電動機・発電機
自動車・車体
自動車スペア部品
船舶
液晶パネル
家具
照明
玩具
農産物
機械・電気製品
ハイテク製品
-61
-36
-32
-24
-16
-8
215
377
輸出金額
輸出数量
0
対前年比増加率 %
10
8
16
24
図5-3-4 中国主要品目の輸入量の対前年比増加率 (2015年)
出所:中国海関総署のプレスリリース
果実・ナッツ
穀類・穀物粉
大豆
食用植物油
鉄鉱石
銅鉱石
コークス
原油
51
67
輸入金額
輸入数量
石油精製品
燃料油
液化ガス・天然ガス
医療品
化学肥料
プラスチック材料
天然・合成ゴム
木材
パルプ
糸・織物
鉄鋼材料・製品
銅素材・製品
有価固体廃棄物
工具
計算機・部品
LED等
-53
集積回路
自動車・車体
自動車スペア部品
航空機
液晶パネル
農産物
機械・電気製品
ハイテク製品
-50
-40
-30
-20
-10
533
0
対前年比増加率 %
11
10
20
30