2016.5.20 発行 No.5 ∼ 進々堂おいしさのこだわり∼ 第 5 話 : 進々堂の洋菓子作り 菓 はじめに… 第5話では進々堂の洋菓子作りについて、進々堂洋菓子を監 修していただいている松谷治代先生にお話を伺いました。 今回は私 K( 「パンのお話」編集担当)と松谷先生との対話形 式でお送りいたします。 松谷 治代先生 プロフィール パリ生活10年のフランス菓子エキスパート 大阪阿倍野「辻製菓専門学校」卒業。 教員として勤務後、フランスに渡り オレンジ・リキュールの老舗グラン マルニエ社のパリ本社に勤務。同社で M.O.F. パティシエ、ニコラ・ブッサン氏 の製菓技術アシスタントを勤める。 日本に帰国後、学校法人原田学園 広島 酔心調理製菓専門学校の講師を務めるかたわらコンサルタント として、また来日フランス人パティシエの通訳として活躍中。 進々堂の洋菓子作りについて ベーカリーが目指すべきお菓子とは… K:松谷先生の目から見て、進々堂のようなベーカリーが目指 すべき洋菓子はどのようなものだと思われますか? 松谷先生:何よりも「親しみやすさ」が大切なのではないでしょ うか。 K: 「親しみやすさ」ですか。 松谷先生:ええ。進々堂の洋菓子は、洋菓子専門店に並ぶき らびやかなオートクチュール、というよりもごく日常的に食 べていただきたい、普段使いのお菓子であるべきだと思いま す。洋菓子店に並ぶお菓子が、ブランド品だとすると、ベー カリーのお菓子は、質のいい自然素材でハンドメイドで作ら れたお洋服のような着心地のよさを目指したいですね。 K:なるほど、イメージしやすい例えですね。確かに進々堂の お菓子は、焼きっぱなしの、素朴なお菓子がほとんどですね。 だからこそというか、普段使いし やすい。洋菓子屋さんの洋菓子は 特別な時に食べることが多いです が、それに比べて気楽に手が伸び ますよね。 松谷先生:そうですね。フランス の質のいいパン屋さんに日常的に パンを買いに来られる常連さんが ↑フランスのブーランジュリー パティスリーに並ぶタルト。 ふと手を伸ばしたくなる、そういう親しみやすいお菓子だと 思います。先日発売されたマカロンも日常の中でパンと一緒 に買って気軽に食べてほしい、そんな思いで作りました。 K:うちのマカロンは一般的なもの よりかなり大きいですよね、なぜあ えてあの大きさなんですか? 松谷先生:フランスでよく見かける 自分食べ用があのサイズなんです。 それを日本でも広めたかったから、 ↑直径約7cm。自家製バター クリームをサンド。 なんですよ。 K:へぇ∼!マカロンって特別なお菓子というイメージを持た れがちですが、ぜひ自分食べ用にしてほしいですね。 松谷先生:そうですね。進々堂は「ブーランジュリーパティ スリー」のスタイルじゃないでしょうか。 「ブーランジュリー」と「パティスリー」の違い パティスリーにも2種類ある? K: 「ブーランジュリーパティスリー」ですか? 松谷先生:フランスの洋菓子は大きく 2 種類に分けられます。 パティスリーのお菓子とブーランジュリーパティスリーのお 菓子。進々堂の洋菓子は後者だと言えますね。 K:洋菓子店が作るお菓子とパン屋さんが作るお菓子の2種類、 ということですか? 松谷先生:ん∼惜しいですね。順に説明するとまず、 「パティ スリー “pâtisserie” 」 とは…フランス語で “お菓子屋” 。要するに、 「菓子を作って販売する場所」のこと。ケーキ以外に、チョコ レート、アイスクリーム、砂糖菓子などを扱っていることも よく見られるんですよ。 K:へぇ∼日本人が普通にイメージするケーキ屋よりも、フラ ンスのパティスリーはより広く商品を扱っているんですね。 松谷先生:対して「ブーランジュリー“boulangerie” 」は… K:パン屋さん!! 松谷先生:そう、フランス語で“パン屋”のこと。特に「職人 が小麦を選び、そこから焼き上げたパンをそのまま売る店」と いう意味合いが強いですね。 K:とすると、ブーランジュ リーパティスリーとは“パ ン屋兼お菓子屋”という意 味ですか? 松谷先生:その通り。パン 屋さんにケーキが並んでい るのは、日本ではあまり馴 染みのないの光景かもしれ ませんがフランスのパン屋 さんはお菓子屋さんを兼ね ている所が多く、パン類と ケーキ類が一緒に並んでい たりするのは珍しくありま せん。パン屋さんへバゲッ トを買いに行って、ついで に一緒にタルトも買うなん て光景はごくごく当たり前 なんですよ。 ↑フランスのブーランジュリーパティス リー。パンと一緒に洋菓子が並びます。 ↑パン以外に、サラダやデザートなど 幅広い品 えのブーランジュリーも。 K:パン屋だけど洋菓子も売っている…まさに進々堂じゃない ですか! 松谷先生:そう。だから進々堂は「ブーランジュリーパティ スリー」のスタイル。しかもここまで洋菓子に力を入れてい るパン屋さんなんて日本では珍しいんじゃないかな。 K:なるほど。本格的なフランススタイルだったなんて驚きま した… ミニ コラム フィナンシェと マドレーヌってどう違うの? 主な違いは材料 大きな違いはその材料にあります。フィナンシェは「卵白」を 使っているのに対し、マドレーヌでは「全卵」を、さらにフィ ナンシェは「アーモンドプードル」入りですが、マドレーヌに は基本入っていません。またフィナンシェには「焦がしバター」 を使いますがマドレーヌは「溶かしバター」を使っています。 よく味わってみるとその食感や風味の違いにも気がつきます。 フィナンシェ 薄力粉・砂糖・卵白・ 材 アーモンドプードル 料 (粉末状にしたアーモ ンド)・焦がしバター 形 マドレーヌ 薄力粉・砂糖・全卵・ ベーキングパウダー・ 溶かしバター ↑人気定番商品のチーズケ 平たい長方形の 貝の形をした焼型 焼型を使うこと (カップケーキのよ うにして焼くことも) が多い ホタテ貝がモチーフ 金の延べ棒がモチーフ 味 アーモンドの甘さと 焦がしバターの風味 バターの風味が甘く香り、 しっとりとした食感 ※基本的な材料と一般的な味や風味であり、店それぞれにオリジナルが あるので一概には言えません。 それぞれの由来 ができるとは限らない。商品に適したも の、イメージに合う味になるものを見極 めた上で選ぶことですね。 K:例えば…? 松谷先生:フルーツケーキに使っている ドライフルーツはそのいい例ですね。市 ↑フルーツケーキ。ぎっし 販のドライフルーツミックスは使われて りドライフルーツとナッツ が入っています。 いません、自社でブレンドします。全体 の味のバランスを考え、 ラム酒漬けのレーズン(2種ブレンド) 、 ドライクランベリー、くるみを入れ香ばしさと食感を出し、オ レンジピールで爽やかな酸味をプラスしています。パン屋さん が販売するパウンドケーキでなかなかここまでしないんじゃな いでしょうか。 K:確かに手間がかかっていますね。 松谷先生:味の面では、コクを出すた めにマジパンを入れて味に奥行きを加 えました。 K:見えないところにそんな工夫が! どちらもフランス生まれです フィナンシェ financier 「フィナンシェ」という言葉には「金融家」「お金持ち」とい う意味があります。パリの金融街周辺のお店が発祥の地とさ れているため、その名が付いたと言われています。形も金の インゴット(金の延べ棒)に似ているため、金融街で働く人 が名前を連想したという説もあります。誕生のきっかけは、 パリの菓子職人が、近くにあった証券取引所に通う忙しい金 融家のために、“背広を汚さず、大急ぎで食べられるような” お菓子を考えたことから。 マドレーヌ madeleine ベルサイユ宮殿でも人気になり、それから 1760 年頃にはパ リ中に広まったそう。由来には諸説ありますが、有名なのは フランスのロレーヌ地方の首領レクチンスキーが晩餐会を開 こうとしたところ、菓子職人が仲間と喧嘩して出ていってし まい急遽、料理上手の女中がお菓子を作ったところ、レクチ ンスキーが気に入り、女中の名前をとりマドレーヌと名付け たという説です。 こだわりについて 本物の洋菓子作りを追求しています K:松谷先生は、進々堂の洋菓子はどのようなところにこだわ るべきだと思われますか? 松谷先生:そうですね…まずは、一つ一つ丁寧にハンドメイド する、というところではないでしょうか。 K:はい、確かに。菓子工房という洋菓子専門の工房で手作り していますね。 松谷先生:あとは、素朴だけれど材料はよいものを使っている。 材料へのこだわりも大切にしたいですね。 K:そうですね、材料は厳選した上質なものを使っていますよね。 バターや、マダガスカル産バニラビーンズ、ドイツ リューベッ カ社のマジパンとか。 松谷先生:ただ高級な材料を使ったからといって美味しいもの 松谷先生:手間をかけているといえば、 ーキ。チーズのまろやかな 酸味となめらかな口どけ。 タルトだってそう。タルトのクッキー 生地は空焼きをしています。そうすることによってクリームや フィリングを生地に流込んでもサクサクの食感が保たれます。 K:なるほど。サクサクの秘密がそんなところにあったとは… 松谷先生:他には渋皮マロンのタルト (※季節商品のため休止中) や、チーズケーキにもこだわりました。渋皮マロンのタルトの クリームは、クリームにマロンを刻んだものを入れ、とことん マロンの風味を感じさせるものに仕上げています。チーズケー キのトッピングのクランブル(そぼろ)にもチーズを加えるこ とによって、よりチーズの味わいが感じられるようにしていま す。次に発売する季節商品のオレンジとグレープフルーツのタ ルトも、フレッシュのオレンジとグレープフルーツを1房1房 手で剥いたものをのせて焼き上げています。 K:仕入れた材料をそのまま使用するのではなく、一手間かけ るのもこだわりの一つですよね。マカロン苺に使われている苺 バタークリームも苺ジャムから自家製ですよね。 松谷先生:そうです、自家製にこだわるのが進々堂スタイルで すね。あとは…日持ちをさせるための保存料は使用していない、 というのもポイントですね。 K:素材の素直なおいしさをだすために余計な添加物は使って いません! 松谷先生:その分デリケートなので、おいしいうちに早めに 召し上がってくださいね。 松谷先生と進々堂の出会い 洋菓子の本場フランスがつないでくれた縁 K:ところで、松谷先生が進々堂の洋菓子を監修されるよう になったきっかけは何だったのですか? 松谷先生:2008年に進々堂の続木社長が日本のパン業界 団体のフランス旅行を企画なさった時にガイドを務めさせて いただきました。それをきっかけに続木社長と色々と情報交 換をするようになり、帰国を機に進々堂の洋菓子作りに携わ ることになったんですよ。 K:そういう経緯があったのですね。今後ともどうぞよろしく お願いいたします。松谷先生、 どうもありがとうございました。 松谷先生:はい、これからも進々堂のスタッフのみなさんと 一緒にフランスのブーランジュリーパティスリーに負けない おいしい洋菓子を作っていきます。 総 括 進々堂は「ブーランジュリーパティスリー」スタイル。 日常的に楽しめる洋菓子作りを目指しています。 …次号 第 6 話は「 雑穀生活」のお話です。お楽しみに。
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