帯状疱疹の予防ワクチンについて

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帯状疱疹の予防ワクチンについて
帯状疱疹の予防として水痘ワクチンの使用が有用とのことですが、その意義や使用の実際
について教えてください。
(K生)
帯状疱疹の原因ウイルスは水痘・帯状
接種対象に追加されました。2014年10月からは1
疱疹ウイルス(varicella-zoster virus,
〜2歳児に対し定期接種化されています。現在
VZV)です。VZV は初感染で水痘を
Oka 株は WHO が認める世界で唯一のワクチン
発症させ、その後知覚神経節やその周
であり、2006年には小児を中心として80 ヶ国で
囲に潜伏感染します。そして老化、ストレス、免
1600万人が接種を受けています。現在欧米で使用
疫力低下などにより再活性化すると、知覚神経を
されている帯状疱疹ワクチンも基本的には同じ株
末梢に向かって移動し、神経の走行に沿って強い
を使用しています。欧米では水痘ワクチンより帯
痛みを伴う発疹として症状が現れます。これが帯
状疱疹ワクチンの力価が高いのですが、日本の水
状疱疹で、本邦では年約60万人が発症すると推定
痘ワクチンは欧米での帯状疱疹ワクチンと同等の
されています。帯状疱疹の特徴的な症状である疼
力価を持つため、十分帯状疱疹を予防する効果が
痛は、時に帯状疱疹後神経痛として長期間残存し、
あると考えてよいでしょう。水痘ワクチンは水痘
しばしば治療に難渋します。これは特に初期治療
の発症を抑えるのと同様に、VZV に対する特異
が遅れた高齢者で起きやすいと考えられます。
的細胞免疫を誘導することで帯状疱疹発症の予防
帯状疱疹は水痘既感染者なら誰でも発症しうる
や重症化の阻止が期待できます。
米国で行われた、
疾患ですが、50歳をすぎるとその発症率は上昇し
60歳以上の約4万名を対象とした大規模な無作為
ます。日本皮膚科学会が行った皮膚科受診患者の
化二重盲検プラセボ対照試験では、帯状疱疹ワク
多施設横断調査においては、55歳以上で患者数の
チン接種後平均3.12年の追跡期間中、帯状疱疹発
著明な増加がみられています。また宮崎県での10
症頻度はワクチン群がプラセボ群に比して51.3%
年間にわたる大規模疫学調査では、帯状疱疹患者
減少、帯状疱疹後神経痛は66.5%減少、重症度も
数は10年間で23%増加していましたが、その要因
61.3%減少したことが報告されています。この結
として50代以下での発症率がほとんど変わらない
果を受け、米国では2006年5月より免疫能が正常
一方で、60歳以降での発症率の顕著な増加がある
な60歳以上を対象として帯状疱疹ワクチンの接種
ためと考えられています。
そのため高齢化に伴い、
が推奨されていますが、2011年3月からはその年
帯状疱疹及び帯状疱疹後神経痛の患者数は今後ま
齢が50歳以上に引き下げられました。なお最近の
すます増加するものと推測されます。
調査によると、このワクチン接種による効果は8
これを鑑み、日本では厚生労働省が2016年3月
年程度であることが判明しています。
から現在使用されている水痘ワクチンの効能・効
高齢化が進む我が国では今後も帯状疱疹の増加
果に、「50歳以上の者に対する帯状疱疹の予防」
が予想され、高額な抗ウイルス薬の使用や長期に
を追加することを承認しました。
わたる神経痛治療は医療費増大にもつながると思
水痘ワクチンは1974年大阪大学微生物学研究所
われます。帯状疱疹ワクチンによる予防は、個人
の高橋理明先生により開発されました。水痘患児
の疾病負担の軽減だけでなく高齢者医療費の削減
より分離、継代された弱毒株(生ワクチン)であ
にも寄与すると期待されます。
り、患児の名前から Oka 株と命名されました。
日本では1987年に、白血病などのハイリスク患児
に対し任意接種が承認され、その後、健康小児も
新潟県医師会報 H28.5 № 794
(
新潟大学大学院医歯学総合研究科
皮膚科学分野 阿部理一郎
)