(別紙 3) 論文要旨 看護学専攻 分野名 学籍番号 論文題目 広域実践看護学 DN1201 主研究指導 教員名 氏名 春山 早苗 青木 さぎ里 離島町村で働く新任期保健師の看護実践能力の向上につながる経験 【目的】本研究は離島町村に勤務する新任期保健師の看護実践能力の向上につながる経験 を明らかにし、離島町村における新任期保健師現任教育への示唆を得ることを目的とした。 【研究方法】研究参加者:人口 1 万人未満の全域離島町村の保健師のうち保健師経験 5 年 目以下の者 3 名と、その事務職上司 2 名とした。データ収集項目:①保健師としての看護 実践能力の向上につながったと思う出来事のうち最近もっとも気にかかった出来事、②保 健師としての看護実践能力の到達度(厚生労働省,2011)の自己評価及び他者評価などとし た。データ収集方法:最近もっとも気にかかった出来事は、保健師を対象にリフレクショ ンを促しながらのインタビューを 1 人につき 1 年間に 3 回実施した。保健師としての看護 実践能力の到達度の自己評価及び他者評価は、保健師及び上司に質問紙による調査を 1 年 間に 3 回行った。データ収集期間:平成 26 年 9 月~平成 27 年 9 月であった。分析方法: 保健師のリフレクションの流れ(上田,2012)を参考に分析枠組みを作成した。個別分析で は研究参加者ごとに、①インタビューの回ごとに「気にかかる現象」 「感情」「気にかかる 現象についての吟味・探求の思考による内面的変化」「看護実践」「価値観や信念」「他者と の関わりや周囲の状況」に着目しながら逐語録を読み込み、気にかかる現象ごとに分析枠 組みに沿って整理した。②3 回のインタビューを通して「気にかかる現象」ごとに「看護実 践」と「価値観や信念」の変化を捉えた。③ ②の変化からどのような看護実践能力が向上 したかを確認した。④看護実践能力の向上に至った一連の経験をさかのぼり、「気にかかる 現象」と「感情」 、 「他者との関わりや周囲の状況」を取り出し、これらを看護実践能力の 向上につながる経験とした。全体分析では、3 名の個別分析結果を合わせて離島特性と共通 性や相違性を踏まえ分析した。また、研究参加者が持つもともとの看護実践能力や認識に 極端な偏りがないかを「保健師としての看護実践能力の到達度」の他者評価と自己評価結 果の比較から確認した。倫理的配慮:自治医科大学大学院看護学研究科における倫理審査 委員会の承認を得て実施した。 【結果】研究参加者のうち保健師は 20 代 1 名、30 代 2 名、女性 2 名、男性 1 名であった。 1.専門職としての能力の向上につながる経験 {狭い島のなかで住民が求める距離感をつかむ}、{一住民としての付き合いがある住民や 役場職員などに対する支援を適切に行う}、{保健師の評判はすぐに地域に広まることを念 頭において、保健師としても人としても信頼できると思ってもらえるように一つ一つの支 1 援に細心の注意を払う}等の看護実践の変化から、専門職としての能力の向上を確認した。 専門職としての能力の向上につながる経験は、気にかかる現象と感情には【一人の住民へ の支援がうまくいかないことが島民全体に広まり、保健師としても住民の一人としても信 用されなくなってしまうことへの恐れ】、【一住民としての言動が注視され、自分の本当の 気持ちを言える相手がいない辛さ】、【島民や関係機関から耳にする情報はあっても確実な 情報がなく動けない】等があり、他者との関わりや周囲の状況には≪住民との適切な距離 感を捉える必要がある状況≫、≪自問自答する機会≫、≪専門職として客観的に見られる ようにしてくれる他者との関わり≫、≪事業を一人でじっくり担当できる状況≫等があっ た。 2.組織人としての能力の向上につながる経験 {役場職員への業務を依頼する際は保健師の個人的な頼み事として受け取られないよう 組織内の一般的な命令系統を通して依頼するなど役場職員との協働体制を構築する}、{組 織的な課題について上司を巻き込んで協働体制を構築する}等の看護実践の変化から、組織 人としての能力の向上を確認した。組織人としての能力の向上につながる経験は、気にか かる現象と感情には【保健師が変わるたびに役場職員との役割分担や合意形成をしなけれ ばならないことへの驚き】等があり、他者との関わりや周囲の状況には≪保健師だけに任 せるのではなく事務職も一緒に取り組むという姿勢が上司(事務職)にある≫等があった。 3.自己管理・自己啓発に関する能力の向上につながる経験 {島外からの資源を活用して島内専門職が支援しにくい人々も相談できる体制をつくる}、 {島外から来る専門職との接点を活かし自分の活動を客観的に振り返り、専門職が島内に長 期間居住する弊害を防ぐ}等の看護実践の変化から、自己管理・自己啓発に関する能力の向 上を確認した。自己管理・自己啓発に関する能力の向上につながる経験は、気にかかる現 象と感情には【自分が保健師として経験年数に見合った成長ができているのかわからない ことに対する不安や焦り】 【自分が納得できるまで島内保健師間でとことん意見交換したい ができないことへの不満足】等があり、他者との関わりや周囲の状況には≪一住民として の暮らしやすさを自分は追求できないと思う≫、≪役場職員間では互いの立場を気遣いあ う≫、≪住民にとって島外専門職と島内専門職に期待する役割は違うことを知る≫、≪保 健師としての成長を客観的に見てくれる存在がない≫等があった。 【考察】本研究で明らかとなった離島の新任期保健師の看護実践能力の向上につながる経 験から、現任教育を検討する上での方法や体制について以下の示唆が得られた。 1. 離島保健師が直面している課題を乗り越えられるようにする支援 【一人の住民への支援がうまくいかないことが島民全体に広まり、保健師としても住民 の一人としても信用されなくなってしまうことへの恐れ】 【一住民としての言動が注視され、 自分の本当の気持ちを言える相手がいない辛さ】 【自分が保健師として経験年数に見合った 成長ができているのかわからないことに対する不安や焦り】などの気にかかる現象は、離 島保健師が着任後直面する看護実践上の課題であるといえる。見守っていることが伝わる 程度の住民への関わりの継続や、自分の成長を見守り指導する他者の存在等の他者との関 わりや周囲の状況により、直面する課題に向き合うことで看護実践能力は向上していた。 現任教育では、保健師が直面している課題に向き合えるよう、じっくり吟味・探求できる 2 時間の確保や他者との定期的な対話の必要性が示唆された。 2. 住民との距離感をつかめるようにする支援 離島保健師は一住民としての立場もあり、役場職員や一住民としての付き合いがある住 民や保健師からの支援を避ける人といった、支援しにくい人々がいた。島外から来る専門 職の活用や、保健師が見守っていることが対象者に伝わるくらいの関わり、保健師の評判 はすぐに地域に広まることを念頭におき一つ一つの支援に細心の注意を払う等、住民の反 応を丁寧に捉えて関わることで看護実践能力は向上していた。離島内居住保健師は保健師 としての信頼を守りながら生活も送る必要がある(青木,2015) 。現任教育では、島内者が 抱える困難を理解し、時に保健師の代替や補完をする支援や、保健師と一緒に支援に入り 捉えた住民の変化を保健師にフィードバックする等、保健師が島内居住することで捉えに くくなる変化に客観的に気付くことも有効であることが示唆された。 3. 役場職員と協働しやすい組織内の体制づくりへの支援 保健師と共に事務職も一緒に取り組むという姿勢がある事務職上司と働く経験は、組織 人としての能力の向上につながっていたことから、事務職上司がこのような姿勢を持てる ようにする必要があることが示唆された。現任教育では、保健師を対象とするだけでなく、 事務職上司や役割分担する役場職員に対しても働きかけ、より良い協働体制を組織内で見 出せるようにする支援が有効であると示唆された。このためには、管轄保健所の保健師か らの関わりも必要であると考えられる。 キーワード:新任期保健師 看護実践能力 経験 離島 Key words: the novice public health nurses, nursing practice ability, experience, islands 3
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