【平成28年7~12月期】 「静岡県内企業経営者の景気見通し」調査(B.S.I.)

平成 28 年6月6日
一般財団法人静岡経済研究所
理事長 鈴木一雄
静岡市葵区追手町 1-13
TEL054-250-8750
FAX054-250-8770
【平成28年7~12月期】
「静岡県内企業経営者の景気見通し」調査(B.S.I.)
景況感は2期ぶりにプラスへ
~来年1月以降の先行きは不透明~
□静岡県内企業経営者に対し、伊勢志摩サミット開催および消費増税延期発
表前の 5 月 10 日~20 日にかけて、業界景気の見通しをアンケート調査し
た。
(調査対象 467 社のうち有効回答数 271 社、有効回答率 58.0%)
□ 平成 28 年 5 月実施の「静岡県内企業経営者の景気見通し」調査では、平成
28 年 7 月~12 月期のB.S.I.(業界景気見通し指数)は、
「上昇」
(22%)
が「下降」
(19%)を+3 ポイント上回り、27 年 5 月調査以来、2 期ぶりに
プラスとなった。
□ 平成 29 年上期(1 月~6 月)の景気見通しは、調査時点では、29 年 4 月の
消費増税の可能性が残されていたことから、その影響を懸念したとみられ、
B.S.I.は「上昇」
(16%)が「下降」
(20%)を△4 ポイント下回り、マ
イナスとなり先行きは不透明な状況。
今月の定例調査
第106回 静岡県内企業経営者の景気見通し調査(平成28年7~12月期B.S.I.)
景況感は2期ぶりにプラスへ
~来年1月以降の先行きは不透明~
図表1 半期先の業界景気見通し
30
20
27
22
10
23
25
18
14
22
21
(注)
16
15
0
-10
-20
-15
-21
1
-36
-30
12
-25
-23
1
-22
-19
-18
2
-19
-3
-5
0
12
0
0
H25.5
H25.11
H26.5
-20
3
0
-22
-40
-50
B.S.I.
-23
-5
0
2
-3
3
-4
-60
H24.5
H24.11
上昇(%)
下降(%)
H26.11
H27.5
H27.11
B.S.I.(上昇と下降の差を指数化したもの)
(注)H29年上期はH28年下期と比べた業界景気見通し
H28.5
H28年
下期
H28.11
H29年上期
H28.5(今回)
景気見通し(概況)
□景況感はプラスに転じる(大企業・中小企業とも上昇)
平成28年下期(7~12月)のB.S.I.(※)による業界景気見通しは、
「上昇」
(22%)が
「下降」
(19%)を3ポイント上回り、2期ぶりにプラスとなった。原材料価格や賃金の
上昇が懸念されるものの、販売数量や受注額の増加が見込まれ、28年初からの円高・株安
の動きにも一服感がみられたことから、経営者の景気見通しはプラスに転じた(図表1)。
企業規模別にみると、大企業では「上昇」
(22%)が「下降」
(14%)を+8ポイント上
回り、中小企業でも「上昇」
(22%)が「下降」
(19%)を+3ポイント上回るなど、企業
規模の大小により差はあるものの、全般的には景気改善の見通しとなった。
(次頁図表2)。
一方、平成29年上期(1~6月)は、調査時点で29年4月の消費増税の可能性が残され
ていたことから、その影響を懸念したとみられ、
「上昇」
(16%)が「下降」
(20%)を△
4ポイント下回りマイナスとなった。企業規模別では、大企業で+8ポイントと引き続き
上昇を見込んでいるものの、中小企業では△6ポイントと厳しい見通しとなった。(次頁
図表2)
。
(※)B.S.I.(Business Survey Index)とは、
「上昇」と「下降」の差を指数化したもの。
次頁「調査の要領」
(注)を参照。
(1)
業種別見通し
□製造業・非製造業とも上昇するが先行きには不透明感
平成28年下期の業種ごとの見通しを前回調査(28年1月~6月見通し)と比べると、製
造業(△4→+5)が2期ぶりに、非製造業(△2→+2)は5期ぶりにプラスに転じた。
(図表3)
。
さらに業種別に細かくみると、全17業種のうち、
「上昇」が7業種、
「横ばい」が3業種、
「下降」が7業種となった。
「木材・木製品」
(△17→+20)
、
「パルプ・紙・紙加工品」
(△23→+6)
、
「ホテル・旅館業」
(△38→0)といった業種で持ち直しを見込んでいる
一方、
「小売業」
(+10→△16)
、
「その他製造業」
(0→△20)などでは下降見通しに転じ
ている(7頁付表)
。
なお、平成29年上期については、製造業(+5→△2)
、非製造業(+2→△8)とも
下降が見込まれており、先行きには不透明感が見られる(図表2・3)
。
図表2
図表3 業界景気見通し推移(B.S.I.)
業界景気見通し
(単位:%)
項
目
業種別・
規模別
全 企 業
大 企 業
中小企業
製 造 業
大 企 業
中小企業
非製造業
大 企 業
中小企業
回
答
企
業
数
271
37
234
158
16
142
113
21
92
30
業 界 景 気
28年7~12月
29年1~6月
上
昇
22
22
22
23
40
21
21
10
23
横
ば
い
59
64
59
59
60
59
60
66
59
下
降
19
14
19
18
0
20
19
24
18
B
S
I
上
3
8
3
5
40
1
2
△ 14
5
昇
16
19
15
17
13
18
13
24
11
横
ば
い
64
70
64
64
80
62
66
62
66
下
降
20
11
21
19
7
20
21
14
23
製造業
20
B
S
I
非製造業
10
△ 4
5
(-2)
0
8
△ 2
2
△ 6
(-4)
-10
△ 2
6
△ 8
-20
△ 2
△ 8
-30
10
24. 5
11
25. 5
11
26. 5
11
27. 5
11
28. 5 29上期
△ 12
(今回)
注1)
本調査における中小企業とは、資本金3億円以下または従業員 300 人以下の企業(ただし卸売業では同1億
円以下または同 100 人以下、小売業では同 5,000 万円以下または同 50 人以下、サービス業では同 5,000 万
円以下または同 100 人以下)であり、それ以外を大企業とした。
注2)
「28 年7~12 月」は平成 28 年1~6月、
「29 年1~6月」は平成 28 年7~12 月と比較した見通しである。
調 査 の 要 領
(1) 調査目的:この調査は、当研究所が昭和38年より毎年2回実施しているもので、静岡県内企業経営者の自社
の業績見通しをもとに、業界景気を調査することを目的にしている。
(2) 調査対象:静岡県内に本社をおく主要企業。
(3) 調査方法:各企業に対するアンケート調査。
(4) 調査内容:①平成28年上期(1~6月)に比べた平成28年下期(7~12月)
、および平成28年下期に比べた
平成29年上期の自社の業績見通し
②平成28年上期に比べた平成28年下期の売上額、経常利益などの項目別見通し
③現在の企業経営上の問題点および今後重視する経営戦略
(5) 調査時点:平成28年5月中旬
(6) 回答状況:調査対象企業467社のうち、有効回答をよせられた企業は271社で、有効回答率は58.0%である。
注)B.S.I.(Business Survey Index)とは、企業経営者の見通しを数字であらわしたもの。前期に比べて上昇とみ
る…x、横ばいとみる…y、下降とみる…zについて、x+y+z=100とした時、B.S.I.=2x+y-100=x-zと定義。全員
が上昇とみればB.S.I.は+100、全員が下降とみるとB.S.I.は△100になる。上昇と判断する人が多ければ多いほ
ど+100に近づき、下降とみる人が多ければ多いほど△100に近づき、上昇と下降が同数(全員が横ばいとみる場
合も含む)の場合、B.S.I.は0となる。
(2)
項目別見通し
□販売数量は増加するも、単価低下により経常利益は減少見通し
項目別の見通しでは、製造業においては、
「売上額」が「増加」すると予想する割合が
「減少」と予想する割合を上回る(+10)
。
「販売(出荷)価格」(△14)は下がるものの、
「販売数量」
(+10)でカバーする見通しで、
「売上額」や「販売数量」の増加に伴い「設
備投資」(+14)も増える見込み。(図表4、5)。一方で、「賃金」(+30)の上昇により、
コストの増加が続くとの見通しが多く、
「経常利益」(△14→△7)はマイナス幅こそ縮小
するものの、増加に転じるまでには至らないと予想される。
非製造業では、
「販売数量」
(+6)が増加するのに対し、
「販売(出荷)価格」(△1)
の低下は小幅にとどまることから、「売上額」(+8)は増加が見込まれる(図表4、5)。
しかし、
「原材料(仕入)価格」
(+23)
、
「賃金」
(+32)も上昇する見通しから、製造業
以上にコスト面で苦しい状況が予想され、
「経常利益」(△7→△4)は引き続き減少する
見通し。
図表4 平成28年7~12月の項目別見通し
[製造業]
[非製造業]
減少・下降
増加・上昇 B.S.I 項
26
36
22
目 B.S.I
10 売
8
上
額
8
△ 14 販 売 ( 出 荷 ) 価 格
△ 1
27
37
10 販
量
6
27
22
37
10 受
注
額
4
38
16 生
産
量
1
5 原材料(仕 入) 価格
23
12
17
1
21
31
20
8
18
32
9
25
32
売
数
30 賃
10
25
△3
金
32
△ 11 製品(商品 )在 庫数
7
34
26
16
19
29
2
34
10
17
3
者
数
18
備
投
資
0
20
△ 16 金 融 機 関 借 入
△ 14
22
益
26
6
用
利
31
22
18
14 設
常
15
25
12 雇
△ 7 経
(単位:%)
増加・上昇
減少・下降
21
20
8
23
27
△ 4
図表5 主要な項目別見通しの推移(B.S.I.)
[製造業]
40
[非製造業]
40
売上額
売上額
30
25
雇用者数
雇用者数
26
経常利益
20
販売(出荷)価格
30
販売(出荷)価格
経常利益
20
(18)
12
10
10
10
(9)
18
(11)
8
(8)
0
0
(-2)
(-6)
-7
-10
-10
(-14)
-1
(-7)
-4
-14
-20
-20
-30
-30
-40
-40
25.5
11
26.5
11
27.5
11
25.5
28.5
(今回)
(3)
11
26.5
11
27.5
11
28.5
(今回)
経営上の問題点
□売上不振および人材確保が課題として浮き彫りに
企業経営上の問題点と
しては、製造業、非製造
図表6
現在の企業経営上の問題点(複数回答)
(%)
業ともに、企業のトップ
売上(受注)不振
ラインである「売上(受
販売(出荷)価格の低迷
注)不振」の回答割合が
55.3 (47.1)
50.9 (50.4)
(30.6)
33.6
(32.7)
(24.2)
27.6
46.4 (42.5)
22.4 (29.3)
(21.2)
20.0
21.7 (19.1)
20.0 (28.3)
19.1 (19.1)
21.8 (15.9)
18.4 (19.1)
(8.0)
21.8
人手不足
諸経費(物流費、物件費など)の上昇
最も多く、売上の低迷が
続いている(図表6)
。
賃金(人件費)の上昇
原材料(仕入)価格の上昇
製造業では「販売(出
生産(受注)能力の低下・不足
荷)価格の低迷」や「人
後継者問題
手不足」が前回比増加し
ており、顧客の根強い低
9.1
13.8
10.9
9.9
製品(商品)在庫の増大
2.7
7.2
5.5
11.2
7.3
資金不足・資金の調達難
その他
価格志向に加え、人材確
0
10
20
製造業
(9.6)
(1.8)
非製造業
(5.7)
(6.2)
(4.5)
(6.2)
30
(
40
50
60
70
)は前回調査
80
90
100
( )は前回調査
保に頭を悩ませている状
況がうかがえる。
一方、非製造業では「販売(出荷)価格の低迷」の回答が減少し、歯止めがかかった様
子もうかがえるが、
「原材料(仕入)価格の上昇」が利益面を圧迫している。また「人手
不足」が引き続き前回比増加するなど大きな課題となっており、人材確保に苦悩する状況
が浮かび上がる。
(4)
今後重視する経営戦略
□雇用面の課題解決に向けて人材育成を重視
今後重視する経営戦略とし
ては、製造業・非製造業とも
に、
「人材育成」や「合理
化・コストダウンの徹底」
、
「新規顧客・販路の開拓」が
上位を占めた(図表7)
。製
造業については、
「技術力・
企画力の強化」を重視する企
業が増加している。最上位に
挙げられた「人材育成」につ
図表7 今後重視する経営戦略(複数回答)
合理化・コストダウンの徹底
(64.3)
76.1 (79.6)
65.2 (73.9)
(46.0)
46.9
技術力・企画力の強化
58.2
(51.0)
(36.3)
51.3 (61.1)
61.1 (64.6)
38.9
新規顧客・販路の開拓
新製品・新サービス開発への注力
24.8
生産(販売)能力の拡大
新分野・新規事業への進出
22.2
(27.4)
29.2 (31.9)
18.4 (15.9)
財務基盤の強化
海外進出など国際化の推進
0.9
(3.5)
14.6 (15.3)
15.9 (19.5)
IT化の推進
(7.6)
(3.5)
4.0 (4.0)
1.8
(1.8)
その他
0
10
20
30
製造業
非製造業
(
4.4
3.5
新エネルギー・省エネルギーの導入
1人ひとりの生産性や企画力
40.5 (40.1)
(20.4)
34.8 (46.5)
38.1 (34.5)
29.7 (34.4)
24.8
(22.1)
29.1 (30.6)
21.2
(23.0)
既存製品・既存サービス高付加価値化
いては、人手不足に悩む中で、
(%)
69.0
人材育成
40
50
60
)は前回調査
70
80
90 100
を底上げすることで、人件費の増加を抑えるとともに、売上増加を図りたい企業が多いと
考えられる。
以上のように、静岡県内の企業経営者による平成28年下期の景気見通しは、景況感の持
ち直しが見込まれるが、平成29年上期は、賃金負担の上昇や円高などによる売上の不透明
感が強まることが予想され、中小企業を中心に見通しは厳しい。ただし、今回の調査は伊
勢志摩サミット前に実施したため、財政出動や消費増税の延期など政策的要因による経済
環境の変化から、28年7月以降の企業業績が上振れする可能性もある。
(主席研究員 山﨑眞嗣)
(5)
付表 平成28年7~12月の業界景気、自社の見通し(B.S.I.)
項 目(B.S.I.)
(業
前界
今界
売
販価
売
回景
)気
額
原(
仕
入
材
)
生
注
産
額
量
数
量
)
全 産 業(271)
回景
)気
受
売
出 荷 格
上
業 種
販
(
(業
賃
価
料格
製在
品
(
庫
商
品
)数
金
雇
設
金借
経
用
備
融
常
者
投
機
利
数
資
関入
益
△ 3
3
9
△ 9
9
8
12
12
31
△ 5
14
8 △ 14
△ 6
製 造 業(158)
△ 4
5
10
△ 14
10
10
16
5
30
△ 11
12
14 △ 16
△ 7
食料品(17)
△ 12
12
29
△ 12
35
29
41
12
35
△ 6
24
29
木材・木製品(10)
△ 17
20
30
0
30
20
40
20
30
0
10
20 △ 30 △ 30
パルプ・紙・紙加工品(16)
△ 6
12 △ 12
17
△ 23
6
31
△ 6
38
20
25
△ 13
25
△ 25
7
化学・ゴム製品(8)
0
25
13
0
25
25
37
25
38
25
12
0
窯業・土石製品(5)
0
△ 20 △ 40
△ 40
△ 40
△ 20
△ 20
20
0
0
20
△ 40
0 △ 40
鉄鋼・非鉄金属(6)
0
33
33
△ 34
50
50
66
33
67
0
17
△ 16
0
33
金属製品(12)
0
△ 9
9
△ 50
9
9
17
△ 25
17
0
17
0 △ 25
△ 9
37 △ 25 △ 25
一般機械器具(24)
15
0
9
4
9
25
9
8
17
△ 31
13
電気機械器具(12)
9
33
50
0
36
25
46
25
58
8
58
輸送用機械器具(32)
△ 10
△ 3
△ 9
△ 22
△ 16
△ 16
△ 6
△ 6
38
△ 19
△ 9
6 △ 13 △ 22
その他の製造業(16)
非製造業(113)
△ 20 △ 25
△ 19
△ 25
△ 25
△ 19
6
20
△ 19
0
25 △ 20 △ 40
△ 2
2
8
△ 1
6
4
1
23
32
7
18
△ 5
0 △ 18
△ 39
△ 22
△ 13
△ 6
35
31
△ 13
21
建設業(23)
0
卸売業(29)
6
35
42
14
34
26
22
14
38
18
24
小売業(25)
10
△ 16
12
8
0
△ 12
△ 10
30
40
0
16
6
△ 11
5
13
15
34
△ 11
27
24
25
18
運輸・倉庫業(17)
サービス業(13)
△ 20
△ 16 △ 15
△ 18
△ 9
△ 11
16
11
15
20
7
ホテル・旅館業(6)
△ 38
0 △ 16
0
△ 17
△ 33
△ 50
0
33
0
17
※業種名の横の( )内の数字はサンプル数
(6)
△ 9
13
50 △ 33
4
8
0 △ 14
△ 4
△ 4 △ 17 △ 22
0 △ 25
△ 20
17
△ 4
0
17 △ 19
6
17
10 △ 31
16 △ 17 △ 16