けんさの豆知識 2011年6月 [37] 臨床検査部 発行 (微生物検査室) ~起炎菌シリーズ その④ 腸管出血性大腸菌~ 今回の『けんさの豆知識』は、感染症の原因となる細菌(起炎菌)シリーズ第4弾。 先ごろ,ユッケの食中毒で話題になった腸管出血性大腸菌を特集します。 大腸菌(Escherichia coli )は、その名の通りヒトや動物の腸管内に常在する菌です。 その中でヒトに腹痛や水様性下痢及び血便などの症状を起こす大腸菌の1つが 腸管出血性大腸菌です。 細菌を分類する基礎的な手技としてグラム(Gram)染色があります。紫色に染まれば陽性、赤色なら陰性です。 染まった形によって球状なら球菌、こん棒状なら桿菌と大別され、色と形の組合せで分類されます。 グラム染色 グラム陰性桿菌 ・起炎菌シリーズその③緑膿菌に比べ 横幅が厚く太い ( 顕微鏡で観察) 菌の性状 緑膿菌 大腸菌 1つの菌は、顕微鏡で拡大しないと見えませんが、多数の菌が集まって肉眼的に 見えるようになった1つ1つの集まりを集落(コロニー)と言います。 同じ大腸菌の仲間でも集落の色・形は様々です。 イメージ 紅色に見えるのが、マッコンキー寒天培地に 発育した大腸菌のコロニーの1例です。 検査技師は、便の性状,臨床情報(海外渡航 歴,下痢・腹痛・発熱等の有無,肉・魚・卵等の 生食の有無など)を確認し,ある程度の菌を予 想しながら検査を進めていきます。 マッコンキー寒天培地(35℃18時間培養) 通常,便の培養には目的菌に応じて数種類の培地を使用します。 上記写真のグラム陰性稈菌用培地では肉眼的に腸管出血性大腸菌を区別できません。 現在O-157検出目的の培地の他,O-26,O-111も肉眼的に確認できる培地も市販されています。 疑わしいコロニーは,O-157,O-26,O-111などの抗血清と反応させ凝集の有無を観察します。 凝集が確認された場合,ベロ毒素(Verotoxin,VT)産生の有無を検査します。 ベロ毒素の産生が確認されれば、腸管出血性大腸菌と確定されます。 細胞壁 検査と診断 ~O 抗原( O-***) とは~ 鞭毛 (H抗原) (O抗原) 大腸菌は構造によって O抗原(菌体抗原)と呼ばれる細胞壁にある抗原構造の違いにより180種類, H抗原(鞭毛抗原)と呼ばれる鞭毛にある抗原構造の違いでは70種類以上 に分類されます.また,Oに続く番号はその抗原構造の発見された順番を示しており O-157は157番目に発見されたO抗原を持つ菌であり,O-111は111番目ということになります。 腸管出血性大腸菌は非常に感染力が強く、少ない菌量でも感染を起こすためヒトからヒトへの2次感染(菌に汚染 された物を口から摂取することにより起こる経口感染)を起こしやすい菌ですので、十分な手洗いが重要です。 また、ベロ毒素は毒性が強く腸管上皮細胞や腸管血管内皮細胞を破壊するため下痢や腸管出血による 血便症状を 引き起こします。このベロ毒素が腸管から血流中に入ると溶血性貧血や血小板減少、腎不全を 特徴とするHUS(溶血性尿毒症症候群)などの重篤な合併症を発症させることもあります。 届出 腸管出血性大腸菌の感染が確定診断されたら、医師は直ちに保健所に届け出る必要があります。 届出感染症はその菌やウィルスの感染力や重篤性、危険性により一~五類に分類され、 腸管出血性大腸菌は三類感染症に分類されます。
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