JARI Research Journal 20160605 【解説】 高度自動走行システムの実現に向けての非技術的課題 Non Techinical Issues for the Imprementation of Highly Automated Driving Systems 鈴木 尋善 *1 Hiroyoshi SUZUKI 1)ヒューマンファクター(HF)とドライバーテ 1. はじめに 高速道路で車両の縦方向制御を行う車間距離制 イクオーバー(システムからドライバーへの制 御システム(ACC)や横方向制御システムを行う 御の受渡しを意味する) 車線維持支援システム(LKAS)はすでに製品化 2)ウィーン条約と法・規則 され,最近では衝突被害軽減ブレーキシステム 3)倫理問題 (FVCMS)や駐車支援システム(APS)などの 導入が急拡大し,車両の自動制御の社会的受容性 2.1 HFとドライバーテイクオーバー EU の 自 動 運 転 の 大 規 模 プ ロ ジ ェ ク ト は醸成されてきており,これらシステムの国際標 AdaptIVe ではサブプロジェクト(SP)3 として 準化もすでになされている. ACC と LKAS を統合しかつ渋滞時追従を行う, いわゆる Level 2 自動走行システムも実用化され HF を特出しシミュレーションや実車評価での研 究開発を進めている 2). 適切なテイクオーバーに関する研究は,ドライ てきており,ここ数年の内に普及が進むと予測さ バーに運転環境モニター以外のタスク(2 次タス れる. システムが制御は実行するが,運転環境のモニ ク)を許容する Level 3 以上の AV では特に重要 ター責任はドライバにある Level 2 システムに対 であり,例えば AVS2015 では Virginia 工科大か し,システムが運転環境をモニターし,行動を判 らテイクオーバー要求に対するドライバー応答に 断し,制御を実行する Level 3 以上の高度自動走 関して,応答時間の例や明確性,緊急性やわずら 行システムの実現に向けては,技術的課題はもち わしさを考慮した HMI の重要性が指摘された 3). ろんだが非技術的課題が重要であり,最近では自 また,ITS 世界会議 2015 では産業技術総合研究 動運転の国際会議で大きなキーワードになってい 所から自動運転時間が長いとドライバ応答の遅れ る. やばらつきが大になることや,高齢者の操作ミス 本報告では昨年行われた AVS20151)および ITS 等の問題が指摘された 4). 世界会議 2015 等から,かかる非技術的課題を中 テイクオーバー許容時間に関しては,AV のユ 心としたトピックを紹介する.なお,自動走行シ ースケース毎に適切な時間を設定しガイドライン ステムを以下 AV と略称する. 化することが重要と考える. 2. AVとドライバー 2.2 ウィーン条約と法・規則5) ヒューマンドライバーレスAVは別にして,ドラ 各国の交通法規がベースとしている,道路交通 イバーが存在するAVでは,ドライバーとシステム に関する 1968 年ウィーン条約の第 8 条,第 13 条 が協調して運転し,あるいはシステムが対応不可 においてはドライバーの存在とドライバーによる 能なシーンではドライバーが運転を行う.かかる 適切な操縦を規定しており,ドライバーが少なく カテゴリーにおいてのトピックを以下に示す. とも一時的に制御ループ外である自動化システム は受容外であった.しかしながら,2013 年から欧 *1 一般財団法人日本自動車研究所 ITS研究部 JARI Research Journal - 1 - (2016.6) 州諸国による第 8 条の修正提案がなされ,システ かかるシーンの場合マニュアル運転なら車線区 ムがドライバーによりオーバーライド可能かスイ 分線を越えて安全な距離を保とうとするが,AV ッチオフ可能な場合の第 8 条,第 13 条への適合 は車線内に留まろうとしたと述べた. が承認され,少なくとも Level 3 までの自動運転 また,Stanford 大学の Dr. Gerdes は AV につ が 条 約 上 は 可 能と な った . 最 近 ,NHTSA6) が いての倫理的機能に関するプログラムの可能性の Google の自動運転システムをドライバーと認め 検討において,Fig. 2 のようなユースケースを紹 たとの報道があったが,条約の文面からは,いわ 介している 8). ゆるヒューマンドライバーレス自動運転は容認さ れていない. 日本としてウィーン条約は批准していないがその 前身の 1949 年ジュネーブ条約を批准している. 本条約に関しても同様な修正提案が出されており 近く承認される見通しである. また,車両の技術規則に関するグローバルな協 定を UNECE(国連欧州経済委員会)で定めてお り,UN-R79 で自動ステアリングは時速 10 km/h 以下に制限されているが,これについても改訂検 討がなされている. 道路交通法/規則だけでなく製造物責任,デー タプライバシーとセキュリティといった AV の市 場導入を妨げている法的問題は,前述した AdaptIVe でも SP2 Response 4 においてユースケ ースをベースに検討されている. Fig. 2 倫理的判断を有するユースケース例 (出典:Stanford Univ., AVS2015) 2.3 倫理問題 ヒューマンドライバーは各自の倫理観の範囲で 一時的な制限速度違反等を行っているが,自動運 Fig. 2 は駐車,追越禁止の道路に車両が駐車し 転時に犯した法律違反の責任がシステムにあると ている場合を示す.マニュアル運転であればドラ 考えられる Level 3 以上の AV は順法運転を原則 イバーは迷わず追越して走行するが,AV は後ろ としている. AVS2015 において Delphi は米 15 州の約 3400 km の公道自動運転時に遭遇した難しい自動走行 シーンの一つとして Fig. 1 を示した 7). に停止したまま動けない.また下図は合流部での 制限速度を示す.マニュアル運転では時には安全 を考慮し制限速度を越えて加速する場合があるが, AV は制限速度を遵守するがゆえにかえって安全 性を損なう場合が考えられる. Level 3 以上の AV ではこのような倫理問題が 重要な課題であり,倫理的な判断機能のガイドラ インが必要と考える.Dr. Gerdes は倫理的問題の 検討には技術者と哲学者等専門家の共同作業が必 要と述べている. 3. AVと他の道路ユーザー 公道には AV 以外の車両や歩行者,自転車等が Fig. 1 自動運転の難しい走行シーンの例 (出典:Delphi,AVS2015) JARI Research Journal - 2 - (2016.6) 存在する.2016 年 2 月に Google の AV が路線バ 影して歩行者の道路横断を促している.Fig. 5 は スと事故を起こした際,Google は原因を相互の意 日産のコンセプト車で,AV 車の運転状態が自動 思疎通の欠如であると報じている.車同士の非信 の場合は車両周囲の LED を青色にするとともに, 号交差点での行き違いや,横断歩道の歩行者横断 文字情報で自車の意図を伝える外部 I/F を持つ. の際に,マニュアル運転ではドライバー同士や歩 行者とのアイコンタクトで意思疎通を図るのが通 例である. AVS2015 における Leeds 大学の低速度無人 AV に関してのアンケートでは,AV か自分かどちら が優先かわからない,AV が危険を認識している かどうかがわからないといった意見が出ているよ うに,2011 年に EU の資金で行われた自動運転に Fig. 5 日産 IDS Concept の外部 I/F 関わる課題出しのプロジェクト Smart 64 で,す (出典:日産プレスリリース) でに Fig. 3 に示すように従来のアイコンタクトに 代わる,AV と外部道路ユーザとのインターフェ ース(I/F)の重要性が指摘されていた このように,AV においてはドライバーとシス テム間の HMI のみならず,AV と外部道路ユーザ 間の I/F が重要であり,外部道路ユーザが様々な 9). AV の意図を統一的に知覚できるようなガイドラ インが必要である. 4. 社会受容性の醸成 AV の普及のためには社会的受容性の醸成が必 須であり,このための様々な課題が示されている. 以下にそのトピックを示す. Fig.3 AV と外部道路ユーザとの I/F の必要性 (出典:Smart64 Report) 1)高齢者・障害者対応とビジネスモデル 最近の AV コンセプト車ではこのような課題に 対応して外部 I/F を有するものが現れている. Fig. 4 は Mercedes Benz の AV コンセプト車で、自車 2)事故時責任と保険問題 3)AV 運転免許とトレーニング 4)AV の評価と認証 ここでは上記の内 1) ,4)につき紹介する. の意思を様々なパターンや文字情報で外部道路ユ ーザに知らせる.図では横断歩道のパターンを投 4.1 高齢者・障害者対策とビジネスモデル AV の効果として,多くの会社・機関が安全性 向上(事故低減) ,効率向上(渋滞軽減)に加え高 齢者・障害者対応を挙げている.この内,米国で は Google の POD コンセプト(Fig. 6)に示すよ うに乗用車のドライバーレス化によるロボット taxi やカーシュアによる事業化を目指す傾向にあ るが,欧州では CityMobil プロジェクトに代表さ れる First/Last Mile のための公共モビリティと して開発が進められ,すでに各国で試験運用が始 まっている.ITS 世界会議 2015 でも Fig. 7 に示 Mercedes-Benz の AV コンセプト車 F015 Luxury in Motion の外部 I/F (出典:F015 Luxury in Motion WEB) Fig. 4 JARI Research Journal すような Easymile 社の AV による CityMobil 2 のデモが行われていた. - 3 - (2016.6) 機能がそもそも安全がクリティカルとなる以前で 働くことや,現状事故データでは自動運転車の事 故を考察できないことが課題としている. 認証に関しては,機能安全性やシステム装備等 の認証の必要性が提起されているが,ITS 世界会 議 2015 で CityMobil 2 の Rome 大 学 Alessandrini 氏 は 認 証 の ス テ ッ プ は FMECA ( Failure Fig. 6 Google Mode, Effects and Criticality Analysis)とシステム設計→システム安全性と機 POD(出典:Google WEB) 能性検証→操作認証→操作装備の検証であり,こ Exhibition 会場 の手続きを Level4 自動運転車のベースとするこ とを提案した 10). Congress 会場 Fig. 7 ITS 世界会議 2015 での CityMobil 2 デモ これらドライバーレス AV は場所や速度等,走 行条件を限定することで早期に実現される可能性 があるが,その実用ビジネスモデルは未だ模索中 である. Fig. 8 AdaptIVe における AV の評価方法 (出典:AdaptIVe, AVS2015) 4.2 AVの評価と認証 AV の評価と認証は現在最もフォーカスされて いる課題の一つであり,AVS2015 においてもこれ 5. まとめ AV における自動化レベルが上がるほど冗長性 に特化した Breakout Session と Pannel Session と信頼性が必要な機能範囲や,非技術的課題の範 が開催された. 前 述 の AdaptIVe プ ロ ジ ェ ク ト で も SP7 囲が拡大するとされており,独の BASt や米の Evaluation として特出しし,評価・認証を以下の Stanford 大学など欧米とも AV の非技術的課題に ように定義し検討している. 関する検討はかなりしっかりやっている感がある. Verification(評価) :製品,サービス or シス 日本においても技術的課題はもちろんだが,非 テムが規則,要件,仕様 or あるいは課された 技術的課題を重点検討し,法・規則に関する整備 条件に従うかどうかの評価 Validation(認証) :製品,サービス or シス テムが顧客と他の特定利害関係者の要求を を進めるとともに AV と道路ユーザとの外部 I/F, 倫理的な判断機能,評価と認証に関わるガイドラ イン等の検討と策定が急がれる. 満たすという保証 ドライバーが遭遇する環境,シーンの AV での 評価のため,SP7 では Fig. 8 に示すように短時間 のイベントベース機能評価と長時間の連続的機能 評価という異なる 2 つのアプローチで技術評価を 実施している.AV の安全性評価では,自動運転 JARI Research Journal 参考文献 1) Automated Vehicles Symposium 2) AdaptIVe;https://www.adaptive-ip.eu/ 3) Dr.Myra Blanco, Verginia Tech ;Human Factors Evaluation of Level 2 and Level 3 Automated Driving Concepts 4) Naohisa Hashimoto,AIST ;Japanese Perspective on - 4 - (2016.6) Human Factors in Automated Driving 5) JARI;自動走行システムの基礎的要素技術に関する研 究開発・国際標準化の動向; 平成 28 年 3 月 6) NHTSA(The National Highway Traffic Safety Administration);http://www.nhtsa.gov/ 7) Michael Pozsar, Delphi ;On the Path to Automated Driving 8) Ethical Considerations for Vehicle Automation Systems; Dr. Chris Gerdes, Stanford University 9) SMART-2010/0064 ;Definition of necessary vehicle and infrastructure systems for Automated Driving 10) Adriano Alessandrini, CTL-University of Rome ;CityMobile2 legal framework proposal and how to make it usable to certify automated cars JARI Research Journal - 5 - (2016.6)
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