平成 28 年(2016 年)5 月 31 日 平成 27 年度札幌市病院局における医療事故等の公表について 札幌市病院局では、市立札幌病院で発生した医療事故等について、「札幌市病院局における医療事 故等の公表基準」に基づき公表を行っております。 このたび、平成 27 年度中に発生した医療事故等について取りまとめましたので、別紙一括公表の とおりお知らせいたします。 ○ 公表内容は下記のホームページにおいても公開しております。 http://www.city.sapporo.jp/hospital/overview/activity/safety/publication/index.html 1 公表の目的 市民に適切な情報提供を行うことにより、市立札幌病院における医療の透明性を高めるとともに、 市民が信頼し、安心して医療を受けられる環境づくりと医療安全管理体制の向上を図ることを目的 として、医療事故等の公表を行う。 2 用語の定義 (1)医療事故(アクシデント) 医療に関わる場所で、医療の全過程において発生する全ての人身事故をいう。なお、医療従 事者の過誤、過失の有無を問わない。 (2)インシデント 患者に傷害を及ぼすことはなかったが、日常診療の場でヒヤリとしたり、ハッとしたりした 事例をいう。 3 レベル区分 (1) インシデント:レベル0(事故が起こりそうな環境に前もって気付いた事例)、レベルⅠ(実 害がなかった事例)、レベルⅡ(処置や治療を行なわなかった事例) (2) アクシデント:レベルⅢa(簡単な治療や処置を要した事例)、レベルⅢb(濃厚な治療や処 置を要した事例)、レベルⅣ(障害が残った事例)、レベルⅤ(死亡となった事例、ただし原疾 患の自然経過によるものを除く) 4 公表の基準 (1)過失のある医療事故で患者が死亡、若しくは重大な障害が残った事例は、個別公表とする。 (2)過失の有無にかかわらず、医療事故を防止する視点から公表することが望ましいと判断した 事例は、個別公表する。 (3)上記以外はレベル毎に、一括公表する。 5 平成 27 年度に発生した医療事故の概要 平成 27 年度の医療事故等(インシデントを含む。)の報告件数は 4,144 件で、平成 26 年度と比 較し、188 件増加した。報告件数のうち、治療や処置を要しなかった事例(レベル0~Ⅱ)は 3,902 件で、全体の約 94%、さらに、事故が起こりそうな環境に前もって気付いた事例(レベル0)の 報告件数は 1,848 件で、全体の約 45%となっている。 「レベルⅢa」以上のアクシデント事例は、240 件で、平成 26 年度より 30 件増加したが、レベ ルⅢb は 7 件で平成 26 年度より 3 件減少、レベルⅣは 1 件で平成 26 年度より 1 件減少した。レ ベルⅤは 5 件で、平成 26 年の報告件数と同じだった。 (問合わせ先) 市立札幌病院:電話 726-2211 医療安全担当課 佐々木(内線 2631)・総務課 髙田(内線 2110) 平成 27 年(2015 年)度 レベル レベル0 件数 26 年度 2032 説 27 年度 1848 市立札幌病院一括公表 (別紙) 明 ○事故が起こりそうな環境に前もって気づいた事例 ○実施される前に気づいた事例 (27 年度における主な事例) ・配薬準備時のダブルチェックで、用量の間違いに気付いた。 ・ベッド柵に寝衣の裾が引っ掛かって転びそうになったのを支え、転倒には至 らなかった。 ○実害がなかった事例 レベルⅠ 1337 1614 レベルⅡ 375 440 レベルⅢa 193 227 レベルⅢb 10 7 (27 年度における主な事例) ・診察室で着席する際、バランスを崩して尻餅をついた。 ・レントゲン撮影指示を見逃し、撮影されなかった。 ○処置や治療を行わなかった事例 * ○観察の強化、バイタルサイン の軽度変化、確認のための検査の必要性が生じた (27 年度における主な事例) ・高カロリー輸液の投与速度を間違い、血糖測定を行った。 ・検体検査の容器を間違え、再採血となった。 ○簡単な治療や処置を要した事例(消毒、湿布、皮膚の縫合、鎮痛剤の投与等) (27 年度における主な事例) ・爪切りの介助中に第 5 趾を深爪し、軟膏処置を行った。 * ・気管挿管の際、喉頭鏡 が歯牙にあたり、差し歯が抜けた。 * ○濃厚な処置や治療を要した事例(バイタルサイン の高度変化、人工呼吸器の装着、 入院日数の延長、外来患者の入院、手術等) (27 年度における事例) * ・両下肢閉塞性動脈硬化症に対しバイパス術 を施行。術後 1 日目に手術中の 体位による圧迫等が原因と考えられる左下肢腓骨神経麻痺となり、入院期間 が延長となった。 * ・前立腺癌に対しロボット支援前立腺全摘術 を施行。術後発熱と血便があり、 CT 撮影と注腸造影の結果、直腸損傷を認め、人工肛門造設となった。 ・子宮頸部異形成に対し腹腔鏡下子宮全摘術を施行。膣断端縫合時に腼胱損傷 を生じたため腼胱修復を施行したが、術後 39 日目に腼胱膣瘻を認め、腼胱 瘻造設となった。 * ・労作性狭心症に対し心拍動下冠状動脈バイパス術 を施行。術後 1 日目に手 術中の体位による圧迫等が原因と考えられる右手知覚異常を認め、MRI 撮影 を施行した結果、末梢神経障害を認め、入院期間が延長となった。 ・右人工股関節置換術後 2 日目にドレーン抜去したが、術後 8 日目の定期レン トゲン撮影検査にて体内にドレーン遺残があることが発覚し、緊急手術で大 腻筋膜内のドレーン(9 ㎝)を摘出した。 ・自力で喀痰排出困難なため、適宜吸引を施行していたが、喀痰吸引直後に呼 吸停止となり、直ちに救命処置を行い、人工呼吸器管理となった。 ・腹腔鏡下手術後 1 日目、訪室すると尿道留置カテーテルは抜けかかっており 血尿となっていた。腼胱洗浄や尿道留置カテーテルの入れ替えを試みたが困 * 難で、尿道損傷が疑われたため、経皮的腼胱瘻 造設となった。 (主な再発防止の取り組み) ・手術体位をとる際、更に除圧効果の高いマットへの変更を検討している。 ・ドレーン抜去時は慎重に行うとともに、遺残がないことの確認を徹底する。 ○障害が残った事例 レベルⅣ 2 1 (27 年度における事例) * ・弓部大動脈瘤 に対し人工血管置換術を施行。術後 1 日目に覚醒認めず MRI 撮影を施行した。その結果、脳梗塞と脳幹圧迫、水頭症を認め、緊急に開頭 減圧術を施行したが、人工呼吸器管理となった。 (主な再発防止の取り組み) * ・同様の手術では、より早く異常を感知するため INVOS を後頭蓋表面に装着 して監視する。 ○死亡となった事例(原疾患の自然経過によるものを除く) (27 年度における事例) * ・腹部大動脈瘤に対し腹部ステントグラフト 留置術施行中にバルーン拡張で 腎動脈下腹部大動脈を損傷し、出血性ショックとなり救命処置を行ったが、 * 非閉塞性腸管膜虚血 のため術後 2 日目に死亡となった。 ・末期がんで放射線治療後、自宅で骨折し、疼痛コントロールとリハビリテー * ション目的にて入院。剃刀で透析用シャント 部位を自傷し心肺停止状態で 発見され、救命処置を行ったが死亡となった。 ・腸閉塞治療にて入院。就寝時間直後に物音で訪室すると、ベッド上で頭が床 * に着いた状態で発見。CT 撮影の結果、くも膜下出血 を認め、経過観察。 * レベルⅤ 5 5 事故約 7 時間後に意識混濁し、CT 撮影の結果、硬膜下血腫 等を認め、緊 急に血腫除去術施行したが、事故 20 日後に死亡となった。 ・肺がん進行のため入院。呼吸状態が徐々に悪化し、呼吸苦のため胸腔ドレナ * ージ を施行した。処置後、訪室した際にオキシマスクが外れた状態で心肺 停止状態で発見。救命処置を行ったが死亡となった。 * ・脊椎固定術前日、抗凝固剤 としてフサンを使用して透析開始したが、開始 直後皮膚掻痒・意識低下後に心肺停止となり、フサンを中止し救急処置を行 ったが、死亡となった。 (主な再発防止の取り組み) ・転倒による頭部打撲時の対処フローを作成し、院内周知した。 ・手術・処置前には、死亡につながる合併症も含めて丁寧に説明する。 ・死亡原因が明確でない場合は、原因究明や再発防止のため、積極的に解剖へ の協力を家族に依頼する。 ○対象が患者以外のもの、レベル判定不可能なもの等 その他 2 2 (27 年度における事例) ・検査のため、外した義歯を紙に包んでロッカーに入れていたが、検査終了し て帰宅した後に義歯がないことに気付き、捜索するが発見できなかった。 (主な再発防止の取り組み) ・義歯はビニール袋に入れる。 総数 3956 4144 *バイタルサイン(生命徴候):脈拍、呼吸、体温、血圧などのこと。 *喉頭鏡:喉頭(喉頭蓋から気管までの間の部分)を観察・展開するための器具のこと。主に気管内チューブを 挿管する際に使用する。 *バイパス術:血管に閉塞部が生じた時、人工血管や本人の静脈を用いて側副路を作る手術のこと。 *ロボット支援前立腺全摘術:患者の腹部に開けた数か所の穴に手術器具を取り付けたロボットアームと内視鏡 を挿入し、医師が操作ボックスの中で内視鏡画像を見ながら操作して前立腺と精嚢腺を全部摘出する手術のこ と。 *心拍動下冠状動脈バイパス術:人工心肺を使用せず、心臓が拍動したまま行う冠状動脈のバイパス術のこと。 *経皮的腼胱瘻:腹壁から超音波ガイドにより経皮的に腼胱を穿刺し、腼胱に直接カテーテルを挿入し体外に尿 を排出する方法のこと。 *弓部大動脈瘤:胸部大動脈瘤の中でも大動脈弓部(頭や上肢に行く血管が分岐する部分)にあるものをいう。 *INVOS:無侵襲混合血酸素飽和度監視システム。微小血管の酸素飽和度を連続的にモニタリングするシステムの こと。 *ステントグラフト:金属の骨格構造を持つ特殊な人工血管。血管内に挿入して、血管の内側で拡張させ血液が 流れるトンネルとして留置する。 *非閉塞性腸管膜虚血:腸間膜血管に器質的閉塞が存在しないにもかかわらず、腸間膜虚血や腸管壊死を呈する 状態のこと。塞栓症、血栓症、又は循環血流量の減少により腸管血流が阻害された状態のこと。 *透析用シャント:血液透析を行う際、十分な血液量が確保できるように、動脈と静脈を体内または体外で直接 つなぎ合わせた血管のこと。 *くも膜下出血:脳を覆っているくも膜と脳の間に出血が広がった状態のこと。 *硬膜下血腫:頭蓋骨の下にある脳を覆っている硬膜と脳の隙間に血が溜まった状態のこと。 *胸腔ドレナージ:胸腔内にドレーンを挿入し、胸腔に貯留した空気や液体を排出する医療処置のこと。 *抗凝固剤:血液を固まらせないようにする医薬品のうち、凝固系に対して作用する薬品のこと。透析の場合、 体外回路の凝固防止に用いられる。 (資料) 平成 27 年度に発生した医療事故等のレベル別及び種類別割合 ⑴ ⑵ レベル別割合 【図 1】 医療事故等の種類別割合 【図 2】
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