[ 5 ]食中毒に御用心

けんさの豆知識
2000 年 8 月発行
[5]食中毒に御用心
毎年、梅雨時期から秋にかけて『食中毒』がクローズアップされます。もっとも細菌
が繁殖しやすいこの時期は、とくに要注意!
右のグラフでわかるように食中毒の大部分を
占めるのが『細菌による食中毒』。細菌にも様々
な種類があり、これらが食品や調理器具、人の
手指などを介して体内に入り、下痢や腹痛など
の症状を引き起こします。4年前には腸管出血
性大腸菌O157騒動、今年7月には雪印乳業
の黄色ブトウ球菌による集団発生が記憶に新
しいところですが、近年発生件数が目立って増
えているのは、下グラフのサルモネラ、腸炎ビ
ブリオ、カンピロバクターです。今回は、この
3菌種についてまとめてみました。
●サルモネラ
Salmonella
【常在する場所】サルモネラは動物の腸管内に常在し、以前は食肉の汚染、ミドリガ
メからの感染が多かったが、今は鶏卵食品などが主な原因。これは大部分が鶏卵のそれ
も黄身の中に入り込むサルモネラ・エンテリティデスという菌による。
【性質】
・熱に弱い
・若年者ほど感受性が高く症状は重い
・病後あるいは無症状のものを含め保菌者となる場合がある
・一般に高温の季節に多発するが、冬季でも散発例は少なくない
・人獣共通感染
【検査】検体(便)を選択分離培地(SS寒天)に塗布して孵卵器
(35~37℃)に一晩入れておく(培養する)と左図のような無
色透明で2~3㎜の中心部が黒色の集落(コロニー)が観察さ
れる。SS 寒天培地で黒色集落を形成した場合、サルモネラ抗
血清を用い菌と混ぜ合わせて凝集を確認する。
【潜伏期】1~5日
【臨床症状】発熱、血便、膿・粘液便、水様便、腹痛、嘔吐
【対策】
・食品を十分に加熱する
・生卵を極力避ける
●腸炎ビブリオ Vibrio parahaemolyticus
【常在する場所】
腸炎ビブリオは海水中に生息しており、海水温が20℃を超えると盛んに増殖するの
で、夏期には沿岸の海水から容易に検出できる。近海産のアジ、サバ、タコ、イカ、ア
オヤギ、アカガイなどの体表・内臓・エラなどに付着していることが多い。
【性質】
・熱に弱い
・食塩濃度が3%(海水の食塩濃度とほぼ同じ)前後で活発に増殖する
・真水に弱く、水道水で洗うだけで殺菌できる
・増殖能力にすぐれており、条件さえそろえば短時間で増殖する
【検査】検体(便)を選択分離培地(TCBS培地)に塗布して孵
卵器(35~37℃)に一晩入れておく(培養する)と左図のよ
うな青または緑色で2~3㎜の集落(コロニー)が観察される。
このTCBS培地は食塩濃度が通常の培地より高く、他の菌
を抑制する成分が入っているので、この培地に発育し青色の
集落を形成すれば腸炎ビブリオである確率が高い。
【潜伏期】12~24時間
【臨床症状】腹痛、嘔吐、血便、水様便
【対策】
・食品を十分に加熱する・魚体を水道水でよく洗う
・保存するときは新鮮なものを4℃以下で
●カンピロパクター Campylobacter
【常在する場所】
カンピロパクターは鶏や牛、豚などの家畜、犬などのペット類の腸管内に常在し特に鶏
のささ身など生肉が汚染されやすい。
【性質】
・空気、熱、乾燥に弱い・酸素が十分にある状態では発育できない(微好気性菌)
・増殖できる温度:30℃~43℃と高い(他の食中毒菌は30℃~37℃が最適)
・増殖しないが10℃以下の低温で長期間生存できる
・便検査の際、他の菌と比べて発育してくる(検出)までの時間が長い
(通常1日培養⇒2日以上培養)
【検査】検体(便)を選択分離培地(Skirrow 培地)に塗布し微好
気状態で孵卵器(35~37℃)に2日以上入れておく(培養する)
と左図のような2~3㎜のやや紅色をおびた集落(コロニー)
が観察される。それをグラム染色して鏡検(右下写真)すると特
徴的なカモメが飛んでいるような(らせん状)の菌が観察され
る
【潜伏期】1~10 日
(平均3~5日)
【臨床症状】
血便,膿・粘液便,腹痛,発熱,嘔吐
【対策】
・食品を十分に加熱する
・冷蔵庫内の保管(温度管理)には十分注意する
▼食中毒にかかった場合、健康な大人は軽い症状ですむことが多いためほとんど心配あ
りませんが、抵抗力の弱い幼児や高齢者では時に命にかかわる重い症状をおこすことが
あります。脱水症状のほか、気管支内に嘔吐物が詰まることがあるので注意が必要です。
▼食中毒疑いでの便の細菌検査は、検体(便)が採られるタイミングが重要で、急性期を
過ぎるにつれて検出率も下がります。
▼細菌の繁殖条件は、[温度(30~37℃が最適)・水分(湿り気)・栄養]です。
好条件がそろうと短時間で飛躍的に増殖します。
食中毒予防の段階別チェックポイント
①食品の購入
⇒肉、魚、野菜などの生鮮食品は新鮮なものを購入する/消費期限表示を確認する/肉、
魚は、それぞれに分けて包み、持ち帰る/温度管理が必要な食品は最後に購入する/買
い物後は速やかに帰宅する
②食品の保存
⇒買った食品はすぐに冷蔵庫や冷凍庫に入れる/生ものと他の食品は、棚を別にして入
れる/冷蔵庫は10℃以下、冷凍庫は-15℃以下で保存/冷蔵庫や冷凍庫の詰めすぎ
に注意する(7割程度が目安)/肉、魚、卵を扱う前後は必ず手指を洗う/流し台の下
に保存する時は水漏れに注意、また床に置かない
③下準備
⇒調理台の上はきれいに片づける/動物にさわる、トイレに行く、おむつを交換する、
鼻をかむなどの後は手を洗う/野菜はよく洗う/調理器具(包丁、食器、まな板、ふき
ん、たわし、スポンジなど)は洗剤と流水でよく洗い、漂白剤、熱湯などで消毒する/
包丁、まな板は肉用、魚用、野菜用と別々にする/肉や魚の汁がサラダなどの調理済食
品にかからないようにする/同じまな板の上に野菜と肉を一緒に置かない/冷凍食品
の解凍は冷蔵庫や電子レンジで行う/使う分だけ解凍し、冷凍や解凍を繰り返さない>
④調理
⇒加熱は十分にする(中心部が75℃で1分以上)/特にハンバーグは、中まで火が通っ
ているか必ず確認を/調理を途中でやめるときは、冷蔵庫に入れ、再び調理するときは、
十分加熱する/電子レンジを使用するときは、加熱ムラがないようにかき混ぜて均等に
加熱する/卵を割ったら直ちに調理し、数分でも放置したものは、十分に火を通す
⑤食事
⇒食べる前に手を洗う/清潔な手で、清潔な器具を使い、清潔な食器に盛りつける/温
かい料理は65℃以上、冷やして食べる料理は10℃以下にしておく/調理前、後の食
品は、長く放置しておかない
⑥後片づけ
⇒つけ置き洗いは時間が経つほど細菌が増えるので、食後は早めに洗いものを/洗い終
えた食器はすぐにふかず、自然乾燥させたほうがよい/食べかすや水分など、細菌の栄
養源になるものはシンク周辺に残さない/配水管やゴミ入れは、2~3日に一度はてい
ねいに掃除し、ゴミをためない
⑦残った食品
⇒残り物はすぐに容器に取り分けて冷蔵庫にしまう(冷蔵庫内の温度を上昇させないよ
う、フタ付きの容器に入れてあらかじめ流水で冷やすとよい)/残り物を温め直すとき
は75℃以上にし、みそ汁、スープは沸騰するまで加熱する/少しでもあやしい食品、
時間が経ちすぎた食品は思い切って捨てる
食中毒予防の3原則
細菌をつけない・増やさない・殺菌する