〔高 EC 施設土壌における土壌診断技術の改良〕 都内農耕地土壌の水溶性陰イオン分布 金牧 彩・松浦里江・北山朋裕 (生産環境科) -------------------------------------------------------------------------------【要 約】都内施設土壌では塩類集積が進行している。施設の EC 上昇の主な要因は陰イオ ン(硝酸イオン,硫酸イオン)の蓄積である。副成分を考慮した管理を行っていく必要が ある。 -------------------------------------------------------------------------------【目 的】 施設土壌は塩類集積が進行しやすく,EC が高くなりやすい。これまでに,都内施設土壌 の塩類集積の一因となっている成分は陰イオンであることが判明している。しかし,陰イ オンによる過剰障害はまだ不明の点が多い。そこで,都内土壌の水溶性陰イオンの濃度分 布の実態を明らかにし,適正値判断のための資料とする。 【方 法】 測定試料は,2012 年から 2014 年の間に採取された作土を用いた。採取地点は,西多摩, 北多摩,区部を含む計 290 地点である。土壌中に含まれる各種陰イオンは,供試土壌に5 倍量の蒸留水を加え,1時間振とうしてろ過したものをイオンクロマトグラフィーで測定 した。 【成果の概要】 1.地目別 EC について,露地畑では 0.25mS/cm までの地点が7割以上を占めていた。施設 では 0.25mS/cm 以上の地点がほとんどであり,露地と比較して塩類が集積している傾向 がみられた(図1)。 2.土壌中の水溶性陰イオン濃度の分布をみると,塩化物イオンは0~10mg/100g の範囲 に多く分布し,10mg/100g 以上の地点は施設,露地ともにまれだった。硝酸イオンは, 0~10mg/100g の範囲に分布が集中したが,それ以上の高濃度域にも分布し,特に施設 でその傾向がみられた。硫酸イオンは,0~10mg/100g で度数が最も高くなったが,硝 酸イオンと同様に,高濃度域でも分布し,特に施設で高濃度の地点がみられた。なお, 陰イオンのうち,フッ化物イオン,亜硝酸イオン,臭化物イオン,リン酸イオンについ ては含有量が少量であったため,省略した(図2)。 3.水溶性陰イオンのうち,硫酸イオンは EC ともっとも高い相関を示した。火山灰を母材 とする土壌には潜在的に硫酸が多く含まれているが,肥料の副成分由来の硫酸や,有機 質資材中のタンパク質に含まれる硫黄の無機化で蓄積が進行していることが予測される (図3)。 4.まとめ:都内施設では塩類集積が進行し,耐塩性の少ない作物の生育には不適な数値 の地点がみられた。EC 上昇の主な要因は水溶性陰イオン(硝酸イオン,硫酸イオン)で あり,土壌中硝酸態窒素量に応じた窒素減肥や副成分を含まないノンストレス肥料の導 入を選択していく必要がある。 90 85 80 74 度数 70 施設 60 n=82 露地 50 n=208 40 34 30 22 20 0 18 ~0.125 ~0.25 1 2 ~1.0 4 ~0.5 3 1 ~8.0 7 ~4.0 ~2.0 5 6 地目別土壌 EC(mS/cm) 施設 100 度数 n=71 80 露地 n=136 60 42 20 9 8 3 3 6 2 3 0 3 1 0 1 0~0.28 ~0.56 ~1.13 ~2.26 ~4.51 ~9.03 ~15.8 1 2 3 4 5 6 7 0~10 ~20 ~40 ~80 ~160 ~320 ~560 硝酸イオン 90 80 70 70 60 60 50 50 40 40 30 30 23 17 10 硫酸イオン 90 80 80 0 5 0 126 120 20 6 4 塩化物イオン 140 0 14 1 図1 40 16 10 10 19 13 12 9 4 50 38 25 18 20 10 2 6 6 1 1 3 1 0~0.2 ~0.3 ~0.6 ~1.3 ~2.6 ~5.2 1 2 3 4 5 6 ~10.3 7 ~19.4 8 0~10 ~20 ~40 ~80 ~160 ~320 ~640 ~1200 10 0 13 14 12 11 4 14 2 2 0 下段:mg/100g 乾土 土壌中陰イオン分布 施設 露地 硫酸イオン(mg/100g) 3 0~0.2 ~0.3 ~0.6 ~1.3 ~2.6 ~5.2 1 2 3 4 5 6 ~10.3 7 ~17.7 8 0~10 ~20 ~40 ~80 ~160 ~320 ~640 ~850 上段:meq/100g 図2 0 1 800 800 R² = 0.6439 R² = 0.669 n = 136 600 600 400 400 200 200 0 0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 n = 71 0 0.0 1.0 2.0 EC(mS/cm) 図3 硫酸イオンと EC の相関 3.0 4.0 5.0 6.0
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