論文内容要旨 論文題名 gpt delta ラットを用いた遺伝毒性評価系に関する研究 臨床毒性学 川村 祐司 医薬開発初期に実施される遺伝毒性試験は、候補化合物の開発の是非を 決定する重要な試験である。2011 年発行の「医薬品の遺伝毒性試験及び解 釈に関するガイダンス」では、標準的な試験の組み合わせとして 2 種類の 異なる臓器における in vivo 遺伝毒性評価を選択できること並びに反復 毒性試験に遺伝毒性評価を組み込めることになり、in vivo 試験系の重要 性がより高まっている。理想的な in vivo 試験系は、遺伝毒性を臓器毎に 精度良 く検 出で き 、癌原 性リ スク と の関連 を言 及で き る系で あり、 Transgenic Rodent 突然変異試験(TGR アッセイ)は有力候補である。導 入遺伝子における突然変異は、安定で生理的な機能を持たず、投与期間の 延長に応じて蓄積するため、反復投与での評価に適している。しかし本試 験系を反復投与で評価した報告は少なく、医薬品の安全性評価に汎用され るためには、検出力の確認が必要である。そこで本研究は、TGR アッセイ 用に開発された gpt delta ラットを用い、遺伝毒性及び癌原性が既知の 4 化合物について反復投与による遺伝毒性評価を行い、TGR アッセイが医薬 品の評価に活用できるか検討した。 腎臓で癌原性を示すアリストロキア酸の評価では、4 週間反復経口投与 後に腎臓及び肝臓の MF(変異頻度)を測定した。その結果、腎臓で有意 な gpt (突然変異)MF の増加がみられたが、癌原性の非標的臓器の肝臓 でも gpt MF の増加がみられた。次に肝臓で癌原性を示すタモキシフェン の評価では、3 週間反復経口投与及び 13 週間混餌投与を行った結果、肝 臓で有意な gpt 及び Spi-(欠失)の MF の増加がみられた。MF 増加の程度 は 13 週間の方が 3 週間より高く、投与期間の延長による変異の蓄積が確 認された。腎臓では MF の増加がみられなかった。タモキシフェンの構造 類似体で非癌原性物質のトレミフェンの 3 週間反復投与による評価では、 遺伝毒性はみられなかった。さらに腎臓で癌原性を示すフェナセチンの評 価では、26 及び 52 週間混餌投与を実施した結果、52 週群の腎臓で gpt MF の増加がみられたが、非標的臓器の肝臓でも 26 及び 52 週群で gpt MF の 増加がみられた。フェナセチンでも投与期間の延長による変異の蓄積が確 認された。 以上から、本試験系は十分な検出力を有し、反復投与における遺伝毒性 評価の有用性が確認された。しかし癌原性の非標的臓器においても遺伝毒 性が発現する例も散見され、化合物によっては変異誘発に加え、細胞増殖 作用などの他因子が発癌に強く関連する可能性が示唆された。本研究から 得られた結果は、化合物投与により誘発される発癌性と遺伝毒性の関連性 を臓器ごとに検討するために有用であり、TGR アッセイは医薬品の遺伝毒 性評価に活用できると考えられた。
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