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デ
ザ
イ
イギリス ン
は
語
る
…………〈 6 〉
森 井 ユカ
Royal Mail
手紙のほとんどは電子化され、インターネットを通し一瞬
で相手に届く便利な世の中になった。しかし、自筆を直接相
手に送ること、送られることの価値と楽しさは一層際立った
のではないだろうか。郵便に関するマニアは世界に多く潜む。
その多くは切手の収集家であるが、手紙を書くために紙やペ
ン、また装飾するためのマスキングテープなどを選んだりす
る行為そのものが今もひとつの趣味として息づいている。私
もそのうちの一人だ。
郵便事業は世界で最も古くからあるサービス業のひとつ
であり、当時の生活を劇的に変えた。礎を作り上げたのは大
英帝国。遡ること 500 年前の 1516 年に、
当時の国王ヘンリー
8 世によって事業の原型が立ち上げられ、1635 年チャール
ズ 1 世が一般に普及させたと言われている。発足当初、イギ
リス以外にはまだ制度が充実していなかったため国際郵便
はなく、初めて刷られた切手には国名を入れる必要がなかっ
た。そのスタイルが継承され、今でもイギリスの切手には国
名が入っていない。
……というようなことを学生時代に漠然と習ったかな、と
かすかに思い出す人は多いのだが、1840 年に最初に切手が
貼られた手紙が出されたのがロンドンではなく、バースだっ
1874 年に赤に制定されたロイヤル
メールのシンボルカラー。ワンタッチで
組み立てられ、テープも付いており
とても便利。一時期は蟻の家族が
キャラクターだったが、
シンプルなデザインに戻った
たことはあまり知られていない。このバースにある郵便博物
館は貴重なコレクションも家庭的なミュージアムショップも
見どころ十分で、郵便マニアならば足を伸ばす価値はある。
さて肝心のロンドンではどうか。2006 年に取材のため郵
便に関する巨大な倉庫を取材した折、2009 年のオープンに
向けがんばっていると聞いたのだが、3 年では到底無理だろ
うと推察した。映画の好きな方は、
『レイダース/失われた
アーク《聖櫃》
』のラストシーンに出てくる、積み上げられた膨
大なコレクションを思い出してほしい。あらゆる年代の異な
るデザインのポストや集配車、1860 年に実験だけで終わっ
たロンドンの地下にチューブを通し配送する「チューブレール
カー」のプロトタイプ、そして図書館ができそうなくらいの写
真資料など、
途方も無い分量に目眩がしそうであった。
しかし、いよいよ来年 2017 年、遂にロンドンに郵便博物館
が満を持してオープンする。間違いなく世界最大規模の郵
便博物館であり、そしてサービスを形作るデザインに深く関
ロンドン・ヒースロー空港名物、
スタイリッシュな透明ポスト。
もとはセキュリティ対策として
造られたもの。最近は手紙を
入れる人も少なくちょっと寂しい
わる博物館になるだろう。今からとても待ち遠しい。
もりい ゆか デザイナー、立体造形家、雑貨コレクター。ユカデザイン代表。桑沢デザイン研究所非常勤講師。著書に
『スーパーマーケットマニア』シリーズなど。