論文要旨・審査の要旨 - 国立大学法人 東京医科歯科大学

学位論文の内容の要旨
論文提出者氏名
論文審査担当者
論
文
題
齊藤 恵里
主査 朝蔭 孝宏
目
副査 河野 辰幸、原田 浩之
Second malignancy of the oral cavity after brachytherapy for tongue
cancer in long-term follow-up patients
(論文内容の要旨)
<要旨>
早期(I・II 期)舌癌は技術の進歩により長期生存者が増えている。小線源治療は機能や美容を
損なわずに行なえ、治療効果も外科手術と同様に優れている。当院では早期舌癌に対して Cs-137
や Au-198 など低線量率による小線源治療、テレコバルト、電子線、X線の外部放射線治療を行っ
てきた。しかし原発巣の放射線治療を行った場合、二次性悪性腫瘍が照射野内に発生することが
ある。我々は、1959 年から 2000 年まで東京医科歯科大学放射線科で小線源治療を行い、10 年以
上経過観察した患者の中から口腔内に発生した二次性悪性腫瘍の発症率や治療効果について後方
視的研究を行った。舌癌の小線源治療を行った口腔内の二次性悪性腫瘍は 281 人中 26 人(9。3%)
に見つかった。長期経過観察にて二次性悪性腫瘍は口腔内に発生し、手術が救済治療の唯一の手
段であった。
<緒言>
頭頸部扁平上皮癌に対する治療技術が向上するにつれ高い生存率が期待されるようになる。小
線源治療は舌癌のための標準的な治療法の一つとして行われている。小線源治療を行うことで、
機能や美容を損なわずに周囲の正常組織を温存できる。また、限られたボリュームに高い放射線
量を処方できるため腫瘍制御の外科手術と同様に有効である。一方でX線やガンマ線を含む電離
放射線、タバコ、アルコール歴は発がん性として長期にわたり確立されている。二次性悪性腫瘍
の発生率は頭頸部腫瘍の根治症例の 5-30%と報告され、また予後不良因子とされている。しかし、
舌癌に対する小線源治療後の二次性悪性腫瘍についての報告はない。原発巣に対し放射線治療を
行った場合、二次性悪性腫瘍が照射野内に発生する場合がある。この論文では舌癌の小線源治療
後 10 年以上経過観察をした患者を対象に口腔内の二次性悪性腫瘍の発生率と治療結成績を報告
する。
<方法>
1959 年から 2000 年の間に、東京医科歯科大学医学部附属病院放射線科で stage I、II の舌癌
患者に小線源治療をした後、10 年以上経過観察を行った 281 人を対象とした。281 人中 114 人は
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女性、167 人は男性であった。年齢は小線源治療を行う時点で 19~82 歳で中央値は 55 歳だった。
フォローアップ期間は 10~51 年間 (中央値 14。4 年)であった。UICC 第 7 版 TMN 分類の stage I
(T1N0) が 89 人、II (T2N0) が 192 人であり、全ての舌癌の病理診断は扁平上皮癌であった。小
線源治療の線源の種類は Ra-226: 135 人、Ir-192: 87 人、Au-198: 27 人、Rn-222: 22 人、Cs-137:
22 人、Co-60: 5 人であった。単独小線源治療を受けた患者は腫瘍領域 5mm のマージンをとり 7
日間 70Gy を行い化学療法は行わなかった。 我々は倫理委員会で承認された後にこれらの舌癌患
者を見直し、口腔内の二次性悪性腫瘍発生率と治療成績を検討した。全生存率、局所制御率およ
び無病生存率の数理上の曲線は、カプラン·マイヤー法により算出した。統計分析は SPSS バージ
ョン 19 のソフトウェアを用いた。単変量解析はログランク検定、カイ二乗検定を用いて評価し
P-値が 0。05 未満を有意とみなした。
<結果>
舌癌小線源治療後の口腔内の二次性悪性腫瘍は 281 人中 26 人(9。3%)に認められた。小線源治
療から二次性悪性腫瘍が発生するまでの期間は 8~32 年であり中央値は 11。7 年であった。10 年、
20 年、30 年の累積発生率はそれぞれ 2。5%、10。3%、17。7%であり、再発や転移は二次性悪性腫
瘍発生時、26 人のいずれも認められなかった。二次性悪性腫瘍発生時の年齢は 50~87 歳、中央
値は 71 歳であった。病理診断は扁平上皮癌が 24 人、顆粒細胞腫が 1 人、紡錘細胞癌が 1 人であ
った。発生部位は舌が 21 人、歯肉が 2 人、頬粘膜が 1 人、口腔底が 1 人、口唇が 1 人であった。
二次性悪性腫瘍発生と初発病期、年齢、性別、使用線源との間に有意差は認められなかった。二
次性悪性腫瘍の治療に 20 人が手術を受けた。6 人は手術不能または切除不能なため、4 人が小線
源の再照射(Au-198、 n = 3; Rn-222、 n = 1)を行い、1 人が化学療法を受け、頬粘膜に発生し
た二次性悪性腫瘍の 1 人がレーザー治療を受けた。6 人全例で局所制御できなかった。そのうち 5
人は 7 ヶ月~2 年 (中央値 1。8 年)で二次性悪性腫瘍により死亡した。手術を行った 20 人のうち
17 人は救済され生存している。1 人は二次性悪性腫瘍の診断後 1。4 年で頸部転移により死亡し、
1 人は 11。5 年で死亡した。もう一人は局所制御できず、また頸部転移もあるが生存している。
26 人の二次性悪性腫瘍診断後の 4 年全生存率は 87。8%であった。手術を行った患者の 4 年全生
存率、4 年局所制御率、4 年非再発制御率はそれぞれ、94。4%、94。7%、90%であった。再度の小
線源治療を行った患者の 4 年局所制御率、4 年非再発制御率は 25%、25%であった。化学療法、レ
ーザー治療を受けた患者ではいずれも 0%であった。手術を行った患者の予後は再度の小線源治療
や他の治療を受けた患者よりも有意に高かった。再度の小線源治療を受けた全ての患者に口腔潰
瘍が見られたが、手術を受けた患者のいずれにも重篤な合併症は発生しなかった。
<考察>
本研究では舌癌小線源治療後の長期経過観察における口腔内の二次性悪性腫瘍の発生率を求
め、9。3%であり、統計学的計算上は小線源治療後 30 年で 17。7%と表された。我々の研究では二
次性悪性腫瘍の発生率は他の報告より高いが、我々の研究では二次性悪性腫瘍と局所再発を区別
しなかったことが原因かもしれない。二次性悪性腫瘍のほとんどは扁平上皮癌であった。しかし、
過去の報告では舌癌の小線源治療後の局所再発は 5 年以内に発症し、また他の研究では、10 年局
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所制御率は 5 年局所制御率と同じであったと報告している。小線源治療後に 8 年以上(中央値 11。
7 年)経過して発生した本研究の口腔内腫瘍が局所再発である可能性は低いと考える。放射線治療
後の二次性悪性腫瘍に望ましい治療は手術であり、5 年生存率で 16%-36%と報告されている。しか
し腫瘍位置や程度、医療禁忌、患者拒否のため手術はしばしば制限され、患者の 20%のみが救済
手術を受けることができる。本研究での我々の方針は手術可能、切除可能な患者には手術を施行
し、手術不能・切除不能な場合は再度の小線源治療を行なった。手術を行った患者の 4 年全生存
率、4 年局所制御率、4 年無病生存率は 94。4%、94。7%、90%であり、再度の小線源治療よりも優
れていた。最近では小線源治療以外にも定位放射線治療や強度変調放射治療などの高精度治療技
術を用いた再照射の報告が出てきており、手術不能患者に治癒の可能性のある治療選択肢となっ
ている。Langendijk らは頭頸部領域で手術不能または切除不能の二次性悪性腫瘍の第 2 相試験の
結果を報告した。彼らは頭頸部領域に外部放射線治療 (60-66Gy)を施行し 2 年局所領域制御率は
35%であった。さらに患者全体の 24%でグレード 3 または 4 の嚥下合併症を観察し、患者全体の
12%に経鼻経管栄養が必要であった。我々の研究では再度の小線源治療を受けた全患者は放射線潰
瘍に苦しみ、その上いずれの患者も救済できなかった。局所に高線量を投与可能な小線源治療で
は、 長期経過中に病変周囲に強い線維化を生じており、
二次性悪性腫瘍の治療範囲の設定を
困難とし、 さらに不充分な血液量で低酸素化が生じている可能性がある。
<結論>
小線源治療後に口腔内に発症した二次性悪性腫瘍は長期経過の後に 1/10 の患者にみられ、手術
が救済治療の唯一の手段であった。
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論文審査の要旨および担当者
報 告 番 号
乙 第
論文審査担当者
2343
号
齊藤 恵里
主
査 朝蔭孝宏
副
査 河野辰幸、原田浩之
【論文審査の要旨】
1.論文内容
本論文は舌癌の小線源治療後の二次性悪性腫瘍の発生に関する論文である。
2.論文審査
1)研究目的の先駆性・独創性
口腔癌に対する治療として古くから小線源治療が行われてきたが、二次性悪性腫瘍発生に関す
る研究報告はない。申請者は 1959 年から 2000 年までの長期にわたる舌癌患者を対象とし、二次
性悪性腫瘍発生率、二次性悪性腫瘍発生に関与する因子、二次性悪性腫瘍に対する治療成績およ
び治療に際しての問題点を検討しており、その着眼点は評価に値するものである。
2)社会的意義
本研究で得られた主な結果は以下の通りである。
1. 舌癌小線源治療後の二次性悪性腫瘍の 10 年・20 年・30 年累積発生率は、それぞれ 2.5%、10.3%、
17.7%であった。
2. 二次性悪性腫瘍発生と各臨床病理学的因子との関連では、女性、高齢に二次性癌が多い傾向
がみられたが、有意差は認めなかった。
3. 二次性悪性腫瘍症例 26 例の4年全生存率は 87.8%であった。
4. これら 26 例に対する治療法別の局所制御率は、手術療法 94.7%、小線源治療 25.0%、他 0%で
あった。
以上のように申請者は、30 年という長期の二次性悪性腫瘍累積発生率を明示し、その治療法に
も言及しており、臨床的にも極めて有用な研究成果であるといえる。
3)研究方法・倫理観
研究対象は 281 例と症例数も多く、経過観察期間も 10-51 年(中央値 14.4 年)と非常に長期に
わたる臨床研究であり、本研究が極めて周到な準備の上に行われてきたことが窺われる。
4)考察・今後の発展性
さらに申請者は、二次性悪性腫瘍発生例に対しては手術をすべきであると結論付けている。今
後、高齢化を迎えるにあたり、二次性悪性腫瘍発生例は増加するものと推測されるが、今後のさ
らなる研究結果が期待される。
3. その他
4.審査結果
以上を踏まえ、本論文は博士(医学)の学位を申請するのに十分な価値があるものと認められた。
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