書 評 『アー カイ ブズの科学』(上 ・下)

『アー カ イ ブ ズ の 科 学』(上 ・下)
書
評
国文学研究資料館史料館編
『ア ー カ イ ブ ズ の 科 学 』(上
・下)
(柏 書 房 、2003年)
坂
口
貴
弘
創 価 教 育 研 究 セ ン ター が 進 め る 「池 田研 究 」 の 基 盤 構 築 を考 え る上 で 、 参 照す べ き 知 見 に満
ちた 一 書 を紹 介 した い 。
史 料 な く して 歴 史 な し
あ る人 物 の生 涯 や 団 体 の歴 史 を体 系 的 に研 究 し よ う とす る とき 、 ま ず や らな くて は な ら ない
こ とは何 で あ ろ うか 。 な に よ り中 心 的 な 作 業 とな るの は 、 そ の 人 物 や 団 体 に 関す る 史料(歴
史
資 料)を 網 羅 的 に探 し出す こ とで あ ろ う。 考 古 学 的 な古 代 史 の 研 究 で も民俗 学 的 な 近 世 史 研 究
で も、 そ して 近 現 代 の 人 物研 究 の場 合 にお い て も 、 こ の原 則 は 等 し く当 て はま る。
歴 史 研 究 は思 い 込 み や 伝 聞 を排 し、信 頼 で き る史 料 を徹 して 読 み 込 む こ とか ら始 め な くて は
な らない とい うの が 、近 代 的 歴 史 学 の 大 前 提 で あ る。 史 料 に基 づ か な い研 究 は説 得 力 の あ る も
の とはみ な され な い。 史 料 が 存 在 しな い 時 代 や 団 体 にっ い て 、 実 証 的 、 科学 的 な歴 史研 究 を行
うこ とはで き ない ので あ る。
保 存 な く して 利 用 な し
っ ま り現 在 、我 々が 史 料 を利 用 して過 去 の 事 物 を知 る こ とが で き るの は 、各 時代 の 先 人 た ち
が 史 料 を廃 棄 せ ず に継 承 して くれ た か ら に他 な ら ない 。 この 原 理 に 照 ら して考 え る な らば 、 現
代 の人 物 や 団 体 の業 績 が 数 百 年 の 後 に ま で 確 実 に伝 わ って い くか ど うか は 、 そ の 業績 に 関 す る
史 料 が 十 全 に伝 え られ るか 否 か にか か っ て い る とい うこ と にな る。 日々 生 み 出 され て い る様 々
な記 録 や 情 報 を どれ だ け散 逸 させ ず に 保 存 す る こ とが で き るか が 、21世 紀 とい う時代 に 対 す る
未 来 世 代 の 評 価 を決 定 づ け る の で あ る。
す な わ ち 、 これ まで 残 され て き た過 去 の歴 史 に関 す る史 料 を保 存す る と とも に 、現 代 に 関 す
る史 料 を将 来 に伝 え る こ とは、 現 代 に 生 き る我 々 に課 せ られ た 責務 な の で あ る。 それ で は ど う
す れ ば 、我 々 が 出会 うこ ともな い 遠 い 未 来 の 世 代 にま で 史 料 を確 実 に残 し続 け る こ とが で き る
ので あ ろ うか 。 こ の課 題 に真 正 面 か ら応 え よ う と して い るの が 、 こ こで 紹介 す る 『ア ー カ イ ブ
ズ の科 学 』 で あ る。
TakahiroSakaguchi(慶
磨 義 塾 大 学 大 学 院 博 士 課 程)
一302一
創 価教 育研究第4号
ア ー カ イ ブズ とは
この本 の紹 介 に先 立 っ て 、「ア ー カイ ブ ズ 」とは何 で あ る か につ い て 簡 単 に述 べ てお き た い 。
ア ー カイ ブズ は英 語 のarchivesに あた る。「ア ー カ イ ブ 」「ア ー カ イ ブ ス 」な どの語 形 も含 め て 、
日本 で も最 近 広 ま りっ つ あ る言 葉 で あ る。
アー カイ ブ ズ の意 味 にっ い て は い ろい ろ な解 釈 が あ る が 、簡 単 に言 え ば 「
長 期 間 保 存 され て
き た記 録 、 あ るい は 長 期 間 保 存 され る べ き記 録 」 とい う意 味 で あ る。
この場 合 、ア ー カイ ブ ズ の生 まれ た 時 代 や 環 境 、種 類 や 形 態 は 問 わ な い。 す な わ ち 、古 代 の
粘 土 板 や 木 簡 、平 安 時 代 の貴 族 の 日記 、 江 戸 時 代 の大 名 の書 状 、現 代 の政 府 閣議 の議 事 録 、 コ
ン ビニエ ン ス ス トア で 発 行 され る レシー ト、戦 争 体 験 の 聞 き取 りが 収 録 され た カセ ッ トテ ー プ 、
1ヶ 月 前 の患 者 の症 状 につ い て 医師 が 記 入 した カル テ 、昨 日受 信 した電 子 メ ール 、 な どのす べ
て を包 含 す る概 念 で あ る。 そ の た め 、お よそ現 代 の組 織 で アー カイ ブ ズ を保 有 して い な い と こ
ろ は存 在 しない とい え る。
なお 、上 記 の アー カイ ブズ が 保 存 され る場 所 や 機 関 も 、ア ー カイ ブ ズ と呼 ばれ る。 前 者 の 意
味では 「
記録史料」 「
公 文書」 「
保 存 記 録 」 な ど、後 者 の意 味 で は 「
文 書 館 」 「公 文 書館 」 「
記録
保 存 館 」 な どの訳 語 が あて られ る こ と もあ る。
この アー カイ ブ ズ を取 り扱 う人 の こ とを 「
ア ー キ ビス ト」 と呼ぶ 。 そ の仕 事 に は以 下 の よ う
な も のが あ る。
(1)ア
ー カイ ブ ズ の 調 査 ・収集
あ る地 域 や 団 体 につ い て の ア ーカ イ ブ ズ が 、ど こで ど の よ うに保 存 され て い るか を調 査 し、
必 要 に応 じて 文 書 館 等 の ア ー カ イ ブ ズ保 存 施 設 に移 管 す る。
(2)ア
ーカイブズの評価選別
各 組 織 が生 み 出す 膨 大 な現 代 記 録 のす べ て を永 久 に保 存 す る こ とは で き ない ので 、将 来 に
残 す べ き重 要 な記 録 を選 び 出 す 。
(3)ア
ー カイ ブ ズ の整 理
た く さん のア ー カイ ブ ズ の 中か ら必 要 な もの をす ぐに探 し 出せ る よ う、 目録 を 作 成 す る。
(4)ア
ー カイ ブ ズ の保 存 措 置
アー カイ ブ ズ を物 理 的 に保 存 す る の に適 した 温湿 度 管 理 や 防 災 対 策 を施 し、必 要 に応 じて
修 復 を依 頼 す る。
(5)ア
ー カイ ブ ズ の公 開 ・提 供
アー カイ ブ ズ を利 用 した い人 の た め に 、閲 覧 、 レフ ァ レン ス 、複 写 、展 示 な どの サ ー ビス
を提 供 す る。
ア ー カ イ ブズ は 必 要 な の か
こ の よ うなア ー カイ ブ ズ の特 徴 をみ て い く と、 それ は図 書 館 や 博 物 館 とは どの よ うに違 う も
の な の か とい っ た疑 問 が生 まれ る。 例 え ば 図書 館 と文 書 館 は 、資 料 を収 集 、 整 理 し、 閲 覧 に供
す る施 設 で あ る とい う点 で は共 通 してい る。 しか し、 図書 は 同 じも の が何 千 部 、何 万 部 と出版
され る の が普 通 で あ る の に対 し、 アー カ イ ブ ズ は1点
しか 保 存 され ない 稀 少 性 の高 い も の で あ
るた め 、 そ の取 り扱 い もお のず と異 な っ て くる。 ま た 、博 物 館 と文 書 館 は 、貴 重 な文 化 財 を保
管す る施 設 で あ る とい う点 で は共 通 して い る。 しか し、博 物 館 で の資 料 公 開 は主 にガ ラ ス ケ ー
一303一
『ア ー カイ ブ ズ の科 学 』(上 ・下)
ス の 中 で の展 示 とい う手 法 を と るの に 対 し、 文 書 館 の利 用 者 は 資 料 を直 接 閲 覧 で き るの が 一 般
的 で あ る。 こ の よ うに 、 文 書館 は 図 書館 や 博 物 館 とは 異 な る 性 質 を もっ機 関 で あ る た め 、 文 書
館 を 図 書館 や 博 物 館 の一 種 で あ る と考 え る のは適 切 で は な い。
一 般 に 、企 業 や 官 公 庁 な どの団 体 が ア ー カイ ブ ズ を保 存 ・管 理 す る意 義 は 、 主 に 以 下 の3点
に集 約 され るだ ろ う。
(1)業
務 の遂 行 を効 率 化 す る
文 書 を使 わず に行 われ る仕 事 は ほ とん どな い。 情 報 社 会 の到 来 に と もな い 、文 書 の増 大 に
悩 ま され て い な いオ フ ィ ス は あ りえ な い とい っ て も よい 。 何 年 も前 の 書類 や フ ァイ ル を オ フ
ィ ス 内 にい っ ま で も置 い て お くよ りも 、重 要 な文 書 のみ を長 期 的 に別 途 保 存 し、必 要 時 に検
索 して取 り出 せ る よ うにす る こ とが 、業 務 の効 率 化 に大 き く寄 与 す る。 オ フ ィ ス にお け る 文
書 管 理 シス テ ム は 、ア ー カイ ブズ として 永 く保 存 され るべ き重 要 文 書 を確 実 に管 理 す る仕 組
み を とも な って こそ 十 全 な も の とな る ので あ り、文 書 館 は 本 来 、 そ の 団体 の文 書 管 理 シ ス テ
ム の一 環 と して 設 置 され るの が 望 ま しい。
(2)そ
の 団 体 の ア イ デ ンテ ィテ ィを 明 らか にす る
例 えば 大 学 の ホー ムペ ー ジや ガ イ ドブ ッ ク を見 る と必 ず 存 在 す る の が 、そ の 大 学 の沿 革 を
記 したペ ー ジ で あ る。 ま た 、 「○ ○ 大学 三 十 年 の あ ゆみ 」 とい っ た 大 学 史 を編 さん す る大 学
も多 い。 少 子 化 、 国 際 化 が 進 展 し、 大 学 の 個 性 化 が 緊急 に 求 め られ て い る昨 今 に あ って 、 い
か な る大 学 も、 自 ら を成 り立 た せ て い る個 性 とは これ ま で の歴 史 の 中か ら創 り出 され て き た
もの で あ る こ と を知 って い るか らで あ ろ う。 そ の 大 学 の ア イ デ ンテ ィテ ィの よ りど こ ろ とな
る もの こそ 、歴 史 を根 拠 に 基 づ い て物 語 る た め の ア ー カイ ブズ な の で あ る。そ の存 在 意 義 は 、
情 報 公 開 や 大 学 の社 会 貢献 が い われ る今 日で は 、 よ り重要 な もの とな っ て き て い る。
(3)歴
史 を振 り返 る 際 の材 料 と して 活 用 す る
「文 書 は史 料 の 王 」 とい わ れ る。 後 代 に 書 か れ た歴 史 書 に は執 筆 者 の解 釈 や 操 作 が 入 って
い る場 合 が 多 い。 遺 跡 や 道 具 な どの モ ノ資 料 も有力 だ が 、情 報 量 の 点 で は文 字 で記 され た 文
書 に は及 ば な い。 そ の 時 代 に生 み 出 され た ナ マ の文 書 こ そ 、最 も信 頼 で き る証 拠 資 料 な の で
あ る。 科 学 的 な歴 史研 究 の た め に は 図書 館 や 博 物館 だ け で は足 りず 、文 書館 が必 要 不 可欠 と
され る ゆ え ん で あ る。
日本 で は 、 図 書館 や 博 物館 の存 在 意 義 は広 く認 知 され て い る の に対 し、 アー カイ ブ ズ を適 正
に 管理 し、そ のた めの 施 設 と して 文 書 館 を設 置 す る とい う発想 は い まだ 十 分 に普及 して い な い。
しか し、諸 外 国 で は政 府 、 自治 体 、企 業 、大 学 、教 会 の多 くが 自 らの文 書 館 を設 置 して お り、
そ こで は専 門 職 と して の 訓練 を 受 け た ア ー キ ビス トが活 躍 して い る。 そ のた め 、例 え ば現 代 政
治 史 研 究 者 の 問 で は 、戦 後 政 治 史 を調 べ た けれ ば まず 米 国 の国 立 公 文 書 館 に行 った ほ うが 、重
要 な史 料 を容 易 に入 手 で き 、 丁寧 な レフ ァ レン スサ ー ビス が 受 け られ る とい うのが 常 識 に な っ
て い る とい う。 日本 で もあ らゆ る 団体 に文 書 館 が設 置 され 、各 々 に アー キ ビス トが 配 置 され る
の が望 ま しい あ り方 とい え よ う。
『アー カ イ ブズ の 科 学 』 につ いて
前 置 きが 長 くな った が 、 こ の アー カ イ ブ ズ に 関す る研 究 お よび ア ー キ ビス トの養 成 につ い て
の国 内 の 中心 的 拠 点 の一 つ が 、本 書 『ア ー カ イ ブズ の 科 学 』 の 編 者 で あ る国 文 学 研 究 資 料 館 史
一304一
創 価教育研究第4号
料 館(当 時 、現 在 は国 文 学 研 究 資 料 館 ア ー カ イ ブズ 研 究 系)で
あ る。 本 書 は 同館 が5年 間 に わ
た っ て行 った 研 究 プ ロ ジ ェ ク トの成 果 と して 刊 行 され た 「
初 めて の アー カイ ブズ 学 総 合 講 座 」
(本書 の帯 よ り)で あ り、 上 下2巻 、 計42章 に及 ぶ浩 渤 な書 物 で あ る。
同書 が刊 行 され た 背 景 に は 、ア ー カ イ ブ ズ に関 す る議 論 は 単 に他 の諸 学 問(歴 史 学 、図書 館 ・
情報 学 、文 化 財 学 な ど)の 一 部 とみ な され るべ き も ので は な く、そ れ 自体 が 独 立 した 学 問 分 野
と して成 立 し うる存 在 な の だ 、 とい う認 識 の浸 透 が あ る。 また 、情 報 社 会 の到 来 や 情 報 公 開 の
推 進 、少 子 高 齢 化 の進 展 な ど とい っ た社 会 的 要 因 の 中 に あ って 、 日々流 通 す る膨 大 な 情 報 の う
ち未 来 に残 す べ き も の を着 実 に伝 え るた め の シ ステ ム が ます ます 求 め られ て い る 、 とい っ た点
も挙 げ られ る だ ろ う。 こ うい っ た要 請 に応 え る た め に 、 アー カイ ブ ズ に 関す る研 究 を深 化 ・充
実 させ 、 専 門職 と して の高 度 な知 識 と技 能 を身 にっ け た ア ー キ ビス トの育 成 と配 置 が 急 務 とな
っ て い る。
で は 、「ア ー カイ ブ ズ の科 学 」 とは 具 体 的 に い か な る もの な の で あ ろ うか。そ の到 達 点 を示 す
事 例 と して 、 本 書 の 中 よ り2つ の章 の概 要 を以 下 に要 約 して紹 介 した い。 いず れ も、 創 価 教 育
研 究 セ ンタ ー にお い て行 われ て い る業 務 に とっ て 極 め て有 用 な知 見 で あ る。
N部1編5章
(1)新
地 域 史 料 調 査 論(下
巻p.162-180)
しい 史料 調 査 法 の提 示 と試 行
これ ま で の 地 方文 書 な どの調 査 法 は 、「要 は 史 料 の 出納 に 便利 な よ うに番 号 を 与 え 、文 書 の総
量 ・内 容 をっ か む の が 目的 で あ る。(中 略)多 量 な史 料 の 時 は第 一 段 階 として 荒 仕 分 け を す る。
(中略)荒 仕 分 け の最 初 の 作 業 と して 、記 録 帳 簿 の冊 子 類 と一 紙 も の の証 文 ・書付 類 とに形 態
的 に大 別す る」 とい う よ うな や り方 で あ っ た。 これ らの調 査 法 は 、膨 大 な文 書 を前 に 、 ど うす
れ ばす ばや く整 理 が で き、 ど うす れ ば能 率 的利 用 が 可能 か とい うこ と を前提 に した形 態 分 け 、
年 代 分 けな ど の物理 的 区 分 けで あ っ て 、 それ が現 形/原 形 の破 壊 を もた ら した 、 とい わ ざる を
得 ない 。
新 しい 調 査 法 の 前 提 とな る整 理論 は文 書 館 学 に も とつ く もの で 、そ れ は 咄 所 原 則 」 「
原秩序
尊 重 の原則 」 「
原 形 尊 重 の原 則 」 を踏 ま えた 段 階 的 史 料整 理 論 とい え る。 これ らの原 則 は 、それ
ぞ れ の文 書 群 は決 して 無 秩 序 な 文 書 の塊 で は な く、 そ れ を生 ん だ機 関 、 団 体 、 家 、個 人 の組 織
と機 能 を反 映 した 体 系 的秩 序 を 内包 して い る、 とい うこ と を前提 に した原 則 で あ る。
か か る新 しい整 理 論 に も とつ い て 、安 藤 正 人 氏 は こ う述 べ て い る。r最 近 『文 書 の立 場 に立 っ
た整 理 』 とい うこ とを考 え る よ うにな った 。(中 略)文 書 の 『立場 』 は 単 に書 か れ た 内容 だ け で
は な く、 しば しば、 他 の ど うい う文 書 と一緒 に括 って あ った とか 、 どの 文 書 箪 笥 の どの 引 き 出
しの どの辺 の順 に収 納 して あ った とか 、 家 の 中の どの 場 所
蔵 の 中か母 屋 の 仏壇 の 下 か
に しま っ て あ った か 、 とい うよ うな点 に も如 実 に あ らわ れ て い る と考 え る か らで あ る」。
(2)初
期 調 査 の 目的 と中 間番 号方 式
初 期 調 査 の 目的 は、 まず 史 料 群 の現 状 を記 録 す る こ とで あ る。 具 体 的 には 、 写真 や 図画 や記
述 な どに よ っ て史 料 群 が どの よ うな場 所 に、 い か な る状 態 で 、 どん な容器 に、 ど う入 れ られ て
保 存 され て い た のか を記 録 す る こ とで あ る。
この調 査 手 順 の特 色 は 、史 料 群 の保 存 状 態 の把 握 や 概 要 を記 録 す るた め に、 史 料群 をあ るひ
とっ の ま とま りご とに捉 え 、 それ に 中間 番 号 を付 す とい う方 式 を取 り入 れ た こ とで あ る。 中間
番 号 を 用 い概 略 的 に史 料 群 を把 握 す る こ とに よ り、現 状 記 録 に要 す る時 間 は 、史 料1点1点
ご
との 保存 状 態 を厳 密 に記 録 す る こ とに比 較 して大 幅 に削 減 で き る し 、史 料 群 の 内容傾 向 も素 早
一305一
『アー カ イ ブ ズ の科 学 』(上 ・下)
く把 握 す る こ とが 可 能 で あ る。 中間 番 号 を用 い る方 式 は、 時 問 的 制 約 が あ る な か で史 料 群 の 保
存 状 態 を緊 急 に 凍 結 ・記 録 す るに は効 果 的 な方 法 で あ る。
(3)中
間 史 料 目録 の試 み
史 料 の内 容 ・機 能 な どを読 み 込 み 、 他 の史 料 との 関連 を考 え 、 かっ 全 体 像 を勘 案 しな が ら行
う基 本 目録 の編 成 には か な りの時 間 を必 要 とす る。 しか し、 自治 体 史 編 纂 な どで は 目録 編 成 に
あ ま り手 間 暇 をか け る わ け に はい か ない 。 こ の よ うな 問題 を勘 案 して採 用 した の が 、史 料 の 塊
や ま とま りを単 位 とした 目録 編 成 の方 法 で あ る。 そ の結 果 、 あ ま り時 間 と人 手 を か けず に 目録
編 成 をす る こ とが で き た 。
た しか に 内容(主 題)目 録 は一 見 必 要 な史 料 を検 索 す る の に便 利 で有 効 な よ うに見 え る が 、
しか しそれ は網 の 目が 粗 い 検 索 手 段 で あ っ て 、そ こか ら抜 け 落 ち る もの が 少 な くな い の で あ る。
機 械 的 な形 態 分 類 、年 代 分 け 、物 理 的 な主 題 分 けや 単 純 な分 類 は 、吏 料 間 の 内的 関連 の鎖 を断
ち切 り、幅 と深 さ に欠 けた 史 料 利 用 を も た らす 可 能 性 が高 い 。 それ に 比べ て この 中 間 目録 は 、
た しか に 内容 目録 よ り必 要 な史 料 の特 定 に少 し時 間 は かか るが 、 しか し網 の 目は細 か く逃 れ る
史 料 は少 な い。 さ らに、 歴 史研 究 の み な らず 、様 々 な角 度 か らの利 用 も十 分 可 能 で あ る。
V部
(1)温
ア ー カ イ ブ ズ の 保 存 と 修 復2章
保 存 環 境 コ ン ト ロー ル(下
巻p.325-375)
度 ・湿 度 ・光
湿 度 が一 定 の条 件 下 で は 、温 度 が10℃ 変 化 す る と紙 の寿 命 が5か
ら6倍 変 化 す る。 低 温 度 で
保 存 す る方 がモ ノ の寿 命 は飛 躍 的 に長 くな る。 紙 の劣 化 速 度 の調 査 に よれ ば 、6-9月
の高温
期 に著 しい劣 化 を受 け る が他 の月 は劣 化 速 度 が気 温 の低 下 に伴 っ て遅 くな る。 夏 期 の冷 房 は 意
味 が あ るが 、冬 期 の暖 房 はモ ノ に対 して は マ イ ナ ス の影 響 が あ る。
一般 の 閲 覧室 の温 度 ・湿 度 の設 定 の基 準 値 と して は 、一 般 的 に は 夏期 は25-27℃
600/,RH、冬 期 は20-24℃
湿 度 を50%RHか
、 湿 度40-50%RHが
ら10%RHに
よい。60%RH以
、湿 度50-
下 な らば カ ビ は生 息 し ない 。
下 げ る と紙 の寿 命 は3倍 程 度 延 び る との報 告 が あ る。 過 乾燥 と湿
潤 が繰 り返 され る と繊 維 は徐 々 に角 質 化 が進 み 、堅 く脆 くな っ て行 く。 そ の た め 、非 常 に 乾 い
た場 所 に モ ノを力 が か か らな い状 態 で保 管 して お くの は 問題 な い が 、利 用 の た め に通 常 の湿 っ
た 環境 へ持 ち 出す 回数 が頻 繁 となれ ば 、 か え っ て紙 の劣 化 を促 進 す る恐 れ が あ る。 ま た 、材 料
に よ って 望 ま しい湿 度 環 境 は異 な る こ と に注 意 が 必 要 で あ る。
蛍 光 灯 は紫 外 線 に 富 む た め 、紫 外 線 を カ ッ トす る物質 を塗 布 され て い る もの を用 い る な どす
る。 ス トロボ は そ の発 光 時 間 が極 め て短 い の で 、 そ の影 響 は無 視 で き る。 箱 に入 れ て 直接 光 が
当た らな い よ うにす る の も効 果 的 で あ る。
環 境 の測 定 は保 存 す べ き資 料 が保 管 され て い るす べ て の揚 所 に お い てす べ て の 時 間行 うの が
理 想 で あ る。 温湿 度 計 に は種 々 あ り、 同 じ環 境 で 測 定 して も異 な る値 が 出 る。
(2)生
物被 害
文 化財 の 生 物 対策 に お い て は 、材 質へ 安 全 な 方 法 か ど うか を 第一 に 考慮 す る必 要 が あ る。 有
害 生 物 は、 生 息 条件 が 合 えば次 々 と繁 殖 し、 そ の被 害 が急 に増 大す るの で 、 早期 発 見 が 極 めて
重 要 で あ る。一 般 に 高温 多湿 を好 み 、 通 気 が 悪 く 目の 届 き に くい場 所 で繁 殖 す る場 合 が 多 い 。
どん な被 害 が どの く らい あ っ た の か 、過 去 の被 害 の記 録 を整 理 す る。漏 水 、排 水 管 の破 損 、
通 風 孔 、壁 の亀 裂 ・隙 間 の 有 無 、 結 露 、 雨漏 り、扉 の 開 け放 し頻 度 にっ い て 点検 す る。 食 物 が
持 ち込 まれ る区 画 と文 化 財 収 蔵 区画 との問 の遮 断 が 十 分 か ど うか 点検 す る。
手 垢 や 汚 れ 、埃 な ど は、 カ ビや ダ ニ の 栄養 源 と な るた め 、文 化 財 が お かれ る空 間 は清 浄 に し
一306一
創価教 育研究第4号
て お く。 防 虫網 戸 を設 置 す る。 新 し く収 蔵 す る文 化 財 にっ い て は、 確 実 に害 虫 を除 い た の ち 、
収 蔵 す る こ とを徹 底 す る。
カ ビ の被 害 が 起 き た とき は 、 他 の文 化財 に被 害 が移 らない よ うに隔 離 した うえ 、環 境 の水 分
の除 去 ・お よび 環境 の湿 度 を下 げ る こ とが 重 要 で あ る。 お よそ70%の
消 毒 用 エ タ ノー ル が殺 菌
効 果 が高 い が 、 水気 が材 質 に悪 影 響 を及 ぼす 場 合 に は、 無 水 エ タ ノー ル で 代 用 して もあ る程 度
の殺 菌 が 可 能 で あ る。
(3)包
装材 料
保 存 箱 は埃 、 煤塵 等 の 汚染 物 質 や 、種 々 の 有 害 ガ ス か ら資 料 を護 り劣 化 を緩 和 して くれ る。
ま た保 存 容器 の利 用 は物 理 的 な損 傷 を避 け る こ とに も有 効 で あ る。
紙 の変 色 反応 は 乾燥 した 条 件 下 で は ほ とん ど起 き ない こ ともわ か っ て い る。
健 全 な資 料 は 密封 の メ リ ッ トが 大 き く、 傷 んで い る資 料 は開放 形 で そ の分 解 生 成 物 を外 に逃
が す メ リッ トが 大 き い。
アー カ イ ブ ズ の調 査 や保 存 環 境 の整 備 とい った 作 業 を行 う際 の よ りど ころ とな る、 科 学 的 な
理 念 と方 法論 が 蓄積 されっ っ あ る こ とが わ か る。 こ うい っ た 知 見 は本 来 、 人 物研 究 、歴 史 研 究
にた ず さ わ る人 々 と機 関 に とっ て 、欠 く こ と ので き ない 共 通 基盤 とい え る で あ ろ う。 創 立 者 研
究 、創 価 大 学 史研 究 を 実 証 的 に進 め よ うと して い る創 価教 育研 究セ ンタ ー に とっ て も、 そ れ は
同様 で あ る。
『アー カ イ ブ ズの 科 学 』 と創 価 大 学
創 価 教 育研 究 セ ンタ ー は 、牧 口常 三郎 先 生 、 戸 田城 聖 先 生 、創 立 者 池 田大 作 先 生 に 関 す る研
究 機 関で あ る と同 時 に 、創 価 大 学 の歴 史 に 関 す る資 料 を収集 し、 それ に基 づ い た創 価 大 学 史 の
研 究 を推進 す る機 関 で もあ る。 当セ ンタ ー が 収 集 す る資料 には 、 図書 、雑 誌 、視 聴 覚 資 料 、電
子 資 料 な ど と と もに 、創 価 大 学 等 が これ ま で 生 み 出 して き た 文 書 ・記 録 も含 まれ る 。す な わ ち、
当セ ン ター は研 究機 関 、 専 門 図 書館 と して の機 能 を有 して い る と と もに 、創 価 大 学 の 文 書 館 と
して の役 割 を果 たす べ き こ とは明 白で あ る。
『ア ー カ イ ブ ズ の科 学 』 下巻 の140ペ ー ジ に は 、 「
創 価 大 学創 価 教 育 研 究 セ ン タ ー が 大 学 ア ー
カ イ ブ ズ機 能 を強 め て い る」 との記 述 が あ る。 当セ ン ター が対 外 的 に は大 学 文 書館 の一 っ とし
て 認識 され て い る こ との表 れ で あ ろ う。
創 価 大 学 に お け る アー カ イ ブ ズ の具 体 例 として は 、 以 下 の よ うな も のが 考 え られ る。
(1)行
事 に 関す る も の
創 大祭 、 滝 山祭 、入 学 式 、卒 業 式 な どの各 種 行 事 の運 営 計画 書 、進 行 表 、登 壇 者 の原 稿 、
ビデ オ テ ー プ 、写 真
(2)教
授 会 に 関す る も の
教授 会 の議 事 録 、各 教 授 の研 究 ノー ト、 原 稿
(3)事
務 局 に 関す る も の
各種 会 議 の議 事 録 、各 部 署 の起 案 ・決 裁 文 書
(4)学
生 に関す る も の
学 生 自治 会 、学 友 会 ・ク ラブ 、寮 ・下 宿 、 ゼ ミ、 各 学 生 な どが生 み 出 した も の
(5)そ
の他
理 事 会 、創 友 会 ・会 友 会 、通 信 教 育 部 、 支 援 者 の方 々 な どに 関す る も の
一307一
『ア ー カイ ブ ズ の科 学 』(上 ・下)
創 価 大 学 を 愛す る人 々 は数 多 い。ク ラ ブや 自治 会 、寮 で の 活 動 、創 大 祭 な どの行 事 にお い て 、
多 くの 学 生 が 「大学 建 設 」 を こ れ ほ ど真 剣 に考 え 、 そ の責 任 を担 お う と して い る大 学 は 、他 に
ほ とん ど存 在 しな い で あ ろ う。 創 立者 の提 唱 され た 「
学 生 参加 の原 則 」 が 、創 大 独 自の文 化 と
して 定 着 して い る証 左 で あ り、 この学 風 は創 大 に とっ て か け が え の な い財 産 で あ る。 こ の よ う
な 代 々 の 学 生 た ち を は じめ 、創 大 を愛 し、 大 学建 設 に 身 を挺 して き た数 多 くの 人 々 の存 在 を、
時 の流 れ に埋 もれ させ る こ とな く後 代 の創 大 の た め に記 録 し伝 え る こ とは 、「一 世 代 」を 意 味 す
る30年 を経 た 現在 の創 大 に とって 重 要 な 事 業 で あ る。
ま た 、2003年 、2004年 には創 立者 の小 説 「
新 ・人 間 革命 」 に お い て 「
創 価 大 学 」 の章 が発 表
され た 。計103回 に わた る新 聞 連 載 で は 、創 大 の設 立 以 前 か らの 草創 の数 年 間 が い きい き と描 写
され 、 大 学 建 設 に当 時 た ず さわ った 関係 者 の み な らず 、 そ の歴 史 を初 め て知 る こ と とな った 現
役 学 生 に も感 銘 を与 え た。 これ を契 機 と して 、 創 価 大 学 史 に 対す る 関 心 は高 ま っ てい る。
現 今 の大 学 を め ぐ る環 境 下 に あ って 、 大 学 が 建 学 の精神 を未 来 に わ た って 継 承 し、 そ の個 性
を最 大 限 に発 揮 した 大 学 運 営 を進 めて い く に は 、そ の 中核 拠 点 と して 大 学 ア ー カ イ ブ ズ を設 置
し、大 学 に 関す る情 報 ・資 料 の 積 極 的 な 収 集 お よび サ ー ビス 提供 を行 う機 関 と して位 置 づ け る
こ とが今 後 必 須 の要 件 とな って くるで あ ろ う。 創 価 教 育 研 究 セ ン ター が 大 学 ア ー カ イ ブ ズ と し
て の機 能 を充 実 させ て い くこ とは 、そ の趨 勢 を先 取 り した 動 きで あ る と同 時 に、 創価 大 学 が そ
の 特色 に立 脚 した 一 流 の教 育 ・研 究 を推 進 して い くた めの 基 幹 事 業 で あ る とい え る。『ア ー カイ
ブ ズ の科 学 』 は 、創 立 者 お よび 創 価 大 学 の歴 史 を一 歩 深 く学 び た い とい う熱 意 を共有 す る方 々
に こそ 、一 読 をお す す め した い 好著 で あ る。
一308一