英文法の「なぜ」を楽しむ

法学部140回講演会
2016 年6月10日
英文法の「なぜ」を楽しむ――I have a book をめぐって
宮前
和代
(専修大学法学部)
皆さんは、中学に入って一番始めに出会った英文を覚えていますか?
日本の英語教科書の変遷を辿れば、その文が何だったかでだいたいの年齢がわかって
しまうと言われていますが、私にとってそれは I have a book. でした。そのとき
の、「未知との遭遇」に対する期待と高揚、しかし言葉にできない「ワケわからな
さ」への不安といらだちは、幾星霜を経て英語を教える立場になった(というか、そ
の立場になってからさらに幾星霜を経た)今になっても、昨日のように思い出すこと
があります。
b-o-o-k って書くのになんで「ブック」って読むの?なんでそんなヘンな順番で単語
を並べるの? a っていったい何?「本を」の「を」はどこに行っちゃったの?...
最初の1文以来、皆さんはどれほどたくさんの英文に出会ってきたことでしょう?そ
して、どれほどたくさんの英文法の「ワケわからなさ」に悩まされ、困惑してきたこ
とでしょう?それらの疑問をどのように処理し、どのように乗り越えてきたのでしょ
う?
素直で勤勉な学習者は「そういうものだ」と思うことにし、疑問を封殺して「覚え
る」ことを選んだかもしれません。一方、納得できないと進めない強情な人、あるい
は愛国者(?)は、英語の不合理が許せず嫌いになってしまったかもしれません。
でも、「なぜ」を感じるのは、英語の不合理性や日本語との(しくみや発想の)違い
に気づいているということです。その「なぜ」を封殺する勉強方法は、「勤勉」かも
しれないけれど必ずしも「賢い」やりかたではありません。英語の「不合理」の多く
にはそれなりの理由があって、それがわかれば納得して前に進むことができるからで
す。英語のモノの考え方が本質的にわかり、日本語との違いや人間言語一般への理解
が深まるのです。
今日は I have a book という一文を巡って、私は中学1年の自分を安心させてやり、
彼女に言語の不思議さや魅力を教えてやりたいと思います。ご一緒に、英文法の「な
ぜ」を楽しむ一歩を踏み出してみませんか?