銀行法等の一部を改正する法律の成立

【 緊急リポート 】
銀行法等の一部を改正する法律の成立
~FinTechの拡大等を受け、銀行グループや仮想通貨に係る制度を整備~
2016.6.1
Copyright Mizuho Research Institute Ltd. All Rights Reserved.
《構 成》
1.改正法の全体像
P2
2.銀行グループ規制の見直し
P6
(1) ITの進展に伴う技術革新への対応
P8
(2) 共通・重複業務の集約等を通じた金融仲介機能の強化
P14
(3) 銀行グループにおける経営管理の充実
P19
3.決済高度化に向けた規制の見直し
P23
(1) 仮想通貨に係る法制度の整備
P24
(2) その他の改正事項
P27
4.残された検討課題
P29
1
1.改正法の全体像
~銀行グループや仮想通貨に係る法制度の整備が柱~
2
金融審での議論を経て2016年5月に改正法案が成立、1年以内に施行予定
金融審議会での議論
(※)議論の経緯はP4を参照
日付
おもな動き
2014年10月~
金融審議会「決済業務等の高度化に関するスタディ・グループ」(決済SG)審議開始
2015年4月28日
決済SGが中間整理を公表
5月~
金融審議会「金融グループを巡る制度のあり方に関するワーキング・グループ」 (金融グループ
WG)審議開始
7月~
金融審議会「決済業務等の高度化に関するワーキング・グループ」(決済WG)審議開始
12月22日
決済WG、金融グループWGがそれぞれ報告書を公表
国会での審議
日付
2016年3月4日
おもな動き
「情報通信技術の進展等の環境変化に対応するための銀行法等の一部を改正する法律案」(改
正法案)が国会に提出
4月28日
改正法案が衆議院本会議で可決
5月25日
改正法案が参議院本会議で可決され、法案が成立
(今後の予定(見込))
秋~冬頃
2017年春頃
政省令案の公表(パブコメ)
改正法の施行(法律の公布から1年以内の政令で定める日)
(資料) みずほ総合研究所
3
「決済高度化」から始まった金融審の議論は「金融グループのあり方」にも拡大
検討の背景(その1)
<ITイノベーションの急速な進展>
・FinTechの台頭に伴う金融の構造変化への対応
・イノベーションに対応した制度整備の必要性
検討の背景(その2)
2014年9月 金融担当大臣諮問
「決済サービスの高度化に対する要請の高まり等を踏まえ、
決済及び関連する金融業務のあり方並びにそれらを支える基
盤整備のあり方等について多角的に検討すること」
決済SG
新たなWGを設置
2014年10月 審議開始
2015年 4月 中間整理
WGに改組し
さらに検討
(決済SGでの議論)
決済高度化の議論は、金融
グループのIT戦略、更にはグ
ループ全体の経営戦略の問
題と密接不可分と認識
決済WG
2015年 7月 審議開始
2015年12月 報告書
<金融グループを巡る環境変化>
・ 持株会社の機能発揮や、柔軟な業務
展開に対するニーズの高まり
2015年3月 金融担当大臣諮問
「金融グループの業務の多様化・国際化の進展等の環境変化を踏
まえ、金融グループを巡る制度のあり方等について検討を行うこと」
金融グループWG
2015年 5月 審議開始
2015年12月 報告書
(資料) みずほ総合研究所
4
改正法の柱は「銀行グループ規制の見直し」と「仮想通貨に係る法制度の整備」
銀行グループ規制の見直し (後述2)
項目
概要
(1) ITの進展に伴う技術革新への
対応
・ 銀行グループによる金融関連IT企業等への出資の柔軟化
・ グループ内外の決済関連事務等の受託の容易化
(2) 共通・重複業務の集約等を
通じた金融仲介機能の強化
・ 持株会社によるグループ内の共通・重複業務の執行を許容
・ グループ内子会社への業務集約の容易化
・ グループ内の銀行間における資金融通の容易化
(3) 銀行グループにおける経営
管理の充実
・ 銀行グループの経営管理に求められる機能を明確化
決済高度化に向けた規制の見直し (後述3)
項目
概要
(1) 仮想通貨に係る法制度の
整備
・ 仮想通貨について、マネロン・テロ資金供与対策及び利用者
保護のルールを整備
(2) その他の改正事項
・ 電子端末型のプリペイドカードへの対応、電子記録債権制度の
見直し等
(資料) みずほ総合研究所
5
2.銀行グループ規制の見直し
~FinTechへの対応やグループ経営の高度化を後押し~
6
銀行グループ規制の見直し(全体像)
グループ経営管理に求めら
れる機能を法令上明確化
持株会社が一括して委託
先管理を実施可能(傘下
銀行には委託先管理の規
定を適用なし)
銀行持株会社
委託先管理
銀行
銀行
経営管理に加え、グループ内の
共通・重複業務を実施可能
業務委託
×
金融機関
金融関連
業務会社
従属業務
会社
金融関連
IT企業等
一般事業
会社
業務委託
業務委託
業務委託
業務委託
資金融通
アームズ・レングス・
ルールを緩和
グループ内
共通・重複
業務の
受託会社
収入依存度規制
を一部緩和
個別認可に基づ
き出資可能
(資料) みずほ総合研究所
7
(1)ITの進展に伴う技術革新への対応
~銀行による金融IT関連企業等への出資を柔軟化~
8
【背景①】 ITを活用した新たな金融サービス(FinTech)の拡大
◯ 近年、銀行の幅広い業務領域においてFinTechがサービス提供を拡大
‧ FinTechは、「Finance」と「Technology」を掛け合わせた造語で、ITを活用した新しい金融サービスや、それを提供するベン
チャー企業等を指す
【 銀行のおもな業務領域とFinTechの具体例 】
(個人向け)
区分
具体例
銀行
Neobank(SIMPLE、Moven、GoBank)
預金
PFM(MX、Yodlee、Mint.com )
融資
住宅ローン(PRIMARQ )
学資ローン(SoFi)
P2Pレンディング(Lending Club、Zopa、Vouch)
送金・
決済
モバイルウォレット(Apple Pay、CurrentC、
Android Pay)
プリペイド・デビット(Bluebird、ZAPP)
P2P送金(Venmo、DWOLLA)
海外送金(Transferwise)
投資・
資産管理
ロボアドバイザー(Betterment、Nutmeg、
Wealthfront)
チャネル
ATM(PrivateBank)
(法人向け)
区分
具体例
預金
キャッシュマネジメント(Mint.com 、Pulse)
経費管理(Bento、InvoiceASAP)
給与管理(Gusto[旧 ZenPayroll])
融資
運転資金融資(OnDeck、Kabbage)
クラウドファンディング(Kickstarter)
決済・
送金
モバイルPOS(Square、iZettle、LevelUp)
手形・小切手(Kofax)
EC決済(PayPal、Braintree、Stripe)
請求書支払(Bill.com)
仮想通貨(Coinbase、itBit、Ripple)
経営支援
ダッシュボード(BodeTree、Radius、SizeUp)
(資料)経済産業省 産業・金融・IT融合に関する研究会(FinTech研究会)資料(富士通総研)より、みずほ総合研究所作成
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【背景②】 欧米金融機関では、IT・ネット企業との戦略的な協働・連携が活発化
◯ 欧米金融機関は、FinTechに対応するため、オープン・イノベーションの動きを加速
‧ ITイノベーションの取り込みを目的としたIT企業等との戦略的な連携・協働が活発化
【 欧米銀行におけるIT企業等との連携・協働 】
【 オープン・イノベーションとは 】
【オープンイノベーション】
外部の開発力やアイデアを活用することで自社の課題
を解決し、これまでにない価値を生み出すこと
≪社外≫スタートアップ、大学・研究機関、ITベンダー等
技術
技術
アイデア
アイデア
技術
技術
商品化
≪社内≫
銀行G内のIT部門
ITベンダー
パイロットテスト
アイデア
スピン
アウト
開発
(資料)みずほ総合研究所作成
事業化
(資料)金融審議会決済SG第10回会合資料
10
【背景③】厳格な業務範囲規制が柔軟な業務展開の制約となる可能性
◯ わが国では、銀行グループ(銀行本体・子会社・兄弟会社等)に対する厳格な業務範囲規制が存在
‧ 取扱可能な業務は法令で列挙(限定列挙方式)、一般事業会社の株式保有も制限(5%ルール)
【 わが国の銀行グループに対する業務範囲規制(改正前) 】
【 議決権保有制限】
銀行持株会社とその子会社の合算で
国内事業会社の15%超の議決権保有
を禁止
銀行持株会社
銀
行
(注)
金融機関
外国金融機関
金融関連業務会社
従属業務会社
投資専門子会社
証券、保険、信託
等
銀行、証券、
保険、信託 等
銀行、証券、保険、信託
業務に付随し、又は関連
する業務を営む会社
主として銀行持株式会社
又はその子会社の営む
業務のために、その業務
の基本に関わることのな
い業務を営む会社
ベンチャー
キャピタル会社
(例)債権管理回収業、
リース業、電子計算機
プログラム作成・販売業務、
データ処理業務 等
一般事業会社
(例)コンピューター関連
業務、計算受託業務 等
【 議決権保有制限の例外】
認可制のもと、5年以内に限り保有可能
(その後は1年毎の承認)
銀行の子会社
(銀行持株会社の子会
社の範囲とほぼ同様)
業務範囲外
海外子会社
ベンチャー
ビジネス会社
・
事業再生会社
但し、一般事業会社との区
分を図るため、詳細な要件
( 例 え ば 、 ベ ン チャービ
ジネス会社の場合、非上場、
中小企業者、 設立後年数、
研究費、研究者数等の要
件)あり
(注) 銀行は、その子会社と合算して国内事業会社の5%超の議決権保有が禁止されている。
(資料) 金融審議会資料より、みずほ総合研究所作成
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【改正①】銀行グループによる金融関連IT企業等への出資を柔軟化
◯ 銀行業の高度化・利用者利便の向上に資すると見込まれる金融関連IT企業に対し、銀行が当局の個別の認可を得て出
資することが可能に
‧ 行いうる業務に特段の限定をかけず、当局の個別の許認可の下で新たな業務を認める「個別認可方式」を採用
【 限定列挙方式と個別認可方式 】
方式
概要
限定列挙方式
予め行いうる業務を法令で限定した
上で、当局の個別の許認可の下で新
たな業務を認める方式
(例)これまでのわが国における銀行
業務範囲規制
個別認可方式
行いうる業務に特段の限定をかけず
に、当局の個別の許認可の下で新た
な業務を認める方式
(例)米国の金融持株会社(FHC)に
おける補完的業務
(資料) みずほ総合研究所作成
【 認可に当たって当局が勘案する事項(例) 】
① グループの財務の健全性に問題がないこと
② 銀行業務のリスクとの親近性があることその他銀行
本体へのリスク波及の程度が高くないと見込まれる
こと
③ 優越的地位の濫用や利益相反による弊害のおそれ
がないこと
④ 当該出資が、グループが提供する金融サービスの
拡大又はその機会の拡大に寄与するものであると
見込まれること
(注) 具体的な出資の割合について、子会社と兄弟会
社とでリスク遮断の有効性が異なること等を踏ま
えると、 銀行持株会社による保有と銀行による保
有とで、出資先企業の業務内容・リスク等に応じ
て 出資割合の上限に差が生じることも考えられる
(注) 上記は、金融グループWG報告書で例示された内容であり、具体的な基準は、今後策
定される政省令等において規定
(資料) 金融グループWG報告書をもとにみずほ総合研究所作成
12
【改正②】グループ内外の決済関連事務等の受託を容易化
◯ 銀行システム管理などについて、グループ外からの業務の受託を容易にするため、従属業務を営む会社に求められる親
銀行グループへの収入依存度規制を緩和
‧ 収入依存度規制は、従属業務を営む子会社において、親銀行グループからの収入が一定割合(50%)以上であること等
を求める規制(従属業務は銀行から見て他業にあたることから設けられている規制)
【 収入依存度規制の概要 】
収入依存度に係る
基準が50%から引
下げられる見込み
【(改正前の従属業務の定義)
主として銀行の営む業務のために業務を営む会社
銀行の営む業務のために業務を営む会社
→ 「主として」を削除
(資料) 金融庁資料をもとにみずほ総合研究所作成
13
(2)共通・重複業務の集約等を通じた
金融仲介機能の強化
~持株会社やグループ内子会社への業務集約の促進~
14
【背景】経営統合の動きが進む中、グループ経営効率化に向けたニーズが顕在化
◯ 持株会社を活用した経営統合の動きが進展する中、グループ運営の効率化等を通じたシナジー効果やコスト削減効果の
発揮が課題に
【 わが国の銀行持株会社 】
銀行持株会社
みずほフィナンシャルグループ
三井住友フィナンシャルグループ
三菱UFJフィナンシャル・グループ
りそなホールディングス
三井住友トラスト・ホールディングス
フィデアホールディングス
じもとホールディングス
足利ホールディングス
東京TYフィナンシャルグループ
コンコルディア・フィナンシャルグループ
ほくほくフィナンシャルグループ
池田泉州ホールディングス
山口フィナンシャルグループ
トモニホールディングス
ふくおかフィナンシャルグループ
九州フィナンシャルグループ
子銀行(持分法適用関連会社を含む)
みずほ銀行、みずほ信託銀行、千葉興業銀行
三井住友銀行、SMBC信託銀行、関西アーバン銀行、みなと銀行
三菱東京UFJ銀行、三菱UFJ信託銀行、中京銀行、大正銀行
りそな銀行、埼玉りそな銀行、近畿大阪銀行
三井住友信託銀行
荘内銀行、北都銀行
きらやか銀行、仙台銀行
足利銀行
東京都民銀行、八千代銀行、新銀行東京
横浜銀行、東日本銀行
北陸銀行、北海道銀行
池田泉州銀行
山口銀行、もみじ銀行、北九州銀行
徳島銀行、香川銀行
福岡銀行、熊本銀行、親和銀行
肥後銀行、鹿児島銀行
(注1)ふくおかフィナンシャルグループは、2017年4月を目途に十八銀行と経営統合することで合意
(注2)西日本シティ銀行は、子会社である長崎銀行等との共同株式移転方式により、2016年10月に持株会社(西日本フィナンシャルホールディングス)を設立する予定
(注3)常陽銀行と足利ホールディングスは、2016年10月に株式交換による経営統合を行うことで合意(足利ホールディングスはめぶきフィナンシャルグループに商号変更する予定)
(注4)上記のほか、ソニーフィナンシャルホールディングス、イオンフィナンシャルサービス、日本郵政が銀行持株会社の免許を有している
(資料) 金融庁資料をもとにみずほ総合研究所
15
【改正①】持株会社によるグループ内の共通・重複業務の執行を可能に
◯ システム管理業務や資産運用業務などのグループ内の共通・重複業務について、持株会社による業務執行が可能に
‧ 持株会社の取扱可能業務は、従来は「子会社の経営管理」に限定
【 持株会社による共通・集約業務の執行 】
コスト削減
管理の高度化
(改正前)
銀行持株会社が行うことができる業務は、
「子会社の経営管理を行うこと並びにこれに
附帯する業務」に限定(銀行持株会社自身
による業務執行は不可)
(今般の改正)
銀行持株会社は、あらかじめ当局の認可を
受けた上で、「銀行持株会社グループに属
する銀行を含む二以上の会社に共通する業
務」であって、「グループの業務の一体的か
つ効率的な運営に資する業務」を行うことが
可能に
(資料) 金融庁資料をもとに、みずほ総合研究所作成
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【改正②】グループ内子会社への業務集約が容易に(委託先管理を一元化)
◯ 共通・重複業務をグループ内の子会社に集約する場合、各子銀行に課せられる委託先管理義務を持株会社に一元化す
ることが可能に
【 委託先管理義務の持株会社への一元化 】
管理の実効性向上
コスト削減
コスト削減
(改正前)
委託元である各子銀行は、それぞれが
別個に、委託先の管理義務を負う(グ
ループ内の業務集約に際して、大きな負
担が発生)
(今般の改正)
銀行持株会社グループに属する銀行を
含む二以上の会社が、当該グループに
属する他の会社に共通する業務を委託
する場合において、銀行持株会社が、当
該業務の的確な遂行を確保するための
措置を講じていれば、各子銀行に対する
委託先管理義務は課されない
(資料) 金融庁資料をもとに、みずほ総合研究所作成
17
【改正③】グループ内の銀行間における資金融通が容易に
◯ 同一持株会社グループ内の銀行間取引について、当局の承認を受けた場合には、アームズ・レングス・ルールに基づく利
率とは異なる社内レートの使用を容認
【 グループ内の銀行間の資金融通の容易化 】
低レートでの
調達が可能に
資金余剰
資金不足
<当局承認の際の勘案事項(例)>
・グループ内での収益・リスク管理等が
恣意的にならないよう、アームズ・レン
グス・ルールに代わる明確な取引
ルールを定めている
・銀行の財務状況が健全であり、それが
損なわれるおそれがないこと
・各子銀行に少数株主が存在しないこと
アームズ・レングス・ルールの
適用を除外
(γ%を適用しなくてもよい)
(※)アームズ・レングス・ルールとは
銀行がグループ内で取引を行う場合、グループ外の「同一の信用を持つ者」との間で
取引を行う場合よりも有利な条件での取引を行うことを禁止
・仮に、少数株主が存在する場合には、
各子銀行の経営陣(取締役、監査役)に
おいて、当該取引について少数株主に
対する説明責任を十分果たせること
(注) 上記は、金融グループWG報告書で例示された内容で
あり、具体的な基準は、今後策定される政省令等に
おいて規定
(資料) 金融庁資料をもとに、みずほ総合研究所作成
18
(3)銀行グループにおける経営管理の充実
~グループ経営管理に求められる機能を法令で明確化~
19
【背景①】経営形態の多様化が進む中、グループベースの経営管理の重要性が増大
◯ メガバンクグループでは、国内銀行本体による収益の比重が低下する中、グループ全体での経営管理機能の充実に向け
た取り組みが進展
◯ 地域金融機関の経営統合では、持株会社の傘下に複数の銀行が存在する場合が増加
【 銀行グループの経営管理を巡る状況 】
メガバンクグループ
 銀行以外の業態の子会社や海外子会社のグルー
プ全体に占める収益の割合が増加し、業務の多
様化、国際化等が進展
 法人単位での経営管理に加え、ビジネスライン(リ
テール、ホールセールなど)単位で、グループ横断
的に経営管理を行うなどの取組みが進展
銀行持株会社
信託銀行
証券会社
米国現法
欧州現法
銀 行
地域銀行グループ
 持株会社を活用し、県域を越えた銀行間の経営統
合の動きが進展
 経営統合を行う際、各銀行の営業地域ごとのブラ
ンド力や顧客基盤の維持等を背景として、持株会
社の傘下に複数の銀行を存在させるケースが多い
銀行持株会社
A 銀 行
B 銀 行
C 銀 行
(資料) 金融審議会資料をもとにみずほ総合研究所にて作成
20
【背景②】国際的な議論でも、グループベースの経営管理を重視する流れ
◯ グローバルに活動する金融グループを巡る国際的な議論では、持株会社を中心とした金融グループ全体としての健全性
を、持株会社の所在する母国の当局が責任を持って監督すべきとの流れ
【 銀行のためのコーポレート・ガバナンスの諸原則】
(抜粋/仮訳)
【 実効的な銀行監督のためのコアとなる諸原則】
(抜粋/仮訳)
原則5:グループ構造のガバナンス
原則12:連結ベースの監督
グループ構造において、親会社の取締役会は、グループ
に対する全般的な責任を有し、また、グル-プやグルー
プ内企業の構造・業務およびリスクに照らして適切で明
瞭なガバナンスの仕組みを確保することについて、全般
的な責任を有する。
銀行監督の重要な要素は、監督当局が、銀行グループ
が世界各地で行っている業務のすべての側面を適切に
監視しつつ、必要に応じて健全性に関する基準を適用し、
銀行グループを連結ベースで監督することである。
取締役会と上級管理職は、銀行の業務運営上の構造や
それが引き起こすリスクを知り、理解すべきである。
(資料) バーゼル銀行監督委員会
(資料) バーゼル銀行監督委員会
21
【改正】銀行グループの経営管理に求められる機能を法令上で明確化
◯ 銀行持株会社(持株会社を設置していないグループの場合、グループの頂点に位置する銀行)に対し、グループの経営
管理に係る機能を法令上明確化した上で義務付け
【 銀行グループの経営管理のあるべき姿 】
 銀行グループの経営管理体制のあり方は、営業基盤・規
模・リスク特性・経営戦略に応じて区々
⇒ これを前提に、いかに実効性を有する経営管理体制
の構築を図っていくかとの視点が重要
 銀行法令等の規制は、各金融グループの経営管理体制
の選択に対して基本的に中立であるべき
【 経営管理の具体的な内容 】
<改正法で規定された事項>
 グループの経営の基本方針等の策定及びその適
正な実施の確保
 グループ内の会社相互の利益相反の調整
 グループのコンプライアンス体制の整備
<金融グループWG報告書における例示(上記以外)>
→ 今後策定される政省令等において規定
 一方で、経営管理体制等に関わらず、グループの経営管
理として共通して求められる「機能」については、法令上明
確にしておく必要あり
(資料) 金融グループWG報告書をもとに、みずほ総合研究所作成
 グループの収益、リスクテイク方針、並びに資本
政策等の策定
 グループの経営管理体制の構築・運用
 グループの再建計画の策定・運用
(特にG‐SIFIsの場合)
(資料) みずほ総合研究所
22
3.決済高度化に向けた規制の見直し
~決済WGの議論を受け、仮想通貨に係る法制度を整備~
23
(1)仮想通貨に係る法制度の整備
~「仮想通貨の交換所」を対象とした新たな規制を導入~
24
【背景】国際的な議論や国内の破綻事例を受け、法制度の整備への要請が高まる
◯ 仮想通貨のテロ資金等への悪用防止に向けた国際的な議論や、2014年に発生したMTGOX社(ビットコインの交換所)の
破綻等を受け、マネロン・テロ資金供与対策や利用者保護に向けた取組が必要に
【 MTGOX社破綻に係る経緯】
時期
出来事
2013年5月
米当局が顧客の預託金500万ドル差押え
⇒ 事実上の債務超過状態に
同年10月
カルプレス容疑者が、顧客の預託金3億円超を流用か
同年11月頃~ カルプレス容疑者がテスト用口座内のビットコイン
破綻直前
(BTC)を価格の高騰に乗じて売却か
2014年
2月上旬
MTGOX社サイトで一部取引が不能に
同年2月末~
65万BTCと約28億円が消失したとして、民事再生法の
適用を申請
⇒ 棄却され、同年4月より破産手続き開始
(負債総額約65億円)
2015年8月
私電磁的記録不正作出・同供用の容疑でカルプレス
容疑者を逮捕
⇒ のち、業務上横領容疑で再逮捕
(資料) 金融庁資料をもとに、みずほ総合研究所作成
【 仮想通貨規制に係る国際的な議論】
G7エルマウ・サミット首脳宣言
(2015年6月)
我々は、仮想通貨及びその他の新たな支払手
段の適切な規制を含め、全ての金融の流れの
透明性拡大を確保するために更なる行動をと
る。
FATF(金融活動作業部会)
ガイダンス(2015年6月)
各国は、仮想通貨と法定通貨を交換する交換
所に対し、登録・免許制を課すとともに、顧客の
本人確認義務等のマネロン・テロ資金供与規
制を課すべきである。
(資料) 金融庁資料をもとに、みずほ総合研究所作成
25
【改正】マネロン対策や利用者保護のための法制度を整備
◯ 「仮想通貨の交換所」に対し登録制を導入し、マネー・ローンダリング(マネロン)・テロ資金供与対策や利用者保護のため
の法制度を整備
【 仮想通貨の定義(概要)】
【 導入される規制の概要】
マネロン・ テロ資金供与対策
 物品やサービスの購入等の際に、代価の弁済のため
に不特定の者に対して使用することができ、かつ、
不特定の者を相手方として購入及び売却を行うこと
ができる財産的価値 (不特定の者を相手方として上
記の財産的価値と相互に交換を行うことができるもの
を含む)
→ 使用できる対象が発行者等に限定される電子マネーや
ポイントは、仮想通貨に非該当
 電子機器などに電子的方法により記録されており、電
子情報処理組織を用いて移転することができるもの
ものに限る
 法定通貨建てで表示され、又は法定通貨をもって債務
の履行等が行われることとされているものを除く
○ 口座開設時における本人確認
○ 本人確認記録、取引記録の作成・保存
○ 疑わしい取引に係る当局への届出
○ 社内体制の整備
利用者保護
○ 利用者に対する情報提供
○ システムの安全管理
○ 利用者が預託した金銭・仮想通貨の分別管理
○ 最低資本金・純資産に係るルール
○ 分別管理や財務諸表についての外部監査
(資料) 金融庁より、みずほ総合研究所作成
○ 当局による報告徴求・検査等
(資料) 金融庁資料をもとに、みずほ総合研究所作成
26
(2)その他の改正事項
~ITの進展に対応するため、資金決済法等を見直し~
27
【改正】決済WGの議論を受けて、ITの進展に対応した制度見直しを実施
◯ 決済WGにおける議論を受けて、電子端末型プリペイドカードへの対応や、電子債権記録機関間の電子記録債権の移動
を可能とするための手当て等を実施
【 決済WG報告書を踏まえたその他の改正事項(概要)】
資金決済法の規定を見直し
電子記録債権法の規定を見直し
(資料) 金融庁資料をもとにみずほ総合研究所作成
28
4.残された検討課題
~わが国経済の持続的成長に向けて更なる見直しを~
29
決済分野における横断的な法体系の構築に向けた検討 (決済高度化関連)
◯ 金融とITの融合が進む中、決済分野において様々なサービスが柔軟に展開されていくことを可能とすべく、業務横断的な
規制体系の構築を検討する必要
【 主な決済サービスと法制の関係 】
主な 決済サービス
銀行振込・振替、
口座振替、ペイジー等
前払式支払手段
(電子マネー、プリカ等)
資金移動サービス
(海外送金含む)
仮想通貨
(ビットコイン等)
主な 担い手
銀行等の
預金取扱金融機関
交通機関
小売業者 等
資金移動業者
準拠法
金額
制限
マ ネロン
等規制
参入
規制
資金保全
の枠組み
銀行法 等
なし
対象
免許制
預金保険
なし
対象外
登録制、
届出制
100万円
/件
対象
登録制
発行保証金の供託等
(未使用残高の50%)
履行保証金の供託等
(滞留資金の100%)
なし
対象
登録制
顧客資産の分別管理
割賦販売法
なし
対象
登録制
-
資金決済法
仮想通貨交換所
クレジットカード
クレジットカード会社
決済代行サービス
決済代行業者
なし
なし
対象外
対象外
なし
収納代行サービス
代金引換サービス
エスクローサービス
口座振替代行サービス
コンビニ 等
宅配業者 等
ネット通販業者 等
信販会社 等
なし
なし
対象外
対象外
なし
ポイントサービス
小売業者 等
なし
なし
対象外
対象外
なし
(資料) みずほ総合研究所作成
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銀行・商業間の「一方通行」の問題に係る検討 (銀行グループ関連)
◯ 「伝統的な銀行を中核とするグループ」と「異業種から銀行業に参入したグループ」との間の「一方通行」の問題について、
両者のイコール・フッティングも視野に入れつつ検討を行っていく必要
【 銀行・商業間の「一方通行」の問題 】
日本
一般事業会社が銀行
の議決権を20%以上
保有した場合、銀行主
要株主として規制対
象となるが、親会社に
対する業務範囲規制
等は課されない
One Way
(一方通行)
銀→商:×
商→銀:○
米国
銀行持株会社(BHC)
一般事業会社が銀行
の議決権を25%以上
保有した場合には、銀
行持株会社(BHC)とな
り、親会社に対しても
業務範囲規制が課さ
れる
No Way
銀→商:×
商→銀:×
(資料) みずほ総合研究所作成
(注) 各パーセント表示は議決権ベース
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「銀行グループの経営管理と会社法等との関係」に係る検討 (銀行グループ関連)
◯ グループをベースとした経営管理のさらなる高度化を進めていくためには、グループ内の各社が個社として遵守する必要
がある会社法の規律等との関係についても、検討を深めていく必要
【 会社法等との関係に係るおもな指摘(金融審議会) 】
<指摘①:指揮命令の実効性>
 持株会社が、子銀行に対して、株主として
の権利行使とは別に、指揮命令を行いうる
ことを制度的に担保する必要はないか
 こうした問題を回避するための方策として、
経営委任契約を活用することが考えられ
るが、契約の有効性に問題はないか
<指摘②:監督体制の重複>
 持株会社において、実効的な監督体制を
発揮する体制が整っており、その下でグ
ループの経営管理を行っている場合、子
銀行にまで監督体制の整備を求めるのは、
過剰な要請ではないか
銀行持株会社
取締役
経営管理
 持株会社の指揮命令に子会社の取締役
が従った場合、当該取締役に任務懈怠責
任が生じないこととする必要がないか
グループ経営の高度化
子銀行
取締役
持株会社の機能拡大
に向けたニーズ
両者の関係
整理が必要
会社法等の制約
子銀行の少数株主や
債権者の存在、
会社法の体系全体
との整合性等
(資料)金融グループWG報告書をもとに みずほ総合研究所作成
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創意工夫の余地を広げる形でのさらなる見直しの検討 (銀行グループ関連)
◯ 「金融規制強化やマイナス金利下での既往ビジネスモデルの難しさ」に加え、「地方創生をはじめとする日本経済の成長・
発展に貢献するための多様なアプローチの確保」という面からも、一層の創意工夫を可能とする方向で、わが国銀行グ
ループ規制をさらに見直していく必要
【 銀行グループを取り巻く環境と銀行グループ規制 】
日本経済
グローバル金融規制
規制の 過度なリスクテイク
の抑制(質・量)
要求
対応策
安全性重視の
アセット運営
(質・量)
+
+
市場のショック等に
耐えうる厚い自己
資本の確保
収益増強による
自己資本積上げ
日本経済の成長・発展
安全性重視の
アセット運営下
資本の蓄積
ペースは緩慢
期待
And / or
自己資本の
外部調達
地方創生
の実現
投資家の期待
ROE達成困難
中心的役割
(特に地域銀行)
金融資産
の有効活用
企業の
成長支援
期待
期待
仲介役
コンサルティン
グ機能の発揮
ICTの
進化・活用
期待
サービスの
進化・多様化
銀行グループ
マイナス金利政策の導入(超低金利環境の継続)
既往のビジネスモデルのみではこうした状況の打開は困難
銀行自身や地元地域のリソースなど特色を生かした形での
多種多様なビジネスモデルの追求・実現ニーズ
創意工夫の余地を広げる形での銀行グループ規制の見直し
(資料) みずほ総合研究所作成
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金融業の発展をわが国経済の成長に繋げるべく、今後の金融審議会の議論に期待
◯ わが国金融業の活性化や国際競争力の強化等に向けて、引き続き、金融制度のあり方について、様々な角度から活発
な議論が行われることに期待
‧ 「日本再興戦略2016」の素案では、金融審議会において、金融関係の制度面の課題について引き続き検討を行っていく
方針が提示
【 わが国金融業の活性化と金融制度 】
【 日本再興戦略2016(素案)からの抜粋 】
金融制度
金融機関の
積極的な
取組み
創意工夫や
イノベーションの
促進
バランス
利用者保護、
金融システムの
安定
わが国金融業の活性化、国際競争力の強化
わが国経済の持続的成長
 金融機関と金融関連IT 企業等との連
携強化等のための環境整備を推進す
るため、FinTech の更なる展開等も見
据え、イノベーションの促進、利用者保
護や不正の防止、システムの安全性
確保等の観点も踏まえつつ、金融関係
の制度面の課題について、金融審議
会において、引き続き検討を行う。
 その中で、FinTech 企業と金融機関の
連携等の今後の発展の方向性を十分
に見据えるとともに、現行の銀行代理
業制度との関係等にも留意しつつ、
FinTech 企業と金融機関の関係を巡る
法制のあり方等についても、検討を進
める。
(資料) みずほ総合研究所作成
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(※) 本資料は、みずほ総合研究所調査本部が作成した。
〔本資料に関する問い合わせ先〕
みずほ総合研究所 調査本部
金融調査部
福田 ・ 原島 ・ 小山
TEL :03-3591-1341
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りません。本資料のご利用に際しては、ご自身の判断にてなされますようお願い申し上げます。
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